光学と量子エレクトロニクス 第15章 §15.4 ★★★ 偏光は4つの強度の測定(Stokes パラメータ)で決まり、完全な偏光は単位球(Poincaré 球)の上の点になる。Jones ベクトルは2準位系の状態ベクトルと同じ形なので、Poincaré 球は Bloch 球で、波長板はその上の回転になる
Stokes パラメータ
Jones ベクトルの全体の位相は測れないので、測れる量は位相によらない2次の組み合わせである。それを
S0=∣Ex∣2+∣Ey∣2,S1=∣Ex∣2−∣Ey∣2,S2=2Re(Ex∗Ey),S3=2Im(Ex∗Ey)(15.18)
と書き、Stokes パラメータと呼ぶ。4つとも強度の差として測れる。S1=IH−IV、S2=ID−IA、S3=I+−I− で、IH は x 向きの偏光子を通した強度、I+ は螺旋度 + の円偏光だけを通す素子(進相軸 +45∘ の λ/4 板で ∣+⟩ を ∣H⟩ に戻してから x 向きの偏光子)を通した強度である。完全に偏光した光では S02=S12+S22+S32 が成り立つので、規格化した s=(S1,S2,S3)/S0 は単位球の上の点になる。この球を Poincaré 球と呼ぶ。
偏光の楕円の長軸が x 軸となす角を θ、短軸と長軸の比を tanβ(β を楕円率角と呼び、符号は回る向き)とすると、Jones ベクトルは R(θ)(cosβ,isinβ)T と書け、
s=(cos2βcos2θ, cos2βsin2θ, sin2β)(15.19)
になる。直線偏光(β=0)は赤道、∣±⟩ は北極と南極で、楕円の傾き θ は経度 2θ になる。角が2倍になるのは、θ と θ+π の楕円が同じ偏光だからである。∣H⟩ と ∣V⟩ のように直交する偏光は球の反対側の点になる。

図 15.2 Poincaré 球。赤道が直線偏光、北極と南極が螺旋度 ± の円偏光で、経度は楕円の傾きの2倍、緯度は楕円率角の2倍。色の付いた矢印は 15.5節の道 ∣H⟩→∣D⟩→∣+⟩→∣H⟩ で、球の 1/8 を囲み、立体角は π/2 である。
Poincaré 球は Bloch 球である
式 (15.18) を Pauli 行列で書き直すと
S1=ψ†σzψ,S2=ψ†σxψ,S3=ψ†σyψ(15.20)
になる(S0=1 に規格化した)。これは2準位系の状態 ψ の Bloch ベクトル (⟨σx⟩,⟨σy⟩,⟨σz⟩) の成分を、(σz,σx,σy) の順に並べ替えたものである。(z,x,y) は (x,y,z) を巡回させた並びなので、座標の右手と左手は変わらない。したがって Poincaré 球は Bloch 球と同じ球で、偏光の ∣H⟩,∣V⟩ が2準位系の ∣e⟩,∣g⟩ に、円偏光 ∣±⟩ が σy の固有状態に当たる。2つの偏光の重なり ∣⟨ψ1∣ψ2⟩∣2 は、球の上の2点の角距離 ϑ12 を使って cos2(ϑ12/2) になる。これは偏光子の Malus の法則(cos2 の角が球の上では2倍になる)で、2準位系で状態を測ったときの確率と同じ式である。
波長板の行列 (15.15) は、進相軸を x に取ると diag(1,eiΓ)=eiΓ/2exp(−iΓσz/2) と書ける。2準位系では exp(−iΓσz/2) は Bloch ベクトルを z 軸のまわりに角 Γ だけ回す。Poincaré 球では σz の軸は S1 軸なので、進相軸が x の波長板は S1 軸のまわりの角 Γ の回転になる。進相軸が θ の板は、その回転軸を経度 2θ に回したものである。
要点
進相軸が角 θ、位相差 Γ の波長板は、Poincaré 球の上で、赤道の点 (cos2θ,sin2θ,0)(進相軸の向きの直線偏光)のまわりに、右ねじの向きに角 Γ だけ回す回転である。回転子 R(ϕ)=exp(−iϕσy) は S3 軸のまわりの角 2ϕ の回転である。
たとえば ∣H⟩(S1=1)に進相軸 −45∘(経度 −90∘、つまり −S2 軸)の λ/4 板を当てると、−S2 軸のまわりの 90∘ の回転で北極 ∣+⟩ に移る。これは前節で行列を計算した結果と一致する。2準位系の言葉では、波長板は共鳴の Rabi 回転(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第5章 の歳差)で、Poincaré 球の回転軸と回転角は、Bloch 球の上の有効磁場の向きと Rabi の位相角に当たる。
部分的に偏光した光とコヒーレンシー行列
太陽光や熱い光源の光は、偏光が速く乱れて、時間平均では一部しか偏光していない。このとき Stokes パラメータは強度の時間平均として定義され、S02≥S12+S22+S32 になる。偏光度を
Ppol=S0S12+S22+S32(15.21)
で定める。2×2 の行列 ρ^=⟨ψψ†⟩(時間平均、S0=1 に規格化)をコヒーレンシー行列と呼ぶ。式 (15.20) と同じ並べ替えで
ρ^=21(1+s1σz+s2σx+s3σy),si=Si/S0(15.22)
と書け、これは2準位系の密度行列と同じ形である。偏光度は Bloch ベクトルの長さで、偏光していない光は球の中心 ρ^=21 に当たる。どんな部分的に偏光した光も、強度 PpolS0 の完全な偏光と強度 (1−Ppol)S0 の偏光していない光の和に分けられる。偏光していない光は、どんな波長板を通しても偏光していないまま残る。
例題 15.4 6回の強度の測定から偏光を決める ★★
オリジナルある光の6つの強度を測ると、IH=0.62、IV=0.38、ID=0.71、IA=0.29、I+=0.23、I−=0.77 だった(単位は任意で、IH+IV=1)。
- (1) Stokes パラメータと偏光度を求めよ。
- (2) 偏光した部分の楕円の傾き θ と楕円率角 β を求め、回る向きを答えよ。
- (3) この光を完全な偏光と偏光していない光に分けたときの、それぞれの強度を答えよ。
解答
(1) S0=1、S1=0.24、S2=0.42、S3=−0.54。式 (15.21) から Ppol=0.0576+0.1764+0.2916=0.5256=0.725。ID+IA と I++I− も 1 で、測定どうしは矛盾しない。
(2) 式 (15.19) で長さ 0.725 の Bloch ベクトルの向きを読む。tan2θ=S2/S1=1.75 から 2θ=60.3∘、θ=30.1∘。sin2β=S3/0.725=−0.745 から 2β=−48.1∘、β=−24.1∘。β<0(南半球)なので螺旋度 − の向きに回る楕円で、短軸と長軸の比は tan24.1∘=0.45 である。
(3) 完全な偏光の部分の強度は 0.725、偏光していない部分は 0.275。偏光していない部分は IH と IV に 0.1375 ずつ入り、残りの差 0.24 はすべて偏光した部分の寄与である。
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