ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第2章 §4.2.4 ★★ 振動する電場には σ(ω)=σ0/(1−iωτ) で応答し、ωτ≫1 では電子は散乱される前に加速と減速を繰り返すだけになる。Reσ の面積は τ によらず、プラズマ振動数より上で金属は光を通す
交流の伝導度
一様な電場 E(t)=Re[Eωe−iωt] を考える(記法の正本の流儀で時間の因子は e−iωt)。電場の波長が平均自由行程よりずっと長く、空間の変化を無視できるとする。δf=Re[δfωe−iωt] と置くと、線形にした式 (4.2.7) の左辺に ∂δf/∂t=−iωδf が加わり、命題 4.2.1 を使って
−iωδfω−eEω⋅v∂ε∂f0=−τδfω⟹δfω=1−iωτeτ(Eω⋅v)∂ε∂f0
となる。直流の解 (4.2.9) の τ が τ/(1−iωτ) に置き換わっただけなので、等方な金属(τ が Fermi 面で一定)では
σ(ω)=1−iωτσ0,Reσ=1+ω2τ2σ0,Imσ=1+ω2τ2σ0ωτ(4.2.15)
である(σ0=ne2τ/m∗)。Reσ は電場から電子へエネルギーが移る(Joule 熱になる)割合で、Imσ は電流が電場より遅れずに 90∘ 先に進む部分、すなわち電子の慣性による応答である。ωτ≪1 では電子は1周期の間に何度も散乱され、直流と同じ σ0 で応答する。ωτ≫1 では1周期の間にほとんど散乱されず、σ≈ine2/(m∗ω) で、電子は自由な質量 m∗ の粒子として電場に合わせて往復するだけになり、エネルギーをほとんど吸収しない(図 4.2.2)。

図 4.2.2 交流の伝導度 (4.2.15) の実部(実線)と虚部(破線)。ωτ=1 で両者が等しくなり、それより高い振動数では虚部(慣性の応答)が実部(吸収)を上回る。どちらもこの章の模型の中では厳密な式で、線種は実部と虚部を区別するためだけに変えた。
和則とプラズマ振動数
Reσ を振動数で積分すると
∫0∞Reσ(ω)dω=2τπσ0=2m∗πne2=2πε0ωp2,ωp2=ε0m∗ne2(4.2.16)
で、τ によらない。散乱が強いと山は低く広くなり、弱いと高く狭くなるが、面積は電子の密度と質量だけで決まる。これは、電場をかけた直後(散乱が起きるより前の時間)には電子が散乱と無関係に J˙=(ne2/m∗)E で加速されることを、振動数の側から言い直したものである。ωp をプラズマ振動数と呼ぶ。この章の伝導電子の数密度 n は、第4部第6章と光学と量子エレクトロニクス 第13章では屈折率 n と区別して ne と書く(同じ量である)。和則を因果律(Kramers–Kronig の関係)から一般に導くことは光学と量子エレクトロニクス 第12章で扱う。
伝導電子の電流を分極の時間微分とみなすと、比誘電率は εr(ω)=1+iσ(ω)/(ε0ω) で、式 (4.2.15) を入れて
εr(ω)=1−ω(ω+i/τ)ωp2ωτ≫11−ω2ωp2(4.2.17)
となる。ω<ωp では εr<0 で屈折率が純虚数になり、光は金属の中へ伝わらずに反射される。ω>ωp では εr>0 で、金属は光を通す。金属の反射・色・表面プラズモンの詳しい話は光学と量子エレクトロニクス 第13章へ、バンド間遷移が加わった実際の金属の光学応答は第4部第6章へ送る。
例題 4.2.5 銅の交流の伝導度の目安 ★★
オリジナル例題 4.2.1 の銅の値(n=8.47×1028m−3、τ=2.49×10−14s、m∗=m)を使う。
- (1) ωτ=1 となる振動数 1/(2πτ) を求め、光子のエネルギー 2eV の可視光での ωτ を求めよ。
- (2) プラズマ振動数 ωp、そのエネルギー ℏωp、真空での波長 2πc/ωp を求めよ。
- (3) 10GHz のマイクロ波は直流と同じ σ0 で扱えることを確かめ、表皮の厚さ δ=2/(μ0σ0ω) を求めよ。
解答
(1) 1/(2πτ)=6.4×1012Hz で、赤外線の領域にある。2eV の光は ω=3.04×1015s−1 で ωτ=76 なので、可視光では電子は慣性で往復するだけの領域にある。
(2) ωp=ne2/(ε0m)=1.64×1016s−1、ℏωp=10.8eV、波長 115nm(紫外線)。自由電子の模型では、銅は可視光をすべて反射し、115nm より短い紫外線を通すことになる。実際の銅が赤みを帯びて見えるのは、可視光の範囲で d バンドからの遷移による吸収が始まるためで、この模型の外の話である(第4部第6章)。
(3) ωτ=2π×1010×2.49×10−14=1.57×10−3≪1 なので σ≈σ0=1/ρ=5.95×107Sm−1 でよい。δ=2/(4π×10−7×5.95×107×2π×1010)=0.65μm で、マイクロ波の回路では電流が導体の表面の 1μm ほどにしか流れない。
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