相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第4章 §4.4.4 ★★★ 経路の D の非負性から ⟨W⟩≥ΔF−kBTI(X;Y)、経路の比の規格化から ⟨e−β(W−ΔF)−I⟩=1
測定つきの第二法則
定理 4.4.3 の両辺を P[Γ,y] で平均する。左辺は経路と結果の同時分布どうしの相対エントロピーで、非負である。
定理 4.4.4(測定つきの第二法則(沙川–上田)★★★)
D(P[Γ,y]∥P~[Γ~,y])=β⟨W−ΔF⟩+I(X0;Y)≥0,すなわち⟨W⟩≥⟨ΔF⟩−kBTI(X0;Y).(4.4.15)
ここで ⟨ΔF⟩=∑yp(y)ΔFy、I(X0;Y)=⟨I(x0;y)⟩ は時刻 0 の状態と測定の結果の相互情報量である。
取り出す仕事で書くと −⟨W⟩≤−⟨ΔF⟩+kBTI(X0;Y) で、1回の操作で元に戻る場合(ΔFy=0)は 4.4.1 節の式 (4.4.5) に戻る。4.4.1 節では準静的な操作を前提に Gibbs の変分原理を使ったが、式 (4.4.15) は有限の速さの操作でも成り立つ。この形は T. Sagawa and M. Ueda (2008), Phys. Rev. Lett. 100, 080403 が量子系の測定とフィードバックについて示し、古典の経路の形で T. Sagawa and M. Ueda (2010), Phys. Rev. Lett. 104, 090602 が導いた。
エントロピー生成で言い直す。初めに平衡にある過程のエントロピー生成は Σ=β(W−ΔF) で(第4部第3章)、測定の無い過程では ⟨Σ⟩=D(P∥P~)≥0 だった。測定とフィードバックのある過程では
⟨Σ⟩≥−I(X0;Y)(4.4.16)
になり、系だけのエントロピー生成は、測定で得た相互情報量の分まで負になってよい。⟨Σ⟩+I(X0;Y) という和が、経路と結果の同時分布の D として非負である。
一般化 Jarzynski 等式
定理 4.4.3 を指数の形で書くと e−β(W−ΔFy)−I(x0;y)P[Γ,y]=P~[Γ~,y] である。Γ と y について和をとると、右辺は規格化から 1 になる。
定理 4.4.5(一般化 Jarzynski 等式(沙川–上田)★★★)
逆回しの過程で起こる経路と結果の組が、前向きの過程でも確率が正であるとき、
⟨e−β(W−ΔFy)−I(x0;y)⟩=1.(4.4.17)
Jensen の不等式 ⟨e−A⟩≥e−⟨A⟩ を式 (4.4.17) に当てると 1≥e−β⟨W−ΔF⟩−I(X0;Y) で、式 (4.4.15) がもう一度出る。等式 (4.4.17) は不等式より多くのことを含む。たとえば e−A の平均が 1 なので、β(W−ΔFy)+I(x0;y)≤−a となる確率は e−a 以下である(Markov の不等式)。測定つきの過程でも、「情報で補った第二法則」を大きく破る回は指数的にまれである。
もう1つの形:効率 γ
式 (4.4.17) から I を外した平均も、別の量で書くことができる。e−β(W−ΔFy)P[Γ,y]=p(y∣x0)P~[Γ~∣Λy†] を Γ と y について足すと
⟨e−β(W−ΔFy)⟩=γ,γ:=y∑P~y(y)(4.4.18)
を得る。P~y(y) は、手順 Λy† で動かした逆回しの過程の終わり(前向きの時刻 0 にあたる)で同じ測定器を使ったとき、結果が y になる確率である。γ は「結果 y に合わせた操作を逆回しにすると、どれだけ確実に同じ結果 y に戻るか」を、すべての y について足したもので、フィードバックの効率と呼ばれる。測定が無ければ(すべての y で同じ手順なら)∑yP~(y)=1 で、普通の Jarzynski 等式 ⟨e−βW⟩=e−βΔF に戻る。
例題 4.4.4 誤りのある Szilard エンジンで等式を確かめる ★★★
オリジナル反転確率 ε=0.1 の測定器で、仕切りを最適な位置でなく f=0.7 で止める Szilard エンジンを考える(例題 4.4.2 の (3))。
- 4通りの (x,y) について、−βW と I(x;y) を求め、⟨e−βW−I⟩=1 を確かめよ。
- γ=⟨e−βW⟩ を求めよ。逆回しの過程で同じ結果が出る確率から γ を求め直し、一致することを確かめよ。
- 最適な位置 f=0.9 では、e−βW−I が経路ごとに 1 になることを示し、γ を求めよ。
解答
(1) 対称なので y=L の場合を書く。分子が左(当たり、同時確率 0.45)なら −βW=ln(0.7/0.5)=ln1.4、I(x;y)=ln(0.9/0.5)=ln1.8 で、e−βW−I=1.4/1.8 である。分子が右(外れ、同時確率 0.05)なら −βW=ln(0.3/0.5)=ln0.6、I=ln(0.1/0.5)=ln0.2 で、e−βW−I=0.6/0.2=3 である。y=R も同じなので
⟨e−βW−I⟩=0.9×1.81.4+0.1×3=0.7+0.3=1.
外れの回は e−βW−I が大きく、当たりの回の小さい値を補って平均がちょうど 1 になる。平均の仕事は −β⟨W⟩=0.9ln1.4+0.1ln0.6=0.2517 で、I(X;Y)=0.3681 を超えない。
(2) γ=0.9×1.4+0.1×0.6=1.32 である。逆回しの過程では、全体の一様分布から仕切りを割合 0.7 の位置に入れ(分子は確率 0.7 で左)、真ん中まで準静的に戻してから測る。結果が L になる確率は 0.7×0.9+0.3×0.1=0.66 で、y=R の操作の逆回しでも同じく 0.66 なので、γ=2×0.66=1.32 に一致する。
(3) f=0.9=p(L∣L) のとき、どの経路でも −βW=ln1/2p(x∣y)=lnp(x)p(x∣y)=I(x;y) なので、e−βW−I=1 が経路ごとに成り立つ。γ=⟨e−βW⟩=∑x,yp(x,y)⋅2p(x∣y)=2[(0.9)2+(0.1)2]=1.64 である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com