光学と量子エレクトロニクス 第10章 §10.6 ★★ 学部の電磁気・光学の授業の「複素誘電率 ε=ε1−jε2」「損失正接」「複素波数」は、この章の εr・n~ と、時間の符号の流儀の違いを除いて同じ
物質中の Maxwell 方程式の扱い
学部の電磁気学の授業は、多くの場合、物質中の Maxwell 方程式 (10.5) を出発点に置き、構成方程式を D=εE, B=μH, J=σE と実数の定数で与える。この章の式 (10.6) は、その ε を「時間の遅れを持つ応答」に置き換えたもので、単色の場に限れば ε=ε0εr(ω) と複素数の定数に戻る。授業で ε を実数としてよいのは、考える周波数で ε2 が無視できる(吸収が無い)ときである。
導体中の電磁波の扱いでは、授業は ∇×H=σE+ε∂tE から「複素誘電率 ε+iσ/ω」を作り、良導体の極限 σ≫εω で表皮深さδ=2/(μσω) を出す。これは式 (10.11) と例題 10.3 の (3) そのものである。
時間の符号の流儀
電気工学と多くの電磁気の教科書は、時間変化を e+jωt(j は虚数単位)で書く。この本は量子力学に合わせて e−iωt で書く(記法の正本 §1)。物理量はどちらでも実部を取るので同じだが、複素数の量は複素共役の関係になる。表 10.1 に対応をまとめる。
表 10.1 時間の符号の2つの流儀。左の式の i を −j に置き換えると右の式になる。| 量 | この本(e−iωt) | 工学の流儀(e+jωt) |
| 単色の場 | Re[E0ei(kz−ωt)] | Re[E0ej(ωt−kz)] |
| 誘電関数 | εr=ε1+iε2 | εr=ε1−jε2 |
| 伝導電流の寄与 | +iσ/(ε0ω) | −jσ/(ε0ω) |
| 複素屈折率 | n~=n+iκ | n~=n−jκ |
| 受動性 | ε2≥0(ω>0) | ε2≥0(ω>0) |
| Debye の緩和 | χ0/(1−iωτD) | χ0/(1+jωτD) |
どちらの流儀でも ε2 と κ そのものは正の実数で、意味(散逸と減衰)は同じである。符号が逆に見えるのは虚数単位の前の符号だけである。光学の教科書の中にも n~=n−iκ と書くものがあり、それは e+iωt の流儀を使っている。式を他の教科書から持ってくるときは、時間の符号を先に確かめる。
誘電体の損失を表す損失正接 tanδ=ε2/ε1 は、高周波の回路や誘電体の分野で使う量である(δ は角度で、表皮深さとは別の量)。弱い吸収の式 (10.19) からκ≈21ntanδ である。授業で「複素波数 k=β−jα」と書くときの α は振幅の減衰定数で、この章の言葉では κω/c=αabs/2 にあたる。
例題 10.6 工学の流儀の誘電率を読み替える ★
オリジナルある基板材料の比誘電率が、工学の流儀で εr=4.0−j0.040 と与えられている。
- (1) この本の流儀での εr と、n, κ を求めよ。損失正接 tanδ も答えよ。
- (2) 真空の1波長進むごとに強度が何 dB 減るかを求めよ。
解答
(1) 虚数単位の前の符号を変えて εr=4.0+0.040i。ε2/ε1=0.01 が小さいので弱い吸収の近似が使え、n≈4.0=2.000, κ≈0.040/(2×2.0)=0.0100(厳密な式でも4桁一致)。tanδ=0.040/4.0=0.010 で、κ=21ntanδ=0.0100 と確かめられる。
(2) 真空の1波長 λ0 で強度は e−αabsλ0=e−4πκ 倍になる。dB では 10log10e×4πκ=4.343×0.1257=0.546dB である。媒質の中の1波長(λ0/n)あたりでは、その 1/n の 0.273dB になる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com