電磁気学入門 第3章 §3.1 ★★★ 導体の中は電場ゼロ・表面は等電位という2つの事実から、境界値問題の境界条件が出る
第2章では、電荷の分布 ρ(r) が与えられたときに電場と電位を求める道具をそろえた。Coulomb の法則の重ね合わせ、Gauss の法則、Poisson 方程式 ∇2ϕ=−ρ/ε0、そして境界の値を決めれば Poisson 方程式の解はただ1つに決まるという一意性定理である。
ところが実際の装置には金属が入っている。金属の表面にどれだけの電荷がどう分布するかは、外から置いた電荷と金属の形の両方に応じて決まり、問題を解く前には分からない。この章の主題は、電荷の分布の代わりに「導体の表面で電位が一定」という境界条件を手がかりにして、電位を求める方法である。
この章では次の順に進む。§3.1 で静電平衡にある導体の性質を導き、空洞の中が外の電場から遮蔽される理由を一意性定理から示す。§3.2 では導体の電荷と電位の線形関係を容量係数として整理し、その対称性を Green の相反定理から証明する。
§3.3 の鏡像法と §3.4 の変数分離は、境界値問題を実際に解く2つの代表的な方法である。§3.5 の多重極展開は、電荷分布から十分離れた所の電位を、電荷分布の少数の数(全電荷・双極子モーメント・四重極モーメント)で表す展開である。変数分離で出てくる Legendre 多項式が、多重極展開の係数としてもう一度現れる。
この章で使う第2章の結果を式の形でまとめておく。電場は電位の勾配 E=−∇ϕ で表され、電位は Poisson 方程式
∇2ϕ=−ε0ρ(3.1)
に従う。点電荷 q の電位は ϕ=q/(4πε0r) である。電荷の面密度 σ をもつ面を横切ると、電場の法線成分は
En,外−En,内=ε0σ(3.2)
だけ跳び、接線成分は連続である(n は内から外へ向かう単位法線)。静電エネルギーは
W=21∫ρϕdV=2ε0∫∣E∣2dV
で与えられる。第1章 §1.4 の球座標のラプラシアンも §3.4 で使う。
静電平衡の導体
導体とは、内部に自由に動ける電荷(金属では伝導電子)をもつ物体をいう。導体の中に電場があれば自由電荷は力 qE を受けて動く。電荷の移動は、電荷の再配置によって導体内部の電場が打ち消されるまで続く。
電荷の移動が止まった状態を静電平衡と呼ぶ。静電平衡の定義そのものから、次の性質が順に導かれる。
命題 3.1(静電平衡の導体の性質)
静電平衡にある導体について、次が成り立つ。
- 導体の内部では E=0 である。
- 導体全体(内部と表面)は1つの等電位領域である。
- 導体の内部の電荷密度は ρ=0 であり、導体がもつ電荷はすべて表面にある。
- 導体の表面のすぐ外の電場は表面に垂直で、大きさは表面電荷密度 σ を使って
E=ε0σn(3.3)
と書ける。n は導体から外へ向かう単位法線である。
証明
- 静電平衡の定義である。内部の点に電場が残っていれば、その点の自由電荷が動くので平衡でない。
- 導体の中の任意の2点 A, B を導体の中を通る道で結ぶと
ϕ(B)−ϕ(A)=−∫ABE⋅dl=0
である。表面の点も内部の点の極限なので、ϕ の連続性から同じ値をとる。3. 内部で電場がゼロなので、Gauss の法則の微分形 ∇⋅E=ρ/ε0 から ρ=0 である。4. 表面は等電位面なので、表面に沿った電位の変化はゼロである。よって電場の接線成分 −∂ϕ/∂t は表面上でゼロである(t は表面に沿った向き)。接線成分は面を横切って連続なので、すぐ外でもゼロになる。法線成分には跳びの式 (3.2) を En,内=0 として使えば、En,外=σ/ε0 を得る。
この命題の (2) が、境界値問題の境界条件になる。導体の表面で電位は一定値をとるが、その一定値と、表面の電荷の分布 σ は前もって分からない。問題を解いて ϕ が求まれば、(3.3) から逆に σ=−ε0∂ϕ/∂n として表面電荷が読み取れる。
平衡に達するまでの時間
導体の中に余分な電荷密度 ρ を置いたとき、それが表面へ逃げるまでの時間は次のように見積もられる。
- 電荷の連続の式と Ohm の法則を使う(σc は電気伝導率。第5章で扱う)。
∂t∂ρ+∇⋅J=0,J=σcE
- Gauss の法則 ∇⋅E=ρ/ε0 を代入すると、次の式になる。
∂t∂ρ=−ε0σcρ
- したがって ρ は時定数 τ=ε0/σc で指数的に減る。
この見積もりは例題 3.1 で数値にする。
例題 3.1 銅の中の電荷の緩和時間 ★
オリジナル銅の電気伝導率を σc=5.96×107S/m とする。銅の中に置いた余分な電荷密度が1/e に減るまでの時間 τ=ε0/σc を求めよ。また、この値を、1GHz の交流の周期と比べよ。ε0=8.854×10−12F/m とする。
解答
注意の箱の式に数値を入れると
τ=σcε0=5.96×107S/m8.854×10−12F/m=1.49×10−19s.
単位は F/S=(C/V)/(A/V)=C/A=s で、時間になっている。1 GHz の交流の周期は 10−9s である。τ はその 10−10 倍程度にすぎない。したがって、マイクロ波の領域までの電場の変化に対して、銅の内部の電荷は事実上つねに平衡にあるとみなしてよい。
ただし、この見積もりは Ohm の法則が瞬時に成り立つという仮定に基づいている。実際の金属では電子の衝突の時間(銅で 10−14s 程度)より短い時間では Ohm の法則が使えないので、τ の値そのものは「非常に短い」ことの目安と読むのが正しい。
表面にはたらく力
導体の表面の電荷は、まわりの電場から力を受ける。表面電荷の受ける力を求めるとき、表面のすぐ外の電場 σ/ε0 をそのまま使うのは誤りである。その電場の半分は、力を受ける当の電荷そのものが作っているからである。
面上の小さな面素 dS の電荷が作る電場は、ごく近くでは無限に広い平面の電場とみなせて、面の両側に大きさ σ/(2ε0) で、面から離れる向きに出る。残りの電荷が作る電場を E他 とすると、導体のすぐ内側では全体の電場がゼロ、すぐ外側では σ/ε0 なので
E他,n−2ε0σ=0,E他,n+2ε0σ=ε0σ
が成り立ち、どちらからも E他,n=σ/(2ε0) を得る。面素が受ける力は σdS⋅E他 なので、単位面積あたりの力は
f=2ε0σ2n=2ε0E2n(3.4)
である。ここで E=σ/ε0 は表面のすぐ外の電場の大きさである。σ の符号によらず f は外向きで、導体の表面は外へ引っ張られる。大きさは表面のすぐ外の電場のエネルギー密度 ε0E2/2(第2章 §2.4)と等しい。
一意性定理と静電遮蔽
導体の境界値問題の答えが1つに決まることを確かめておく。第2章 §2.3 では、領域の境界の全体で電位の値を指定すれば Poisson 方程式の解は1つに決まることを示した。導体を含む問題では、導体の電位でなく導体の全電荷を指定することが多いので、その場合の一意性を示す。
定理 3.2(導体の全電荷を指定したときの一意性 ★★)
導体 1,…,N の外側の領域を V とし、次の3つが与えられているとする。
- (i) V の中の電荷密度 ρ。
- (ii) 各導体の全電荷 Qi。
- (iii) 無限遠での条件 ϕ→0。
このとき、各導体の表面で一定値をとり Poisson 方程式を満たす電位 ϕ は、ただ1つである。
証明
条件を満たす解が2つ ϕ1,ϕ2 あるとし、差を ψ=ϕ1−ϕ2 とおく。V の中では ∇2ψ=0 である。導体 i の表面 Si の上では、差も一定値をとる。その値を ψi と書く。また導体 i の全電荷は、導体から外向きの法線 n を使って
Qi=−ε0∮Si∂n∂ϕdS
と書ける。ϕ1,ϕ2 の全電荷はどちらも Qi なので、
∮Si∂n∂ψdS=0(i=1,…,N)
である。恒等式 ∇⋅(ψ∇ψ)=∣∇ψ∣2+ψ∇2ψ=∣∇ψ∣2 を V で積分し、Gauss の発散定理を使う。V の境界は、導体の表面と無限遠の大きな球面 S∞ からなる。導体の表面では、V から外向きの法線は導体の外向きの法線の逆向きである。よって
∫V∣∇ψ∣2dV=−i∑ψi∮Si∂n∂ψdS+∮S∞ψ∂r∂ψdS
となる。右辺の第1項は上の式からゼロである。
第2項の被積分関数の大きさは、遠方で次のように抑えられる。
∣ψ∣≲r1,∂r∂ψ≲r21
面積 4πr2 を掛けても積分は 1/r 以下で減り、ゼロになる。よって
∫V∣∇ψ∣2dV=0
であり、V の中で ∇ψ=0 となる。つまり ϕ1 と ϕ2 の作る電場は一致する。さらに差 ψ は領域の中で定数で、無限遠でゼロなので、恒等的に ψ=0 である。
一意性定理の使い方は「何らかの方法で条件を満たす解を1つ見つければ、それが答えである」という点にある。§3.3 の鏡像法はこの論理だけで成り立っている。
次に静電遮蔽を示す。そのために、電荷の無い領域での電位の性質を1つ用意する。
補題 3.3(平均値の性質と最大値原理)
領域 V で ∇2ϕ=0 とする。
- (i) V の中に完全に入る任意の球面について、球面上の ϕ の平均は球の中心の値に等しい。
- (ii) したがって ϕ は V の内部で極大も極小もとらない。最大値と最小値は境界の上でとられる。
証明
点 r0 を中心とする半径 R の球面を考える。その上の平均を、立体角の要素 dΩ を使って次のように書く。
ϕˉ(R)=4πR21∮ϕdS=4π1∮ϕ(r0+Rn^)dΩ
R で微分すると
dRdϕˉ=4π1∮n^⋅∇ϕdΩ=4πR21∮∂n∂ϕdS=4πR21∫球∇2ϕdV=0
となる。よって ϕˉ(R) は R によらず一定である。R→0 の極限は中心の値 ϕ(r0) なので、平均は中心の値に等しい。
次に、内部の点 r0 で ϕ が極大をとると仮定する(定数関数の場合を除く)。その点のまわりの十分小さな球面上では、ϕ は中心の値を超えず、しかも中心の値より真に小さい部分がある。すると球面上の平均が中心の値より小さくなり、(i) と矛盾する。極小も同様である。
定理 3.4(静電遮蔽 ★★★)
導体の内部にある空洞が電荷を含まなければ、導体の外にどのような電荷や電場があっても、空洞の中では E=0 である。空洞の中に電荷 q があるとき、空洞の内壁には全体で −q の電荷が誘導され、空洞の中の電場は導体の外の電荷によらない。
証明
空洞の内壁は導体の表面の一部なので、命題 3.1 から電位は一定値 V0 をとる。空洞に電荷が無ければ、空洞の中で ∇2ϕ=0 であり、境界の値はすべて V0 である。補題 3.3 から、空洞の中の ϕ の最大値と最小値はどちらも V0 である。よって空洞全体で ϕ=V0 が成り立ち、E=−∇ϕ=0 である。
空洞の中に電荷 q があるときは、空洞を囲み導体の内部だけを通る閉曲面 S をとる。S の上では電場がゼロなので、Gauss の法則から S の内側の全電荷はゼロである。よって内壁の電荷は −q である。
空洞の中の電位は、空洞の中の電荷と、内壁で一定値 V0 をとるという境界条件で一意に決まる。外の電荷を変えて変わるのは V0 という定数だけで、定数は勾配をとると消える。よって空洞の中の電場は外の電荷によらない。

図 3.1 導体の中の空洞。破線の閉曲面 S は導体の内部だけを通るので、S の上で E=0 であり、空洞の内壁には −q が誘導される。外の電場を変えても、空洞の中の電場は変わらない。
遮蔽は一方向だけである。空洞の中の電荷 q の影響は導体の外へ出る。導体の全電荷を Q とすると、外表面の電荷は Q+q になる(内壁の分と合わせて全電荷になる)。
外表面の電荷の分布は、空洞の中で q がどこにあっても同じである。外の領域の電位は「外表面で一定値をとる」「外表面の全電荷が Q+q」という条件だけで、定理 3.2 により決まる。この条件には空洞の中の q の位置が入っていない。
導体を接地(大地につないで電位をゼロに固定)すれば、外表面の電荷は外の電荷と導体の形だけで決まり、空洞の中の電荷の影響は外から消える。精密な測定器を金属の箱で覆うのは、この2つの性質を使うためである。
例題 3.2 空洞の中で中心から外れた点電荷 ★★
オリジナル内半径 a、外半径 b の導体の球殻があり、全電荷はゼロである。空洞の中の、中心から距離 d(<a) の点に点電荷 q を置く。
- 球殻の外(r>b)の電場を求めよ。
- 内壁と外表面の電荷の総量をそれぞれ求めよ。外表面の電荷の面密度は一様か。
- 球殻の電位を求めよ。
解答
- 定理 3.4 の証明と同じく、球殻の内部を通る球面に Gauss の法則を使うと、内壁の電荷は全体で −q である。球殻の全電荷がゼロなので、外表面の電荷は全体で +q である。外の領域 r>b には電荷が無い。外表面では電位が一定で、外表面の全電荷は q である。この条件を満たす電位として
ϕ(r)=4πε0rq(r≥b)
をとる。これは次の2つを満たす。
- 外表面 r=b で一定値 q/(4πε0b) をとる。
- すぐ外の電場の法線成分 q/(4πε0b2) を球面で積分して ε0 を掛けると、外表面の全電荷に一致する。
定理 3.2 より、これが答えである。電場は
E=4πε0r2qr^
で、中心に点電荷を置いた場合と同じであり、d によらない。2. 内壁は −q、外表面は +q。外表面の面密度は、命題 3.1 (4) から
σ=ε0Er(b)=4πb2q
で一様である。内壁の面密度は一様でない(q に近い側ほど大きさが大きい)。3. 無限遠を基準として、球殻の電位は外表面の値 ϕ(b)=q/(4πε0b) である。これも d によらない。
確認テスト
オリジナル
- 3.1-1 静電平衡にある導体の表面のすぐ外で、電場の接線成分がゼロになる理由を、表面上の電位を使って1文で説明せよ。
- 3.1-2 内半径 a、外半径 b の導体の球殻がある。球殻の全電荷は Q である。空洞の中心に点電荷 q を置いた。内壁と外表面の電荷の面密度、および無限遠を基準とした球殻の電位を求めよ。
- 3.1-3 半径 a の孤立した導体球が全電荷 Q をもつ。式 (3.4) を使って、北半球が南半球から受ける力の大きさを求めよ。さらに、a=0.10m の導体球の電位が 1.0×105V のとき、この力を数値で求めよ。
- 3.1-4 電荷を含まない空洞の中で ϕ が一定であることを、補題 3.3 を使わずに、恒等式∇⋅(ϕ∇ϕ)=∣∇ϕ∣2+ϕ∇2ϕ と Gauss の法則から示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com