光学と量子エレクトロニクス 第10章 §10.4 ★★★ 強度は e−αabsz で減り、αabs=2κω/c は媒質の散逸 21ωε0ε2∣E∣2 と一致する。希薄な気体では1原子の吸収断面積 σabs=ωImα/(ε0c) で書ける
物質中の Poynting の定理
物質中の Maxwell 方程式 (10.5) から、真空と同じ手順で Poynting の定理を作る。H⋅(∇×E)−E⋅(∇×H)=∇⋅(E×H) を使うと
−∇⋅S=E⋅Jf+E⋅∂t∂D+H⋅∂t∂B,S=E×H(10.21)
となる。左辺は単位体積に流れ込むエネルギーの流れで、右辺は場が電荷にする仕事と場のエネルギーの変化である。単色の場で時間平均を取ると、E⋅∂t(ε0E) とH⋅∂tB は全微分なので平均が 0 になり、残るのは E⋅(Jf+∂tP) の平均である。式 (10.9) と同じ計算で
⟨−∇⋅S⟩=21ωε0ε2(ω)∣E0∣2(10.22)
を得る。誘電関数の虚部 ε2 が、媒質が光から受け取って熱などに変えるエネルギーの割合を決める。受動的な媒質で ε2≥0 だったことは、流れ込むエネルギーが正であることと同じである。
吸収係数
z 方向に進む平面波 (10.16) の Poynting ベクトルの時間平均を計算する。H0=B0/μ0=μ0cn~ez×E0 と時間平均の公式から
I(z)=⟨Sz⟩=21Re(n~∗)μ0c∣E0∣2e−2κωz/c=21ncε0∣E0∣2e−αabsz(10.23)
である(1/(μ0c)=cε0)。強度 I=21ncε0∣E0∣2 には屈折率の実部 n だけが入り、電場と磁場の位相のずれ(前の節)が κ の分を落とす。強度の減衰の割合
αabs=c2κω=λ04πκ(10.24)
を吸収係数と呼ぶ。振幅は e−κωz/c で減り、強度はその2乗なので係数に 2 が付く。厚さ L の媒質を通った光の強度が I(L)=I(0)e−αabsL になることをBeer–Lambert の法則、αabsL を光学的厚さ(光学密度)と呼ぶ。
式 (10.23) から −dzdI=αabsI=c2κω⋅21ncε0∣E∣2=ωε0nκ∣E∣2 で、2nκ=ε2(式 (10.17))を使えば式 (10.22) の右辺 21ωε0ε2∣E∣2 と一致する。波の減衰(κ)と媒質の散逸(ε2)は、同じエネルギーの収支を2つの側から見たものである。
希薄な気体:1原子の吸収断面積
希薄な気体では κ≈NImα/(2ε0)(式 (10.20))なので
αabs=Nσabs(ω),σabs(ω)=ε0cωImα(ω)(10.25)
と書ける。σabs は面積の次元を持ち、吸収断面積と呼ぶ。意味は1原子のエネルギーの収支から読める。双極子 d=Re[αE0e−iωt] が電場から受け取る仕事率は、式 (10.9) と同じ計算で 21ωImα∣E0∣2 であり、これを入射光の強度 I=21cε0∣E0∣2 で割ると σabs になる。つまり原子は、面積 σabs に当たった光を残らず吸い取る的と同じだけのエネルギーを吸収する。断面積が原子の幾何学的な大きさと無関係なことは、総合問題で数値で確かめる。
第1章の Lorentz 振動子の分極率 αL=(e2/m)/(ω02−ω2−iγω) に振動子強度 f を掛けた α=fαL を使うと、共鳴の近く(∣ω−ω0∣≪ω0)でω02−ω2≈−2ω0Δ(Δ=ω−ω0)、γω≈γω0 と近似できて
κ≈κ01+4Δ2/γ21,n−1≈κ01+4Δ2/γ2−2Δ/γ,κ0=2ε0mγω0Nfe2(10.26)
となる(図 10.3)。吸収 κ は幅 γ の Lorentz 型の山、屈折率 n−1 はその山の両側で符号を変える分散型の形になる。共鳴より低い周波数(Δ<0、赤い離調)で n>1、高い周波数で n<1 になることは、第1章で分極率の符号から読んだことと同じである。

図 10.3 希薄な原子の気体の共鳴の近くの消衰係数 κ(朱)と屈折率 n−1(紺)。近共鳴の近似 (10.26)(実線)。総合問題の数値(γ/ω0=1.6×10−8)では、厳密な Lorentz 振動子の式との差は図の線の幅に収まる。n−1 の最大と最小は Δ=∓γ/2 にあり、大きさは κ0/2。
例題 10.4 吸収係数と浸み込みの深さ ★★
オリジナル
- (1) 真空の波長 λ0=500nm で消衰係数 κ=1.0×10−3 の液体の吸収係数 αabs と、強度が 1/e になる深さ、1/100 になる深さを求めよ。
- (2) (1) の液体の屈折率を n=1.5 とし、入った光の電場の振幅を E0 とする。単位体積あたりの散逸 (10.22) が −dzdI に等しいことを、数値を入れずに式で確かめよ。
- (3) 消衰係数 κ は無次元で小さな数に見えるが、吸収が強いか弱いかは何と比べて決まるかを述べよ。
解答
(1) αabs=4πκ/λ0=4π×10−3/(5×10−7m)=2.51×104m−1。強度が 1/e になる深さは 1/αabs=39.8μm、1/100 になる深さは ln100/αabs=183μm である。
(2) 媒質の中の点 z での振幅を E(z)=E0e−κωz/c とすると、−dzdI=αabs⋅21ncε0E(z)2=ωε0nκE(z)2。一方、式 (10.22) は 21ωε0ε2E(z)2=21ωε0(2nκ)E(z)2=ωε0nκE(z)2 で、両者は等しい。
(3) 振幅は真空の1波長あたり e−2πκ 倍になるので、κ は「真空の1波長進む間の減衰」を測る。κ=10−3 は1波長では 0.6 パーセントしか減らないが、厚さ 1mm は2000波長に当たり、強度は e−25 になる。吸収が強いか弱いかは、κ の大きさでなく、光学的厚さ αabsL=4πκL/λ0 が 1 より大きいか小さいかで決まる。
ほかの巻では
- ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第2章:伝導度を誘電関数に含める項 iσ/(ε0ω) の σ(ω) を Boltzmann 方程式から出す
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com