相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部 第5章 §3.5.6 ★★ 量子力学の授業で習う EPR・一重項・Bell の元の不等式を、この章の箱と CHSH 不等式の言葉に並べ直す
量子力学の授業では、Bell の不等式は多くの場合、次の順で出てくる。スピン 1/2 の2粒子の一重項 ∣Ψ−⟩ を作り、単位ベクトル a,b の向きにスピンを測ると、結果(ℏ/2 単位の ±1)の積の平均は
E(a,b)=⟨Ψ−∣(a⋅σ)⊗(b⋅σ)∣Ψ−⟩=−a⋅b(3.5.23)
である。この章の式 (3.5.9) は、同じ計算を ∣Φ+⟩ と x–z 面の向きで行ったもので、一重項では符号が逆になる。Einstein・Podolsky・Rosen(1935)の議論は、同じ向きに測ると結果が必ず逆になる(E(a,a)=−1)ことから、測る前から値が決まっていたはずだと主張した。
Bell(1964)の元の不等式は、この完全な逆相関を仮定して導かれる。局所の模型で Bob の結果を B(c)=−A(c) とおくと、3つの向き a,b,c について
∣E(a,b)−E(a,c)∣≤1+E(b,c)(3.5.24)
が成り立つ。この章の言葉で示すと、決定的な戦略では u,v=±1 について ∣u+v∣=1+uv が成り立つことを使い、∣A(a)B(b)−A(a)B(c)∣=∣B(b)+A(c)∣=1+A(c)B(b) となる。λ で平均すると左辺は平均の絶対値以上なので式 (3.5.24) が出る(右辺の E(c,b) は一重項では E(b,c) に等しい)。
CHSH 不等式との違いは、完全な逆相関の仮定の有無である。実験では検出器の効率や状態の純度のため E(a,a)=−1 を厳密には実現できないので、式 (3.5.24) は実験の不等式としては使いにくい。CHSH 不等式は、この仮定を置かずに4つの相関だけで書かれている。授業の形と並べると、次のように対応する。
授業の形:この章の形:量子の値:∣E(a,b)−E(a,c)∣≤1+E(b,c)(完全な逆相関を仮定、3つの向き)∣E00+E01+E10−E11∣≤2(仮定なし、Alice 2つ・Bob 2つの向き)E=−a⋅b (一重項)、 S≤22 (定理 3.5.3)
光子の偏光で実験する場合、偏光の向きの角度 α と Bloch 球の上の角度は2倍だけ違う(直交する偏光は Bloch 球の上で反対の点)。そのため ∣Φ+⟩ に対応する偏光のもつれた光子対の相関は E=cos2(α−β) となり、CHSH の最適な角度は偏光板の角度で 0∘,45∘(Alice)と 22.5∘,−22.5∘(Bob)になる。Aspect らのカルシウムの原子のカスケードによる光子対の実験は、光の巻(光学と量子エレクトロニクス 第33章)で扱う。2022年のノーベル物理学賞は、Aspect・Clauser・Zeilinger の3人に、もつれた光子の実験と Bell 不等式の破れの検証に対して贈られた。
例題 3.5.6 Bell の元の不等式の破れ ★★
オリジナル一重項の相関 E(a,b)=−cosθab(θab は2つの向きのなす角)を使う。
- (1) 同じ平面の上の向き a,b,c を 0∘,60∘,120∘ にとるとき、式 (3.5.24) の左辺と右辺を求めよ。
- (2) a,b,c を 0,θ,2θ にとるとき、「左辺 − 右辺」を θ の関数として書き、それが最大になる θ と最大値を求めよ。
解答
(1) E(a,b)=−cos60∘=−21、E(a,c)=−cos120∘=21、E(b,c)=−cos60∘=−21。左辺 =∣−21−21∣=1、右辺 =1−21=21 で、1>21 だから不等式は破れる。
(2) 左辺 =∣−cosθ+cos2θ∣、右辺 =1−cosθ。0<θ<π/2 では cos2θ<cosθ なのでg(θ)=cosθ−cos2θ−1+cosθ=2cosθ−cos2θ−1。g′(θ)=−2sinθ+2sin2θ=2sinθ(2cosθ−1) が 0 になるのは cosθ=21、すなわち θ=π/3 で、最大値は g(π/3)=1+21−1=21。(1) の角度がちょうど最も強く破る配置である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com