確率論入門 第1章 §1.5 ★★★ 実数の上の標準的なσ加法族。開集合・区間・半直線のどれから生成しても同じものになる
定義
実数値の観測量(測定値、待ち時間、粒子の位置)の確率を扱うには、R 上の σ加法族が必要になる。§1.1 で見たように冪集合 2R は大きすぎる。一方、区間に確率を割り当てられないと実用にならない。そこで区間や開集合を含む最小の σ加法族を使う。
定義 1.16(Borel 集合族)
R の開集合の全体を O とする。B(R)=σ(O) を R のBorel 集合族と呼び、その要素をBorel 集合と呼ぶ。同様に、Rd の開集合が生成する族を B(Rd) と書く。
名前は É. Borel に由来する。定義は開集合から始めているが、実際の計算では区間や半直線から生成するほうが扱いやすい。次の定理が、どれを使ってもよいことを保証する。
定理 1.17(Borel 集合族の生成系)
次の4つの σ加法族はすべて等しい。
σ(O)=σ({(a,b):a<b})=σ({(a,b]:a<b})=σ({(−∞,a]:a∈R}).(1.15)
証明
4つの族を順に次のようにおく。
- C1=O:開集合の全体。
- C2:開区間の全体。
- C3:左開右閉区間の全体。
- C4:閉半直線の全体。
要点の箱の定石により、次の4つの包含を示せば足りる。
Ci+1⊂σ(Ci)(i=1,2,3),C1⊂σ(C4).
実際、これらから次が順に従う。
σ(C4)⊂σ(C3)⊂σ(C2)⊂σ(C1)⊂σ(C4).
C2⊂σ(C1):開区間は開集合である。
C3⊂σ(C2):(a,b]=⋂n=1∞(a,b+1/n) は開区間の可算個の共通部分である。
C4⊂σ(C3):(−∞,a]=⋃n=1∞(a−n,a] は左開右閉区間の可算個の和である。
C1⊂σ(C4):まず σ(C4) が開区間を含むことを示す。次が成り立つ。
(a,b]=(−∞,b]∖(−∞,a]∈σ(C4).
よって開区間 (a,b)=⋃n(a,b−1/n] も σ(C4) に入る。和は b−1/n>a となる n についてとる。
次に、任意の開集合 U が、両端が有理数の開区間の可算個の和で書けることを示す。点 x∈U を取る。開集合の定義から、ある ε>0 について (x−ε,x+ε)⊂U となる。有理数の稠密性から、次を満たす有理数 r,s を選べる。
x−ε<r<x<s<x+ε.
このとき x∈(r,s)⊂U である。したがって
U=⋃{(r,s): r,s∈Q, r<s, (r,s)⊂U}.
右辺は有理数の組 (r,s) で番号付けられているので可算個の和であり、U∈σ(C4) となる。
最後の生成系 {(−∞,a]} は、第3章で分布関数 FX(x)=P(X≤x) を定義するときに使う。分布関数は (−∞,x] の確率しか定めていないのに、それで分布全体が決まるのは、この半直線が B(R) を生成するからである(その一意性の議論は第2章 §2.3 の Dynkin の定理で完成する)。
Borel 集合の例と、Borel でない集合
B(R) は開集合から可算個の操作で作れる集合をすべて含むので、具体的に書ける集合はほとんど Borel 集合である。
- 閉集合は開集合の補集合なので Borel 集合である。とくに1点集合 {a} と閉区間は Borel 集合である。
- 可算集合は1点集合の可算個の和なので Borel 集合である。とくに Q と、無理数の集合 R∖Q は Borel 集合である。
- 半開区間 [a,b) や無限区間はすべて Borel 集合である。
- 連続関数 f:R→R について、{x:f(x)>c} は開集合なので Borel 集合である(第3章で、これを確率変数の可測性として一般化する)。
一方、すべての部分集合が Borel 集合なのではない。§1.1 の Vitali 集合は Borel 集合でない。Borel 集合上の Lebesgue 測度は平行移動で不変なので、もし Vitali 集合が Borel 集合なら (1.4) の矛盾がそのまま起こるからである。
また、B(R) の濃度は連続体濃度(R と同じ大きさ)であることが知られている。これは R の部分集合全体の濃度より真に小さい(この主張の証明には超限帰納法を使うので、集合論の本に譲る)。
部分集合の上の Borel 集合族
部分集合 E⊂R を標本空間にすることがある。たとえば [0,1] や [0,∞) である。そのときは
B(E)={B∩E: B∈B(R)}(1.16)
を使う。これは E 上の σ加法族になる(確認テスト 1.5-4)。この族を跡 σ加法族と呼ぶ。E 自身が Borel 集合なら、B(E) は、その中に含まれる Borel 集合の全体に一致する。
§1.1 で考えた一様分布の確率空間は、([0,1], B([0,1]), Leb)(Leb は長さを延長した Lebesgue 測度)である。
多次元の Borel 集合族
Rd の場合も、定理 1.17 と同じ議論が成り立つ。B(Rd) は、次の2種類の集合のどちらの全体からも生成される。
(a1,b1]×⋯×(ad,bd],(−∞,a1]×⋯×(−∞,ad].
開集合を、有理数の頂点を持つ開直方体の可算個の和で書くところだけが変わる。これは第4章で確率ベクトルの同時分布を、多変数の分布関数で決めるときに使う。

図 1.4 Cantor 集合の構成。各段で残った閉区間の中央の 1/3 の開区間を取り除く。Kn は長さ 3−n の閉区間 2n 個の和である。
例題 1.6 Cantor 集合:非可算で確率 0 の Borel 集合 ★★
オリジナルK0=[0,1] から始める。各段では、残っている閉区間それぞれから中央の 1/3 の開区間を取り除く。こうして Kn から得た集合を Kn+1 とする(図 1.4)。K=⋂n=0∞Kn を Cantor 集合と呼ぶ。
- K が Borel 集合であることを示せ。
- Leb(K)=0 を示せ。ここで Leb は [0,1] の一様分布である。
- K が非可算であることを示せ。
解答
- Kn は有限個の閉区間の和なので閉集合であり、Borel 集合である。K はその可算個の共通部分なので、命題 1.5 から Borel 集合である。
- 帰納法で示せるように、Kn は互いに交わらない 2n 個の閉区間の和である。各区間の長さは 3−n である。各区間から中央を除くと、長さが元の 1/3 の区間が2個残るからである。有限加法性から
Leb(Kn)=2n⋅3−n=(32)n.
K0⊃K1⊃⋯ は減少列なので、上からの連続性(定理 1.13)から
Leb(K)=n→∞lim(32)n=0.
取り除いた開区間の長さの合計は ∑n=0∞2n⋅3−(n+1)=31⋅1−2/31=1 で、この計算とも合う。3. 点 x∈[0,1] を3進展開で書く。
x=k≥1∑dk3−k(dk∈{0,1,2}).
K1 で取り除いた開区間は、d1=1 でしか表せない点の集合である。一般に Kn に残る点は、第1桁から第 n 桁までを 0 と 2 だけで書ける点である。したがって K は、すべての桁を 0 と 2 だけで書ける点の集合になる。次の写像は、{0,2}N から K への単射である。
(d1,d2,…)↦k∑dk3−k.
一方、{0,2}N は 0 と 1 の無限列の全体 {0,1}N と一対一に対応するので、非可算である。よって K は非可算である。
「確率 0 の集合は可算集合である」は正しくない。可算集合の確率は 0 だが(例題 1.1)、逆は成り立たない。Cantor 集合は第3章で、特異連続な分布(Cantor 分布)を作るときに使う。
確認テスト
オリジナル
1.5-1 1点集合 {a} と有理数の集合 Q が Borel 集合であることを示せ。定義 1.16 と、σ加法族の性質を使う。
1.5-2 B(R)=σ({(−∞,q]:q∈Q}) を示せ(端点を有理数に限っても Borel 集合族が生成される)。
1.5-3 [0,1] から次の手順で集合を取り除く。
- 第1段では、中央の長さ 1/4 の開区間を取り除く。
- 2段目以降の第 n 段では、残っている 2n−1 個の閉区間を考える。それぞれの中央から、長さ 4−n の開区間を取り除く。
すべての段のあとに残る集合 F の、一様分布での確率を求めよ。(各段で、取り除く長さは残っている閉区間の長さより短いので、この手順は最後まで実行できる。)4. 1.5-4 E⊂R とする。(1.16) の B(E) を考える。これが E 上の σ加法族であることを示せ。
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