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出てくるもの(2):時間発展による平衡化

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第3章 典型性と熱平衡化
目次
  1. 時間平均の状態
  2. 全体の は動かない
  3. 部分系の平衡化
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第3章 §2.3.5 ★★★ 決まった初期状態から出発しても、部分系は長い時間のほとんどで時間平均の状態の近くにいる。全体の DD は時間によらず一定のまま

前の節は「状態をでたらめに選べば」という主張だった。実際の系は決まった初期状態から出発し、決まったハミルトニアン H^\hat H で時間発展する。ランダムに選ぶ操作をユニタリな時間発展で置き換えたとき、部分系はどこへ向かうのか。

時間平均の状態

H^\hat H の固有値を EnE_n、固有状態を ∣n⟩| n \rangle とし、初期状態を ∣ψ(0)⟩=∑ncn∣n⟩| \psi(0) \rangle =\sum_nc_n| n \rangle と展開する。時刻 tt の状態の密度行列は

ρ^(t)=∑m,ncmcn∗e−i(Em−En)t/ℏ∣m⟩⟨n∣\hat\rho(t)=\sum_{m,n}c_mc_n^*\mathrm{e}^{-\mathrm{i}(E_m-E_n)t/\hbar}| m \rangle \langle n |

である。時間の長さ tft_{\mathrm f} の平均を f‾=lim⁡tf→∞1tf∫0tff(t) dt\overline{f}=\lim_{t_{\mathrm f}\to\infty}\frac1{t_{\mathrm f}}\int_0^{t_{\mathrm f}}f(t)\,\mathrm{d} t と書く。固有値に縮退が無ければ、m≠nm\ne n の項は時間平均で消え、

ρ^(t)‾=ρ^d≔∑n∣cn∣2∣n⟩⟨n∣(2.3.23)\overline{\hat\rho(t)}=\hat\rho_{\mathrm d}\coloneqq\sum_n\lvert c_n\rvert ^2| n \rangle \langle n |\tag{2.3.23}

になる。ρ^d\hat\rho_{\mathrm d} をこの章では時間平均の状態と呼ぶ(対角アンサンブルとも呼ばれる)。∣cn∣2\lvert c_n\rvert ^2 は時間によらない保存量なので、ρ^d\hat\rho_{\mathrm d} はすべての保存量 ∣n⟩⟨n∣| n \rangle \langle n | の期待値を初期状態と同じに保つ中でエントロピーが最大の状態であり、最大エントロピー原理(第2部第1章)の答えになっている。時間平均の状態がどれだけ広がっているかを、実効次元

deff=1∑n∣cn∣4=1Tr⁡ρ^d2(2.3.24)d_{\mathrm{eff}}=\frac{1}{\sum_n\lvert c_n\rvert ^4}=\frac{1}{\operatorname{Tr}\hat\rho_{\mathrm d}^2}\tag{2.3.24}

で測る。初期状態が KK 個の固有状態に均等に広がっていれば deff=Kd_{\mathrm{eff}}=K である。

全体の DD は動かない

全体の状態 ρ^(t)\hat\rho(t) と ρ^d\hat\rho_{\mathrm d} の相対エントロピーは、ln⁡ρ^d\ln\hat\rho_{\mathrm d} が H^\hat H の固有基底で対角なので −Tr⁡ρ^(t)ln⁡ρ^d=−∑n∣cn∣2ln⁡∣cn∣2-\operatorname{Tr}\hat\rho(t)\ln\hat\rho_{\mathrm d}=-\sum_n\lvert c_n\rvert ^2\ln\lvert c_n\rvert ^2 となり、

D(ρ^(t) ∥ ρ^d)=S(ρ^d)−S(ρ^(t))=S(ρ^d)(2.3.25)D(\hat\rho(t)\,\|\,\hat\rho_{\mathrm d})=S(\hat\rho_{\mathrm d})-S(\hat\rho(t))=S(\hat\rho_{\mathrm d})\tag{2.3.25}

で時間によらない。全体の状態は時間平均の状態に少しも近づかない。カノニカル状態 ρ^G=e−βH^/Z\hat\rho_{\mathrm G}=\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z と比べても同じである。ln⁡ρ^G\ln\hat\rho_{\mathrm G} も H^\hat H の固有基底で対角なので、H^\hat H の固有基底で対角な任意の状態 σ^\hat\sigma について

D(ρ^ ∥ σ^)=D(ρ^ ∥ ρ^d)+D(ρ^d ∥ σ^)(2.3.26)D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)=D(\hat\rho\,\|\,\hat\rho_{\mathrm d})+D(\hat\rho_{\mathrm d}\,\|\,\hat\sigma)\tag{2.3.26}

が成り立つ(Tr⁡ρ^ln⁡σ^=Tr⁡ρ^dln⁡σ^\operatorname{Tr}\hat\rho\ln\hat\sigma=\operatorname{Tr}\hat\rho_{\mathrm d}\ln\hat\sigma を使って D(ρ^ ∥ σ^)=[S(ρ^d)−S(ρ^)]+[−S(ρ^d)−Tr⁡ρ^dln⁡σ^]D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)=[S(\hat\rho_{\mathrm d})-S(\hat\rho)]+[-S(\hat\rho_{\mathrm d})-\operatorname{Tr}\hat\rho_{\mathrm d}\ln\hat\sigma] と分ける)。これは DD の Pythagoras の関係で、全体の状態とカノニカル状態の隔たりは「固有基底の重ね合わせの位相(コヒーレンス)の分」と「エネルギーの分布の分」の和に分かれる。どちらの項もユニタリな時間発展では変わらないので、全体として熱平衡に近づくことは決してない。平衡化が起きるとすれば、それは部分系で見たときに限られる。

部分系の平衡化

定理 2.3.5(平衡化 ★★★)

H^\hat H の固有値にもエネルギー差 Em−EnE_m-E_n(m≠nm\ne n)にも縮退が無いとする。任意の演算子 O^\hat O について

∣Tr⁡O^ρ^(t)−Tr⁡O^ρ^d∣2‾≤∥O^∥∞2deff(2.3.27)\overline{\lvert \operatorname{Tr}\hat O\hat\rho(t)-\operatorname{Tr}\hat O\hat\rho_{\mathrm d}\rvert ^2}\le\frac{\lVert \hat O\rVert _\infty^2}{d_{\mathrm{eff}}}\tag{2.3.27}

が成り立つ。特に部分系 AA の縮約について

∥ρ^A(t)−ρ^A,d∥1‾≤dA3deff,ρ^A,d=Tr⁡Bρ^d(2.3.28)\overline{\lVert \hat\rho_A(t)-\hat\rho_{A,\mathrm d}\rVert _1}\le\sqrt{\frac{d_A^3}{d_{\mathrm{eff}}}},\qquad\hat\rho_{A,\mathrm d}=\operatorname{Tr}_B\hat\rho_{\mathrm d}\tag{2.3.28}

が成り立つ。

証明

Tr⁡O^ρ^(t)−Tr⁡O^ρ^d=∑m≠ncmcn∗Onme−i(Em−En)t/ℏ\operatorname{Tr}\hat O\hat\rho(t)-\operatorname{Tr}\hat O\hat\rho_{\mathrm d}=\sum_{m\ne n}c_mc_n^*O_{nm}\mathrm{e}^{-\mathrm{i}(E_m-E_n)t/\hbar} の絶対値の2乗を展開すると、指数の肩は (Em−En)−(Em′−En′)(E_m-E_n)-(E_{m'}-E_{n'}) になる。エネルギー差に縮退が無いので、時間平均で残るのは (m,n)=(m′,n′)(m,n)=(m',n') の項だけで、

∣⋯∣2‾=∑m≠n∣cm∣2∣cn∣2∣Onm∣2≤Tr⁡(ρ^dO^ρ^dO^†)\overline{\lvert \cdots\rvert ^2}=\sum_{m\ne n}\lvert c_m\rvert ^2\lvert c_n\rvert ^2\lvert O_{nm}\rvert ^2\le\operatorname{Tr}(\hat\rho_{\mathrm d}\hat O\hat\rho_{\mathrm d}\hat O^\dagger)

となる(m=nm=n の項を足しただけ大きくした)。X^=ρ^dO^\hat X=\hat\rho_{\mathrm d}\hat O、Y^=ρ^dO^†\hat Y=\hat\rho_{\mathrm d}\hat O^\dagger とおいて Cauchy–Schwarz の不等式 ∣Tr⁡X^Y^∣≤∥X^†∥2∥Y^∥2\lvert \operatorname{Tr}\hat X\hat Y\rvert \le\lVert \hat X^\dagger\rVert _2\lVert \hat Y\rVert _2 を使い、∥ρ^dO^†∥22=Tr⁡(O^ρ^d2O^†)≤∥O^∥∞2Tr⁡ρ^d2\lVert \hat\rho_{\mathrm d}\hat O^\dagger\rVert _2^2=\operatorname{Tr}(\hat O\hat\rho_{\mathrm d}^2\hat O^\dagger)\le\lVert \hat O\rVert _\infty^2\operatorname{Tr}\hat\rho_{\mathrm d}^2(もう一方も同様)を当てれば式 (2.3.27) が出る。

式 (2.3.28) は、AA の正規直交基底で O^aa′=∣a′⟩⟨a∣⊗1^B\hat O_{aa'}=| a' \rangle \langle a |\otimes\hat 1_B(∥O^aa′∥∞=1\lVert \hat O_{aa'}\rVert _\infty=1)をとると Tr⁡O^aa′ρ^(t)=(ρ^A(t))aa′\operatorname{Tr}\hat O_{aa'}\hat\rho(t)=(\hat\rho_A(t))_{aa'} になることを使う。dA2d_A^2 個の成分について式 (2.3.27) を足して ∥ρ^A(t)−ρ^A,d∥22‾≤dA2/deff\overline{\lVert \hat\rho_A(t)-\hat\rho_{A,\mathrm d}\rVert _2^2}\le d_A^2/d_{\mathrm{eff}}、これに ∥⋅∥1≤dA∥⋅∥2\lVert \cdot\rVert _1\le\sqrt{d_A}\lVert \cdot\rVert _2 と Y‾≤Y‾\overline{\sqrt Y}\le\sqrt{\overline Y} を当てる。

式 (2.3.27) は Reimann(2008)、Phys. Rev. Lett. 101、190403 の評価の形で、部分系の形は Linden, Popescu, Short, Winter(2009)、Phys. Rev. E 79、061103 がdA3d_A^3 を dA2d_A^2 に改良した評価を与えている。仮定は2つで、エネルギー差に縮退が無いこと(相互作用のある一般的な系で期待される性質)と、初期状態が多くの固有状態に広がっていること(deff≫dA3d_{\mathrm{eff}}\gg d_A^3)である。マクロな系でエネルギーの幅 ΔE\Delta E を持つ初期状態は、eS/kB\mathrm{e}^{S/ k_{\mathrm B}} の程度の固有状態に広がるので、deffd_{\mathrm{eff}} は巨大になる。このとき部分系は、ほとんどすべての時刻で時間平均の状態 ρ^A,d\hat\rho_{A,\mathrm d} の近くにいる。ずれが大きい時刻(初期の過渡期や、ごくまれな再帰)もあるが、その時間の割合は小さい。平衡化までにかかる時間はこの定理からは出てこない。式 (2.3.27) は無限に長い時間の平均についての主張である。

図 2.3.3 は、dA=2d_A=2、dB=64d_B=64 の系にランダムなエルミート行列のハミルトニアンを与え、AA を ∣0⟩| 0 \rangle、BB をランダムな状態に置いた積状態から出発した数値計算である。エネルギーの単位を E0E_0(スペクトルの幅がおよそ 2.7E02.7E_0)とし、時間を ℏ/E0\hbar/E_0 で測る。deff=67.3d_{\mathrm{eff}}=67.3 で上界 (2.3.28) は 0.3450.345、0≤t≤2000ℏ/E00\le t\le2000\hbar/E_0 の時間平均は 0.140.14 である。初期の積状態は AA の純粋状態なので距離はほぼ 11 から出発し、数単位の時間で上界の下まで落ちて、その後は小さくゆらぎ続ける。

図

図 2.3.3 ランダムなハミルトニアンのもとでの部分系 AA(1 qubit)の平衡化。点線(印つき)は時刻 tt の距離 ∥ρ^A(t)−ρ^A,d∥1\lVert \hat\rho_A(t)-\hat\rho_{A,\mathrm d}\rVert _1 を数値計算した値、赤の実線は定理 2.3.5 の上界、灰色の実線は 0≤t≤2000ℏ/E00\le t\le2000\hbar/E_0 の時間平均。全体の D(ρ^(t) ∥ ρ^d)=S(ρ^d)D(\hat\rho(t)\,\|\,\hat\rho_{\mathrm d})=S(\hat\rho_{\mathrm d}) はこの間ずっと一定である。

例題 2.3.5 固有状態が少ないと平衡化しない ★★

オリジナル

  1. (1) 2準位系 H^=diag(E1,E2)\hat H=\mathrm{diag}(E_1,E_2)(E1≠E2E_1\ne E_2)で初期状態を cos⁡θ∣1⟩+sin⁡θ∣2⟩\cos\theta| 1 \rangle +\sin\theta| 2 \rangle とする。O^=σx\hat O=\sigma_x について∣⟨σx⟩t−Tr⁡σxρ^d∣2‾\overline{\lvert \langle \sigma_x \rangle _t-\operatorname{Tr}\sigma_x\hat\rho_{\mathrm d}\rvert ^2} と、式 (2.3.27) の右辺を求めて比べよ。
  2. (2) 初期状態が KK 個の固有状態に均等に広がっているとき(∣cn∣2=1/K\lvert c_n\rvert ^2=1/K)、deffd_{\mathrm{eff}} と全体の D(ρ^(t) ∥ ρ^d)D(\hat\rho(t)\,\|\,\hat\rho_{\mathrm d}) を求めよ。
解答

(1) ⟨σx⟩t=2cos⁡θsin⁡θcos⁡(ωt)=sin⁡2θcos⁡(ωt)\langle \sigma_x \rangle _t=2\cos\theta\sin\theta\cos(\omega t)=\sin2\theta\cos(\omega t)(ω=(E2−E1)/ℏ\omega=(E_2-E_1)/\hbar)で、ρ^d\hat\rho_{\mathrm d} は対角なので Tr⁡σxρ^d=0\operatorname{Tr}\sigma_x\hat\rho_{\mathrm d}=0。cos⁡2\cos^2 の時間平均は 1/21/2 なので左辺は 12sin⁡22θ\frac12\sin^22\theta。右辺は ∥σx∥∞=1\lVert \sigma_x\rVert _\infty=1、deff−1=cos⁡4θ+sin⁡4θ=1−12sin⁡22θd_{\mathrm{eff}}^{-1}=\cos^4\theta+\sin^4\theta=1-\frac12\sin^22\theta である。12sin⁡22θ≤1−12sin⁡22θ\frac12\sin^22\theta\le1-\frac12\sin^22\theta は sin⁡22θ≤1\sin^22\theta\le1 と同じなので不等式は成り立ち、θ=π/4\theta=\pi/4 で等号(どちらも 1/21/2)になる。このとき ⟨σx⟩t\langle \sigma_x \rangle _t は振幅 11 で振動し続け、いつまでも一定値に落ち着かない。deff≤2d_{\mathrm{eff}}\le2 では評価 (2.3.27) は平衡化を何も保証しない。

(2) deff=1/(K⋅K−2)=Kd_{\mathrm{eff}}=1/\bigl(K\cdot K^{-2}\bigr)=K。D(ρ^(t) ∥ ρ^d)=S(ρ^d)=ln⁡KD(\hat\rho(t)\,\|\,\hat\rho_{\mathrm d})=S(\hat\rho_{\mathrm d})=\ln K で時間によらない。KK が大きいほど部分系の平衡化の上界は小さくなるが、同時に全体の DD は ln⁡K\ln K と大きくなる。部分系が平衡に見えることと、全体が平衡から遠いことは、同じ「多くの固有状態に広がっている」という性質の2つの面である。

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

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