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出てくるもの(1):取り出せる仕事と「誰の無知か」

2026年10月15日6分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第5章 Gibbs のパラドックス
目次
  1. 半透膜のピストンで取り出す仕事
  2. 見分けられない人は取り出せない
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第5章 §2.5.3 ★★★ 混合のエントロピーの TT 倍は、半透膜を使って混合から取り出せる仕事の上限で、その値は観測者が使える操作で決まる

半透膜のピストンで取り出す仕事

混合のエントロピーが単なる数え方の問題でないことは、仕事で確かめられる。A だけを通す膜と B だけを通す膜(半透膜)を作れるとする。図 2.5.2 のように、仕切りの位置に2枚の可動の膜を重ねて置く。左の膜は B だけを通し、右の膜は A だけを通す。A の粒子は左の膜に当たって押すが右の膜は素通りするので、左の膜は A の圧力で左へ押されて動く。同じように右の膜は B の圧力で右へ動く。温度 TT の熱浴に接したまま膜をゆっくり動かすと、A は体積 xVxV から VV まで、B は (1−x)V(1-x)V から VV まで、それぞれ等温で膨張する。理想気体の等温膨張で外にする仕事は NkBTln⁡(V後/V前)N k_{\mathrm B} T\ln(V_{\text{後}}/V_{\text{前}}) なので、取り出せる仕事の合計は

W取=NAkBTln⁡1x+NBkBTln⁡11−x=NkBT hb(x)=TΔSmix=kBT D(p前 ∥ p後).(2.5.7)W_{\mathrm{取}}=N_{\mathrm A} k_{\mathrm B} T\ln\frac1x+N_{\mathrm B} k_{\mathrm B} T\ln\frac1{1-x}=N k_{\mathrm B} T\,h_{\mathrm b}(x)=T\Delta S_{\mathrm{mix}}= k_{\mathrm B} T\,D(p_{\mathrm{前}}\,\|\,p_{\mathrm{後}}).\tag{2.5.7}

膨張が終わった状態は、仕切りを外して自然に混ざった状態と同じである。自然に混ざった場合は仕事を1つも取り出さないので、その分のエネルギーを使う機会を失っている。

式 (2.5.7) は 第2部第2章 の Gibbs の変分原理 F[p]−Feq=kBT D(p ∥ peq)F[p]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}}) の1つの例になっている。前と後で平均のエネルギーは等しいので、自由エネルギーの差はエントロピーの差の TT 倍で、それが kBTDk_{\mathrm B} TD である。等温で取り出せる仕事は自由エネルギーの減少を超えないので、式 (2.5.7) は上限であり、ゆっくり動かす膜の操作がその上限に達している。

図

図 2.5.2 半透膜で混合から仕事を取り出す。左の膜(実線)は B を通して A に押され、右の膜(破線)は A を通して B に押される。等温でゆっくり動かすと、取り出す仕事は式 (2.5.7) の NkBT hb(x)N k_{\mathrm B} T\,h_{\mathrm b}(x) になる

見分けられない人は取り出せない

A と B を見分ける手段がない人は、A だけを通す膜を作れない。その人にとっては式 (2.5.7) の仕事を取り出す操作が存在しないので、仕切りを外して混ざっても、失った機会は何もない。その人の記述では混合のエントロピーが 00 で、それはその人が取り出せる仕事が 00 であることと整合している。逆に、A と B を見分けられる人の記述では混合のエントロピーは NkBhb(x)N k_{\mathrm B} h_{\mathrm b}(x) で、その人は実際にその TT 倍の仕事を取り出せる。2人の記述は食い違うが、どちらも自分が使える操作については正しく第二法則を述べている。

この読み方は Jaynes が強調したものである(E. T. Jaynes (1992), “The Gibbs Paradox”, in C. R. Smith, G. J. Erickson, P. O. Neudorfer (eds.), Maximum Entropy and Bayesian Methods, Kluwer)。熱力学のエントロピーは、系の微視的状態だけでなく、どの巨視的な変数を記述に使い、どの変数を制御できるかを決めて初めて定まる。第2部第1章 の最大エントロピー原理の言葉では、どの平均値を「知っている」制約に入れるかによって、エントロピーの値が決まる。「エントロピーは誰の無知か」という問いへの答えは、「その系を操作する実験者が、どの変数を区別して扱えるか」である。これは個人の気分ではなく、使える膜や測定器の一覧という操作で確かめられる事実に結びついている。

後から区別できるようになったら

ある日、それまで同じ気体だと思っていたものが2種類の混合(たとえば同位体の混合)だと分かり、それを分ける膜が作れるようになったとする。そのとき、仕切りを外すことの評価は変わり、過去に「何も変わらない」と記録した過程にもエントロピーの増加があったと書き直すことになる。これは矛盾ではない。古い記述は古い操作の一覧に対して正しく、新しい操作の一覧に対しては取り出せる仕事が増えたのである。2.5.2 節のデータ処理不等式は、この書き直しで DD が減ることはなく、増えるか変わらないかであることを保証している。

例題 2.5.3 混合から取り出せる仕事 ★★

オリジナル温度 300 K300\,\mathrm K で、合わせて 1 mol1\,\mathrm{mol} の2種類の理想気体を半透膜のピストンで混ぜる。

  1. (1) x=1/2x=1/2 のとき、取り出せる仕事の上限を求めよ。
  2. (2) x=0.2x=0.2 のときはどうか。少ない方の気体 A の1粒子あたりの仕事と、多い方の B の1粒子あたりの仕事をそれぞれ kBTk_{\mathrm B} T 単位で求め、どちらが大きいかを説明せよ。
解答

(1) 式 (2.5.7) から W取=RTln⁡2=8.314×300×0.6931=1729 JW_{\mathrm{取}}=RT\ln2=8.314\times300\times0.6931=1729\,\mathrm J。

(2) hb(0.2)=0.5004h_{\mathrm b}(0.2)=0.5004 なので W取=RT×0.5004=1248 JW_{\mathrm{取}}=RT\times0.5004=1248\,\mathrm J。A の1粒子は体積 0.2V0.2V から VV へ膨張するので kBTln⁡5=1.609 kBTk_{\mathrm B} T\ln5=1.609\, k_{\mathrm B} T、B の1粒子は 0.8V0.8V から VV なので kBTln⁡1.25=0.223 kBTk_{\mathrm B} T\ln1.25=0.223\, k_{\mathrm B} T を出す。A の方が大きいのは、A の粒子はもともと狭い所に押し込められていて、「A であることを知れば位置がよく分かる」度合い(1粒子の驚き −ln⁡x-\ln x)が大きいからである。全体では 0.2×1.609+0.8×0.223=0.50040.2\times1.609+0.8\times0.223=0.5004 で、hb(0.2)h_{\mathrm b}(0.2) に戻る。

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