光学と量子エレクトロニクス 第10章 §10.3 ★★★ 平面波は k2=εrω2/c2 を満たし、n~=εr=n+iκ の実部が位相速度を、虚部が減衰を決める
平面波の分散関係
自由電荷を誘電関数に含めた方程式(ρf=0, Jf=0, M=0)に、平面波 E=Re[E0ei(k⋅r−ωt)], B=Re[B0ei(k⋅r−ωt)] を入れる。∇→ik, ∂t→−iω と置き換えると、Faraday の法則と Ampère–Maxwell の式は
k×E0=ωB0,k×B0=−c2ωεr(ω)E0(10.12)
になる。第1式の B0 を第2式に入れると k×(k×E0)=−c2ω2εrE0、左辺を k(k⋅E0)−k2E0 と展開して
(k2−εr(ω)c2ω2)E0=k(k⋅E0)(10.13)
を得る。解は2通りある。1つは横波(k⋅E0=0)で、そのとき
k2=εr(ω)c2ω2(10.14)
である。これが一様な媒質の中の光の分散関係である。もう1つは縦波(k∥E0)で、式 (10.13) の両辺を比べると εr(ω)=0 のときにだけ存在する。縦波は B0=0 で光としては伝わらず、電荷の密度の振動である。金属のプラズマ振動がその例で、第13章(第13章)で扱う。
複素屈折率
式 (10.14) の平方根を
n~(ω)=εr(ω)=n+iκ,k=n~cω(10.15)
と書き、n~ を複素屈折率、実部 n を屈折率、虚部 κ を消衰係数と呼ぶ。平方根の2つの枝のうち κ≥0 の側を選ぶ。受動的な媒質では ε2≥0 なので εr は上半面にあり、主値の平方根は第1象限に入って n≥0, κ≥0 の両方を満たす。z 方向に進む波は
E=Re[E0e−κωz/cei(nωz/c−ωt)](10.16)
となる。実部 n は位相の進み方を決め、位相速度は c/n、媒質の中の波長は λ0/n(λ0=2πc/ω は真空の波長)である。虚部 κ は振幅の減衰を決め、真空の波長の 1/(2πκ) 倍の距離で振幅が 1/e になる。κ≥0 の枝を選んだのは、波が進む向きに減衰する(エネルギーを媒質に渡す)ためである。
n~2=εr の実部と虚部を比べると
ε1=n2−κ2,ε2=2nκ(10.17)
で、逆に解けば
n=2∣εr∣+ε1,κ=2∣εr∣−ε1(∣εr∣=ε12+ε22)(10.18)
である。図 10.2 は ε2=0.5 を固定して ε1 を動かしたときの n と κ である。

図 10.2 ε2=0.5 のときの屈折率 n(紺)と消衰係数 κ(朱)。点線が厳密な式 (10.18)、ε1>0.5 の実線が弱い吸収の近似 n≈ε1, κ≈ε2/(2ε1)。ε1 の符号を変えると n と κ の役が入れ替わる。
図から2つの領域が読める。ε1>0 で ε2≪ε1 のときは、式 (10.18) を ε2 について展開して
n≈ε1,κ≈2ε1ε2(10.19)
となる。ガラスや水の可視光がこの領域で、光はほとんど減衰せずに進み、屈折率は ε1 の平方根である。ε1<0 で ∣ε2∣≪∣ε1∣ のときは逆にκ≈∣ε1∣, n≈ε2/(2∣ε1∣) で、波は進まずに浸み込むだけになる。プラズマ周波数より下の金属がこの領域で、光は表面で反射される(第13章・第14章)。図の対称性は偶然でなく、−ε1+iε2=−(εr)∗=i(εr)∗=κ+in から、ε1 の符号を変えると n と κ が入れ替わる。
物質が希薄で ∣χ∣≪1 のときは、平方根を1次まで展開して
n~≈1+2χ(ω)=1+2ε0Nα(ω),n−1≈2ε0NReα,κ≈2ε0NImα(10.20)
となる。第1章で引いた n≈1+NReα/(2ε0) はこの式である。
磁場の振幅と位相
式 (10.12) の第1式から B0=cn~ez×E0 である。E0, B0, k は右手系をなし、磁場の振幅は電場の ∣n~∣/c 倍になる。n~ が複素数のとき、磁場の位相は電場より argn~=arctan(κ/n) だけ進む。吸収の無い媒質では電場と磁場は同じ位相で振動するが、吸収があると位相がずれる。この位相のずれが、次の節で Poynting ベクトルの時間平均を計算するときに Ren~=n だけを残す理由になる。
例題 10.3 誘電関数から屈折率と浸み込みの長さを出す ★★★
オリジナル
- (1) εr=2.25+0.01i の媒質の n と κ を式 (10.18) で求め、弱い吸収の近似 (10.19) と比べよ。
- (2) εr=−10+i の媒質の n と κ を求め、真空の波長 λ0 の何倍の距離で振幅が 1/e になるかを答えよ。
- (3) 伝導度 σ=6.0×107Sm−1(実数・周波数によらない)を持つ良導体に、周波数 1GHz の電磁波が入る。束縛電荷の寄与 χ を無視してσ/(ε0ω) を求め、n~≈(1+i)σ/(2ε0ω) を示し、振幅が 1/e になる距離(表皮深さ)δ=c/(κω) を求めよ。
解答
(1) ∣εr∣=2.252+0.012=2.2500222 なので n=(2.2500222+2.25)/2=1.5000037, κ=(2.2500222−2.25)/2=3.3333×10−3。近似では n≈2.25=1.5, κ≈0.01/(2×1.5)=3.333×10−3 で、4桁まで一致する。ε2/ε1=4.4×10−3 が小さいので、近似の誤差は (ε2/ε1)2 の桁になる。
(2) ∣εr∣=101=10.0499 から n=0.0499/2=0.158, κ=20.0499/2=3.17。振幅は e−κωz/c=e−2πκz/λ0 なので、1/e になる距離は λ0/(2πκ)=0.0502λ0、真空の波長の約20分の1である。ε1<0 の媒質に光はほとんど入れない。
(3) ω=2π×109s−1 で σ/(ε0ω)=6.0×107/(8.854×10−12×6.283×109)=1.08×109 である。εr=1+iσ/(ε0ω) の実部の 1 は虚部に比べて無視でき、i=(1+i)/2 から n~≈(1+i)σ/(2ε0ω)、n≈κ≈2.32×104 である。表皮深さは
δ=κωc=ωcσ2ε0ω=μ0σω2=2.05μm
(c2=1/(ε0μ0) を使った)。真空の波長 30cm に比べて5桁小さい。良導体の中では n と κ が等しいので、波は1波長進む間に振幅が e−2π になり、波として進む前に減衰する。
ほかの巻では
- ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第6章:同じ ε1,ε2 と n~=n+iκ をバンドの電子の黄金律から計算する側で、記号はこの巻と同じ
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com