比べる2つの状態:トーリック符号の縮退した基底状態
AI 生成・木下が未勉強
相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第5部 第2章 §5.2.1 ★★★ トーリック符号を安定化群の生成元が局所的なスタビライザー符号として定義し、基底状態が4重に縮退すること・符号の距離が であることを数える
磁石の強磁性相と常磁性相は、局所的な量である磁化 の値で見分けることができる。Landau の理論は、相をこのような秩序変数と、それが破る対称性で分類する。ところが 1980 年代の終わりから、秩序変数では見分けられないのに、はっきり異なる量子相が見つかった。分数量子 Hall 状態がその代表で、Wen はこのような相の性質を位相秩序と名づけた1X.-G. Wen (1990), Int. J. Mod. Phys. B 4, 239。下の脚注へ。位相秩序を持つ系の基底状態は、空間をトーラスのように穴のある面にすると縮退し、その縮退した基底状態どうしは局所的な測定では区別することができない。
この章は、この「局所的には区別できない」という性質を、巻の背骨である相対エントロピーの言葉で書く。比べる2つの状態は、縮退した基底状態の2つ 、 である。当てる性質はデータ処理不等式で、部分トレースもチャネルなので、空間の一部 に制限した は を広げるほど大きくなる。位相秩序とは、 が系の大きさに比べて小さい限りこの が厳密に で、系を一周する輪を が含んだとたんに跳び上がる、という性質である。第3部第9章の言葉では、これは「小さな領域の消失は訂正できる」という条件そのもので、位相秩序の基底状態の空間は大きな距離を持つ量子誤り訂正符号になっている。
具体例は Kitaev のトーリック符号2A. Yu. Kitaev (2003), Ann. Phys. 303, 2。1997 年に arXiv に出た論文の出版版。下の脚注へに絞る。出てくるものは3つある。1つ目は、誤りの正体がエニオンと呼ばれる準粒子の対で、互いの周りを回すと符号 が付くことである。2つ目は、基底状態のエンタングルメント・エントロピーに、面積則(第5部第1章)の主要項から差し引かれる普遍的な定数 が現れることで、これは3つの領域の条件付き相互情報量で取り出せる。3つ目は、局所的な摂動を加えても基底状態の縮退がほとんど解けないこと(分裂は系の大きさについて指数的に小さい)である。
この章の対数は自然対数(nat)とする。Pauli 行列は記法の正本に従って と書き、 番目の量子ビットに当てるものを のように添字で示す。結合定数は 、摂動の強さは と書く(Fisher 情報 は引数を持つので区別できる)。
格子と Hamiltonian
一辺 の正方格子を、上下と左右をつないでトーラスにする。頂点は 個、辺は 個ある。量子ビットは辺に1個ずつ置く()。頂点を (、座標は を法とする)で表し、 と を結ぶ横の辺を 、 と を結ぶ縦の辺を と書く。各頂点 には、そこに集まる4本の辺の の積
を、各面(格子の正方形) には、それを囲む4本の辺の の積
を対応させる。 を星の演算子、 を面の演算子と呼ぶ(図 5.2.1)。トーリック符号の Hamiltonian は
である。
すべての と は互いに交換する。 どうし、 どうしは だけ、 だけの積なので明らかに交換する。 と が共有する辺は、頂点 が面 の角なら2本、そうでなければ0本である。2つの Pauli 演算子は、異なる非自明な Pauli が並ぶ位置の数が偶数なら交換するので(第3部第9章)、どの組も交換する。したがって の固有状態はすべての 、 の同時固有状態に取れ、 から各固有値は である。基底状態はすべての 、 を満たす状態で、エネルギーは になる。 か の1つが になるごとにエネルギーは 上がる。
安定化群と縮退の数
の基底状態の空間は、 と が生成する群 を安定化群とするスタビライザー符号 そのものである(第3部第9章)。符号に入る論理量子ビットの数 は、 から独立な生成元の数を引いたものだった。 は 個、 も 個あるが、独立ではない。すべての頂点の を掛けると、各辺は両端の2つの頂点で2回ずつ を受けるので
となる(面の側も、各辺はその両側の2つの面に属する)。関係はこの2つだけで、独立な生成元は 個ある。よって
で、基底状態は によらず4重に縮退する。
縮退は、 のすべての元と交換するのに に入らない演算子、すなわち論理演算子の存在と表裏一体である。横の1行の辺に沿って を並べた を考える。どの頂点もこの行の辺を0本か2本持つので、 はすべての と交換する。 だけなので とも交換する。一方、 は面の演算子の積では書くことができない。面の演算子の積は、いくつかの面を合わせた領域の境界に沿った の積であり、トーラスを一周する輪はどんな領域の境界にもならないからである。同じように、縦の列に沿った の輪 、双対格子(面の中心を頂点とし、辺を横切って隣の面へ渡る格子)の上で一周する の輪 と も論理演算子である。 と はちょうど1本の辺 を共有するので反交換し、 と は辺を共有しないので交換する。 と が2つの論理量子ビットの Pauli 演算子になる。
図 5.2.1 のトーリック符号。量子ビットは辺に置き、右端と上端の破線は左端と下端と同じ辺・頂点を表す(トーラス)。赤は星の演算子 (頂点に集まる4辺の の積)、青は面の演算子 (面を囲む4辺の の積)。緑は横に一周する の輪 、橙は双対格子の上で縦に一周する輪で、それが横切る4本の横の辺(太線)の の積が である。2つは右上の1辺だけを共有して反交換する。
符号の距離
符号の距離 は、論理演算子の重み(恒等でない因子の数)の最小値だった。 だけでできた演算子がすべての と交換するのは、各頂点で の付いた辺が偶数本のとき、すなわち の付いた辺が格子の上で閉じた輪(いくつかの閉路の和)をなすときである。輪がトーラスを一周しなければ、それは囲んだ面の の積で に入る。一周する輪の長さは少なくとも である。 の側も双対格子で同じことが言え、 と が混ざった演算子は の部分と の部分が別々に条件を満たす必要がある。よって
である。距離は とともに際限なく大きくなるが、 に比べた割合 は に向かう。生成元はどれも4量子ビットにしか当たらず、格子が大きくなっても測定はすべて局所的なままである。
この章で比べる2つの状態は、 の中の2つの状態、たとえば の基底状態 と、それに を当てた である。2つは直交し( の固有値が違う)、全体としては完全に見分けることができる。問題は、部分系に制限したときに何が残るかである。
例題 5.2.1 のトーリック符号の消失への強さ ★★
オリジナル のトーリック符号を考える。
- (1) 、独立な生成元の数、、 を求めよ。
- (2) 論理2量子ビットを参照系 (2量子ビット)と最大にもつれさせた状態で、 と、辺の集合 の相互情報量 を考える。 のときすべての で となることを、符号の距離から説明せよ。
- (3) で となる はいくつあるか。横の1行の3辺を 、残りの15辺を とするとき、 と を求めよ。
解答
(1) 。生成元は星9個・面9個の18個だが、式 (5.2.4) の2つの関係があるので独立なのは16個。、 で、 符号である。
(2) 第3部第9章で示したとおり、領域 の消失が訂正できることと は同値で、距離 の符号は 個の消失を訂正することができる。 なので2個の辺の消失は必ず訂正でき、 である。直接に言えば、2辺に台を持つ Pauli 演算子で全生成元と交換するものは、重みが 未満なので論理演算子になれず、 に入るか、どれかの生成元と反交換する。どちらの場合も符号空間の中での期待値は論理状態によらない。
(3) になるのは がちょうど論理演算子1つの台を含むときで、3辺の論理演算子は一周する長さ3の輪だけである。横の行の の輪(3行)、縦の列の の輪(3列)、双対の縦の輪の (横の辺の3列)、双対の横の輪の (縦の辺の3行)の4種類×3か所で、12組ある(scripts/verify_ch5-02.py で18辺から3辺を選ぶ816通りを全部調べて確かめた)。横の1行の3辺は の台であり、そこで を測れば論理1量子ビットの の値が1ビット分読み出すことができる。安定化状態のエントロピーを数える 4 節の公式で計算すると である。全体が純粋状態なので 第3部第9章の が成り立ち、 から となる。
1 X.-G. Wen (1990), Int. J. Mod. Phys. B 4, 239。
2 A. Yu. Kitaev (2003), Ann. Phys. 303, 2。1997 年に arXiv に出た論文の出版版。
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