出てくるもの (3):Maxwell の悪魔の帳尻と計算のコスト
AI 生成・木下が未勉強
相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第5章 §4.5.5 ★★ 測定・フィードバック・消去の1周で、取り出せる正味の仕事は を超えない。帳尻は系と記憶を合わせた全体の第二法則そのもの。論理ゲートの消去のコストは
1周の帳尻
前の章では、測定で得た情報を使うフィードバックの仕事が
で上から押さえられることを示した(T. Sagawa and M. Ueda (2008), Phys. Rev. Lett. 100, 080403。第4部第4章)。 は取り出す仕事で、 は系の自由エネルギーの変化である。これは式 (4.5.11) の言葉では、系と記憶を合わせた全体の自由エネルギーのうち、相関の分 を仕事に変えたことにあたる。
測定・フィードバック・消去を1周とし、系も初めの状態に戻る()とする。悪魔(記憶とそれを操作する装置)が受け取る仕事の合計は、式 (4.5.14) と式 (4.5.15) を合わせて
で、1周で正味の仕事を取り出すことはできない。熱浴1つから仕事を取り出し続ける機関(第二種の永久機関)は作れず、Kelvin の原理は記憶を含めた全体で成り立つ。
式 (4.5.16) は、系と記憶を合わせた全体に、式 (4.5.8) を1周について当てたものと同じである。全体は1周で元の分布に戻るので非平衡の自由エネルギーの変化は0で、全体がされる仕事の合計 は に等しい。悪魔が特別な存在に見えたのは、悪魔の記憶を熱力学の系に数えなかったからで、記憶を系に含めれば、悪魔は第4部第1章の帳尻に従うふつうの系の一部である。等号は、測定・フィードバック・消去のすべてが準静的に行われ、相関が使い切られるときに成り立つ。そのとき1周で熱浴から吸った熱と、消去で熱浴へ戻した熱はちょうど釣り合う。
図 4.5.3 Maxwell の悪魔の1周の帳尻。 は記憶の作りで決まり、測定と消去で符号を変えて現れるので、和からは消える。フィードバックで取り出せる は、測定と消去の和の下限 とちょうど打ち消し合う。
計算のコスト
Landauer の問題意識は、計算機が熱を出すのは避けられないかどうかにあった。論理ゲートは入力のビットを出力のビットへ写す関数で、AND のように出力から入力を復元できないゲートは、途中で情報を捨てている。入力の分布が与えられたとき、ゲートの出力だけを残して入力を消すと、捨てる情報は条件付きエントロピー である。ゲートの計算を「出力を書く・入力を消す」に分けると、出力を書く部分は入力との相関を作るだけなので第4節の測定と同じくただで行え、入力を消す部分に、出力を知った上での消去として 以上の仕事が要る。
逆に、入力と出力が1対1に対応する可逆なゲートだけで計算を組めば、捨てる情報は無く、原理的にいくらでも小さい熱で計算することができる。Toffoli ゲート は8つの状態の置換で、 を入れれば3本目に AND が出る。入力 が残るので情報は失われない。Bennett は、どんな計算も入力を残す可逆な形に直せ、途中の結果を逆回しで消せば、最後に残すべき出力以外の記録を熱を出さずに片付けられることを示した(C. H. Bennett (1973), IBM J. Res. Dev. 17, 525)。ただし入力を残すために記憶を余分に使い、最後に要らなくなった入力を消すときには、やはり Landauer のコストを払う。
例題 4.5.5 AND ゲートが捨てる情報 ★★
オリジナル入力 が独立に五分五分の2ビットを AND ゲートに通し、出力 だけを残して入力を消す。温度は とする。
- (1) 入力のエントロピーと出力のエントロピーを求めよ。
- (2) 捨てる情報 を求め、(1) の差に等しいことを確かめよ。消去の仕事の下限を J で求めよ。
- (3) Toffoli ゲートで同じ計算をし、入力を残すときの捨てる情報を答えよ。
解答
(1) 入力は4通りが等確率なので である。出力は のときだけ1なので確率 で1で、 である。
(2) 出力が1のとき入力は に決まっていて条件付きエントロピーは0、出力が0のとき入力は残りの3通りが等確率で である。平均すると nat で、出力は入力の関数なので に等しい。消去の仕事の下限は である。1ビットあたりではなく、出力を知った上でまだ分からない分だけを払えばよい。
(3) Toffoli ゲートは状態の置換なので、ゲートを通すこと自体は情報を捨てない。入力 を残す限り捨てる情報は0である。後で入力が要らなくなって消すときは、出力を知った上で を払うことになり、(2) と同じ量に戻る。可逆な計算は、捨てる時期を選べるようにする手段であり、捨てる情報の量そのものは計算の中身で決まる。
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