量子力学入門 第1部 第3章 §1.3.1 ★★ 定常状態は全体位相のみ。
公理4(時間発展):測定していない間、状態は時間依存 Schrödinger 方程式
iℏdtd∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩
に従って連続的・決定論的に発展する(確率的なのは測定だけで、発展そのものは決定論的であることに注意)。
ハミルトニアンとは何か:古典・量子・統計での役割 ★★
同じ記号 H が、3つの理論で次の役割を持つ。
- 古典力学:位置と運動量の関数 H(q,p) で、正準方程式を通して運動を決める。多くの系では全エネルギー(運動エネルギー+ポテンシャル)に等しい。
q˙=∂p∂H,p˙=−∂q∂H.
2. 量子力学:エネルギーの演算子 H^ で、上の Schrödinger 方程式が時間発展を決める。固有値 En がエネルギー準位である。3. 統計力学:温度 T の熱平衡で、各状態の重みを e−βEn で与える。ここで β=1/kBT で、分配関数は重みの和(トレース)である。
Z=Tre−βH^=n∑e−βEn.
どの役割でも、系を指定するのは H の形(どの変数をどう含むか)である。古典の H の作り方と性質は 虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第8章、e−βH の導出は 同 第3部第3章で扱う。
固有値方程式はどこから出るか:変数分離
H^が時間に依らないとき、∣ψ(t)⟩=f(t)∣n⟩(∣n⟩は時間に依らない固定ベクトル)という変数分離のansatzを立てて代入すると
iℏf′(t)∣n⟩=f(t)H^∣n⟩
となる。左辺はtだけの関数、右辺は∣n⟩だけで決まる量なので、両辺は共通の定数でなければならない。その定数をEとおくと2つの式に分離される:
H^∣n⟩=E∣n⟩(固有値方程式),iℏf′(t)=Ef(t) ⟹ f(t)=e−iEt/ℏ.
つまり「変数分離が成立するための条件」がそのままH^の固有値方程式になる。だから時間に依らないHamiltonian行列が与えられたら、固有値方程式を解けば定常状態が固有ベクトルとして(エネルギーが固有値として)そのまま出てくる。この手続きが使えるのはH^が時間に依らない場合限定で、陽に時間を含むH^(第8部『時間依存摂動論とダイナミクス』のRabi振動など)ではこの変数分離自体が成立しない。
H^ が時間に依らなければ形式解は
∣ψ(t)⟩=U^(t)∣ψ(0)⟩,U^(t)=e−iH^t/ℏ
で、U^ はユニタリ(U^†U^=1^)ゆえノルム=全確率を保存する。演算子の指数関数は級数 eX^=∑kX^k/k! で定義され、エネルギー固有基底 H^∣n⟩=En∣n⟩ では固有値がそのまま肩に乗る:
U^(t)∣n⟩=k∑k!1(−ℏit)kH^k∣n⟩=k∑k!1(−ℏiEnt)k∣n⟩=e−iEnt/ℏ∣n⟩.
つまり固有基底で対角的に作用する。一般の状態はまず固有基底に展開してから各成分の位相を回せばよい:
∣ψ(0)⟩=n∑cn∣n⟩⟹ ∣ψ(t)⟩=n∑cne−iEnt/ℏ∣n⟩
この一行が「時間発展の解き方」のすべてである(H^ が時間に依らない限り)。
単一の固有状態 ∣ψ(0)⟩=∣n⟩ では、∣ψ(t)⟩=e−iEnt/ℏ∣n⟩ と全体に一様な位相(global phase)が掛かるだけ。観測量は期待値・確率の形でしか現れず、ブラ側の複素共役と打ち消し合う:
⟨A^⟩(t)=e+iEnt/ℏe−iEnt/ℏ⟨n∣A∣n⟩=⟨n∣A∣n⟩.
どんな観測量の期待値も確率分布も時間に依らない——この意味で定常状態という。状態ベクトルは回っているのに物理は完全に静止している。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com