量子力学入門 第7部 第5章 §7.5.2 ★★ 位相補正 +1/2 の導出(典型計算)
回帰点 a で「−」型 (7.4.2) を使うと、領域 II で
φII(x)=p2Acos(ℏ1∫axpdx′−4π).
回帰点 b で「+」型 (7.4.3) を使うと、同じ領域 II で
φ~II(x)=p2Ccos(ℏ1∫xbpdx′−4π)=p2Ccos(ℏ1∫axpdx′−4π−η),η:=ℏ1∫abpdx−2π
(第2の等号は ∫xb=∫ab−∫ax と cos(−θ)=cosθ による書き換え)。同じ波動関数が2通りに書けたのだから、両者は恒等的に一致しなければならない。cos(θ)=±cos(θ−η) がすべての θ で成り立つのは η=nπ(n 整数;符号は A=(−1)nC)のときだけである。さらに領域 II では p>0 ゆえ ∫abpdx>0、すなわち η>−π/2 だから n=0,1,2,… に限られる。まとめると
2∫abp(x)dx=(n+21)2πℏ,n=0,1,2,… (7.5.1)
左辺には力学的な意味がある。閉軌道 p2/2m+V(x)=E を位相空間 (x,p) に描くと、2∫abpdx=∮pdx は閉軌道が囲む面積である。(7.5.1) は「位相空間の面積が 2πℏ=h 刻みで量子化され、1状態が面積 h を占める」と読める。作用変数の言葉(§7.2.7)では J=(n+21)ℏ——量子化されるのは断熱不変量であるという古い直観が、WKB によって定理に昇格した形である。これは前期量子論の Bohr–Sommerfeld 量子化条件 ∮pdx=nh に、零点振動を表す 21 の補正を付けたものになっており、「なぜ前期量子論があれほど成功したか」の答え(=WKB の0次+1次が正しいから)を与える。条件 (7.5.1) は n が大きい(波長が短く WKB が良い)ほど正確だが、次の例題が示すように、低い準位でも驚くほど良い。
例題 5.1(調和振動子——WKB が厳密になる例 ★★)
オリジナルV(x)=21mω2x2 に量子化条件 (7.5.1) を適用し、エネルギー準位を求めよ。
解答
閉軌道 p2/2m+21mω2x2=E は、位相空間で半軸 2mE(p 方向)と 2E/mω2(x 方向)の楕円である。その面積は
∮pdx=π2mEmω22E=ω2πE
(直接積分 2∫−x0x02m(E−21mω2x2)dx=2πE/ω でも同じ;SymPy で確認済み)。(7.5.1) に入れると
ω2πE=(n+21)2πℏ⟹ En=ℏω(n+21)
——代数的方法で得た厳密なスペクトルに完全に一致する。零点エネルギー ℏω/2 まで正しく出るのは、接続公式の位相 π/4(2つの回帰点で計 π/2)が担った 21 のおかげである。調和振動子で WKB が厳密になるのは偶然ではなく、ℏ 展開の高次補正がこの系ではエネルギーに寄与しないためである(一般のポテンシャルでは n の小さい準位に補正が残る)。 ■
例題 5.2(硬い壁がある場合——位相補正の変更 ★★)
オリジナル壁 x=0(x<0 で V=∞)と線形ポテンシャル V(x)=Fx(x>0、F>0)に閉じ込められた粒子(「跳ねるボール」)の準位を WKB で求め、厳密解(Airy 関数の零点)と比較せよ。
解答
硬い壁では接続公式が変わることにまず注意する。滑らかな回帰点では波動関数は cos(ℏ1∫pdx−4π) と「位相 π/4 の損失」で折り返すが、V=∞ の壁では境界条件が φ(0)=0 そのものなので、壁側の解は
φ∝sin(ℏ1∫0xpdx′)=cos(ℏ1∫0xpdx′−2π)
——位相の損失が π/4 ではなくπ/2 になる。右側の回帰点 b=E/F は滑らかなので π/4 のまま。例題5.1と同じ整合の議論を繰り返すと、量子化条件は
ℏ1∫0bpdx−2π−4π=nπ⟺∫0bpdx=(n+43)πℏ,n=0,1,2,…
(一般則:滑らかな回帰点1つあたり π/4、硬い壁1つあたり π/2 の位相損失。両側が壁の無限井戸なら ∫0apdx=(n+1)πℏ となり、p=const から厳密スペクトル En∝(n+1)2 がそのまま出る。)
積分を実行する(b=E/F):
∫0b2m(E−Fx)dx=3F22mE3/2
(SymPy 確認済み)。よって
En=[23π(n+43)]2/3(2mℏ2F2)1/3.
厳密解は φ∝Ai((2mF/ℏ2)1/3(x−E/F)) に φ(0)=0 を課したもので、Enexact=∣an+1∣(ℏ2F2/2m)1/3(ak は Ai の第 k 零点)。数値比較(無次元係数):
nWKB厳密02.3202.33814.0824.08825.5175.52136.7846.78747.9427.944
基底状態ですら誤差 0.8%、n=4 で 0.02%——「n 大で良い近似」の実感が得られる(数値は SciPy の Airy 零点で検算済み)。 ■
Bohr–Sommerfeld 量子化のまとめ
束縛状態の条件は ∮pdx=2∫abpdx=(n+21)2πℏ——位相空間の面積 h につき1状態。21 は滑らかな回帰点2つの位相損失 π/4×2 の反映で、硬い壁では π/4→π/2 に変わる(無限井戸は (n+1)、壁+滑らかは (n+43))。調和振動子では厳密、一般には n 大で漸近的に正確。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com