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事象の地平面と Eddington–Finkelstein 座標

2026年10月15日22分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第13章 ブラックホールと重力波
目次
  1. 動径方向の自由落下
  2. 座標の特異点と時空の特異点
  3. Eddington–Finkelstein 座標
  4. 光円錐の傾きと事象の地平面
  5. 確認テスト
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対論入門 第13章 §13.1 ★★★ r=rsr=r_{\mathrm s} は座標の特異点で、落ちる粒子は有限の固有時で通り抜ける。光円錐が内側へ倒れるため、そこから内側の事象は外へ信号を送れない

第12章では、球対称な星の外側の真空解である Schwarzschild 計量

ds2=(1−rsr)c2dt2−dr21−rs/r−r2(dθ2+sin⁡2θ dφ2),rs=2GMc2(13.1)\mathrm{d} s^2=\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)c^2\mathrm{d} t^2-\frac{\mathrm{d} r^2}{1-r_{\mathrm s}/r}-r^2\bigl(\mathrm{d}\theta^2+\sin^2\theta\,\mathrm{d}\varphi^2\bigr),\qquad r_{\mathrm s}=\frac{2GM}{c^2}\tag{13.1}

を導き、r≫rsr\gg r_{\mathrm s} の太陽系の範囲で、一般相対論の補正を Newton 力学への小さな上乗せとして求めた。この章の前半では、同じ計量を rsr_{\mathrm s} の近くまで追いかける。星が自分の Schwarzschild 半径より小さく縮むと、計量 (13.1) は r=rsr=r_{\mathrm s} まで真空の解として使える。そこで何が起きるかを調べるのが §13.1 と §13.2 である。

§13.1 では、r=rsr=r_{\mathrm s} で計量の成分が発散するのは座標の選び方による見かけの特異点であることを、曲率の不変量と Eddington–Finkelstein 座標の2つの方法で示す。そのうえで、r=rsr=r_{\mathrm s} の球面が「内側からは外へ信号を送れない境界」すなわち事象の地平面であることを、光円錐の傾きから導く。

§13.2 では、第12章 §12.2 の有効ポテンシャルを使って、安定な円軌道がある最も内側の半径 6GM/c26GM/c^2 と、光が円軌道を描く半径 3GM/c23GM/c^2 を求める。前者はブラックホールに落ちるガスが光る円盤の内縁を、後者はブラックホールの「影」の大きさを決める。

後半では、時空の曲がりが波として伝わる解を扱う。§13.3 では、計量を平らな計量と小さなずれに分けて Einstein 方程式を1次まで展開し、真空でずれが光速で伝わる波動方程式に従うことを示す。座標の取り替えの自由度を使うと、波には独立な成分が2つ(2つの偏光)しか残らない。§13.4 では、ゆっくり動く物体の出す重力波の強さが質量の四重極モーメントの時間変化で決まることを示し、連星が重力波でエネルギーを失って近づく速さを求めて、連星パルサーの公転周期の減少と LIGO の観測に当てはめる。

前の章から借りる結果は次のとおりである。第8章の Christoffel 記号、第10章の Riemann テンソル

Rρσμν=∂μΓρνσ−∂νΓρμσ+ΓρμλΓλνσ−ΓρνλΓλμσ,Rμν=Rρμρν(13.2)R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}=\partial_\mu\Gamma^\rho{}_{\nu\sigma}-\partial_\nu\Gamma^\rho{}_{\mu\sigma}+\Gamma^\rho{}_{\mu\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\nu\sigma}-\Gamma^\rho{}_{\nu\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\mu\sigma},\qquad R_{\mu\nu}=R^\rho{}_{\mu\rho\nu}\tag{13.2}

と測地線偏差の方程式(第10章 §10.2)

D2ξρdτ2=Rρσμν uσuμ ξν,(13.3)\frac{D^2\xi^\rho}{\mathrm{d}\tau^2}=R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}\,u^\sigma u^\mu\,\xi^\nu ,\tag{13.3}

第11章の Einstein 方程式をトレース反転した形

Rμν=8πGc4(Tμν−12gμνT)(Λ=0),(13.4)R_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}\Bigl(T_{\mu\nu}-\frac12g_{\mu\nu}T\Bigr)\qquad(\Lambda=0),\tag{13.4}

そして第12章 §12.2 の保存量 E=E/(mc2)\mathcal E=E/(mc^2)、L=ℓ/mL=\ell/m と動径の運動の式

12(drdτ)2+Veff(r)=c2(E2−1)2,Veff(r)=−GMr+L22r2−GML2c2r3(13.5)\frac12\Bigl(\frac{d r}{d \tau}\Bigr)^2+V_{\mathrm{eff}}(r)=\frac{c^2(\mathcal E^2-1)}{2},\qquad V_{\mathrm{eff}}(r)=-\frac{GM}{r}+\frac{L^2}{2r^2}-\frac{GML^2}{c^2r^3}\tag{13.5}

である。この章では宇宙定数を Λ=0\Lambda=0 とする。

動径方向の自由落下

無限遠で静止していた粒子が、角運動量なしでまっすぐ落ちる場合を考える。E=1\mathcal E=1、L=0L=0 を (13.5) に入れると

(drdτ)2=2GMr=c2rsr,drdτ=−crsr(13.6)\Bigl(\frac{d r}{d \tau}\Bigr)^2=\frac{2GM}{r}=\frac{c^2r_{\mathrm s}}{r},\qquad \frac{d r}{d \tau}=-c\sqrt{\frac{r_{\mathrm s}}{r}}\tag{13.6}

を得る。この式は Newton 力学の「無限遠から放した物体の速さ 2GM/r\sqrt{2GM/r}」と同じ形をしているが、左辺の時刻が粒子の固有時である点が異なる。(13.6) は r=rsr=r_{\mathrm s} で何も特別なことを起こさない。変数を分けて積分すると、半径 r0r_0 から rr まで落ちる固有時は

τ(r0→r)=23crs(r03/2−r3/2)(13.7)\tau(r_0\to r)=\frac{2}{3c\sqrt{r_{\mathrm s}}}\Bigl(r_0^{3/2}-r^{3/2}\Bigr)\tag{13.7}

で、r=rsr=r_{\mathrm s} を通り過ぎて r=0r=0 まで有限である。

一方、無限遠に静止した観測者の時刻 tt で同じ落下を見ると、様子が違う。第12章 §12.2 の保存量の式 E=(1−rs/r) dt/dτ\mathcal E=(1-r_{\mathrm s}/r)\,\mathrm{d} t/\mathrm{d}\tau に E=1\mathcal E=1 を入れ、(13.6) で割ると

c dtdr=−r/rs1−rs/r(13.8)c\,\frac{d t}{d r}=-\frac{\sqrt{r/r_{\mathrm s}}}{1-r_{\mathrm s}/r}\tag{13.8}

である。r→rsr\to r_{\mathrm s} で右辺は −rs/(r−rs)-r_{\mathrm s}/(r-r_{\mathrm s}) のように振る舞う。したがって rsr_{\mathrm s} の近くでは

ct≃−rsln⁡r−rsrs+定数ct\simeq-r_{\mathrm s}\ln\frac{r-r_{\mathrm s}}{r_{\mathrm s}}+\text{定数}

で、r→rsr\to r_{\mathrm s} で t→+∞t\to+\infty となる。遠くの観測者の時刻では、粒子は rsr_{\mathrm s} に限りなく近づくが、いつまでも到達しない。

粒子自身の時計では有限の時間で通り過ぎるのに、tt では無限大になる。この食い違いは、tt という座標が r=rsr=r_{\mathrm s} の近くで時刻の目盛りとして使えなくなっていることを示している。

第12章 §12.4 で見たとおり、半径 rr に静止した時計の進みは 1−rs/r\sqrt{1-r_{\mathrm s}/r} 倍に遅れ、Schwarzschild 半径で 0 になる。tt はこの「止まった時計」に合わせた目盛りなので、rsr_{\mathrm s} に届く事象に有限の値を割り当てることができない。

座標の特異点と時空の特異点

計量の成分が発散するかどうかは座標の選び方で変わるので、それだけでは時空そのものの異常かどうかを判定できない。たとえば平面の極座標 dr2+r2dφ2\mathrm{d} r^2+r^2\mathrm{d}\varphi^2 の逆計量 gφφ=1/r2g^{\varphi\varphi}=1/r^2 は原点で発散するが、平面の原点には何の異常もない。座標によらない判定には、曲率から作ったスカラーを使う。スカラーはどの座標で計算しても同じ値になるので、ある点でスカラーが発散すれば、その点はどの座標でも異常である。

定義 13.1(座標の特異点と時空の特異点)

計量の成分が発散または退化する点のうち、別の座標に移ると成分が有限で正則になるものを座標の特異点と呼ぶ。曲率から作ったスカラー(たとえば Kretschmann スカラー K≡RαβγδRαβγδK\equiv R_{\alpha\beta\gamma\delta}R^{\alpha\beta\gamma\delta})が発散する点を時空の特異点と呼ぶ。

Schwarzschild 計量の Riemann テンソルを (13.2) から成分で計算して縮約すると

K=RαβγδRαβγδ=12rs2r6=48G2M2c4r6(13.9)K=R_{\alpha\beta\gamma\delta}R^{\alpha\beta\gamma\delta}=\frac{12r_{\mathrm s}^2}{r^6}=\frac{48G^2M^2}{c^4r^6}\tag{13.9}

を得る(成分の計算は第12章 §12.1 の Christoffel 記号から機械的に進む)。

Schwarzschild 半径では K=12/rs4K=12/r_{\mathrm s}^4 と有限である。KK が発散するのは r→0r\to0 だけである。したがって r=rsr=r_{\mathrm s} は時空の特異点ではない。r=0r=0 は時空の特異点で、そこでは潮汐力が無限大になる。

r=rsr=r_{\mathrm s} で曲率が有限であることは、落ちていく観測者の感じる潮汐力でも確かめられる。測地線偏差の方程式 (13.3) を、ある半径に静止した観測者の正規直交の基底で書くと、動径の向きの偏差 ξr^\xi^{\hat r} について

d2ξr^dτ2=−c2Rr^0^r^0^ ξr^=2GMr3 ξr^,d2ξθ^dτ2=−GMr3 ξθ^(13.10)\frac{\mathrm{d}^2\xi^{\hat r}}{\mathrm{d}\tau^2}=-c^2R^{\hat r}{}_{\hat0\hat r\hat0}\,\xi^{\hat r}=\frac{2GM}{r^3}\,\xi^{\hat r},\qquad \frac{\mathrm{d}^2\xi^{\hat\theta}}{\mathrm{d}\tau^2}=-\frac{GM}{r^3}\,\xi^{\hat\theta}\tag{13.10}

となる。ここで Rr^0^r^0^=Rr0r0/g00R^{\hat r}{}_{\hat0\hat r\hat0}=R^r{}_{0r0}/g_{00} を使った。動径の向きには引き伸ばされ、横の向きには押し縮められる。係数は Newton の潮汐力(第10章 §10.2)と同じ形で、近似なしに成り立つ。

成分 R0^r^0^r^R_{\hat0\hat r\hat0\hat r} は、時間と動径の張る面の中のブースト(動径の向きの Lorentz 変換)で変わらない。2つの添字の組 [0^r^][\hat0\hat r] が、その面の向きのついた面積要素のように変換し、ブーストの行列の行列式が1だからである。したがって、動径の向きに落ちていく観測者も同じ潮汐力 (13.10) を感じる。これは r=rsr=r_{\mathrm s} で有限である。

例題 13.1 太陽質量の10倍のブラックホールに落ちる ★★

オリジナル質量 M=10M⊙M=10M_\odot のブラックホールを考える(GM⊙=1.327×1020 m3/s2GM_\odot=1.327\times10^{20}\,\mathrm{m^3/s^2})。

  1. Schwarzschild 半径 rsr_{\mathrm s} を求めよ。
  2. 無限遠で静止していた観測者がまっすぐ落ちるとき、r=10rsr=10r_{\mathrm s} から地平面までと、地平面から中心までにかかる固有時を求めよ。
  3. 地平面 r=rsr=r_{\mathrm s} で、頭から足まで 2 m2\,\mathrm m の観測者が受ける潮汐の加速度の差を求めよ。質量 6.5×109M⊙6.5\times10^9M_\odot のブラックホール(M87 の中心のもの)ではどうか。
解答
  1. rs=2GM/c2=2×1.327×1021/(2.998×108)2=2.953×104 mr_{\mathrm s}=2GM/c^2=2\times1.327\times10^{21}/(2.998\times10^8)^2=2.953\times10^4\,\mathrm m、すなわち 29.5 km29.5\,\mathrm{km} である。
  2. (13.7) で r0=10rsr_0=10r_{\mathrm s}、r=rsr=r_{\mathrm s} とおくと

τ=2rs3c(103/2−1)=2×2.953×1043×2.998×108×30.62=2.01×10−3 s.\tau=\frac{2r_{\mathrm s}}{3c}\bigl(10^{3/2}-1\bigr)=\frac{2\times2.953\times10^4}{3\times2.998\times10^8}\times30.62=2.01\times10^{-3}\,\mathrm s .

地平面から中心までは

τ=2rs3c=6.57×10−5 s=65.7 μs\tau=\frac{2r_{\mathrm s}}{3c}=6.57\times10^{-5}\,\mathrm s=65.7\,\mu\mathrm s

である。地平面を越えてから中心に達するまで、観測者の時計で 0.07 ミリ秒もかからない。3. (13.10) で r=rsr=r_{\mathrm s} とおき、2GM/rs3=c2/rs22GM/r_{\mathrm s}^3=c^2/r_{\mathrm s}^2 を使う。長さ Δr\Delta r の差による加速度の差は

Δa=c2rs2Δr=(2.998×108)2×2(2.953×104)2=2.06×108 m/s2\Delta a=\frac{c^2}{r_{\mathrm s}^2}\Delta r=\frac{(2.998\times10^8)^2\times2}{(2.953\times10^4)^2}=2.06\times10^8\,\mathrm{m/s^2}

で、重力加速度の約 2×1072\times10^7 倍である。観測者は地平面に達する前に引き裂かれる。M=6.5×109M⊙M=6.5\times10^9M_\odot では

rs=1.92×1013 m,Δa=4.9×10−10 m/s2r_{\mathrm s}=1.92\times10^{13}\,\mathrm m,\qquad \Delta a=4.9\times10^{-10}\,\mathrm{m/s^2}

となり、地平面を越えるときに何も感じない。潮汐力は 1/rs2∝1/M21/r_{\mathrm s}^2\propto1/M^2 に比例するので、重いブラックホールほど地平面の近くは穏やかである。

Eddington–Finkelstein 座標

r=rsr=r_{\mathrm s} が座標の特異点なら、そこで正則になる座標を具体的に作れるはずである。手がかりは光である。動径の向きに進む光(dθ=dφ=0\mathrm{d}\theta=\mathrm{d}\varphi=0、ds=0\mathrm{d} s=0)は、(13.1) から

c dtdr=±11−rs/rc\,\frac{d t}{d r}=\pm\frac{1}{1-r_{\mathrm s}/r}

に従う。右辺を積分した関数を

r∗≡r+rsln⁡∣rrs−1∣,dr∗dr=11−rs/r(13.11)r^*\equiv r+r_{\mathrm s}\ln\Bigl|\frac{r}{r_{\mathrm s}}-1\Bigr|,\qquad \frac{d r^*}{d r}=\frac{1}{1-r_{\mathrm s}/r}\tag{13.11}

と定義する。r∗r^* は亀の座標と呼ばれ、r→rsr\to r_{\mathrm s} で負の無限大になる。光の進路は ct∓r∗=ct\mp r^*= 一定で、内向きの光は ct+r∗ct+r^* が一定の線に沿う。

そこで、内向きの光の線が座標の線になるように、新しい時刻

cv≡ct+r∗(13.12)cv\equiv ct+r^*\tag{13.12}

を導入する。この定義から

c dt=c dv−dr1−rs/rc\,\mathrm{d} t=c\,\mathrm{d} v-\frac{\mathrm{d} r}{1-r_{\mathrm s}/r}

で、これを (13.1) に代入すると、時間と動径の部分は

(1−rsr)(c dv−dr1−rs/r)2−dr21−rs/r=(1−rsr)c2dv2−2c dv dr+dr21−rs/r−dr21−rs/r\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)\Bigl(c\,\mathrm{d} v-\frac{\mathrm{d} r}{1-r_{\mathrm s}/r}\Bigr)^2-\frac{\mathrm{d} r^2}{1-r_{\mathrm s}/r} =\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)c^2\mathrm{d} v^2-2c\,\mathrm{d} v\,\mathrm{d} r+\frac{\mathrm{d} r^2}{1-r_{\mathrm s}/r}-\frac{\mathrm{d} r^2}{1-r_{\mathrm s}/r}

となり、dr2\mathrm{d} r^2 の項が打ち消し合う。よって次の計量を得る。

命題 13.2(内向きの Eddington–Finkelstein 座標 ★★★)

座標 (v,r,θ,φ)(v,r,\theta,\varphi) で Schwarzschild 計量は

ds2=(1−rsr)c2dv2−2c dv dr−r2(dθ2+sin⁡2θ dφ2)(13.13)\mathrm{d} s^2=\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)c^2\mathrm{d} v^2-2c\,\mathrm{d} v\,\mathrm{d} r-r^2\bigl(\mathrm{d}\theta^2+\sin^2\theta\,\mathrm{d}\varphi^2\bigr)\tag{13.13}

となる。成分はすべての r>0r>0 で有限である。行列式 det⁡g=−c2r4sin⁡2θ\det g=-c^2r^4\sin^2\theta は r=rsr=r_{\mathrm s} で 0 にならない。

(13.13) は r>rsr>r_{\mathrm s} で導いたが、得られた式は Schwarzschild 半径をまたいで内側の 0<r<rs0<r<r_{\mathrm s} まで正則に続いている。また Rμν=0R_{\mu\nu}=0 は座標によらないテンソルの式なので、内側でも真空の Einstein 方程式の解である。こうして、r=rsr=r_{\mathrm s} で途切れていた時空が内側まで1枚の座標で覆われる。元の計量が Schwarzschild 半径で発散したのは、tt が (13.12) の形で r∗r^* の対数の発散を抱えていたためである。

光円錐の傾きと事象の地平面

(13.13) で動径の向きの光を調べる。ds=0\mathrm{d} s=0、dθ=dφ=0\mathrm{d}\theta=\mathrm{d}\varphi=0 とおくと

c dv[(1−rsr)c dv−2 dr]=0c\,\mathrm{d} v\Bigl[\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)c\,\mathrm{d} v-2\,\mathrm{d} r\Bigr]=0

で、解は2つある。1つは dv=0\mathrm{d} v=0 の内向きの光で、定義どおり vv が一定の線である。もう1つは

drd(cv)=12(1−rsr)(13.14)\frac{d r}{d (cv)}=\frac12\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)\tag{13.14}

の光である。この光の進み方は、半径によって次のように変わる。

  • r>rsr>r_{\mathrm s} では右辺が正で、rr が増える外向きの光である。
  • r=rsr=r_{\mathrm s} では dr/dv=0\mathrm{d} r/\mathrm{d} v=0 となり、光は同じ半径にとどまる。
  • r<rsr<r_{\mathrm s} では右辺が負で、「外向き」に送った光も rr が減る向きに進む。

図に描くために、ct~≡cv−rc\tilde t\equiv cv-r を縦軸にとる。内向きの光は ct~+r=c\tilde t+r= 一定の 45° の直線になる。外向きの光は (13.14) から

d(ct~)dr=1+rs/r1−rs/r,ct~=r+2rsln⁡∣rrs−1∣+定数\frac{d (c\tilde t)}{d r}=\frac{1+r_{\mathrm s}/r}{1-r_{\mathrm s}/r},\qquad c\tilde t=r+2r_{\mathrm s}\ln\Bigl|\frac{r}{r_{\mathrm s}}-1\Bigr|+\text{定数}

に従う。図 13.1 は両者を描いたもので、各点の光円錐は2本の光の線に挟まれた向きである。光円錐の向きは、場所によって次のように変わる。

  • 遠くでは、平らな時空と同じく上向きに開いている。
  • rsr_{\mathrm s} に近づくにつれて内側へ倒れ、r=rsr=r_{\mathrm s} で外側の縁が垂直になる。
  • 内側では2本とも左(rr の減る向き)を向く。
図

図 13.1 内向きの Eddington–Finkelstein 座標の時空図(ct~=cv−rc\tilde t=cv-r)。灰色の 45° の直線が内向きの光、青の曲線が「外向き」に送った光である。r>rsr>r_{\mathrm s} では外向きの光は遠くへ逃げるが、r<rsr<r_{\mathrm s} では外向きに送った光も r=0r=0 に向かう。r=rsr=r_{\mathrm s}(赤)は外向きの光がとどまる線で、事象の地平面である。

光円錐が倒れることから、内側では光だけでなく物体も外へ出られないことを示す。

定理 13.3(地平面の内側では rr が必ず減る ★★★)

領域 r<rsr<r_{\mathrm s} では、未来を向いた時間的または光的な曲線に沿って、動径座標は必ず減少する。とくに r<rsr<r_{\mathrm s} では、rr を一定に保つ(静止する)観測者は存在しない。

証明

座標を x0=cvx^0=cv とすると、(13.13) の成分は

g00=1−rsr,g0r=−1,grr=0g_{00}=1-\frac{r_{\mathrm s}}{r},\qquad g_{0r}=-1,\qquad g_{rr}=0

である。ベクトル n=−∂rn=-\partial_r は g(n,n)=grr=0g(n,n)=g_{rr}=0 を満たす光的なベクトルで、内向きの光の接ベクトルである。外側の r>rsr>r_{\mathrm s} で内向きの光は未来へ進む。計量は Schwarzschild 半径をまたいで正則なので、nn は全域で未来向きである。

計量の符号は (+,−,−,−)(+,-,-,-) である。未来を向いた時間的または光的なベクトル VV と、未来向きの光的なベクトル nn の内積は 0 以上である。実際、局所慣性系で n=(1,n^)n=(1,\hat{\bm n})、V=(V0,V)V=(V^0,\bm V) と書くと

g(V,n)=V0−V⋅n^≥V0−∣V∣≥0g(V,n)=V^0-\bm V\cdot\hat{\bm n}\ge V^0-|\bm V|\ge0

である。g(V,n)=−gr0V0−grrVr=V0g(V,n)=-g_{r0}V^0-g_{rr}V^r=V^0 なので、V0=c dv/dλ≥0V^0=c\,\mathrm{d} v/\mathrm{d}\lambda\ge0 である。等号は VV が nn に平行なときだけである。

次に VV が時間的または光的であることから

0≤g(V,V)=(1−rsr)(V0)2−2V0Vr−r2[(Vθ)2+sin⁡2θ(Vφ)2]0\le g(V,V)=\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)(V^0)^2-2V^0V^r-r^2\bigl[(V^\theta)^2+\sin^2\theta(V^\varphi)^2\bigr]

で、移項すると

2V0Vr≤−(rsr−1)(V0)2−r2[(Vθ)2+sin⁡2θ(Vφ)2]2V^0V^r\le-\Bigl(\frac{r_{\mathrm s}}{r}-1\Bigr)(V^0)^2-r^2\bigl[(V^\theta)^2+\sin^2\theta(V^\varphi)^2\bigr]

を得る。r<rsr<r_{\mathrm s} では右辺の第1項は V0>0V^0>0 のとき負で、第2項は 0 以下である。よって V0>0V^0>0 なら Vr<0V^r<0 である。

残る V0=0V^0=0 の場合は、等号の条件からこのベクトルは n=−∂rn=-\partial_r に平行である。このときも Vr<0V^r<0 である。静止した観測者の4元速度は Vr=Vθ=Vφ=0V^r=V^\theta=V^\varphi=0 で、g(V,V)=(1−rs/r)(V0)2<0g(V,V)=(1-r_{\mathrm s}/r)(V^0)^2<0 となって時間的にならない。

定理 13.3 から、r<rsr<r_{\mathrm s} に入った粒子や光は動径座標を減らし続け、有限のアフィン径数で r=0r=0 に達する。r>rsr>r_{\mathrm s} の観測者にどんな信号も届かない。

定義 13.4(事象の地平面とブラックホール)

時空の中で、そこから出た光や粒子が無限遠の観測者に届くことのない事象の集まりをブラックホールと呼び、その境界を事象の地平面と呼ぶ。Schwarzschild 時空の事象の地平面は r=rsr=r_{\mathrm s} の球面である。

地平面 r=rsr=r_{\mathrm s} そのものは、外向きの光が半径を変えずにとどまる面である((13.14) で dr/dv=0\mathrm{d} r/\mathrm{d} v=0)。地平面は光で作られた面であって、空間の中に置かれた膜ではない。落ちる観測者は地平面を通るときに局所的には何も感じない(例題 13.1 の大きなブラックホール)。地平面が特別なのは、その先の因果関係、つまり外へ戻れないという大域的な性質にある。

注意

  • 遠くの観測者には、落ちる物体が地平面に近づくにつれて、届く光の赤方偏移が指数関数的に大きくなり、暗くなって見えなくなる。物体は地平面の手前で「凍りつく」ように見えるが、物体の側では有限の固有時で通過している。
  • 外向きの光を目盛りにした座標 cu≡ct−r∗cu\equiv ct-r^* を使うと、時間を反転した「ホワイトホール」の地平面が正則になる。両方を同時に正則にする Kruskal 座標と、それを使った時空全体の図は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第2部第17章で扱っている。

確認テスト

オリジナル

  1. 13.1-1 計量の成分が発散する点が時空の特異点かどうかを判定するのに、曲率のスカラーを使う理由を1文で述べよ。
  2. 13.1-2 r0r_0 で静止していた粒子がまっすぐ落ちる。このとき E2=1−rs/r0\mathcal E^2=1-r_{\mathrm s}/r_0 であることを示せ。また、r0r_0 から r=0r=0 までの固有時が

τ=π2r03/2crs\tau=\frac{\pi}{2}\frac{r_0^{3/2}}{c\sqrt{r_{\mathrm s}}}

であることを示せ。r0=rsr_0=r_{\mathrm s}、M=10M⊙M=10M_\odot の値を求めよ。3. 13.1-3 内向きの Eddington–Finkelstein 座標 (13.13) で、r=rs/2r=r_{\mathrm s}/2 の点から出る外向きと内向きの光の dr/d(cv)\mathrm{d} r/\mathrm{d}(cv) をそれぞれ求めよ。さらにこの点で時間的な曲線は dr/d(cv)<−1/2\mathrm{d} r/\mathrm{d}(cv)<-1/2 を満たすことを示せ(角度の向きの運動は無いとする)。4. 13.1-4 長さ 2 m2\,\mathrm m の観測者が地平面で受ける潮汐の加速度の差が 100 m/s2100\,\mathrm{m/s^2} になるのは、ブラックホールの質量が太陽の何倍のときか。

木下の勉強ステータス

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