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出てくるもの (1):Bekenstein 上限は相対エントロピーの非負性

2026年10月15日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第1章 ブラックホールの熱力学を情報で読む
目次
  1. Casini の上限
  2. 上限が厳しくなるのはいつか
  3. 蒸発の残骸に情報をしまえるか
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第1章 §7.1.3 ★★★ Casini の形 ΔS≤ΔK\Delta S\le\Delta K は、発散も種の数の問題も持たない Bekenstein 上限の厳密な言い方になる

Casini の上限

式 (7.1.9) に Bisognano–Wichmann の形 (7.1.6) を入れると

ΔS≤ΔK=2πℏc∫x>0x Δ⟨T^00(x)⟩ d3x(7.1.12)\Delta S\le\Delta K=\frac{2\pi}{\hbar c}\int_{x>0}x\,\Delta\langle \hat T_{00}(\bm{x}) \rangle \,\mathrm{d}^3x\tag{7.1.12}

を得る。Δ⟨T^00⟩\Delta\langle \hat T_{00} \rangle は今の状態と真空のエネルギー密度の差である。物体(箱)が Rindler の楔の端(x=0x=0)から x≤Rx\le R の範囲にあり、そのエネルギー密度が正なら、右辺は 2πℏcRE\frac{2\pi}{\hbar c}RE 以下になり、Bekenstein の形 (7.1.3) を得る(両辺に kBk_{\mathrm B} を掛ける)。H. Casini(2008)はこの形を提案し、それが Bekenstein の上限の厳密な述べ方であることを論じた1H. Casini (2008), Class. Quantum Grav. 25, 205021.下の脚注へ。

Bekenstein の元の形 (7.1.3) には、長く指摘されてきた問題が2つあった。1つは、箱の「エントロピー」と「大きさ」の定義が曖昧なこと。もう1つは種の数の問題で、場の種類を NN 倍に増やすと、同じエネルギーで ln⁡N\ln N に比例して多くの状態を詰め込めるので、上限が破れるように見えることである。Casini の形 (7.1.12) はどちらも持たない。ΔS\Delta S と ΔK\Delta K は両方とも真空からの差で定義されているので曖昧さがない。種の数を増やすと真空 σ^V\hat\sigma_V 自身のもつれも増え、真空からの差としての ΔS\Delta S は増えない。しかも不等式は Klein の不等式という数学の定理なので、証明に重力も一般化第二法則も要らない。

Bekenstein 上限の2つの読み方

重力の側から読むと、上限 (7.1.3) は一般化第二法則が破れないために物質が満たすべき条件である(7.1.1 節)。情報の側から読むと、上限 (7.1.12) は、真空を「温度 T(x)=ℏc/(2πkBx)T(x)=\hbar c/(2\pi k_{\mathrm B}x) の熱浴」とみたときの非平衡の自由エネルギーが真空で最小になる、という Gibbs の変分原理である。後者は前者より強く、前者を含む。逆に言えば、重力が無い世界でも、一般化第二法則が要求する上限は場の量子論によってすでに保証されている。

上限が厳しくなるのはいつか

古典の熱力学の系では、上限 (7.1.3) はほとんど満たされている(例題 7.1.1)。上限に近づくのは、エネルギーあたりのエントロピーが大きい系、つまり低温の放射である。半径 RR の球に閉じ込めた温度 TT の光子気体では、E=arT4VE=a_{\mathrm r}T^4V、S=43arT3VS=\frac43a_{\mathrm r}T^3V(ar=4σSB/ca_{\mathrm r}=4\sigma_{\mathrm{SB}}/c、V=43πR3V=\frac43\pi R^3)なので

S2πkBER/(ℏc)=4E/(3T)2πkBER/(ℏc)=2ℏc3πkBTR(7.1.13)\frac{S}{2\pi k_{\mathrm B}ER/(\hbar c)}=\frac{4E/(3T)}{2\pi k_{\mathrm B}ER/(\hbar c)}=\frac{2\hbar c}{3\pi k_{\mathrm B}TR}\tag{7.1.13}

である。TT を下げると比は大きくなり、kBTR/(ℏc)<2/(3π)k_{\mathrm B}TR/(\hbar c)<2/(3\pi) で1を超える。しかしそのとき熱放射の典型的な波長 2πℏc/(2.82kBT)2\pi\hbar c/(2.82k_{\mathrm B}T) は箱の大きさ RR の約 10 倍になり、箱の中に収まるモードはほとんど無い。EE と SS の連続の式(黒体放射の式)が成り立たない領域で上限が破れたように見えただけで、箱のモードを正しく数えれば上限は保たれる。Casini の形では、この「箱に収まらない長い波長」の寄与は真空からの差 ΔS\Delta S に自動的に入っている。

蒸発の残骸に情報をしまえるか

上限 (7.1.3) は、情報喪失のパラドックス(第7部第2章の 7.2.5 節)の3つの立場のうち「情報は蒸発の最後に残る小さな残骸にしまわれる」という立場にも制約をかける。蒸発が Planck の質量 mP=ℏc/Gm_{\mathrm P}=\sqrt{\hbar c/G} の程度で止まり、大きさ ℓP\ell_{\mathrm P} の残骸が残るとすると、E=mPc2E=m_{\mathrm P}c^2、R=ℓPR=\ell_{\mathrm P} でmPc2ℓP=ℏcm_{\mathrm P}c^2\ell_{\mathrm P}=\hbar c なので

S残骸kB≤2πmPc2ℓPℏc=2π(7.1.14)\frac{S_{\text{残骸}}}{k_{\mathrm B}}\le\frac{2\pi m_{\mathrm P}c^2\ell_{\mathrm P}}{\hbar c}=2\pi\tag{7.1.14}

になる。残骸がしまえる情報は高々 2π2\pi nat(約 9 ビット)で、太陽質量のブラックホールが初めに持っていた SBH/kB≈1077S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}\approx10^{77} には遠く及ばない。ただしこの議論は、残骸の「大きさ」を外から見た半径 RR で測ってよいことを仮定している。外からは小さく見えても内側に広い空間を持つ残骸を考えると、上限の RR の意味が変わり、この議論だけでは残骸の立場を退けられない。

例題 7.1.4 1 ビットを蓄えるのに必要な大きさ ★★

オリジナル平坦な時空の Rindler の楔の端から距離 xx の所に、波長 λ\lambda の光子を1個置いて情報を蓄える。

  1. 式 (7.1.6) の局所の温度 T(x)T(x) を、x=1 mx=1\,\mathrm m で求めよ。
  2. 光子のエネルギーを E=2πℏc/λE=2\pi\hbar c/\lambda、光子の大きさを無視して ΔK=2πxE/(ℏc)\Delta K=2\pi xE/(\hbar c) とする。ΔS=ln⁡2\Delta S=\ln2(1 ビット)を蓄えるのに必要な x/λx/\lambda の下限を求めよ。
    1. の結果を「物体の大きさ」の言葉で言い直せ。
解答
  1. T(x)=ℏc/(2πkBx)T(x)=\hbar c/(2\pi k_{\mathrm B}x) に ℏc/kB=2.290×10−3 m K\hbar c/k_{\mathrm B}=2.290\times10^{-3}\,\mathrm{m\,K} を入れて、x=1 mx=1\,\mathrm m で T=3.64×10−4 KT=3.64\times10^{-4}\,\mathrm K。加速度 c2/x=9.0×1016 m s−2c^2/x=9.0\times10^{16}\,\mathrm{m\,s^{-2}} で止まっている観測者の Unruh 温度である。

  2. ΔK=2πxℏc⋅2πℏcλ=4π2xλ\Delta K=\frac{2\pi x}{\hbar c}\cdot\frac{2\pi\hbar c}{\lambda}=4\pi^2\frac{x}{\lambda}。式 (7.1.9) から ln⁡2≤4π2x/λ\ln2\le4\pi^2x/\lambda、すなわちx/λ≥ln⁡2/(4π2)=0.0176≈1/57x/\lambda\ge\ln2/(4\pi^2)=0.0176\approx1/57。

  3. 光子を楔の端から xx 以内に置くことは、大きさ R≈xR\approx x の物体に閉じ込めることにあたる。1 ビットを1個の光子で蓄えるには、物体の大きさが少なくとも波長の 1/571/57 程度は要る。逆に、決まった大きさの物体に1個の光子で1ビットを持たせるには、波長を 57R57R より短く、つまりエネルギーを 2πℏc/(57R)2\pi\hbar c/(57R) 以上にしなければならない。エネルギーを使わずに小さな物に情報を詰め込むことはできない。

1 H. Casini (2008), Class. Quantum Grav. 25, 205021.

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