光学と量子エレクトロニクス 第13章 §13.1 ★★★ モードは平面波1つ、物質は衝突で減衰する自由電子の気体、結合は電場の力。運動方程式1本から誘電関数 εr=εb−ωp2/(ω(ω+iγ)) が出る
第11章(第11章)では、物質の電子を原子に束縛された振動子とみなし、共鳴の角周波数 ω0 のまわりの分散と吸収を Lorentz 振動子の誘電関数で書いた。金属の伝導電子は原子に束縛されていない。束縛の無い電子は、ばねの無い振動子、つまり Lorentz 振動子で ω0→0 とした極限で表すことができる。この章は、その1つの式(Drude の誘電関数)から金属の光学応答のおもな性質がどこまで出るかを確かめる。
出てくるものは3つある。第一に、周波数を上げていくと金属の応答は3つの帯に分かれる。電子の衝突が頻繁に起きる低い周波数では、反射率が直流の伝導度だけで決まる(Hagen–Rubens の関係)。衝突の頻度より高くプラズマ周波数 ωp より低い帯では、反射率は周波数によらず 1 に近く、光は表皮の深さ c/ωp の層にしか入らない。ωp を超えると金属は透明になる。第二に、誘電関数が 0 になる周波数 ωp では、電子の気体全体が縦に振動する。アルカリ金属が紫外で透明になることと、電離層が短波を反射することは、同じ式から出る。第三に、金と銀と銅の色は自由電子だけでは説明できず、満ちた d バンドからのバンド間遷移を足して初めて出る。銀ではその遷移が紫外で始まるので可視光をほぼ一様に反射し、金と銅では可視の青の側で始まるので青を反射しにくい。バンド間遷移を結晶のバンドから数える話は、ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第6章に送る。この章では、その遷移を誘電関数の虚部の1つの段として模型に入れ、実部は第12章の Kramers–Kronig の関係で作る。
モード・物質・結合の選び方
この巻の各章は、どの場のモードを取り出し、物質をどうモデル化し、どう結合させ、何を近似したかで読む(第1章の表)。この章の選び方は次のとおりである。
場のモードは、角周波数 ω の平面波1つである。物理量は §1 の流儀どおり E(r,t)=Re[E0ei(k⋅r−ωt)] と書き、複素振幅だけで計算する。波長は金属の原子間隔や電子の平均自由行程より十分長いとし、電子が感じる電場は空間的に一様とみなす(この仮定は 13.6 節で見直す)。
物質のモデルは、数密度 ne の伝導電子の気体である。電子は原子に束縛されず、時間 τ に1回の割合で格子の振動や不純物と衝突して運動量を失う。衝突の割合を γ=1/τ と書く。伝導電子以外の電子(内殻と、満ちたバンドの電子)の応答は、まとめて背景の比誘電率 εb に入れる。屈折率 n と同じ章に出るので、電子の数密度には添字を付けて ne と書く。ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第2章は屈折率の出ない章なので、数密度を n、衝突の割合を 1/τ のまま書き、プラズマ振動数を ωp2=ne2/(ε0m∗) と有効質量で書く。この章の ne・γ・m がそれぞれに当たる。
結合は、電場が電子に及ぼす力 −eE である。磁場の力 −ev×B は、電子の速さ v が光速 c より十分小さいので、電場の力の v/c 倍として捨てる。
運動方程式から誘電関数へ
電子1個の平均の速度 v は、衝突による減衰を摩擦の項で表した運動方程式
mdtdv=−eE−τmv(13.1)
に従う。この方程式は P. Drude が 1900 年に金属の電気伝導の模型として書いたものである1P. Drude (1900), Annalen der Physik 306, 566.。(13.1) は、衝突の直後に電子の速度の向きがでたらめになると考え、その平均を摩擦に置き換えた式である。導出の正当化は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第8章と ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第2章の Boltzmann 方程式で行った。時間依存を e−iωt と置くと d/dt→−iω なので、
v=−meτ1−iωτE,J=−neev=σ(ω)E,σ(ω)=1−iωτσ0,σ0=mnee2τ
を得る。σ0 は直流の伝導度である。
伝導電子の電流と背景の分極の両方を1つの誘電関数にまとめる。Maxwell 方程式 ∇×H=J+∂Db/∂t で Db=ε0εbE とすると、右辺は (σ−iωε0εb)E になる。これを −iωε0εrE と書くと
εr(ω)=εb+ε0ωiσ(ω)(13.2)
である。伝導電流と分極電流は、交流では区別のつかない同じ電流で、どちらに数えるかは書き方の約束にすぎない。(13.2) はその約束の換算式である。σ(ω) を代入すると、Drude の誘電関数
εr(ω)=εb−ω(ω+iγ)ωp2,ωp2=ε0mnee2(13.3)
が出る。ωp をプラズマ周波数と呼ぶ。実部と虚部を εr=ε1+iε2 と書くと
ε1(ω)=εb−ω2+γ2ωp2,ε2(ω)=ω(ω2+γ2)γωp2(13.4)
である。この章では添字が数字の ε1,ε2 を比誘電率の実部と虚部に限って使う。第10章(式 (10.17))と同じ使い方である。
ε1 は ω<ωp2/εb−γ2 で負になる。負の誘電率は、電子が慣性のために電場と逆の位相で動き、電場を打ち消す向きの分極を作ることを表す。バネの無い振動子を共鳴より上の周波数で揺すると、変位は力と逆位相になる。金属では共鳴の周波数が 0 なので、γ より上のすべての周波数でこの逆位相の応答が起きる。
Lorentz 振動子との関係
第11章の Lorentz 振動子は、(13.1) の右辺に復元力 −mω02x を足したものだった。同じ数密度の電子がすべて共鳴 ω0 の振動子なら
εr(ω)=εb+ω02−ω2−iγωωp2(13.5)
で、ω0→0 とすると (13.3) に一致する。ここでの ωp は電子の数密度だけで決まる量で、金属でも絶縁体でも同じ形で定義される。
2つの式の差は低い周波数に集まる。静電場(ω=0)に対する Lorentz 振動子の比誘電率は、有限の値 εb+ωp2/ω02 である。電子はばねの伸びの分だけずれて止まる。Drude の式は ω→0 で iσ0/(ε0ω) のように発散する。電子は止まらずに流れ続け、そのときの電流と電場の比が直流の伝導度である。逆に ω≫ω0 では、復元力は慣性の力 mω2x に比べて小さくなり、束縛された電子も自由な電子と同じに応答する。絶縁体の紫外での応答と金属の応答が、共鳴より高い周波数で同じ形になるのはこのためである。
例題 13.1 束縛の強さが見えなくなる周波数 ★★
オリジナルℏωp=9.0eV, εb=1, γ→0 とする。
- (1) 共鳴 ℏω0=0.5eV の Lorentz 振動子 (13.5) と Drude の式 (13.3) の εr を、ℏω=2.0eV で比べよ。
- (2) 2つの εr−1 の比を ω と ω0 で表し、比が 1 に近づく条件を述べよ。
- (3) 静電場での比誘電率を比べよ。
解答
(1) Lorentz は 1+81/(0.25−4)=1−21.6=−20.6、Drude は 1−81/4=−19.25 である。どちらも負で、差は 7 パーセントほどしかない。
(2) γ→0 で εr−1 は Lorentz が ωp2/(ω02−ω2)、Drude が −ωp2/ω2 なので、比は
ω2−ω02ω2=3.754=1.067
である。比が 1 に近づく条件は ω0≪ω で、ずれは (ω0/ω)2 の大きさである。2eV の光は 0.5eV の束縛を 6.7 パーセントの補正としてしか感じない。
(3) Lorentz は 1+81/0.25=325 の有限の値、Drude は ω→0 で ε2=σ0/(ε0ω) が発散する。静電場で区別できる絶縁体と金属が、光の周波数ではほとんど区別することができない。
1 P. Drude (1900), Annalen der Physik 306, 566.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com