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当てる道具:コヒーレンスの断熱消去

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第21章 レート方程式と反転分布
目次
  1. 光 Bloch 方程式を成分で書く
  2. 速い変数を消す
  3. 定常状態では消す前と一致する
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

光学と量子エレクトロニクス 第21章 §21.2 ★★★ 光 Bloch 方程式で横の成分(コヒーレンス)が T2T_2 で速く緩和するなら、それを占有の差の関数として消すことができ、遷移の割合 W=Ω2T2/[2(1+Δ2T22)]W=\Omega^2T_2/[2(1+\Delta^2T_2^2)] のレート方程式が残る。定常状態では消す前と完全に一致する

光 Bloch 方程式を成分で書く

第18章(第18章)の回転波近似のあとの Hamiltonian は、回転座標で

H^=−ℏΔ2σz−ℏΩ2σx,Δ=ωL−ω0\hat H=-\frac{\hbar\Delta}{2}\sigma_z-\frac{\hbar\Omega}{2}\sigma_x,\qquad \Delta=\omega_{\mathrm L}-\omega_0

である(この本の流儀。Δ\Delta はレーザーの角周波数 ωL\omega_{\mathrm L} から原子の ω0\omega_0 を引いた離調で、Ω\Omega は位相を選んで実数にした Rabi 周波数)。密度行列の成分を基底 (∣e⟩,∣g⟩)(| e \rangle ,| g \rangle ) で ρee\rho_{ee}, ρgg\rho_{gg}, ρeg=ρge∗\rho_{eg}=\rho_{ge}^* と書き、iℏ dρ^/dt=[H^, ρ^]\mathrm{i}\hbar\,\mathrm{d}\hat\rho/\mathrm{d} t=\left[\hat H,\,\hat\rho\right] に第19章の緩和の項を足すと、光 Bloch 方程式は

dρeedt=Ω Im⁡ρeg−ρeeT1,dρegdt=iΔ ρeg−iΩ2 w−ρegT2,w≔ρee−ρgg\begin{align*}\frac{\mathrm{d} \rho_{ee}}{\mathrm{d} t}&=\Omega\,\operatorname{Im}\rho_{eg}-\frac{\rho_{ee}}{T_1},\tag{21.8}\\\frac{\mathrm{d} \rho_{eg}}{\mathrm{d} t}&=\mathrm{i}\Delta\,\rho_{eg}-\frac{\mathrm{i}\Omega}{2}\,w-\frac{\rho_{eg}}{T_2},\qquad w\coloneqq\rho_{ee}-\rho_{gg}\tag{21.9}\end{align*}

になる。これは第19章の光 Bloch 方程式(式 (19.9))を u−iv=2ρegu-\mathrm{i} v=2\rho_{eg}、w=ρee−ρggw=\rho_{ee}-\rho_{gg} で密度行列の成分に書き直したものである。上の準位は割合 1/T11/T_1 で下の準位へ戻り(自然放出だけなら 1/T1=A211/T_1=A_{21})、コヒーレンスは割合 1/T21/T_2 で消える。ww は占有の差(Bloch ベクトルの zz 成分)で、w>0w>0 が反転である。導出は交換子の成分を書き出すだけで、(H^ρ^−ρ^H^)ee=−ℏΩ2(ρge−ρeg)(\hat H\hat\rho-\hat\rho\hat H)_{ee}=-\tfrac{\hbar\Omega}{2}(\rho_{ge}-\rho_{eg}) から dρee/dt=(iΩ/2)(ρge−ρeg)=ΩIm⁡ρeg\mathrm{d}\rho_{ee}/\mathrm{d} t=(\mathrm{i}\Omega/2)(\rho_{ge}-\rho_{eg})=\Omega\operatorname{Im}\rho_{eg} が出る(検算スクリプト)。

(21.8) の右辺の第1項が光による遷移である。占有が変わるのは、コヒーレンスの虚部があるときだけで、その虚部は (21.9) で占有の差 ww から作られる。光はまず原子にコヒーレンス(振動する双極子)を作り、そのコヒーレンスを通して占有を動かす。占有とコヒーレンスのあいだのこの往復が、第19章の Rabi 振動である。

速い変数を消す

T2T_2 が短く、コヒーレンスが占有よりずっと速く緩和する場合を考える。ww が T2T_2 の間ほとんど変わらないなら、(21.9) の解は時間 T2T_2 ほどで初期値を忘れ、その時々の ww で決まる値

ρeg≈−iΩw/21/T2−iΔ=−Ωw2 −Δ+i/T21/T22+Δ2(21.10)\rho_{eg}\approx\frac{-\mathrm{i}\Omega w/2}{1/T_2-\mathrm{i}\Delta} =-\frac{\Omega w}{2}\,\frac{-\Delta+\mathrm{i}/T_2}{1/T_2^2+\Delta^2}\tag{21.10}

に追いつく。(21.9) の左辺を 00 と置いて解いたもので、これを断熱消去と呼ぶ。虚部 Im⁡ρeg=−(Ωw/2)(1/T2)/(1/T22+Δ2)\operatorname{Im}\rho_{eg}=-(\Omega w/2)(1/T_2)/(1/T_2^2+\Delta^2) を (21.8) に入れ、w=ρee−ρggw=\rho_{ee}-\rho_{gg} に戻すと

dρeedt=−W(ρee−ρgg)−ρeeT1,W=Ω2T22(1+Δ2T22)(21.11)\frac{\mathrm{d} \rho_{ee}}{\mathrm{d} t}=-W(\rho_{ee}-\rho_{gg})-\frac{\rho_{ee}}{T_1},\qquad W=\frac{\Omega^2T_2}{2(1+\Delta^2T_2^2)}\tag{21.11}

が残る。第19章の式 (19.24) で形だけ見せた式で、ここでは使える条件と誤差を調べる。これが2準位の原子1個のレート方程式で、(21.5) を原子1個あたりに書いたもの(N2/N→ρeeN_2/N\to\rho_{ee}、σ21Φ→W\sigma_{21}\Phi\to W、A21→1/T1A_{21}\to1/T_1、縮退なし)と同じ形である。WW は原子1個が単位時間に光で上がる(または下りる)割合で、離調 Δ\Delta の関数として半値の全幅 2/T22/T_2 の Lorentz 形をしている。WW を Ω2\Omega^2 と線の形 (21.2) で書き直すと

W=π2 Ω2 S(ωL)(21.12)W=\frac{\pi}{2}\,\Omega^2\,\mathcal S(\omega_{\mathrm L})\tag{21.12}

で、遷移の割合は「光の強さ(Ω2∝I\Omega^2\propto I)」と「線の形の、光の角周波数での高さ」の積に分かれる。(21.3) の B 係数の形はこの分かれ方を表していた。双極子の向きがそろっている場合に Ω2=∣deg∣2E02/ℏ2\Omega^2=\lvert \bm{d}_{eg}\rvert ^2E_0^2/\hbar^2 と I=cε0E02/2I=c\varepsilon_0E_0^2/2 を入れると、W=σ21ΦW=\sigma_{21}\Phi の σ21\sigma_{21} は (21.4) の3倍になり、例題 21.1 の (2) と一致する。

断熱消去が使える条件は、速いほうの変数(コヒーレンス)の緩和の割合 1/T21/T_2 が、遅いほうの変数(占有)が変わる割合より十分大きいことである。占有が変わる割合は (21.11) から 2W+1/T12W+1/T_1 なので、条件は

T2(2W+1T1)≪1,共鳴ではΩT2≪1 かつ T2≪T1(21.13)T_2\Bigl(2W+\frac{1}{T_1}\Bigr)\ll1,\qquad\text{共鳴では}\quad \Omega T_2\ll1\ \text{かつ}\ T_2\ll T_1\tag{21.13}

にまとまる(共鳴では 2WT2=(ΩT2)22WT_2=(\Omega T_2)^2)。ΩT2≪1\Omega T_2\ll1 は、コヒーレンスが Rabi 振動の1周期の間に消えることを言う。コヒーレンスが消えれば占有はもう往復できず、一方向に流れるだけになる。

定常状態では消す前と一致する

(21.11) の定常解は、ρgg=1−ρee\rho_{gg}=1-\rho_{ee} を使って

ρee=WT11+2WT1=s/21+s,w=−11+s,s≔2WT1=Ω2T1T21+Δ2T22(21.14)\rho_{ee}=\frac{WT_1}{1+2WT_1}=\frac{s/2}{1+s},\qquad w=-\frac{1}{1+s},\qquad s\coloneqq2WT_1=\frac{\Omega^2T_1T_2}{1+\Delta^2T_2^2}\tag{21.14}

である。ss を飽和パラメータと呼ぶ。一方、光 Bloch 方程式 (21.8)・(21.9) の定常解は、両方の左辺を 00 と置いて解くもので、(21.10) は近似でなく厳密に成り立つ。したがって定常状態の占有は、条件 (21.13) が成り立たなくても、(21.14) と完全に一致する(数値でも確かめた)。断熱消去で失うのは、定常に至るまでの途中の振る舞い(Rabi 振動)だけである。

図 21.1 は、2つの場合に光 Bloch 方程式を数値で解き、レート方程式の解と比べたものである。ΩT2=0.2\Omega T_2=0.2 では両者はほぼ重なり、占有は単調に定常値へ向かう。ΩT2=10\Omega T_2=10 では光 Bloch 方程式の解は Rabi 振動を示し、一時は ρee=0.79\rho_{ee}=0.79 まで上がって反転する。レート方程式の解はこの振動を持たず、時間 1/(2W+1/T1)1/(2W+1/T_1) で定常値 0.490.49 に近づく。振動の山は T2T_2 ほどの時間で減衰し、どちらも同じ定常値に行き着く。

図 図

図 21.1 共鳴(Δ=0\Delta=0)の光で駆動した2準位原子の上の準位の占有。点線は光 Bloch 方程式 (21.8)・(21.9) の数値解(厳密)、実線はコヒーレンスを断熱消去したレート方程式 (21.11) の解(近似)、灰色の破線は左が定常値、右が ρee=1/2\rho_{ee}=1/2。左は Ω=2/T1\Omega=2/T_1, T2=0.1 T1T_2=0.1\,T_1(ΩT2=0.2\Omega T_2=0.2)で、両者のずれは最大 0.0140.014。右は Ω=5/T1\Omega=5/T_1, T2=2T1T_2=2T_1(自然放出だけの幅、ΩT2=10\Omega T_2=10)で、厳密な解は Rabi 振動で一時的に反転するが、レート方程式の解は 1/21/2 を超えない。定常値はどちらの場合も一致する。

消したのはコヒーレンスで、量子力学ではない

レート方程式は「原子は上か下のどちらかにいて、ある割合で飛び移る」という古典的な確率の方程式に見える。しかし遷移の割合 WW は、(21.10) のコヒーレンスを通して計算したもので、その中には量子力学の振幅の干渉が入っている。WW が Lorentz 形をしていることも、WW が Ω2\Omega^2(振幅の2乗)に比例することも、コヒーレンスを先に解いた結果である。断熱消去は、コヒーレンスを捨てたのではなく、占有の差の関数として書き換えたものである。

例題 21.2 結晶の中のイオンはレート方程式で扱える ★★

オリジナル結晶の中のイオンの遷移で、格子の振動による位相の乱れのため T2=1.0 psT_2=1.0\,\mathrm{ps}、上の準位の寿命は T1=0.20 msT_1=0.20\,\mathrm{ms} とする。共鳴の光で Rabi 周波数 Ω/2π=1.0 GHz\Omega/2\pi=1.0\,\mathrm{GHz} を与える。

  1. (1) ΩT2\Omega T_2 と WW を求め、断熱消去の条件 (21.13) が成り立つか判定せよ。
  2. (2) 飽和パラメータ ss と定常の ρee\rho_{ee} を求めよ。
  3. (3) 光を入れてから定常に近づくまでの時間の目安を求めよ。同じ時間のあいだに Rabi 振動が見えない理由を述べよ。
  4. (4) 離調を Δ=1/(2T2)\Delta=1/(2T_2) にすると WW は何倍になるか。
解答

(1) Ω=2π×109 s−1\Omega=2\pi\times10^9\,\mathrm{s^{-1}} なので ΩT2=6.28×10−3\Omega T_2=6.28\times10^{-3}、W=Ω2T2/2=1.97×107 s−1W=\Omega^2T_2/2=1.97\times10^7\,\mathrm{s^{-1}} である。WT2=2.0×10−5≪1WT_2=2.0\times10^{-5}\ll1 で、T2/T1=5×10−9T_2/T_1=5\times10^{-9} も小さいので、条件は十分に成り立つ。

(2) s=2WT1=7.90×103s=2WT_1=7.90\times10^3、ρee=(s/2)/(1+s)=0.49994\rho_{ee}=(s/2)/(1+s)=0.49994 である。強い光で占有はほぼ半分ずつになる。

(3) (21.11) は占有の差を割合 2W+1/T12W+1/T_1 で定常値へ戻すので、目安は 1/(2W+1/T1)=25.3 ns1/(2W+1/T_1)=25.3\,\mathrm{ns} である。Rabi 振動の1周期は 2π/Ω=1.0 ns2\pi/\Omega=1.0\,\mathrm{ns} だが、コヒーレンスは T2=1 psT_2=1\,\mathrm{ps} で消えるので、振動は周期の 1/10001/1000 ほど進んだところで止まる。占有は振動せず、割合 WW で流れるだけになる。

(4) Δ2T22=1/4\Delta^2T_2^2=1/4 なので WW は 1/(1+1/4)=0.801/(1+1/4)=0.80 倍である。線の半値の半幅は 1/T21/T_2 なので、半幅の半分だけずらしても遷移の割合は2割しか下がらない。

ほかの巻では

  • 近似の数理 第7章:コヒーレンスの断熱消去は、境界層や Born–Oppenheimer と同じ特異摂動の型で、その共通の構造が読める

木下の勉強ステータス

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