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復号としきい値の数値

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第6部 第5章 誤り耐性としきい値定理
目次
  1. 最小重みの完全マッチング
  2. 統計力学への写像
  3. しきい値の数値
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第6部 第5章 §6.5.4 ★★★ 復号は端点の組み合わせの問題で、最適な復号のしきい値はランダムボンド Ising 模型の相転移点に一致する。雑音の模型ごとに数値が 10.9% から 0.75% まで変わる

最小重みの完全マッチング

シンドロームとして反転した面(欠陥と呼ぶ)の集まりが与えられたとき、それを端点とする誤りの鎖を推定するのが復号である。各量子ビットが独立に確率 ε<1/2\varepsilon <1/2 で反転するとき、重み ww の誤りの確率は εw(1−ε)n−w\varepsilon ^w(1-\varepsilon )^{n-w} で、ww が小さいほど起こりやすい。そこで、欠陥を2つずつ組にし(左右の境界と組にしてもよい)、組ごとに結ぶ最短の鎖の長さの和が最小になる組み方を選ぶ。これを最小重みの完全マッチング(MWPM)と呼び、グラフの最小重みの完全マッチングを多項式時間で解く Edmonds のアルゴリズムで計算することができる。

図 6.5.3 は、回転した表面符号に独立なビット反転だけを当て、シンドロームの測定は誤らないとして、最小重みの復号の論理誤りの確率をモンテカルロで求めたものである(各点 2×1052\times10^5 回。復号は、シンドロームごとに重み最小の誤りをあらかじめ表にしておく方法で行った。重み最小の鎖を選ぶ点で MWPM と同じ復号である。計算は検算のスクリプトにある)。ε=0.03\varepsilon =0.03 では d=3,5,7d=3,5,7 と距離を上げるにつれ論理誤りが 1.4×10−21.4\times10^{-2}、6.3×10−36.3\times10^{-3}、2.8×10−32.8\times10^{-3} と下がり、ε=0.15\varepsilon =0.15 では逆に 0.220.22、0.260.26、0.290.29 と上がる。線が交わるあたりがしきい値で、dd をもっと大きくすると交点は 10.3% に近づく(Wang–Harrington–Preskill)。

図

図 6.5.3 回転した表面符号の論理誤りの確率(独立なビット反転・測定の誤りなし・最小重みの復号、モンテカルロ各 2×1052\times10^5 回)。しきい値より左では距離を上げるほど下がり、右では上がる。縦の点線は大きな dd の極限の MWPM のしきい値 10.3%。

統計力学への写像

最小重みの復号は最も確からしい1本の鎖を選ぶが、本当に知りたいのは、観測した欠陥と両立する鎖を論理演算子の類(XLX_{\mathrm L} を含むか含まないか)ごとにまとめた確率のどちらが大きいかである。類 cc の確率は、ある代表 EcE_c に XX 型の生成元の積 SS を掛けたすべての鎖の和

P(c)=∑Sε∣EcS∣(1−ε)n−∣EcS∣∝∑Sexp⁡(−∣EcS∣ln⁡1−εε)(6.5.5)P(c)=\sum_{S}\varepsilon ^{\lvert E_cS\rvert }(1-\varepsilon )^{n-\lvert E_cS\rvert }\propto\sum_{S}\exp\Bigl(-\lvert E_cS\rvert \ln\frac{1-\varepsilon }{\varepsilon }\Bigr)\tag{6.5.5}

で、∣⋅∣\lvert \cdot\rvert は重み(反転した量子ビットの数)である。生成元の積 SS を、生成元1つごとに Ising スピン σ=±1\sigma=\pm1 を置いて表すと、和は Ising 模型の分配関数の形になる。誤りの鎖 EcE_c は結合定数の符号を反転させる場所として現れ、e−2βJ=ε/(1−ε)\mathrm{e}^{-2\beta J}=\varepsilon /(1-\varepsilon ) と温度を誤りの確率で決めたランダムボンド Ising 模型が出てくる。温度と乱れの強さの間にこの関係がある線を西森線と呼ぶ。Dennis–Kitaev–Landahl–Preskill はこの写像を示し1E. Dennis, A. Kitaev, A. Landahl and J. Preskill (2002), J. Math. Phys. 43, 4452。下の脚注へ、最適な復号のしきい値が、西森線の上で強磁性の秩序が消える点に一致することを明らかにした。誤りが少なければ、異なる類の確率の比が dd とともに指数的に 00 に向かい(秩序相)、誤りが多ければ比が 11 に近づいて類を見分けられなくなる(無秩序相)。

しきい値の数値

しきい値は雑音の模型と復号の方法で大きく変わる。原論文の値を並べると次のとおりである。

  • 独立なビット反転・測定は誤らない・最適な復号:εth≈10.94%\varepsilon _{\mathrm{th}}\approx10.94\%。ランダムボンド Ising 模型の西森点 pc=0.1094(2)p_c=0.1094(2)(Honecker–Picco–Pujol2A. Honecker, M. Picco and P. Pujol (2001), Phys. Rev. Lett. 87, 047201。下の脚注へ)。
  • 同じ雑音で MWPM:10.31%10.31\%(零温度のランダムボンド Ising 模型の臨界濃度 0.1031±0.00010.1031\pm0.0001)。
  • シンドロームの測定も確率 ε\varepsilon で誤る(現象論的な雑音)・MWPM:2.93%2.93\%(0.0293±0.00020.0293\pm0.0002。以上2つは Wang–Harrington–Preskill3C. Wang, J. Harrington and J. Preskill (2003), Ann. Phys. 303, 31。下の脚注へ)。
  • 準備・ゲート・待機・測定のすべての場所が誤る回路の雑音:約 0.75%0.75\%(Raussendorf–Harrington4R. Raussendorf and J. Harrington (2007), Phys. Rev. Lett. 98, 190504。下の脚注へ)。

数値が下がる理由は、誤る場所が増えるからである。測定が誤ると、欠陥が空間だけでなく時間の方向にも現れ、復号は3次元の格子のマッチングになる(統計力学の側では3次元のランダムな Z2\mathbb{Z}_2 ゲージ理論)。回路の雑音ではさらに、1回の周期で1つのデータの量子ビットに4本の CNOT が当たり、例題 6.5.1 の型の誤りの広がりも起こる。0.75% は連結符号の厳密な下界 2.73×10−52.73\times10^{-5} よりずっと大きく、表面符号が実験で主に使われるようになった最大の理由はこの値の大きさと、平面の最近接の結合だけで作れることである。

しきい値より十分下では、論理誤りは

εL(d)≈A(εεth)(d+1)/2,Λ≔εL(d)εL(d+2)≈εthε(6.5.6)\varepsilon _{\mathrm L}(d)\approx A\Bigl(\frac{\varepsilon }{\varepsilon _{\mathrm{th}}}\Bigr)^{(d+1)/2},\qquad \Lambda\coloneqq\frac{\varepsilon _{\mathrm L}(d)}{\varepsilon _{\mathrm L}(d+2)}\approx\frac{\varepsilon _{\mathrm{th}}}{\varepsilon }\tag{6.5.6}

の形で振る舞う。dd を2つ上げるごとに論理誤りが Λ\Lambda 分の1になり、Λ>1\Lambda>1 がしきい値の下にいることの実験上の判定になる。Google Quantum AI のグループは超伝導量子ビットのチップで、d=3,5,7d=3,5,7 の表面符号の記憶を動かし、Λ=2.14±0.02\Lambda=2.14\pm0.02、d=7d=7(101量子ビット)で1周期あたりの論理誤り (0.143±0.003)%(0.143\pm0.003)\% を報告した5Google Quantum AI and Collaborators (2025), Nature 638, 920。下の脚注へ。距離を上げるほど論理誤りが下がることが実験で示されたのは、これが最初の明確な例である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの ε/εth\varepsilon /\varepsilon _{\mathrm{th}}(dd を固定して ε→0\varepsilon \to0) | 証明 条件付き(dd を固定した ε→0\varepsilon \to0 の主要項 ∝ε(d+1)/2\propto\varepsilon ^{(d+1)/2} は誤りの数え上げで厳密。ε/εth\varepsilon /\varepsilon _{\mathrm{th}} の形と係数 AA は数値の当てはめで、要確認) | 行き先 近似の数理 第1章

例題 6.5.4 実験の Λ\Lambda から必要な距離を見積もる ★★

オリジナルd=7d=7 の表面符号の1周期あたりの論理誤りが εL(7)=0.143%\varepsilon _{\mathrm L}(7)=0.143\%、Λ=2.14\Lambda=2.14 であったとし、式 (6.5.6) が大きい dd でも成り立つと仮定する。

  1. (1) d=9d=9 と d=11d=11 の論理誤りを見積もれ。
  2. (2) 1周期あたりの論理誤りを 10−610^{-6} 以下にするのに要る最小の dd と、そのときの量子ビットの数(データと補助を合わせて 2d2−12d^2-1)を求めよ。
  3. (3) この実験の物理的な誤りはしきい値の何割程度と読めるか。Λ\Lambda を 4 にできたら (2) の dd はいくつになるか。
解答

(1) εL(9)=0.143%/2.14=0.0668%\varepsilon _{\mathrm L}(9)=0.143\%/2.14=0.0668\%、εL(11)=0.143%/2.142=0.0312%\varepsilon _{\mathrm L}(11)=0.143\%/2.14^2=0.0312\%。

(2) εL(7) Λ−(d−7)/2≤10−6\varepsilon _{\mathrm L}(7)\,\Lambda^{-(d-7)/2}\le10^{-6} から (d−7)/2≥ln⁡(1.43×10−3/10−6)/ln⁡2.14=7.265/0.7608=9.55(d-7)/2\ge\ln(1.43\times10^{-3}/10^{-6})/\ln2.14=7.265/0.7608=9.55。整数で (d−7)/2=10(d-7)/2=10、d=27d=27。量子ビットは 2×272−1=14572\times27^2-1=1457 個で、実験の d=7d=7 のチップの101個の約14倍である。

(3) 式 (6.5.6) から ε/εth≈1/Λ=0.467\varepsilon /\varepsilon _{\mathrm{th}}\approx1/\Lambda=0.467 で、しきい値の半分弱である。Λ=4\Lambda=4 なら (d−7)/2≥7.265/ln⁡4=5.24(d-7)/2\ge7.265/\ln4=5.24 で (d−7)/2=6(d-7)/2=6、d=19d=19 となり、量子ビットは 2×192−1=7212\times19^2-1=721 個で済む。Λ\Lambda を 2.14 から 4 にすること、すなわち物理的な誤りをおよそ半分にすることで、要る量子ビットはおよそ半分になる。第6部第3章の RSA の因数分解の資源の見積もりが数十万から数千万の物理量子ビットになるのは、論理量子ビット1つあたりにこの程度の数が要り、論理量子ビットをさらに多数並べるからである。

ほかの巻では

1 E. Dennis, A. Kitaev, A. Landahl and J. Preskill (2002), J. Math. Phys. 43, 4452。

2 A. Honecker, M. Picco and P. Pujol (2001), Phys. Rev. Lett. 87, 047201。

3 C. Wang, J. Harrington and J. Preskill (2003), Ann. Phys. 303, 31。

4 R. Raussendorf and J. Harrington (2007), Phys. Rev. Lett. 98, 190504。

5 Google Quantum AI and Collaborators (2025), Nature 638, 920。

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