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比べる2つの状態:雑音を通った符号状態

2026年10月15日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第9章 量子誤り訂正
目次
  1. 古典の繰り返し符号
  2. 量子のビット反転符号
  3. 比べる2つの状態
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部 第9章 §3.9.1 ★★★ 3量子ビットのビット反転符号で、複製せずに冗長にする方法・状態を壊さずに誤りを調べる方法を具体的に見て、誤り訂正を「雑音を通した2状態の DD を守ること」として述べる

量子コンピュータの量子ビットは、周りの環境と少しずつ相互作用し、そのたびに重ね合わせの位相や振幅がずれる。古典のビットなら同じ値を3回書いて多数決を取れば誤りを減らせるが、量子ビットでは同じことが3つの理由でできないように見える。第一に、未知の状態を複製することはできない(Wootters–Zurek の複製不可能定理)。第二に、誤りを確かめようとして量子ビットを測ると、守りたい重ね合わせが壊れる。第三に、量子の誤りは「0 と 1 の入れ替え」のような離散的なものに限らず、任意の小さな回転として連続的に起こる。Shor は 1995 年に、9個の量子ビットに1個の論理量子ビットを書き込めば任意の1量子ビットの誤りを直せることを示し、3つの障害がどれも本質的でないことを明らかにした1P. W. Shor (1995), Phys. Rev. A 52, R2493。複製不可能定理は W. K. Wootters and W. H. Zurek (1982), Nature 299, 802。下の脚注へ。

この章は量子誤り訂正を、この巻の背骨である相対エントロピーの言葉で読み直す。比べる2つの状態は、符号空間(論理量子ビットを書き込む部分空間)の中の2つの状態 ρ^\hat\rho、σ^\hat\sigma を雑音のチャネル N\mathcal N に通したもの N(ρ^)\mathcal N(\hat\rho)、N(σ^)\mathcal N(\hat\sigma) である。当てる性質は量子データ処理不等式 D(N(ρ^) ∥ N(σ^))≤D(ρ^ ∥ σ^)D(\mathcal N(\hat\rho)\,\|\,\mathcal N(\hat\sigma))\le D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)(第3部第3章)の等号の条件である。2つの状態の見分けやすさが雑音で少しも減らないことと、雑音を元に戻す操作が存在することは同値になる(Petz の定理)。ここから3つのものが出てくる。1つ目は、誤りを訂正できる条件を誤りの演算子で書いた Knill–Laflamme 条件で、その中身は、環境に残る状態が論理状態に依らないこと、すなわち参照系と環境の相互情報量が 00 という条件である。2つ目は、その条件を Pauli 演算子の交換関係だけで確かめられるようにしたスタビライザー形式で、5量子ビット符号や Steane 符号がこの形で書ける。3つ目は、エントロピーの劣加法性だけから出る符号の限界(量子 Singleton 上界)と、状態を数える量子 Hamming 上界である。

この章の対数は自然対数(nat)とする。Pauli 行列は記法の正本に従って X,Y,ZX,Y,Z と書き、恒等演算子を 1\mathbf 1 と書く。nn 個の量子ビットの jj 番目にだけ XX を当てる演算子を XjX_j と書き、X1X2=X⊗X⊗1X_1X_2=X\otimes X\otimes\mathbf 1 のように積でテンソル積を表す。物理的な量子ビット1個が誤る確率を ε\varepsilon と書く(記法の正本の ε\varepsilon は1電子のエネルギーだが、この章には現れない)。

古典の繰り返し符号

古典の通信路で1ビットを送るとき、各ビットが独立に確率 ε\varepsilon で反転するとする(2値対称通信路。第1部第4章)。00 を 000000、11 を 111111 と3回繰り返して送り、受け取った側で多数決を取ると、3ビットのうち2つ以上が反転したときだけ誤る。その確率は

εL=3ε2(1−ε)+ε3=3ε2−2ε3(3.9.1)\varepsilon _{\mathrm L}=3\varepsilon ^2(1-\varepsilon )+\varepsilon ^3=3\varepsilon ^2-2\varepsilon ^3\tag{3.9.1}

である。εL<ε\varepsilon _{\mathrm L}<\varepsilon は 0<ε<1/20<\varepsilon <1/2 で成り立つので、ビットが半分以上の確率で正しく届く限り、繰り返しは誤りを減らす。ε\varepsilon が小さいとき εL≈3ε2\varepsilon _{\mathrm L}\approx3\varepsilon ^2 で、誤りの確率が1次から2次に下がる。誤り訂正で誤りが減る理由はこの次数の差で、1個の誤りは直せて2個の誤りは直せない符号では、残る誤りは2個同時に起こる確率の大きさになる。

量子のビット反転符号

量子ビット α∣0⟩+β∣1⟩\alpha| 0 \rangle +\beta| 1 \rangle を守りたい。∣ψ⟩⊗∣ψ⟩⊗∣ψ⟩| \psi \rangle \otimes| \psi \rangle \otimes| \psi \rangle を作ることは複製不可能定理で禁じられているが、

α∣0⟩+β∣1⟩ ⟼ α∣000⟩+β∣111⟩≕α∣0L⟩+β∣1L⟩(3.9.2)\alpha| 0 \rangle +\beta| 1 \rangle \ \longmapsto\ \alpha| 000 \rangle +\beta| 111 \rangle \eqqcolon\alpha| 0_{\mathrm L} \rangle +\beta| 1_{\mathrm L} \rangle\tag{3.9.2}

は作れる。∣0⟩| 0 \rangle と ∣1⟩| 1 \rangle という2つの基底を複製しているだけで、状態そのものは複製していないからである。実際この写像は線形で、制御 NOT ゲート2つで実現できる。∣0L⟩| 0_{\mathrm L} \rangle と ∣1L⟩| 1_{\mathrm L} \rangle が張る2次元の部分空間を符号空間と呼び C\mathcal C と書く。C\mathcal C への射影子を P^=∣0L⟩⟨0L∣+∣1L⟩⟨1L∣\hat P=| 0_{\mathrm L} \rangle \langle 0_{\mathrm L} |+| 1_{\mathrm L} \rangle \langle 1_{\mathrm L} | とする。

誤りとして、どれか1つの量子ビットに XX が当たったとする。たとえば X1X_1 なら状態は α∣100⟩+β∣011⟩\alpha| 100 \rangle +\beta| 011 \rangle になる。どの量子ビットが反転したかを知るには、個々の量子ビットを ZZ で測るのでなく、2つの量子ビットの偶奇だけを測る。Z1Z2Z_1Z_2 は ∣000⟩| 000 \rangle にも ∣111⟩| 111 \rangle にも固有値 +1+1 を与え、X1X_1 が当たった後の ∣100⟩| 100 \rangle にも ∣011⟩| 011 \rangle にも固有値 −1-1 を与える。つまり Z1Z2Z_1Z_2 と Z2Z3Z_2Z_3 の測定値は、どの誤りが起きたかだけで決まり、α\alpha と β\beta には少しも依らない。測定値の組をシンドロームと呼ぶ。対応は

(Z1Z2, Z2Z3)=(+,+): 誤りなし,(−,+): X1,(−,−): X2,(+,−): X3(3.9.3)(Z_1Z_2,\,Z_2Z_3)=(+,+):\ \text{誤りなし},\quad(-,+):\ X_1,\quad(-,-):\ X_2,\quad(+,-):\ X_3\tag{3.9.3}

で、シンドロームを読んだら該当する量子ビットにもう一度 XX を当てて戻す。測定は α\alpha、β\beta について何の情報も引き出さないので、重ね合わせは壊れない。2つの偶奇の測定は、補助の量子ビットを2つ用意して制御 NOT で偶奇を写し、補助の方を測ることで実現できる(図 3.9.1)。

図

図 3.9.1 ビット反転符号のシンドローム測定。補助の量子ビット aa には量子ビット1と2の偶奇、bb には2と3の偶奇が写る。測るのは補助の量子ビットだけで、符号の量子ビットは測らない。

各量子ビットに独立に確率 ε\varepsilon で XX が当たるとき、2個以上反転すると多数決が誤った側に戻すので、古典と同じ式 (3.9.1) の確率で論理量子ビットに XL=X1X2X3X_{\mathrm L}=X_1X_2X_3 が当たる(例題 3.9.1)。図 3.9.2 が εL\varepsilon _{\mathrm L} と ε\varepsilon の比較である。

図

図 3.9.2 ビット反転符号の論理誤りの確率。点線が厳密な εL\varepsilon _{\mathrm L}、実線が ε\varepsilon の2次までの近似 3ε23\varepsilon ^2、破線が符号を使わない場合。ε<1/2\varepsilon <1/2 で εL<ε\varepsilon _{\mathrm L}<\varepsilon となり、交点 ε=1/2\varepsilon =1/2 より左で符号が誤りを減らす。

この符号は ZZ の誤りを直すことができない。Z1Z_1 は α∣000⟩+β∣111⟩\alpha| 000 \rangle +\beta| 111 \rangle を α∣000⟩−β∣111⟩\alpha| 000 \rangle -\beta| 111 \rangle に変え、どのシンドロームも ++ のままで、しかも結果は論理の ZL=Z1Z2Z3Z_{\mathrm L}=Z_1Z_2Z_3 を当てたものと同じになる。ビット反転だけに対する符号であって、量子ビットの誤りすべてに対する符号ではない。

比べる2つの状態

誤り訂正が何を守っているかを、相対エントロピーで言い直す。符号空間の中の2つの状態 ρ^\hat\rho、σ^\hat\sigma を考える。雑音のチャネル N\mathcal N を通すと、量子データ処理不等式により

D(N(ρ^) ∥ N(σ^))≤D(ρ^ ∥ σ^)(3.9.4)D(\mathcal N(\hat\rho)\,\|\,\mathcal N(\hat\sigma))\le D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)\tag{3.9.4}

となる(第3部第3章)。DD は2つの状態を見分けるときの指数(量子 Stein の補題の意味。第3部第8章、古典は 第1部第8章)なので、左辺が右辺より小さいことは、雑音のせいで2つの状態が見分けにくくなった、つまり論理状態についての情報が失われたことを表す。

ここで、雑音の後に何か操作 R\mathcal R(回復のチャネル)を施して、符号空間のどの状態も元に戻せたとする。R∘N\mathcal R\circ\mathcal N が符号空間の上で恒等写像なので、R\mathcal R にもう一度データ処理不等式を当てると

D(ρ^ ∥ σ^)=D(RN(ρ^) ∥ RN(σ^))≤D(N(ρ^) ∥ N(σ^))≤D(ρ^ ∥ σ^)D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)=D(\mathcal R\mathcal N(\hat\rho)\,\|\,\mathcal R\mathcal N(\hat\sigma))\le D(\mathcal N(\hat\rho)\,\|\,\mathcal N(\hat\sigma))\le D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)

となり、式 (3.9.4) は等号で成り立つ。誤りを訂正できるなら、符号空間のどの2状態の DD も雑音で減らない。次の節は、この逆も成り立つこと、すなわち DD が減らなければ回復のチャネルが必ず存在することを述べる。この章の比べる2つの状態は「雑音を通した2つの符号状態」で、誤り訂正の理論はその DD を守る理論として読める。

雑音のチャネルの選び方

ここまで、雑音を「各量子ビットに独立に、確率 ε\varepsilon で XX が当たる」チャネルとした。これは各量子ビットが別々の環境と弱く結合し、環境の相関がすぐに消えるという仮定から出る形で、時間的にも空間的にも相関のない雑音である。相関のある雑音(2つの量子ビットに同時に当たる誤り)が強いと、式 (3.9.1) の ε2\varepsilon ^2 の係数が変わり、符号の利得は小さくなる。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 系と環境の結合の強さ λ\lambda(λ→0\lambda\to0 で λ2t\lambda^2t を固定する van Hove の極限)と、量子ビットごとに独立な環境 | 証明 条件付き(環境の相関が速く減衰する。量子系の Markov 近似は Davies 1974。量子ビットごとの独立性はさらに環境が分かれている仮定) | 行き先 近似の数理 第14章

例題 3.9.1 ビット反転符号の論理誤り ★★

オリジナルビット反転符号 (3.9.2) の3量子ビットに、独立に確率 ε\varepsilon で XX が当たる。シンドローム (3.9.3) を測り、表に従って XX を当てて戻す。

  1. (1) 8通りの誤りのパターン(どの量子ビットが反転したか)それぞれについて、訂正の後に論理量子ビットに何が当たっているかを答えよ。
  2. (2) 訂正の後の状態が (1−εL)ρ^+εLXLρ^XL(1-\varepsilon _{\mathrm L})\hat\rho+\varepsilon _{\mathrm L}X_{\mathrm L}\hat\rho X_{\mathrm L} となること、εL\varepsilon _{\mathrm L} が式 (3.9.1) であることを示し、ε=0.01\varepsilon =0.01 と ε=0.1\varepsilon =0.1 で値を求めよ。
  3. (3) εL<ε\varepsilon _{\mathrm L}<\varepsilon となる ε\varepsilon の範囲を求めよ。
解答

(1) 誤りなしと1つだけの反転(X1X_1、X2X_2、X3X_3)はシンドロームが4通りに分かれ、表どおりに戻すと何も残らない。2つの反転、たとえば X1X2X_1X_2 はシンドローム (+,−)(+,-) を与え、表は X3X_3 と読むので、訂正の後には X1X2X3=XLX_1X_2X_3=X_{\mathrm L} が残る。X1X3X_1X_3、X2X3X_2X_3 も同じく XLX_{\mathrm L} が残る。3つの反転 X1X2X3X_1X_2X_3 はシンドローム (+,+)(+,+) で、そのまま XLX_{\mathrm L} が残る。

(2) 訂正の後に残るのは 1\mathbf 1 か XLX_{\mathrm L} のどちらかで、XLX_{\mathrm L} が残るのは2つ以上反転した4通りである。それぞれの確率は ε2(1−ε)\varepsilon ^2(1-\varepsilon ) が3通り、ε3\varepsilon ^3 が1通りなので、合計 εL=3ε2(1−ε)+ε3=3ε2−2ε3\varepsilon _{\mathrm L}=3\varepsilon ^2(1-\varepsilon )+\varepsilon ^3=3\varepsilon ^2-2\varepsilon ^3。異なるパターンは異なるシンドロームか同じ論理の作用を与えるので、訂正の後の状態は確率の重みつきの和 (1−εL)ρ^+εLXLρ^XL(1-\varepsilon _{\mathrm L})\hat\rho+\varepsilon _{\mathrm L}X_{\mathrm L}\hat\rho X_{\mathrm L} になる。ε=0.01\varepsilon =0.01 で εL=3×10−4−2×10−6=2.98×10−4\varepsilon _{\mathrm L}=3\times10^{-4}-2\times10^{-6}=2.98\times10^{-4}、ε=0.1\varepsilon =0.1 で εL=0.03−0.002=0.028\varepsilon _{\mathrm L}=0.03-0.002=0.028。論理量子ビットから見ると、確率 εL\varepsilon _{\mathrm L} のビット反転チャネルになっている。

(3) εL−ε=−ε(2ε2−3ε+1)=−ε(2ε−1)(ε−1)\varepsilon _{\mathrm L}-\varepsilon =-\varepsilon (2\varepsilon ^2-3\varepsilon +1)=-\varepsilon (2\varepsilon -1)(\varepsilon -1)。0<ε<10<\varepsilon <1 では ε−1<0\varepsilon -1<0 なので、εL<ε\varepsilon _{\mathrm L}<\varepsilon は 2ε−1<02\varepsilon -1<0 と同値で、0<ε<1/20<\varepsilon <1/2。

1 P. W. Shor (1995), Phys. Rev. A 52, R2493。複製不可能定理は W. K. Wootters and W. H. Zurek (1982), Nature 299, 802。

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