ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第4章 §4.4.1 ★★★ 有効質量のバンドの電子に Peierls 置換で磁場を入れると、運動は面内の調和振動子になり、Landau 準位と縮退度 eB/h が出る。現象は ωcτ と ℏωc/kBT の2つの比で分かれる
前の2章(第4部第2章・第4部第3章)では、バンドの電子に不純物の散乱を足したハミルトニアンを選び、電場と温度勾配に対する応答を緩和時間近似の Boltzmann 方程式で求めた。この章では同じ電子に一様な磁場 B を足す。磁場は電子のエネルギーを変えないが、電子の進む向きを曲げる。曲げられた電子は、散乱されるまでの間に Fermi 面の上を回る。その回る速さ(サイクロトロン角振動数 ωc)と散乱の速さ 1/τ の比 ωcτ、回転の量子 ℏωc と熱の幅 kBT の比の2つで、出てくる現象が分かれる。
ωcτ が1より小さくても大きくても、軌道を古典的に扱ってよい範囲では、伝導度が行列(テンソル)になり、電流と垂直な向きに電場が立つ。これが Hall 効果で、その符号から電荷を運ぶものが電子か正孔かが分かり、大きさから密度が分かる。運ぶものが2種類あると、抵抗そのものが磁場で増える(磁気抵抗)。ℏωc が kBT より大きく、散乱による準位の幅よりも大きくなると、軌道の量子化が見える。エネルギーは Landau 準位 ℏωc(ν+21) に束ねられ、Fermi 準位を準位が横切るたびに磁化や抵抗が振動する。この振動(de Haas–van Alphen 効果)の周期は Fermi 面の断面積で決まるので、Fermi 面の形を測る道具になる。量子化の滑らかな部分からは、自由電子の軌道運動による反磁性(Landau 反磁性)が出る。前の章までで「磁場の章で扱う」と送った話題(正孔の符号・Landau 反磁性・τq と τtr の違い・磁場の中の Onsager の関係)はここで回収する。
4.4.1節で H^ を選んで Landau 準位と2つの比を出す。4.4.2節から4.4.4節が出てくるもので、順に Drude の伝導度テンソルと Hall 効果、2種類のキャリアと磁気抵抗、量子振動と Landau 反磁性である。4.4.5節で何を削ったか(温度・散乱・スピンが振動の振幅をどれだけ減らすか)を述べ、4.4.6節でサイクロトロン共鳴などの実験の量と授業の形に対応させ、4.4.7節でまとめる。この章では演算子の帽子を付けたまま書く。電子の電荷は −e(e>0)、磁場は B=Bez(B>0)とする。抵抗率は前の章と同じく ρ と書く(この章に密度行列は出ない)。
選ぶ H^
伝導帯の底の近くの電子を、等方な有効質量 m∗ の放物線のバンド ε(k)=ℏ2k2/(2m∗) で表す(第2部第7章)。磁場は、結晶運動量 ℏk を p^+eA(r^) に置き換えて入れる(Peierls 置換。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第10章)。不純物の散乱 V^imp は前の章と同じものを残すと、この章で選ぶハミルトニアンは
H^=2m∗(p^+eA(r^))2+V^imp,∇×A=Bez(4.4.1)
である。スピンが磁場から受ける Zeeman エネルギーは4.4.5節まで落とし、電子間の相互作用はすべて落とす。
磁場の中では、ベクトルポテンシャル A が位置とともに増えていくので、H^ はもはや格子の並進で不変でない(並進の代わりに、位相を付けた「磁気並進」が対称性になる。第2部第4章で予告したもの)。有効質量の模型では格子はすでに m∗ の中に畳み込まれているので、ここでは連続の並進と同じに扱ってよい。格子が見えてくる強い磁場の話は4.4.5節で述べる。
Landau ゲージで解く
V^imp をいったん落とし、ゲージを A=(0,Bx,0) に選ぶ(Landau ゲージ)。∇×A=∂xAyez=Bez である。H^ は y と z を含まないので、p^y と p^z はその固有値 ℏky・ℏkz に置き換えてよい。波動関数を ψ=ei(kyy+kzz)ϕ(x) と置くと
[2m∗p^x2+2m∗(ℏky+eBx)2]ϕ=[2m∗p^x2+21m∗ωc2(x−x0)2]ϕ,ωc=m∗eB,x0=−eBℏky=−kyℓB2(4.4.2)
となり、x 方向の運動は中心 x0 の調和振動子になる。ここで
ℓB=eBℏ(4.4.3)
は磁気長で、磁場だけで決まる長さである(1T で 25.7nm)。調和振動子の準位(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第4章)から、エネルギーは
εν(kz)=ℏωc(ν+21)+2m∗ℏ2kz2,ν=0,1,2,…(4.4.4)
になる。磁場に垂直な面内の運動は、連続だった ℏ2(kx2+ky2)/(2m∗) が間隔 ℏωc の飛び飛びの準位に変わり、磁場に沿った運動は自由なまま残る。この準位を Landau 準位、ν をその番号と呼ぶ。ゲージによらない上げ下げ演算子で同じ準位を出す方法は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第6章にある。
エネルギー (4.4.4) は ky によらないので、各準位は大きく縮退している。Lx×Ly の試料で y に周期境界条件を置くと ky=2πj/Ly(j は整数)で、軌道の中心 x0=−ℏky/(eB) が試料の中 [0,Lx] に入る ky の数を数えると、1つの準位・1つのスピンあたりの状態の数は
ℏLxeB⋅2πLy=heBLxLy=h/eΦ(4.4.5)
である(Φ=BLxLy は試料を貫く磁束)。面積あたり eB/h 個、つまり磁束 h/e ごとに1つの状態がある。
半古典の見方では、Landau 準位は k 空間の閉じた軌道を Bohr–Sommerfeld で量子化したものである。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第10章で示した Onsager の関係は、磁場に垂直な断面で軌道が囲む面積 A が
Aν=ℏ2πeB(ν+21)(4.4.6)
に限られるというもので、放物線のバンドでは A=π(kx2+ky2) と置けば (4.4.4) に戻る。Onsager の形はバンドの形によらないので、4.4.4節で一般の Fermi 面に使う。
2つの比
散乱 V^imp を戻すと、電子は平均して時間 τ ごとに別の軌道へ移される。軌道を1周するのにかかる時間は 2π/ωc なので、ωcτ≪1 なら電子は少し曲がっただけで散乱され、ωcτ≫1 なら何周も回ってから散乱される。軌道が閉じなければ、軌道の量子化は意味を持たない。量子化が見えるにはさらに、準位の間隔 ℏωc が、Fermi 分布のぼけの幅 kBT より大きい必要がある。ωcτ は古典の軌道の比、ℏωc/kBT は量子の比であり、ωcτ=μeB(μe=eτ/m∗ は電子の移動度)と書けるので、前者は「移動度と磁場の積」である。
例題 4.4.1 銅と GaAs の2つの比 ★★
オリジナル
- (1) 銅の伝導電子を自由電子(m∗=m)とみなし、室温の緩和時間 τ=2.5×10−14s(第4部第2章の値)を使って、B=10T での ωc・ωcτ・ℏωc を求めよ。ℏωc を 4.2K の kBT と比べよ。
- (2) GaAs の高移動度の2次元電子系(m∗=0.067m、移動度 μe=100m2V−1s−1)で、τ と、B=1T での ωc・ωcτ・ℏωc を求めよ。
- (3) 自由電子の ℏωc を 1T あたりの温度で表せ。
解答
(1) ωc=eB/m=1.759×1011×10=1.76×1012s−1。ωcτ=0.044 で、室温の銅では10 T でも電子は1周の 1/140 ほど曲がったところで散乱される。ℏωc=1.16meV、kB×4.2K=0.362meV なので量子の比は3.2である。銅で量子振動を見るには、温度を下げるだけでなく、純度を上げて低温の τ を室温より何桁も長くし、ωcτ を1より大きくする必要がある。
(2) τ=μem∗/e=100×0.067×9.109×10−31/1.602×10−19=3.81×10−11s。ωc=e/(0.067m)×1T=2.63×1012s−1、ωcτ=μeB=100。ℏωc=1.73meV で、温度に直すと 20.0K。有効質量が軽く移動度が大きいので、1T でも電子は100周してから散乱され、液体ヘリウムの温度で量子化がはっきり見える。
(3) ℏe/(mkB)=1.34KT−1。有効質量が m∗ なら m/m∗ 倍になる。
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