相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第7章 §1.7.6 ★★ 統計学の I(θ)・有効推定量・漸近正規性と、実験の最小二乗法の誤差を、この章の J と D で並べる
統計学の教科書の書き方
数理統計学の授業や教科書では、確率密度を f(x;θ)、Fisher 情報を I(θ)(n 個の標本では In(θ)=nI(θ))と書き、
I(θ)=E[(∂θ∂logf(X;θ))2]=−E[∂θ2∂2logf(X;θ)],V[θ^]≥nI(θ)1
の形で習う(log は自然対数)。この章の式と次のように対応する。
| 統計学の教科書 | この章 | 式 |
| Fisher 情報 I(θ) | J(θ) | (1.7.5) |
| E[⋅]、V[⋅] | ⟨⋅⟩θ、Varθ(⋅) | (1.7.1) |
| Cramér–Rao の下限 1/(nI) | 1/(nJ) | (1.7.11) |
| 有効推定量(下限に達する不偏推定量) | 指数型分布族の平均パラメータでだけ存在 | (1.7.12) |
| 最尤推定量の漸近正規性 n(θ^−θ)→N(0,1/I) | 同じ | (1.7.15) |
| (教科書には出ない) | D(pθ∥pθ+δ)≈21Jδ2 | (1.7.6) |
教科書の書き方では Fisher 情報は「スコアの分散」として天下りに定義され、なぜその量が推定の精度に関係するかは Cramér–Rao の証明を読むまで分からない。この章の書き方では、Fisher 情報は最初から「θ を δ ずらした2つの分布の見分けやすさ」で、推定の精度の限界はその帰結として出てくる。加法性もデータ処理による減少も、D の性質をそのまま移したものになる。
実験データの最小二乗法
物理実験の授業では、測定値 yi(i=1,…,n)が理論値 μi(θ) のまわりに標準偏差 σi の正規分布で散らばるとして、χ2(θ)=∑i(yi−μi(θ))2/σi2 を最小にする θ を選ぶ(最小二乗法)。このとき lnp=−21χ2+const なので、最小二乗法は正規分布の雑音のもとでの最尤推定である。Fisher 情報は
J(θ)=i∑σi21(dθdμi)2(1.7.21)
で、実験の授業で習う「パラメータの誤差 σθ2=[∑i(∂μi/∂θ)2/σi2]−1」は Cramér–Rao の下限 1/J そのものである。理論値 μi が θ について線形なら最小二乗の推定量は不偏で、この下限にちょうど達する。同じ量を測った重み付き平均 yˉ=∑i(yi/σi2)/∑i(1/σi2) の誤差 [∑i1/σi2]−1/2 は、μi=θ とした特別な場合である。
例題 1.7.6 原点を通る直線の傾きの誤差 ★★
オリジナル時刻 ti=1,2,3,4,5s で物体の位置 yi を測る。理論は y=θt(θ は速さ)で、各測定には標準偏差 σ=0.1m の独立な正規分布の誤差が乗る。
- J(θ) と Cramér–Rao の下限を求めよ。
- 最小二乗の推定量 θ^=∑itiyi/∑iti2 が不偏で、分散が下限に一致することを示せ。
- 速さの標準偏差を数値で求めよ。
解答
(1) 式 (1.7.21) で dμi/dθ=ti なので J=∑iti2/σ2=55s2/(0.01m2)=5.5×103s2m−2。下限は 1/J=σ2/∑iti2=1.82×10−4m2s−2 である。
(2) ⟨yi⟩=θti を代入すると ⟨θ^⟩=θ∑ti2/∑ti2=θ で不偏である。yi が独立なので Var(θ^)=∑iti2σ2/(∑iti2)2=σ2/∑iti2 で、(1) の下限に等しい。
(3) 1.82×10−4=1.35×10−2ms−1 である。大きい ti の測定ほど J への寄与 ti2/σ2 が大きく、t=5s の1点だけで J の 25/55=45% を占める。したがって傾きを測る実験では、遠い時刻の測定を増やすほうが J が大きくなる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com