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比べる2つの状態:全体の状態と部分系の積

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第1章 エンタングルメント・エントロピーと面積則
目次
  1. 格子・領域・境界
  2. エンタングルメント・エントロピー
  3. 乱数で選んだ状態は体積則に従う
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第5部 第1章 §5.1.1 ★★★ 純粋状態では全体と部分系の積の相対エントロピーが部分系のエントロピーの2倍になり、それが体積に比例するか境界に比例するかで状態の性格が分かれる

格子の上に NN 個のスピンが並んだ系の状態は、2N2^N 個の複素数で書ける。N=100N=100 なら 2100≈1.27×10302^{100}\approx1.27\times10^{30} 個で、どんな計算機の記憶にも収まらない。それでも1次元の量子スピン鎖の基底状態は、長い鎖でも計算機で高い精度で求められている(5.1.5 節の密度行列くりこみ群)。この章で扱う問いは、なぜそれができるのか、である。答えを先に書くと、物理で出てくる状態の大半は、乱数で選んだ状態に比べてもつれが極端に少なく、そのもつれは部分系の「境界」の近くにしかない。この性質を面積則と呼ぶ。

この巻の言葉で言い直すと、この章で比べる2つの状態は、多体系の状態 ρ^AB\hat\rho_{AB} と、それを領域 AA とその外 BB に分けて周辺をかけ合わせた積状態 ρ^A⊗ρ^B\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B である。その間の相対エントロピーが量子相互情報量 I(A;B)=D(ρ^AB ∥ ρ^A⊗ρ^B)I(A;B)=D(\hat\rho_{AB}\,\|\,\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B) で、純粋状態ではそれが部分系の von Neumann エントロピー(エンタングルメント・エントロピー)の2倍になる。当てる性質は、第2部第2章と第3部第2章で示した Gibbs の変分原理(kBT D(σ^ ∥ ρ^β)=F(σ^)−Feq≥0k_{\mathrm B}T\,D(\hat\sigma\,\|\,\hat\rho_\beta)=F(\hat\sigma)-F_{\mathrm{eq}}\ge0)である。相手の状態 σ^\hat\sigma に積状態 ρ^A⊗ρ^B\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B を入れると、熱状態の相互情報量が境界の大きさで押さえられる、という面積則が数行で出る。

出てくるものは3つある。1つ目は、1次元で励起にエネルギーの gap がある系の基底状態では、部分系がどれだけ長くてもエンタングルメント・エントロピーが一定の値を超えないこと(Hastings の定理)と、それを自由フェルミオンの鎖で実際に計算する方法(相関行列の方法)。2つ目は、gap が閉じた臨界点ではエントロピーが部分系の長さの対数で増え、その係数が中心電荷 cc という普遍的な数で決まること。3つ目は、面積則を満たす状態が行列の積(行列積状態)で少ない数のパラメータで書けることで、ここが冒頭の問いへの答えになる。最後に、学部の統計力学で習う「エントロピーは示量変数(体積に比例する)」という形と、この章の面積則がどう両立するかを、熱状態の計算で確かめる。

この章の対数は自然対数で、情報量の単位は nat とする。Pauli 行列は XX、YY、ZZ、恒等演算子は 1\mathbf 1 と書く(第3部と同じ)。フェルミオンの生成消滅演算子は c^i†\hat c_i^\dagger、c^i\hat c_i、2準位の二値エントロピーは hb(p)=−pln⁡p−(1−p)ln⁡(1−p)h_{\mathrm b}(p)=-p\ln p-(1-p)\ln(1-p) である。

格子・領域・境界

格子 Λ\Lambda の各点(サイト)に dd 次元の量子系が1つずつ載っているとする。スピン 12\frac12 なら d=2d=2 である。全体の Hilbert 空間は各サイトの空間のテンソル積で、次元は d∣Λ∣d^{\lvert \Lambda\rvert } になる。∣Λ∣\lvert \Lambda\rvert はサイトの数である。格子のサイトを2つに分け、一方を領域 AA、残りを BB とする。AA のサイトの数 ∣A∣\lvert A\rvert を AA の体積、AA のサイトと BB のサイトを結ぶ最近接の結合の本数 ∣∂A∣\lvert \partial A\rvert を AA の境界の大きさ(面積)と呼ぶ。1次元の鎖で AA を長さ LL の区間に取れば ∣A∣=L\lvert A\rvert =L、∣∂A∣=2\lvert \partial A\rvert =2 で、境界の大きさは LL によらない。2次元の正方格子でAA を L×LL\times L の正方形に取れば ∣A∣=L2\lvert A\rvert =L^2、∣∂A∣=4L\lvert \partial A\rvert =4L である(図 5.1.1)。一般に ndimn_{\mathrm{dim}} 次元の格子で一辺 LL の領域を取ると、体積は LndimL^{n_{\mathrm{dim}}}、境界は Lndim−1L^{n_{\mathrm{dim}}-1} に比例する。

図

図 5.1.1 2次元の正方格子に置いた 4×44\times4 の領域 AA(青)と、AA と BB を結ぶ境界の結合(赤い太線)。一辺を LL にすると体積は L2L^2、境界は 4L4L で増える。面積則は、部分系のエンタングルメント・エントロピーが体積でなく境界の大きさに比例することをいう

エンタングルメント・エントロピー

全体が純粋状態 ∣Ψ⟩| \Psi \rangle にあるとき、比べる2つの状態は ρ^AB=∣Ψ⟩⟨Ψ∣\hat\rho_{AB}=| \Psi \rangle \langle \Psi | と ρ^A⊗ρ^B\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B である(ρ^A=Tr⁡Bρ^AB\hat\rho_A=\operatorname{Tr}_B\hat\rho_{AB})。第3部第2章(第3部第2章)で示したとおり、その相対エントロピーは量子相互情報量

I(A;B)=D(ρ^AB ∥ ρ^A⊗ρ^B)=S(ρ^A)+S(ρ^B)−S(ρ^AB)(5.1.1)I(A;B)=D(\hat\rho_{AB}\,\|\,\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B)=S(\hat\rho_A)+S(\hat\rho_B)-S(\hat\rho_{AB})\tag{5.1.1}

で、純粋状態では S(ρ^AB)=0S(\hat\rho_{AB})=0、Schmidt 分解から S(ρ^A)=S(ρ^B)S(\hat\rho_A)=S(\hat\rho_B) なので

I(A;B)=2S(ρ^A)(ρ^AB が純粋のとき)(5.1.2)I(A;B)=2S(\hat\rho_A)\qquad(\hat\rho_{AB}\ \text{が純粋のとき})\tag{5.1.2}

となる。第3部第4章(第3部第4章)では、純粋状態のもつれの量は相対エントロピー・オブ・エンタングルメントでも ER=S(ρ^A)E_{\mathrm R}=S(\hat\rho_A) になり、多数のコピーから取り出せる最大にもつれた対の数もこれで決まることを示した。そこで次のように定める。

定義 5.1.1(エンタングルメント・エントロピー・面積則・体積則)

純粋状態 ∣Ψ⟩| \Psi \rangle の、領域 AA についてのエンタングルメント・エントロピーを S(ρ^A)=−Tr⁡ρ^Aln⁡ρ^AS(\hat\rho_A)=-\operatorname{Tr}\hat\rho_A\ln\hat\rho_A と定める。状態の族(例えば系の大きさを変えた基底状態の列)が、ある定数 c0c_0 について、すべての領域 AA で

S(ρ^A)≤c0 ∣∂A∣(5.1.3)S(\hat\rho_A)\le c_0\,\lvert \partial A\rvert\tag{5.1.3}

を満たすとき、その族は面積則に従うという。S(ρ^A)S(\hat\rho_A) が ∣A∣\lvert A\rvert に比例して増えるとき、体積則に従うという。

上限は必ず体積で押さえられる。ρ^A\hat\rho_A は d∣A∣d^{\lvert A\rvert } 次元の密度行列なので、S(ρ^A)≤∣A∣ln⁡dS(\hat\rho_A)\le\lvert A\rvert \ln d であり、BB の側から見れば S(ρ^A)=S(ρ^B)≤∣B∣ln⁡dS(\hat\rho_A)=S(\hat\rho_B)\le\lvert B\rvert \ln d でもある。面積則は、この上限よりはるかに小さい値に留まる、という強い主張である。混合状態では S(ρ^A)S(\hat\rho_A) に熱的な混ざり具合も入るので、もつれの量として読めるのは純粋状態のときだけである。混合状態では I(A;B)I(A;B) を使う。これは 5.1.2 節と 5.1.6 節で扱う。

乱数で選んだ状態は体積則に従う

面積則が「強い主張」であることは、乱数で選んだ状態と比べると分かる。第2部第3章(第2部第3章)では、dAdBd_Ad_B 次元の Hilbert 空間から一様(Haar 測度)に選んだ純粋状態について、dA≤dBd_A\le d_B のとき部分系のエントロピーの平均が

S(ρ^A)‾=∑k=dB+1dAdB1k−dA−12dB≈ln⁡dA−dA2dB(5.1.4)\overline{S(\hat\rho_A)}=\sum_{k=d_B+1}^{d_Ad_B}\frac1k-\frac{d_A-1}{2d_B}\approx\ln d_A-\frac{d_A}{2d_B}\tag{5.1.4}

になることを見た(D. N. Page による1D. N. Page (1993), Physical Review Letters 71, 1291–1294。下の脚注へ)。dA=d∣A∣d_A=d^{\lvert A\rvert } を代入すると S‾≈∣A∣ln⁡d\overline{S}\approx\lvert A\rvert \ln d で、上限の体積の値にほぼ等しい。つまり「ほとんどすべての状態」は体積則に従う。基底状態が面積則に従うなら、基底状態は Hilbert 空間の中で非常に特別な、ごく一部の状態だということになる。第2部第3章はこの式を「部分系はほとんど熱的に見える」(典型性)の根拠に使った。ここでは同じ式を、基底状態が典型的な状態からどれだけ離れているかを測る基準に使う。

例題 5.1.1 一重項を並べた鎖と乱数の状態 ★★

オリジナルスピン 12\frac12 を8個並べた鎖の状態 ∣Ψ⟩=∣s⟩12⊗∣s⟩34⊗∣s⟩56⊗∣s⟩78| \Psi \rangle =| s \rangle _{12}\otimes| s \rangle _{34}\otimes| s \rangle _{56}\otimes| s \rangle _{78} を考える。∣s⟩ij=12(∣↑↓⟩−∣↓↑⟩)| s \rangle _{ij}=\frac{1}{\sqrt2}(| \uparrow\downarrow \rangle -| \downarrow\uparrow \rangle ) はサイト ii、jj の一重項である。

  1. AA をサイト 2〜5 に取ったときと、3〜6 に取ったときの S(ρ^A)S(\hat\rho_A) を求めよ。
  2. AA をサイト 2〜7 に広げると S(ρ^A)S(\hat\rho_A) はどうなるか。この状態が面積則に従うことを説明せよ。
  3. 10 個のスピンの Haar 乱数の状態で AA を左の5個に取ったときの平均 (5.1.4) を求め、上限 5ln⁡25\ln2 と比べよ。
解答

(1) 一重項は1組ごとに独立なので、ρ^A\hat\rho_A は一重項ごとの部分系の状態の積になる。サイト 2〜5 は一重項 (1,2)(1,2) の片割れ 2、一重項 (3,4)(3,4) の全体、一重項 (5,6)(5,6) の片割れ 5 を含む。丸ごと含まれる一重項は純粋状態でエントロピーに寄与しない。切られた一重項の片割れは 121\frac12\mathbf 1 で、1つにつき ln⁡2\ln2 だけ寄与する。したがって

S(ρ^2–5)=2ln⁡2=1.386,S(ρ^3–6)=0S(\hat\rho_{2\text{--}5})=2\ln2=1.386,\qquad S(\hat\rho_{3\text{--}6})=0

である。3〜6 は一重項 (3,4)(3,4)、(5,6)(5,6) を丸ごと含み、どれも切らない。

(2) サイト 2〜7 が切る一重項は (1,2)(1,2) と (7,8)(7,8) の2つだけなので、やはり 2ln⁡22\ln2 である。区間をどれだけ長くしても、切れる一重項は区間の両端の2つ以下なのでS(ρ^A)≤2ln⁡2S(\hat\rho_A)\le2\ln2 が成り立つ。1次元の区間の境界は ∣∂A∣=2\lvert \partial A\rvert =2 なので、c0=ln⁡2c_0=\ln2 として式 (5.1.3) を満たす。もつれが最近接の対の中にしかないので、境界をまたぐ対の数だけがエントロピーに入る。

(3) dA=dB=25=32d_A=d_B=2^5=32 で

S‾=∑k=3310241k−3164=2.966,\overline{S}=\sum_{k=33}^{1024}\frac1k-\frac{31}{64}=2.966,

上限 5ln⁡2=3.4665\ln2=3.466 との差は 0.4990.499 で、ほぼ dA2dB=12\frac{d_A}{2d_B}=\frac12 に等しい。乱数の状態は上限から 12\frac12 nat しか離れない。一重項の鎖は同じ大きさの AA で 00 か 2ln⁡22\ln2 なので、乱数の状態とは性格がまったく違う。20 個のスピンを半分に分ければ、乱数の状態は ln⁡1024−12=6.43\ln1024-\frac12=6.43 まで増えるが、一重項の鎖は2ln⁡22\ln2 のままである。

1 D. N. Page (1993), Physical Review Letters 71, 1291–1294。

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