ふるい分けと誤り率の見積もりの後、Alice は n ビット An、Bob はそれと少し違う Bn を持っている。Alice は An の関数 C=f(An)(たとえば線形符号のシンドローム)を公開し、Bob は Bn と C から An を復元する。Slepian と Wolf の定理1D. Slepian and J. K. Wolf (1973), IEEE Trans. Inf. Theory 19, 471.下の脚注へによれば、n→∞ で必要な公開の量は1ビットあたり H(A∣B) で足りる。ビットの誤り率が ez の対称な誤りなら H(A∣B)=hb(ez) である。
公開した C は Eve も聞いている。Eve の不確かさがどれだけ減るかは、次の式で押さえられる。C は An の関数なので S(AnC∣E)=S(An∣E) で、条件付きエントロピーの連鎖律と H(C∣E)≤ln∣C∣(∣C∣ は C のとりうる値の数)から
S(An∣EC)=S(AnC∣E)−H(C∣E)≥S(An∣E)−ln∣C∣(3.10.16)
である。公開したビット数の分だけ、Eve の不確かさは最大で減る。誤り訂正の後に Eve に残る不確かさは、1ビットあたり S(A∣E)−H(A∣B) 以上ある。
秘匿性増幅:ハッシュで縮める
誤り訂正の後、Alice と Bob は同じ n ビットを持つが、Eve はそれについて部分的な情報を持っている。2人は公開の乱数で関数 f を選び、n ビットを ℓ ビットの f(An) に縮める。ℓ が Eve の不確かさより十分小さければ、縮めた鍵は Eve からほとんど独立で一様になる。これを秘匿性増幅と呼ぶ2C. H. Bennett, G. Brassard, C. Crépeau and U. M. Maurer (1995), IEEE Trans. Inf. Theory 41, 1915. Eve が量子の系を持つ場合は R. Renner (2005), 博士論文(ETH Zürich), arXiv:quant-ph/0512258.下の脚注へ。
Eve の不確かさの測り方として、Eve が A を1回で当てる確率の最大値 pguess(A∣E) を使い、Hmin(A∣E)=−lnpguess(A∣E) を最小エントロピーと呼ぶ3当てる確率による解釈は R. König, R. Renner and C. Schaffner (2009), IEEE Trans. Inf. Theory 55, 4337.下の脚注へ。秘匿性増幅の保証は次の形をとる(ハッシュの残り物の補題)。2-universal な F から一様に選んだ f について
が成り立つ(F は選んだ関数を記録した古典の系で、Eve も知っている)。左辺は、実際の鍵と理想の鍵(一様で Eve と独立)のトレース距離である。3.10.1節では秘密の度合いを相対エントロピーで測ったが、Pinsker の不等式 21∥ρ^−σ^∥1≤D(ρ^∥σ^)/2 により、相対エントロピーが小さければトレース距離も小さい。右辺を ε 以下にするには、ビットで数えて
ℓ≤ln2Hmin(A∣E)−2log22ε1(3.10.18)
にすればよい。
漸近の鍵の長さ
最小エントロピーは von Neumann エントロピー以下で、一般には小さい。しかし独立な写しが n 個あるとき、小さな確率 ε′ の分だけ状態をならした最小エントロピー Hminε′ についてn1Hminε′(An∣En)→S(A∣E) が成り立つ(量子の漸近等分割性)4M. Tomamichel, R. Colbeck and R. Renner (2009), IEEE Trans. Inf. Theory 55, 5840.下の脚注へ。これは第1部第2章(第1部第2章)の典型系列の量子版で、ほとんどの確率がエントロピーで決まる大きさの典型的な部分に集まるために成り立つ。これと式 (3.10.16) を合わせると、誤り訂正と秘匿性増幅の後に残る鍵は1ビットあたり
1 D. Slepian and J. K. Wolf (1973), IEEE Trans. Inf. Theory 19, 471.
2 C. H. Bennett, G. Brassard, C. Crépeau and U. M. Maurer (1995), IEEE Trans. Inf. Theory 41, 1915. Eve が量子の系を持つ場合は R. Renner (2005), 博士論文(ETH Zürich), arXiv:quant-ph/0512258.
3 当てる確率による解釈は R. König, R. Renner and C. Schaffner (2009), IEEE Trans. Inf. Theory 55, 4337.
4 M. Tomamichel, R. Colbeck and R. Renner (2009), IEEE Trans. Inf. Theory 55, 5840.