光学と量子エレクトロニクス 第10章 §10.5 ★★ 巨視的な平均と局所性(a/λ→0)、線形性(E/Eat→0)、M=0 の3つを置いた。光学定数は透過率・反射率・偏光の変化から測る
置いた近似
この章の式は、物質のモデルを選ばない代わりに、構成方程式の形に3つの近似を置いている。
1つ目は巨視的な平均と局所性である。a≪ℓ≪λ の長さで平均し、さらに点 r の分極が同じ点の電場だけで決まるとした。実際の応答は P(r)=ε0∫χ(r−r′)E(r′)d3r′ のように、原子の大きさ(または電子が動ける距離)の範囲の電場を拾う。これを Fourier 変換すると感受率はχ(k,ω) と波数にも依り、局所近似は χ(k,ω)≈χ(0,ω) と置くことに当たる。誤差は ka の桁で、可視光では ka∼10−3 である。ka の1次の項を残さないと説明できない現象もある。螺旋度 ± の円偏光(第15章)で屈折率が違う旋光性(キラルな分子の溶液)は、χ の k についての1次の項から出る。金属で電子の平均自由行程が表皮深さより長くなると、局所的な Ohm の法則 J=σE が成り立たなくなる(異常表皮効果)。
2つ目は線形性である。応答が電場に比例するのは、光の電場が原子の中の電場 Eat=e/(4πε0a02)=5.14×1011Vm−1(a0 は Bohr 半径)に比べて小さいからである。強度 1Wcm−2 の光の電場の振幅は真空で 2I/(cε0)=2.74×103Vm−1 で、比は 5.34×10−9 にすぎない。集光したパルスレーザーではこの比が大きくなり、P に E2, E3 の項が現れる。それが第17章(第17章)の非線形光学である。共鳴の近くでは、原子の電場でなく Rabi 周波数と線幅の比が先に 1 に近づき、吸収が飽和する(第19章)。
3つ目はM=0(磁気的な応答の無視)である。磁化を作る電子の回転運動の応答は、光の周波数では電場の応答に比べて小さい。Landau と Lifshitz の『連続媒質の電気力学』は、光の周波数では透磁率を 1 と置き、磁気的な応答を空間分散(1つ目の近似で落とした k 依存性)の一部として扱うのが整合的だと論じている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの a/λ→0(原子の間隔・応答の広がりと波長の比。局所近似の誤差は ka の桁) | 証明 要確認(周期的な媒質の静的な問題では均質化の極限が第V巻第9章で証明済みだが、光の周波数の波と、原子の量子的な応答を連続体の χ に置き換えることはその定理の外) | 行き先 近似の数理 第9章
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの E/Eat→0(光の電場と原子の中の電場の比) | 証明 要確認(時間に依る摂動の1次として線形応答を出す手順の、誤差の評価の形を原論文で未確認) | 行き先 近似の数理 第2章
何の実験の量で確かめるか
光学定数 n と κ は直接は見えず、測れるのは透過率・反射率・位相・偏光の変化である。代表的な測り方を3つ挙げる。
透過の測定では、厚さの違う2枚の試料の透過率を比べる。表面での反射の損失は厚さによらないので、比を取ると消え、αabs だけが残る(例題 10.5)。弱い吸収の気体や液体の κ はこの方法で測り、n は干渉計(第9章 第9章)で光路長の変化として測る。
反射の測定では、ε1<0 の金属のように光がほとんど入らない物質でも測れる。ただし垂直入射の反射率は ∣(n~−1)/(n~+1)∣2 という1つの実数なので、1つの周波数の反射率から n と κ の2つを決めることはできない。全周波数の反射率を測り、Kramers–Kronig の関係(第12章)で位相を復元すると、両方が決まる。
偏光解析(エリプソメトリ)では、斜めに入射した光の p 偏光と s 偏光の反射係数の比を、振幅と位相の両方で測る。2つの実数が得られるので、1つの周波数で n と κ が決まる。反射係数の式は第14章(第14章)の Fresnel の式である。
これらの測定でこの章のモデルが合わなくなるのは、3つの近似が破れる所である。強い光で透過率が強度に依るようになれば線形性が破れており、試料の厚さが波長の桁まで薄くなって光学定数が厚さに依るように見えれば、巨視的な平均が破れている。
例題 10.5 厚さの違う2枚の試料で吸収係数を測る ★★
オリジナル同じ材料で厚さ d1=1.0mm と d2=2.0mm の平らな板を作り、波長 λ0=1.0μm の光を垂直に入れて透過率を測ったら、T1=0.60, T2=0.45 だった。板の中での多重反射の干渉は無視でき(光のコヒーレンス長が板の厚さより短い)、表面を1回通るごとに強度が 1−R 倍になるとする。多重反射そのものも無視する。
- (1) T=(1−R)2e−αabsd と書けることを使い、αabs と κ を求めよ。
- (2) 表面の因子 (1−R)2 と反射率 R を求めよ。
- (3) 垂直入射の反射率が κ の小さい媒質で R=(n+1n−1)2 になること(第14章で示す)を使い、n を求めよ。
解答
(1) T1/T2=eαabs(d2−d1) から αabs=ln(0.60/0.45)/(1.0×10−3m)=288m−1。κ=αabsλ0/(4π)=288×10−6/(4π)=2.29×10−5 である。比を取ったので、表面の損失がいくらであっても結果に入らない。
(2) (1−R)2=T1eαabsd1=0.60×e0.288=0.60×1.333=0.800。したがって 1−R=0.894, R=0.106 である。
(3) R=0.325=(n−1)/(n+1) から n=(1+0.325)/(1−0.325)=1.96。κ=2.3×10−5 は n に比べて十分小さいので、R の式で κ を落としたことは正当である。透過率だけの測定から、吸収(κ)は厚さの差から、屈折(n)は表面の損失から、と別々の情報が取り出せた。
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