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同種粒子と対称化の要請

2026年10月15日13分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第9部 第1章 同種粒子系
目次
  1. 出発点:粒子の番号はただの帳簿
  2. 固有値は で、しかも永久に固定される
  3. 反対称状態の作り方:Slater 行列式
  4. なぜ空間とスピンの対称性が連動するのか
  5. よくある混乱を潰す。
  6. 複合粒子の統計:He と He
  7. 中心力で相互作用する2粒子: 則
  8. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学入門 第9部 第1章 §9.1.1 ★★ 対称化の要請=Pauli 原理の起点。

ここまでは1個の粒子(あるいは可換な自由度)を扱ってきた。本章では同種粒子——電子どうし、光子どうしのように原理的に区別できない粒子——が複数ある系を論じる。区別できないという要請は、波動関数に対称化/反対称化という強い制約を課し、そこから Pauli 排他律・交換相互作用・Hund 則といった物質の骨格が導かれる。井戸型の2粒子・調和型の NN 粒子・ヘリウム原子を例題として辿る。

出発点:粒子の番号はただの帳簿

★★ 番号は物理的意味を持たない。

電子2個はあらゆる属性(質量・電荷・スピンの大きさ)が完全に同一で、「1番の電子」「2番の電子」というラベルは我々が計算のために勝手に付けた帳簿上の番号にすぎない。古典力学なら軌道を連続的に追跡してラベルを維持できるが、量子力学では波束が重なった瞬間に「どちらがどちらか」は原理的に追えなくなる。したがって、物理的な観測量はラベルの付け替えで変わってはならない。粒子1と2を入れ替える交換演算子を P^12 Ψ(1,2)=Ψ(2,1)\hat P_{12}\,\Psi(1,2)=\Psi(2,1)(引数 1,21,2 は位置とスピンをまとめたラベル)で定義すると、この要請はすべての観測量 A^\hat A について

[A^, P^12]=0,とくに[H^, P^12]=0\left[\hat A,\,\hat P_{12}\right]=0,\qquad\text{とくに}\quad\left[\hat H,\,\hat P_{12}\right]=0

と表される。

固有値は ±1\pm1 で、しかも永久に固定される

★★ 交換対称性は保存する(固有値 ±1\pm1)。

P^122=1^\hat P_{12}^2=\hat 1(2回入れ替えれば元通り)だから、固有値 λ\lambda は λ2=1\lambda^2=1、すなわち λ=±1\lambda=\pm1 の二択。そして [H^, P^12]=0\left[\hat H,\,\hat P_{12}\right]=0 より P^12\hat P_{12} は保存量なので、一度対称(+1+1)の状態は時間発展しても永遠に対称、反対称(−1-1)は永遠に反対称——2つの符号セクターは力学的に混ざらない。だから「粒子の種類ごとに符号が固定される」という描像は力学と整合する。どちらの符号を取るかは非相対論的量子力学の枠内では決まらず、スピン統計定理(相対論的場の量子論の帰結;第0章§9.0.1)が

整数スピン → +1 (ボゾン),半整数スピン → −1 (フェルミオン)\text{整数スピン}\ \to\ +1\ (\text{ボゾン}),\qquad \text{半整数スピン}\ \to\ -1\ (\text{フェルミオン})

を与える。本ノートのレベルでは、実験事実(周期表・レーザー・超流動…)に裏打ちされた要請として受け入れる。電子はスピン 12\tfrac12 なのでフェルミオン——以下の主役である。

反対称状態の作り方:Slater 行列式

★★ Slater 行列式=反対称化。

「反対称化せよ」という要請は、実は行列式を書けという機械的な手続きに落ちる。1粒子の完全な状態(空間軌道×\timesスピンをこめたもの)を χa,χb\chi_a,\chi_b とするとき、2フェルミオンの反対称状態は

 Ψ(1,2)=12∣χa(1)χb(1)χa(2)χb(2)∣=12[χa(1)χb(2)−χb(1)χa(2)] \boxed{\ \Psi(1,2)=\frac{1}{\sqrt2} \begin{vmatrix}\chi_a(1) & \chi_b(1)\\[2pt] \chi_a(2) & \chi_b(2)\end{vmatrix} =\frac{1}{\sqrt2}\bigl[\chi_a(1)\chi_b(2)-\chi_b(1)\chi_a(2)\bigr]\ }

——Slater 行列式である(行=粒子、列=1粒子状態)。行列式の初等的性質がそのまま物理になる:

  • 行の入れ替え=粒子の入れ替えで符号反転——反対称性が構造として組み込まれている。
  • 2つの列が同じ(同じ1粒子状態に2個入れる)と行列式は零——Pauli 排他律が自動で出る。要請として付け足すのではなく、行列式の性質そのものである。
  • NN 粒子への一般化は Ψ=1N!det⁡[χaj(i)]\Psi=\dfrac{1}{\sqrt{N!}}\det[\chi_{a_j}(i)](N×NN\times N 行列式)。どの2粒子を入れ替えても符号反転し、どの2状態が一致しても零になる。

具体例で威力を見る。空間軌道 φ1\varphi_1 にスピン ↑\uparrow と ↓\downarrow の電子を入れる(χa=φ1 ⁣↑, χb=φ1 ⁣↓\chi_a=\varphi_1\!\uparrow,\ \chi_b=\varphi_1\!\downarrow)と、

Ψ=12[φ1(x1) ⁣↑1φ1(x2) ⁣↓2−φ1(x1) ⁣↓1φ1(x2) ⁣↑2]=φ1(x1)φ1(x2)⊗↑↓−↓↑2⏟=∣0,0⟩ (1重項)\Psi=\frac{1}{\sqrt2}\bigl[\varphi_1(x_1)\!\uparrow_1\varphi_1(x_2)\!\downarrow_2-\varphi_1(x_1)\!\downarrow_1\varphi_1(x_2)\!\uparrow_2\bigr] =\varphi_1(x_1)\varphi_1(x_2)\otimes\underbrace{\frac{\uparrow\downarrow-\downarrow\uparrow}{\sqrt2}}_{=| 0,0 \rangle \ (\text{1重項})}

と自動的に「空間対称 ×\times スピン1重項」へ因数分解する——井戸型2粒子の基底状態(両方の電子を同じ軌道 φ1\varphi_1 に入れた状態)はこの Slater 行列式1個そのものである。一方、異なる軌道に同じスピンを入れる(χa=φ1 ⁣↑, χb=φ2 ⁣↑\chi_a=\varphi_1\!\uparrow,\ \chi_b=\varphi_2\!\uparrow)と

Ψ=12[φ1(x1)φ2(x2)−φ2(x1)φ1(x2)]⊗↑1↑2\Psi=\frac{1}{\sqrt2}\bigl[\varphi_1(x_1)\varphi_2(x_2)-\varphi_2(x_1)\varphi_1(x_2)\bigr]\otimes\uparrow_1\uparrow_2

——「空間反対称 ×\times 3重項(M=1M=1)」に因数分解する。M=0M=0 の3重項と1重項は、{φ1 ⁣↑,φ2 ⁣↓}\{\varphi_1\!\uparrow,\varphi_2\!\downarrow\} と {φ1 ⁣↓,φ2 ⁣↑}\{\varphi_1\!\downarrow,\varphi_2\!\uparrow\} の2つの行列式の和・差として得られる。2電子の対称性分類(空間×\timesスピンの2択)は、Slater 行列式の組み替えにすぎない。

なぜ空間とスピンの対称性が連動するのか

★★ 空間 ×\times スピンで全体反対称。

つまずきやすい核心を明示する。交換演算子は粒子の全ラベル——位置もスピンも同時に——入れ替える:

P^12=P^12空間⊗P^12スピン.\hat P_{12}=\hat P_{12}^{\text{空間}}\otimes\hat P_{12}^{\text{スピン}}.

2電子状態が分離形 Ψ=ϕ(x1,x2) χ(s1,s2)\Psi=\phi(x_1,x_2)\,\chi(s_1,s_2) に書けるとき、全体の符号は積で決まる:

(−1)⏟全体(フェルミオン)=(±1)⏟空間×(∓1)⏟スピン.\underbrace{(-1)}_{\text{全体(フェルミオン)}}=\underbrace{(\pm1)}_{\text{空間}}\times\underbrace{(\mp1)}_{\text{スピン}}.

ゆえに「空間対称 ×\times スピン反対称(1重項 S=0S=0)」か「空間反対称 ×\times スピン対称(3重項 S=1S=1)」の2択しかない。第0章§9.0.2で導いた「3重項=対称・1重項=反対称」の表がここで効く。なお分離形に書けるのは2粒子の特権的な簡単さで(3粒子以上では空間・スピンが混ざった対称性が現れる)、2電子問題ではこの2択が完全に機能する。

ボゾンとフェルミオン

ボゾン(整数スピン):波動関数は交換に対し対称。同じ1粒子状態にいくつでも入れる。
フェルミオン(半整数スピン):波動関数は交換に対し反対称(=Slater 行列式で書ける)。同じ1粒子状態には2個入れない(Pauli 排他律=行列式の列の一致で零)。
スピン 12\tfrac12 の2粒子では、全状態=空間×\timesスピンで全体が反対称。よって「空間対称$\times1重項(1重項(S=0)」または「空間反対称)」または「空間反対称\times3重項(3重項(S=1$)」に限られる。

フェルミオンの定性的な4つの絵

絵1(座席表):1粒子状態(空間軌道×\timesスピン)を座席と思う。フェルミオンは1席に1人、ボゾンは相席無制限。「同じ空間軌道に電子2個」が許されるのは ↑\uparrow と ↓\downarrow で座席としては別だから。原子の電子配置 1s$^22s2s^22p2p^6\cdots$ はこの座席表の言葉そのもの。
絵2(すれ違えない波):反対称波動関数は x1=x2x_1=x_2 で必ず零。スピン平行(空間反対称)の2電子は近づくほど波動関数が押し潰され、同じ場所には絶対に来られない——交換相関の穴。スピン反平行(空間対称)なら重なれる。
絵3(力ではなく幾何):S=0S=0 と S=1S=1 のエネルギー差は、相互作用を入れなくても(自由な2粒子の基底状態と励起状態の比較)、入れればなおさら(接触斥力のある場合)生じる。原因はどちらも「反対称性が空間分布の形を縛る」こと。統計則という幾何学的制約が実効的な力(交換相互作用)に見える——磁性の起源。
絵4(圧力):NN 個詰めるとフェルミオンは低い座席から順に積み上がり(E0∝N2E_0\propto N^2、§1.3)、押し縮めると猛烈に反発する(Fermi 縮退圧)。白色矮星を支えるのは文字どおりこの統計の圧力である。

よくある混乱を潰す。

(i)「反対称」は xx の奇関数という意味ではない——ラベル 1↔21\leftrightarrow2 の入れ替えに対する符号の話である。(ii) 交換は位置とスピンを同時に入れ替える。空間だけ入れ替えて符号を云々してはいけない。(iii) Pauli 排他律は「同じ空間軌道に2個入れない」ではなく「同じ完全な1粒子状態(空間×\timesスピン)に2個入れない」。空間が同じでもスピンが直交していれば共存できる。

この「空間とスピンの対称性が連動する」点が本章の主役だ。スピンの向き(対称性)が空間分布を通じてエネルギーを変える。これが交換相互作用であり、磁性や Hund 則の起源である。なお、2粒子スピンの合成状態 ∣S,M⟩| S,M \rangle(1重項 ∣0,0⟩| 0,0 \rangle と3重項 ∣1,M⟩| 1,M \rangle)は、第0章§9.0.2で昇降演算子により導出した。

複合粒子の統計:4^4He と 3^3He

★ 複合粒子のボゾン/フェルミオン判定(4^4He/3^3He)。

原子・原子核・中間子のように、複数の粒子が束縛した複合粒子はどちらの統計に従うか。複合粒子が十分強く束縛していて内部状態が変わらない限り、「複合粒子2個の交換」=「構成粒子をペアごとに一斉に交換する」操作である。構成粒子のうちフェルミオンが kk 個あれば、一斉交換はフェルミオン対の交換 kk 回(各回で符号 −1-1)とボゾン対の交換(符号 +1+1)に分解できるので、全体の符号は (−1)k(-1)^k。すなわち

フェルミオンを奇数個含む複合粒子はフェルミオン、偶数個ならボゾン(ボゾンは何個含んでも統計を変えない)。

これはスピンの合成則(半整数を奇数個合成すると半整数、偶数個なら整数——第0章§9.0.2)とも整合しており、スピン統計定理が複合粒子のレベルでも破綻なく閉じていることを示す。

劇的な実例がヘリウムの同位体である。4^4He 原子は陽子2+中性子2+電子2=フェルミオン6個でボゾン、3^3He 原子は陽子2+中性子1+電子2=5個でフェルミオン。化学的性質はほぼ同一なのに、量子統計が違うため低温物性は全く異なる:4^4He は約 2 2\,K で Bose–Einstein 凝縮に類する超流動転移を起こすが、3^3He はフェルミオンゆえ単独では凝縮できず、約 2 2\,mK——3桁低い温度——でフェルミオン対(Cooper 対に相当)を組んでボゾン化してからようやく超流動になる。「中性子1個の差」がマクロな相転移温度を3桁動かす——統計性が物質の姿を決めることの、これ以上ない実演である。

中心力で相互作用する2粒子:(−1)ℓ(-1)^\ell 則

★★ 相対軌道の偶奇と統計((−1)ℓ(-1)^\ell 則)。

対称化の要請が軌道角運動量を直接縛る、一般性の高い帰結を一つ導いておく。同種2粒子が中心力で相互作用する系

H^=p^122m+p^222m+V(∣x^1−x^2∣)\hat H=\frac{\hat{\bm{p}}_1^2}{2m}+\frac{\hat{\bm{p}}_2^2}{2m}+V(|\hat{\bm{x}}_1-\hat{\bm{x}}_2|)

を考える。重心座標 R^=12(x^1+x^2)\hat{\bm{R}}=\tfrac12(\hat{\bm{x}}_1+\hat{\bm{x}}_2) と相対座標 r^=x^1−x^2\hat{\bm{r}}=\hat{\bm{x}}_1-\hat{\bm{x}}_2 に分けると、H^=H^c(P^)+H^r\hat H=\hat H_{\rm c}(\hat{\bm{P}})+\hat H_{\rm r}(重心は自由運動、相対運動は換算質量 μ=m/2\mu=m/2 の中心力問題)と分離する。中心力の一般論(第3部『中心力場と水素原子』の第1・2章)より、相対運動の固有関数は

ψnℓm(r)=Rnℓ(r) Yℓm(θ,ϕ)\psi_{n\ell m}(\bm{r})=R_{n\ell}(r)\,Y_\ell^m(\theta,\phi)

と書ける。ここで粒子の交換 1↔21\leftrightarrow2 を座標の言葉に翻訳すると、R^→R^\hat{\bm{R}}\to\hat{\bm{R}}(重心は対称)、r^→−r^\hat{\bm{r}}\to-\hat{\bm{r}}(相対座標は反転)——つまり交換の空間部分は、相対座標のパリティ変換にほかならない。球面調和関数の反転則 Yℓm(−n^)=(−1)ℓ Yℓm(n^)Y_\ell^m(-\hat{\bm{n}})=(-1)^\ell\,Y_\ell^m(\hat{\bm{n}}) を使うと

 ψnℓm(−r)=(−1)ℓ ψnℓm(r) \boxed{\ \psi_{n\ell m}(-\bm{r})=(-1)^\ell\,\psi_{n\ell m}(\bm{r})\ }

——空間部分の交換対称性は、ボゾンかフェルミオンかに関係なく、ℓ\ell の偶奇だけで自動的に決まってしまう。したがってスピンとの組合せが制限される:

  • スピン 12\tfrac12 フェルミオン2個(全体反対称):1重項(S=0S=0、反対称)⇒ℓ\Rightarrow\ell は偶数/3重項(S=1S=1、対称)⇒ℓ\Rightarrow\ell は奇数。
  • スピン 00 ボゾン2個(全体対称):スピン部分がないのでℓ\ell は偶数に限る(例:4^4He 原子どうしの散乱では奇数部分波が厳密に消える)。

「スピンの向きが軌道運動の型(ℓ\ell の偶奇)を選ぶ」——次節以降で井戸型・ヘリウムについて見る「スピンが空間分布を縛る」機構の、角運動量版である。水素分子のオルソ・パラ(2つの陽子核スピンの3重項・1重項が回転準位 ℓ\ell の偶奇と結びつき、比熱や回転スペクトルに現れる)は、この則が実験室で直接見える古典的な舞台である。

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