ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第2章 §4.2.3 ★★★ 伝導度は −∂f0/∂ε の重みで Fermi 面に集まり、σ=e2D(εF)D(D=vF2τ/3)の形になる。満ちたバンドは電流を運ばず、満ちかけたバンドは正孔の Drude 式で書ける
伝導度の式と Fermi 面の積分
解 (4.2.9) を電流 (4.2.3) に入れる。f0 の部分は v(−k)=−v(k) なので消え、Ji=∑jσijEj で
σij=2e2∫(2π)3d3kτ(εk)vivj(−∂ε∂f0)(4.2.11)
となる。以下、τ と書いたら輸送緩和時間 τtr のことである。ここまでは解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第8章と同じ形で、τ がエネルギーによってよいことだけが違う。
金属では kBT≪εF なので、−∂f0/∂ε は ε=μ のまわりの幅 kBT の山である。第4部第1章の Sommerfeld 展開を使うと、滑らかな関数 Φ(ε) について ∫Φ(ε)(−∂f0/∂ε)dε=Φ(μ)+6π2(kBT)2Φ′′(μ)+⋯ で、T→0 では −∂f0/∂ε→δ(ε−εF) である。d3k を等エネルギー面の面積要素 dS とその法線方向の幅 dε/(ℏ∣v∣) に分けると、T→0 で
σij=4π3ℏe2∮FSdS∣v∣τvivj(4.2.12)
となる(FS は Fermi 面)。伝導度は Fermi 面の形と、その上の速度と緩和時間だけで決まる。Fermi 面の深くにある電子は、電場で押されても行き先の状態がすべて埋まっているので分布を変えられず、電流に寄与しない。
等方な Fermi 面(半径 kF)では vivj の角度平均が δijvF2/3 で、Fermi 面の上の状態の数え方が D(εF) になるので
σ=e2D(εF)D,D=31vF2τ=31vFℓ(4.2.13)
を得る。D は Fermi 面の電子がでたらめに向きを変えながら進むときの拡散係数である。この形は、伝導度が「Fermi 面の状態の数」と「その状態の電子がどれだけ遠くまで動けるか」の積であることを示す(Einstein の関係の縮退した電子の版。4.2.6節)。自由電子 ε=ℏ2k2/(2m∗) では D(εF)=3n/(2εF)、vF2=2εF/m∗ を入れて σ=ne2τ/m∗ に戻る。Fermi 面の電子だけの式に全電子の密度 n が現れる理由は、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第8章で見た部分積分(σ=e2τn⟨m∗−1⟩)である。
温度の補正は、τ が一定なら Sommerfeld 展開から (kBT/εF)2 の大きさで、室温の金属では 10−4 程度にすぎない。実際の金属の抵抗率は室温で温度にほぼ比例して変わるが、それは分布の温度変化でなく、τ そのものがフォノンの数で変わるためである(4.2.5節)。
満ちたバンドと正孔
部分積分した形 σij=2e2τ∫(2π)3d3kf0ℏ1∂kj∂vi(τ 一定)を見ると、満ちたバンド(f0=1)では被積分関数が周期関数 vi の微分になり、Brillouin 域で積分すると 0 になる。満ちたバンドは電場をかけても電流を運ばない。電場は各電子の k を動かすが、満ちたバンドでは押し出された電子の行き先にもともと別の電子がいて、分布全体としては何も変わらないからである。
満ちかけたバンドでは f0=1−(1−f0) と書き換えると、満ちた部分の寄与が消えて
σij=−2e2τ∫(2π)3d3k(1−f0)ℏ1∂kj∂vi(4.2.14)
となる。空いた状態(正孔)のある所はバンドの上端の近くで、そこでは ε が上に凸なので ∂vi/∂kj<0 である。正孔の有効質量 mh∗=−ℏ2/(∂2ε/∂k2)>0 を定めるとσ=pe2τ/mh∗(p は正孔の密度)で、電荷 +e・正の質量の粒子の Drude の式と同じになる。正孔の電荷の符号が電子と逆であることは、Hall 効果の符号として第4部第4章で見る。
例題 4.2.3 1次元の強束縛バンドの伝導度と詰め方 ★★★
オリジナル第2部第3章の原子の鎖のバンド ε(k)=−2tcos(ka)(t>0、εa=0)に、原子1個あたり ν 個の電子(0≤ν≤2、スピンの上下を含む)を詰める。T=0、τ は一定とする。
- (1) Fermi 波数 kF を ν で表し、式 (4.2.11) の1次元版 σ=2e2τ∫2πdkv2(−∂f0/∂ε)(単位長さあたり)を計算せよ。
- (2) ν→0 で電子の Drude 式 ne2τ/m∗(n=ν/a、m∗=ℏ2/(2ta2))に、ν→2 で正孔の Drude 式 pe2τ/mh∗(p=(2−ν)/a)に一致することを示せ。
- (3) 伝導度が最大になる ν と、そのときの値を電子の Drude 式を外挿した値と比べよ。
解答
(1) 占められた状態は ∣k∣<kF で、その数は原子1個あたり 2×(2kF)/(2π/a) なので ν=2kFa/π、kF=πν/(2a)。−∂f0/∂ε=δ(ε−εF) は2つの Fermi 点 k=±kF で δ(k∓kF)/(ℏ∣vF∣) を与えるので、
σ=2e2τ⋅2π1⋅2⋅ℏvFvF2=πℏ2e2τvF,vF=ℏ2tasin(kFa)
で、σ=πℏ24tae2τsin2πν である。
(2) ν→0 では sin(πν/2)≈πν/2 で σ≈2νtae2τ/ℏ2。一方 ne2τ/m∗=(ν/a)e2τ⋅2ta2/ℏ2=2νtae2τ/ℏ2 で一致する。ν→2 では sin(πν/2)=sin(π(2−ν)/2)≈π(2−ν)/2 で σ≈2(2−ν)tae2τ/ℏ2。バンドの上端 k=π/a では ε≈2t−ta2(k−π/a)2 で mh∗=ℏ2/(2ta2) なので、pe2τ/mh∗ と一致する。ν=2 では σ=0 で、満ちたバンドは電流を運ばない。
(3) σ は ν=1(半分詰め)で最大で、σmax=4tae2τ/(πℏ2)。電子の Drude 式を ν=1 まで外挿すると 2tae2τ/ℏ2 で、本当の値はその 2/π=0.637 倍である。電子が増えると Fermi 点がバンドの曲がりの緩い所へ進み、電子は重くなっていく。図 4.2.1 の点線が (1) の厳密な式、2本の実線が電子と正孔の Drude 式である。(検算 scripts/verify_ch4-02.py)

図 4.2.1 1次元の強束縛バンドの伝導度を、原子1個あたりの電子数 ν の関数として描いたもの(例題 4.2.3)。点線が式 (4.2.11) の厳密な値 (4/π)sin(πν/2)、左の実線がバンドの底の電子の Drude 式、右の実線がバンドの上端の正孔の Drude 式。満ちたバンド(ν=2)では伝導度が 0 になる。
縮退していない電子:緩和時間の平均
半導体の伝導帯の電子のように密度が小さく ε−μ≫kBT の場合は、f0≈e−β(ε−μ)(Maxwell–Boltzmann 分布)で、−∂f0/∂ε=βf0 になる。重みはもはや Fermi 面に集中せず、伝導帯の底から kBT 程度の幅の全電子が寄与する。τ がエネルギーによるときは、どの電子の τ をどの重みで平均するかが問題になる。
例題 4.2.4 縮退していない電子の伝導度と ⟨⟨τ⟩⟩ ★★
オリジナル等方な放物線のバンド ε=ℏ2k2/(2m∗) の、縮退していない電子(密度 n)を考える。
- (1) 式 (4.2.11) から σ=m∗ne2⟨⟨τ⟩⟩、⟨⟨τ⟩⟩=⟨ε⟩⟨τε⟩ を示せ(⟨⋅⟩ は Maxwell–Boltzmann 分布での平均)。
- (2) τ=τ0(ε/kBT)r のとき ⟨⟨τ⟩⟩/τ0=Γ(5/2+r)/Γ(5/2) を示し、r=−1/2(音響フォノンによる散乱)と r=3/2(イオン化した不純物による散乱)で値を求めよ。
解答
(1) 等方なので vivj→δijv2/3=δij⋅2ε/(3m∗)。−∂f0/∂ε=βf0 を入れるとσ=3m∗2βe2⋅2∫(2π)3d3kτεf0=3m∗2βe2n⟨τε⟩。Maxwell–Boltzmann 分布では ⟨ε⟩=23kBT、すなわち 32β=⟨ε⟩1 なので σ=m∗ne2⟨ε⟩⟨τε⟩。
(2) 状態密度 ∝ε1/2 と e−βε の重みで、x=βε と置くと⟨τε⟩/⟨ε⟩=τ0∫0∞x3/2+re−xdx/∫0∞x3/2e−xdx=τ0Γ(5/2+r)/Γ(5/2)。r=−1/2 では Γ(2)/Γ(5/2)=1/(3π/4)=0.752、r=3/2 では Γ(4)/Γ(5/2)=6/(3π/4)=4.51。イオン化した不純物の散乱は例題 4.2.2 のとおり遅い電子ほど強く、τ はエネルギーとともに長くなる。速い電子の重みが ε の分だけ大きいので、平均は τ0 の4.5倍まで大きくなる。縮退した金属では τ(εF) だけが現れ、こうした平均の問題は起きない。(検算 scripts/verify_ch4-02.py)
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com