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出てくるもの (1):仕事で書いた Landauer 原理

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第5章 Landauer 原理の一般形
目次
  1. 一般形
  2. 素朴な消去で失われるもの
  3. 論理的な不可逆と熱力学的な不可逆
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第5章 §4.5.3 ★★★ 消去の仕事は W≥F[p′]−F[p]=∑m(pm′−pm)Fm+kBT[H(M)−H(M′)]W\ge F[p']-F[p]=\sum_m(p_m'-p_m)F_m+ k_{\mathrm B} T[H(M)-H(M')]。対称な記憶では kBT ΔH(M)k_{\mathrm B} T\,\Delta H(M)、偏った・不完全な・非対称な記憶はこの1つの式の特別な場合で、非対称なら kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 を下回る

一般形

第4部第1章では、温度 TT の熱浴に接した系の設定を動かす任意の操作について、平均の仕事と非平衡の自由エネルギーの帳尻

⟨W⟩−ΔFeq=kBT[D(pf ∥ πf)−D(p0 ∥ π0)]+kBT⟨Σ⟩,⟨Σ⟩≥0\langle W \rangle -\Delta F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\bigl[D(p_{\mathrm f}\,\|\,\pi_{\mathrm f})-D(p_0\,\|\,\pi_0)\bigr]+ k_{\mathrm B} T\langle \Sigma \rangle ,\qquad\langle \Sigma \rangle \ge0

を示した(第4部第1章)。F[p]−Feq=kBT D(p ∥ π)F[p]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,\pi) を使って書き直すと、これは

⟨W⟩−(F[pf]−F[p0])=kBT⟨Σ⟩ ≥0(4.5.8)\langle W \rangle -\bigl(F[p_{\mathrm f}]-F[p_0]\bigr)= k_{\mathrm B} T\langle \Sigma \rangle \ \ge0\tag{4.5.8}

と同じである。初めと終わりの分布が平衡でなくても、仕事は非平衡の自由エネルギーの差で下から押さえられる。⟨Σ⟩\langle \Sigma \rangle は経路の確率と逆回しの経路の確率の DD として書けることが 第4部第3章 で示されるので、この不等式もまた DD の非負性の1つの姿である。

これを記憶に当てる。初めと終わりで記憶が局所平衡にあれば、命題 4.5.1 の F[p]=∑mpmFm−kBT H(M)F[p]=\sum_mp_mF_m- k_{\mathrm B} T\,H(M) が使えて、次の一般形を得る。

定理 4.5.3(Landauer 原理の一般形 ★★★)

温度 TT の熱浴に接した記憶で、論理状態の分布を pMp_M から pM′p_M' へ変える任意の操作(初めと終わりで局所平衡)の仕事は

⟨W⟩ ≥ ∑m(pm′−pm)Fm+kBT[H(M)−H(M′)](4.5.9)\langle W \rangle \ \ge\ \sum_m(p_m'-p_m)F_m+ k_{\mathrm B} T\bigl[H(M)-H(M')\bigr]\tag{4.5.9}

を満たす。等号は ⟨Σ⟩=0\langle \Sigma \rangle =0 のときに成り立つ。それには操作を準静的にし、さらに山を下げて区画をつなぐ時点で pMp_M がその設定での平衡分布に一致していなければならない(次の小節)。同じことを DD で書くと

⟨W⟩ ≥ ΔFeq+kBT[D(pM′ ∥ πM′)−D(pM ∥ πM)](4.5.10)\langle W \rangle \ \ge\ \Delta F_{\mathrm{eq}}+ k_{\mathrm B} T\bigl[D(p_M'\,\|\,\pi_M')-D(p_M\,\|\,\pi_M)\bigr]\tag{4.5.10}

である(M. Esposito and C. Van den Broeck (2011), EPL 95, 40004)。

式 (4.5.9) の右辺は2つの部分からなる。第1項は論理状態の確率を局所自由エネルギーの違う状態へ移すことの代価で、第2項は論理状態のエントロピーを減らすことの代価である。Landauer のもとの主張は、第1項が0(対称な記憶)で第2項が ln⁡2\ln2(五分五分を完全に消す)の場合にあたる。以下、3つの前提を1つずつ外す。

偏った記憶。対称な記憶で、中身が1である確率が pp の記憶を完全に消すと、式 (4.5.9) の下限は kBT hb(p)k_{\mathrm B} T\,h_{\mathrm b}(p) である(hbh_{\mathrm b} は二値エントロピー)。中身が偏っていればいるほど消去は安い。ただし下限に達するには、手順が pp を知っていて、それに合わせて作られていなければならない(例題 4.5.3 の (3))。pp に合わせない手順、たとえば五分五分を想定した手順を偏った記憶に当てると、⟨Σ⟩>0\langle \Sigma \rangle >0 の分だけ余計に仕事が要る。

不完全な消去。完全に0にせず、誤り ε\varepsilon を残してよいなら、五分五分の記憶の消去の下限は kBT [ln⁡2−hb(ε)]k_{\mathrm B} T\,[\ln2-h_{\mathrm b}(\varepsilon )] に下がる。ε→0\varepsilon \to0 で kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 に戻る。hb(ε)h_{\mathrm b}(\varepsilon ) は ε→0\varepsilon \to0 で −εln⁡ε-\varepsilon \ln\varepsilon のように0へ近づくので、誤りを1桁減らすごとに必要な仕事の増えは小さくなっていき、完全な消去でも有限の kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 で済む。

非対称な記憶。例題 4.5.1 の、右の部屋が左の rr 倍広い記憶を考える。F1−F0=−kBTln⁡rF_1-F_0=- k_{\mathrm B} T\ln r である。五分五分の中身を状態0(狭い方)へ消すと下限は12(F0−F1)+kBTln⁡2=kBT(ln⁡2+12ln⁡r)\frac12(F_0-F_1)+ k_{\mathrm B} T\ln2= k_{\mathrm B} T(\ln2+\frac12\ln r) で、状態1(広い方)へ消すと kBT(ln⁡2−12ln⁡r)k_{\mathrm B} T(\ln2-\frac12\ln r) である。r=3r=3 なら前者は 1.2425 kBT1.2425\, k_{\mathrm B} T、後者は 0.1438 kBT0.1438\, k_{\mathrm B} T で、広い方へ消せば kBTln⁡2=0.6931 kBTk_{\mathrm B} T\ln2=0.6931\, k_{\mathrm B} T をはるかに下回る。r>4r>4 では下限が負になり、消去しながら仕事を取り出せる。

最後の場合は Landauer 原理の破れに見えるが、破れではない。熱で書いた式 (4.5.7) は、論理状態のエントロピーでなく、微視的な分布のエントロピーの減りで熱を押さえている。平らな部屋の記憶では、部屋の中の位置のエントロピーまで数えると、五分五分の状態のエントロピーは ln⁡2+12ln⁡ℓ0+12ln⁡(rℓ0)\ln2+\frac12\ln\ell_0+\frac12\ln(r\ell_0)、広い方の部屋に決まった状態は ln⁡(rℓ0)\ln(r\ell_0) で、減りは ln⁡2−12ln⁡r\ln2-\frac12\ln r である。ポテンシャルが平らなので仕事はそのまま熱になり、熱の下限と仕事の下限は一致する。「1ビットにつき kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2」が成り立つのは、論理状態のエントロピーの減りが微視的なエントロピーの減りに等しい、つまり各論理状態の中の自由度が同じ広さを持つ場合に限られる。

素朴な消去で失われるもの

消去の手順としてもっともよく引かれるのは、仕切りを抜いて粒子を箱全体に広げ、それから片側へ押し込む手順である(Szilard の箱の消去)。仕切りを抜く瞬間、記憶の分布 pMp_M は、そのまま新しい設定(仕切りの無い箱)での分布になるが、新しい設定の平衡分布は部屋の広さに比例する πM\pi_M である。仕切りを抜くのは仕事0の急な操作なので、第4部第1章の急な操作の式により、そこで kBT D(pM ∥ πM)k_{\mathrm B} T\,D(p_M\,\|\,\pi_M) がまるごと Σ\Sigma になる。対称な記憶の五分五分では pM=πMp_M=\pi_M なので失うものは無く、この手順は Landauer の限界 kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 に達する。非対称な記憶や偏った中身では pM≠πMp_M\neq\pi_M で、素朴な手順は下限より kBT D(pM ∥ πM)k_{\mathrm B} T\,D(p_M\,\|\,\pi_M) だけ多く仕事を使う。最良の手順は、仕切りを抜く前に、仕切りを準静的に動かして部屋の広さの比を pMp_M に合わせ、DD を0にしてから抜く。

論理的な不可逆と熱力学的な不可逆

消去は論理的には不可逆である。消した後の記憶から、消す前の中身を読み取ることはできない。しかし定理 4.5.3 の等号は準静的な消去で成り立ち、そのとき ⟨Σ⟩=0\langle \Sigma \rangle =0 で、熱力学的には可逆である。実際、準静的に消去した記憶に、手順を時間について逆回しに当てると、熱浴から kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 の熱を吸って五分五分の記憶に戻る(中身は乱数になる)。したがって Landauer 原理は「論理的に不可逆な操作は熱力学的に不可逆である」という主張ではない。「論理状態のエントロピーを減らす操作は、その分の熱を熱浴へ出さなければならない」という主張で、出た熱は可逆に戻すこともできる(T. Sagawa (2014), J. Stat. Mech. P03025 がこの区別を整理した)。熱力学的に不可逆になるのは、たとえば五分五分でない記憶に五分五分用の手順を当てて ⟨Σ⟩>0\langle \Sigma \rangle >0 を作った場合である。

図

図 4.5.2 対称な記憶を完全に消すのに要る最小の仕事 kBT hb(p)k_{\mathrm B} T\,h_{\mathrm b}(p)(厳密)。五分五分で最大の kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 になり、中身が偏るほど小さくなる。下限に達するのは、手順が pp に合わせて作られているときだけである。

例題 4.5.3 偏った記憶と不完全な消去 ★★

オリジナル対称な記憶(2つの部屋の広さが同じ箱)を温度 T=300 KT=300\,\mathrm K で消す。

  1. (1) 五分五分の中身を、誤り ε=0.01\varepsilon =0.01 が残ってよいとして消すときの仕事の下限を、kBTk_{\mathrm B} T と J で求めよ。
  2. (2) 中身が0である確率が 0.90.9 の記憶を完全に消すときの仕事の下限を求めよ。
  3. (3) (2) の下限に達する手順を1つ与え、その仕事が下限に等しいことを確かめよ。
解答

(1) 式 (4.5.9) で FmF_m がすべて等しいので第1項は0で、下限は kBT[ln⁡2−hb(0.01)]=kBT(0.6931−0.0560)=0.6371 kBTk_{\mathrm B} T[\ln2-h_{\mathrm b}(0.01)]= k_{\mathrm B} T(0.6931-0.0560)=0.6371\, k_{\mathrm B} T である。300 K300\,\mathrm K で kBT=4.14×10−21 Jk_{\mathrm B} T=4.14\times10^{-21}\,\mathrm J なので、2.64×10−21 J2.64\times10^{-21}\,\mathrm J である。完全な消去の 2.87×10−21 J2.87\times10^{-21}\,\mathrm J より8%ほど安い。

(2) 中身のエントロピーは hb(0.9)=hb(0.1)=0.3251h_{\mathrm b}(0.9)=h_{\mathrm b}(0.1)=0.3251 なので、下限は 0.3251 kBT=1.35×10−21 J0.3251\, k_{\mathrm B} T=1.35\times10^{-21}\,\mathrm J である。五分五分の半分以下である。

(3) 箱の長さを1とし、仕切りは初め 12\frac12 の位置にある。まず仕切りを準静的に、左の部屋の長さが 0.90.9 になる位置まで動かす。粒子が左にいれば部屋は 12→0.9\frac12\to0.9 に広がって kBTln⁡1.8k_{\mathrm B} T\ln1.8 の仕事を取り出せ、右にいれば 12→0.1\frac12\to0.1 に縮んで kBTln⁡5k_{\mathrm B} T\ln5 の仕事をされる。される仕事の平均は kBT[−0.9ln⁡1.8+0.1ln⁡5]=−0.3681 kBTk_{\mathrm B} T[-0.9\ln1.8+0.1\ln5]=-0.3681\, k_{\mathrm B} T である。この位置では部屋の広さの比が中身の確率に一致しているので、仕切りを抜いても D=0D=0 で何も失わない。最後に箱全体(長さ1)から左半分(長さ 12\frac12)へ準静的に押し込むと kBTln⁡2=0.6931 kBTk_{\mathrm B} T\ln2=0.6931\, k_{\mathrm B} T の仕事をされる。合計は (0.6931−0.3681) kBT=0.3251 kBT(0.6931-0.3681)\, k_{\mathrm B} T=0.3251\, k_{\mathrm B} T で、(2) の下限に等しい。1つ目の段階で取り出した仕事は、中身の偏りを知っていたからこそ取り出せたもので、偏りを知らずに仕切りをいきなり抜くと kBT D((0.9,0.1) ∥ (12,12))=0.3681 kBTk_{\mathrm B} T\,D\bigl((0.9,0.1)\,\|\,(\frac12,\frac12)\bigr)=0.3681\, k_{\mathrm B} T を失い、下限に達しない。

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