光学と量子エレクトロニクス 第21章 §21.4 ★★★ ポンプで3番目の準位へ上げ、そこから速く寿命の長い準位2へ落とすと、光の遷移とポンプの遷移が分かれ、反転を作ることができる。ただし下の準位が基底状態なので、原子の半分以上を上げる Wpτ>1 まで反転しない
ポンプと光の遷移を分ける
前の節で反転が作れなかったのは、原子を上げる遷移と下ろす遷移が同じ係数を持っていたからである。そこで、原子を上げる遷移(ポンプ)を、光を増幅させたい遷移とは別の準位で起こす。図 21.3 の左のように、基底状態1から、ポンプの光で上の準位3へ割合 Wp で上げる。準位3は格子の振動などで速く(割合 A32 で)準位2へ落ち、準位2は寿命 τ=1/A21 が長く、ゆっくり準位1へ戻る。光を増幅させたいのは準位2と1のあいだの遷移である。準位3と1のあいだのポンプの遷移は、ポンプの光で上げる分と誘導放出で下ろす分が同じ係数 Wp を持つので、ポンプの遷移だけを見れば前の節と同じく反転しない。しかし準位3に上がった原子はすぐ準位2へ逃げるので、準位3の占有は小さいままで、ポンプは一方向に働く。

図 21.3 3準位と4準位の媒質の準位。青はポンプ、波線は速い緩和(光を出さないか、出しても使わない)、赤は増幅させたい光の遷移。3準位では光の遷移の下の準位が基底状態で、4準位では基底状態の上にある空の準位である。
増幅させたい光がまだ無いとき(自然放出だけのとき)、縮退が無いとしてレート方程式は
dtdN3=Wp(N1−N3)−A32N3,dtdN2=A32N3−A21N2,N1+N2+N3=N(21.18)
である。定常状態を解くと、第1式から N3=WpN1/(A32+Wp)、第2式から N2=A32N3/A21 で、反転の量は
ΔN=N2−N1=N1[A21(A32+Wp)A32Wp−1](21.19)
になる。反転が始まるポンプの割合(反転のしきい値)は、括弧が 0 になる
Wpth=A32−A21A21A32≈A21(1+A32A21)(21.20)
である。A32<A21 なら、どれだけポンプしても反転しない。準位3から2へ落ちる速さが、準位2から1へ戻る速さより遅いと、原子は準位3に溜まって準位2には溜まらない。
速い準位を消す
準位3からの緩和が速い(A32≫Wp,A21)とき、準位3の占有は N3≈(Wp/A32)N1 で小さく、その時々の N1 で決まる。21.2 節でコヒーレンスを消したのと同じく、速い変数 N3 を消すと
dtdN2=WpN1−τN2,N1+N2=N(21.21)
が残る。ポンプは準位1から準位2へ直接、一方向に原子を運ぶ割合 Wp として働く。定常解は N2/N1=Wpτ で、反転の割合は
NΔN=Wpτ+1Wpτ−1(21.22)
である((21.19) で A32→∞ とした極限と一致する)。Wpτ>1 で反転し、Wpτ→∞ で ΔN→N(すべての原子が準位2)に近づく。
3準位の媒質の弱点は、光の遷移の下の準位が基底状態であることにある。ポンプする前は原子はすべて準位1にいて、媒質は光の遷移を強く吸収する。反転させるには原子の半分を準位2に上げて保たなければならず、その間、準位2の原子は寿命 τ で自然放出を続ける。反転のしきい値でポンプが補い続けるべき電力は、単位体積あたり
VPth=2Nτℏωp(21.23)
である(ℏωp はポンプの光子1個のエネルギー。準位3から2への緩和で失うエネルギーも含めて、上げた原子1個あたり ℏωp を払う)。この電力は、増幅に使われる前に、反転を 0 にするだけで消える。最初のレーザーはこの3準位の型の媒質(ルビー、Al2O3 の中の Cr3+)を閃光灯で強く照らして発振させた1T. H. Maiman (1960), Nature 187, 493.。
例題 21.4 3準位の媒質の反転のしきい値 ★★
オリジナルルビーに似た3準位の模型で、イオンの数密度 N=1.6×1025m−3、準位2の寿命 τ=3.0ms、ポンプの波長 550nm、縮退は無視する(模型の値で、特定の結晶の測定値として引くものではない)。
- (1) 反転のしきい値のポンプの割合 Wp を求めよ。
- (2) しきい値で単位体積あたりに吸収させ続けるポンプの電力を求めよ。
- (3) ΔN=0.1N を作るのに要る Wpτ を求めよ。
- (4) 準位3からの緩和が A32=2.0×107s−1 のとき、しきい値は (21.20) で何だけずれるか。
解答
(1) Wpτ=1 なので Wp=1/τ=333s−1 である。
(2) ポンプの光子1個は hc/λp=3.61×10−19J(2.25eV)なので、(21.23) から
VPth=21.6×1025×3.0×10−33.61×10−19=9.63×108Wm−3=963Wcm−3
である。1 cm3 の結晶に約 1 kW を吸収させ続けて、ようやく利得が 0 になる。連続でなく閃光灯のパルスで照らすのはこのためである。
(3) (21.22) で (x−1)/(x+1)=0.1 を解くと x=Wpτ=1.1/0.9=1.222 である。しきい値から2割余り強くポンプすると、原子の1割分の反転が得られる。
(4) Wpthτ−1=A21/(A32−A21)=1.67×10−5 で、準位3を消した近似のずれは 10−5 ほどしかない。
1 T. H. Maiman (1960), Nature 187, 493.
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