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比べる2つの状態:外に制限した状態と真空

2026年10月15日14分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第1章 ブラックホールの熱力学を情報で読む
目次
  1. Bekenstein の思考実験
  2. 外に制限した状態と真空
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第1章 §7.1.1 ★★★ Bekenstein の思考実験が一般化第二法則を要求し、それを確かめる道具として「領域に制限した状態と真空の相対エントロピー」が選ばれる

ブラックホールに物を投げ込むと、その物が持っていたエントロピーは外の世界から見えなくなる。外の世界のエントロピーだけを数えれば、第二法則は簡単に破れてしまう。J. D. Bekenstein はこの事態を避けるため、ブラックホール自身が地平面の面積に比例するエントロピーを持ち、それと外のエントロピーの和が減らない、という一般化第二法則を提案した。解析力学から様々な理論分野を組み立てるの第2部第19章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第19章)では、ブラックホール力学の4法則が熱力学の4法則と同じ形をしていることを見た。同じ巻の第5部第12章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)では、地平面の近くの場の量子論からHawking 温度 TH=ℏκ/(2πckB)T_{\mathrm H}=\hbar\kappa/(2\pi ck_{\mathrm B}) と Bekenstein–Hawking エントロピー SBH=kBc3A/(4Gℏ)S_{\mathrm{BH}}=k_{\mathrm B}c^3A/(4G\hbar) を導いた。そこで残った問いは2つある。一般化第二法則は本当に成り立つのか、そして SBHS_{\mathrm{BH}} は何を数えているのか、である。

この章では、この2つの問いをこの巻の背骨である相対エントロピーで読む。比べる2つの状態は、ある領域(地平面の外)に制限した場の状態 ρ^V\hat\rho_V と、同じ領域に制限した真空 σ^V\hat\sigma_V である。真空を領域に制限すると、その領域の境界の近くで熱的な状態になり、その「温度」を決める演算子(モジュラー Hamiltonian K^V=−ln⁡σ^V\hat K_V=-\ln\hat\sigma_V)は、境界からの距離で重みを付けたエネルギーになる。当てる性質は2つで、1つ目は非負性 D(ρ^V ∥ σ^V)≥0D(\hat\rho_V\,\|\,\hat\sigma_V)\ge0、2つ目は単調性(領域を狭めると DD が増えない=データ処理不等式)である。

出てくるものは3つある。1つ目は、非負性を書き直した ΔS≤ΔK\Delta S\le\Delta K から出る Bekenstein 上限(大きさ RR、エネルギー EE の物体のエントロピーは2πkBER/(ℏc)2\pi k_{\mathrm B}ER/(\hbar c) を超えない)で、H. Casini(2008)がこの形で厳密に述べ直した。2つ目は、単調性に Einstein 方程式(Raychaudhuri の方程式)を組み合わせて出る一般化第二法則で、A. C. Wall(2012)の証明の骨格をたどる。3つ目は、地平面をまたぐ場のもつれが面積に比例するエントロピーを持つことで、SBHS_{\mathrm{BH}} が何を数えているかについての1つの答え(エンタングルメント・エントロピー)とその限界を、数値で確かめながら述べる。最後に、熱力学の授業で習う Clausius の不等式・熱浴との接触・熱容量の符号の形と、この章の形を並べる。

この章の対数は自然対数で、情報量の単位は nat とする。von Neumann エントロピー S(ρ^)S(\hat\rho) は無次元、熱力学のエントロピー(SBHS_{\mathrm{BH}} など)はkBk_{\mathrm B} 込みで単位は J/K である。作用は出てこないので、SS は常にエントロピーを指す。地平面の面積を AA と書くので、領域には AA を使わず VV、V′V' と書く。Planck 長を ℓP=Gℏ/c3=1.616×10−35 m\ell_{\mathrm P}=\sqrt{G\hbar/c^3}=1.616\times10^{-35}\,\mathrm{m} とすると SBH=kBA/(4ℓP2)S_{\mathrm{BH}}=k_{\mathrm B}A/(4\ell_{\mathrm P}^2) である。計量の流儀は (+,−,−,−)(+,-,-,-)(この本の流儀)だが、この章では計量の成分を直接使う計算はほとんど出てこない。

Bekenstein の思考実験

Schwarzschild のブラックホール(質量 MM)に、エントロピー S箱S_{\text{箱}} を持つ箱を落とす状況を考える。箱が地平面を越えると、外の観測者は箱の中身を二度と調べられない。外の世界にある物質のエントロピー S外S_{\text{外}} だけを数えると S外S_{\text{外}} は S箱S_{\text{箱}} だけ減り、しかも箱の中身は任意に選べるので、熱力学の第二法則が破れたように見える。

Bekenstein(1973)は、ブラックホールのエントロピーを地平面の面積に比例する量として持たせ、和

Sgen≔SBH+S外,SBH=kBc3A4Gℏ=kBA4ℓP2(7.1.1)S_{\mathrm{gen}}\coloneqq S_{\mathrm{BH}}+S_{\text{外}},\qquad S_{\mathrm{BH}}=\frac{k_{\mathrm B}c^3A}{4G\hbar}=\frac{k_{\mathrm B}A}{4\ell_{\mathrm P}^2}\tag{7.1.1}

が減らないことを第二法則の正しい姿として提案した1J. D. Bekenstein (1973), Phys. Rev. D 7, 2333; J. D. Bekenstein (1974), Phys. Rev. D 9, 3292。比例係数 1/41/4 は Hawking 放射の温度(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)で後から決まった。下の脚注へ。SgenS_{\mathrm{gen}} を一般化エントロピーと呼ぶ。古典の一般相対論には面積定理(Hawking 1971)があり、正のエネルギーの物が落ちる限り AA は減らない(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第19章)。しかし面積が増えたことと、その増え方が S箱S_{\text{箱}} を埋め合わせるのに足りることは別の主張である。

足りるかどうかを調べるために、ブラックホールが受け取るエネルギーをできるだけ小さくする落とし方を考える。第一法則c2δM=κc28πGδAc^2\delta M=\frac{\kappa c^2}{8\pi G}\delta A(回転していない場合)によれば、面積の増え方は、遠方で測ったエネルギー c2δMc^2\delta M に比例する。箱を遠方から自由に落とすと、箱の静止エネルギー EE がそのまま c2δM=Ec^2\delta M=E になる。ところが、箱を綱でゆっくり地平面の近くまで下ろしてから放すと、重力赤方偏移のために遠方で測ったエネルギーが小さくなる。地平面の近くの時空は加速度 κ\kappa の Rindler 時空で書け(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第17章)、地平面から固有の距離 ϱ\varrho の所の赤方偏移の因子は g00≈κϱ/c2\sqrt{g_{00}}\approx\kappa\varrho/c^2 である。箱の大きさを RR とすると、箱の重心は地平面から少なくとも RR の所にしか下ろせないので、ブラックホールが受け取るエネルギーは最小でc2δM=E κR/c2c^2\delta M=E\,\kappa R/c^2 になる。第一法則に入れると

δA=8πGκc2⋅EκRc2=8πGERc4,ΔSBH=kB δA4ℓP2=2πkBERℏc(7.1.2)\delta A=\frac{8\pi G}{\kappa c^2}\cdot\frac{E\kappa R}{c^2}=\frac{8\pi GER}{c^4},\qquad \Delta S_{\mathrm{BH}}=\frac{k_{\mathrm B}\,\delta A}{4\ell_{\mathrm P}^2}=\frac{2\pi k_{\mathrm B}ER}{\hbar c}\tag{7.1.2}

を得る。表面重力 κ\kappa が打ち消し合うので、この最小の増え方はブラックホールの質量によらず、箱の EE と RR だけで決まる。一般化第二法則が成り立つためには S箱≤ΔSBHS_{\text{箱}}\le\Delta S_{\mathrm{BH}} でなければならず、

S箱≤2πkBERℏc(7.1.3)S_{\text{箱}}\le\frac{2\pi k_{\mathrm B}ER}{\hbar c}\tag{7.1.3}

が要る。これが Bekenstein 上限である2J. D. Bekenstein (1981), Phys. Rev. D 23, 287.下の脚注へ。重力定数 GG が式から消えていることに注意する。上限はブラックホールを使って導いたが、結果は重力のない平坦な時空の物体についての主張になっている。

図

図 7.1.1 地平面の近くを Rindler 時空で書いた図。灰色の楔が外の領域 VV で、点線が地平面、青い双曲線が一定の加速度で止まっている観測者の世界線。箱(赤)は大きさ RR を持つので、重心を地平面から RR 程度より近くへは下ろせない。式 (7.1.2) の最小値はこの制約から出る

例題 7.1.1 1 kg を太陽質量のブラックホールに落とす ★★

オリジナル太陽質量 M⊙M_\odot の Schwarzschild ブラックホール(TH=6.17×10−8 KT_{\mathrm H}=6.17\times10^{-8}\,\mathrm K、SBH/kB=1.05×1077S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=1.05\times10^{77})に、質量 1 kg、大きさ R=0.1 mR=0.1\,\mathrm m の箱を落とす。

  1. 箱を遠方から自由に落とすときの ΔSBH/kB\Delta S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B} を求めよ。
  2. 箱を地平面の近くまで下ろしてから放すときの最小の ΔSBH/kB\Delta S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B} を求め、1. と比べよ。
  3. 箱の中身が 1 kg の水だとし、そのエントロピーを 4×103 J/K4\times10^{3}\,\mathrm{J/K} 程度とする。一般化第二法則は危ないか。
解答
  1. 遠方から落とすと c2δM=E=mc2=8.99×1016 Jc^2\delta M=E=mc^2=8.99\times10^{16}\,\mathrm J である。第一法則 dSBH=c2dM/TH\mathrm{d} S_{\mathrm{BH}}=c^2\mathrm{d} M/T_{\mathrm H} からΔSBH/kB=E/(kBTH)\Delta S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=E/(k_{\mathrm B}T_{\mathrm H})。kBTH=8.52×10−31 Jk_{\mathrm B}T_{\mathrm H}=8.52\times10^{-31}\,\mathrm J なのでΔSBH/kB=1.055×1047\Delta S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=1.055\times10^{47} になる。SBH=4πGkBM2/(ℏc)S_{\mathrm{BH}}=4\pi Gk_{\mathrm B}M^2/(\hbar c) を MM で微分した 8πGMδM/(ℏc)8\pi GM\delta M/(\hbar c) でも同じ値が出る。

  2. 式 (7.1.2) から ΔSBH/kB=2πER/(ℏc)=2π×8.99×1016×0.1/(3.16×10−26)=1.79×1042\Delta S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=2\pi ER/(\hbar c)=2\pi\times8.99\times10^{16}\times0.1/(3.16\times10^{-26})=1.79\times10^{42}。

  3. より5桁ほど小さい。下ろしている間に、箱のエネルギーの大部分は綱を通して遠方へ仕事として取り出されているからである。

  4. 水のエントロピーは S/kB≈4×103/(1.38×10−23)≈3×1026S/k_{\mathrm B}\approx4\times10^3/(1.38\times10^{-23})\approx3\times10^{26} で、2. の 1.79×10421.79\times10^{42} より 16 桁小さい。日常の物体では一般化第二法則は少しも危なくない。上限 (7.1.3) が問題になるのは、エネルギーに比べてエントロピーが極端に多い系(低温の放射など。7.1.3 節)だけである。

外に制限した状態と真空

思考実験は、箱という古典的な物を相手にしている。場の量子論で同じことを考えるには、「外の世界のエントロピー」を正確に定義しなければならない。時刻一定の面を地平面で2つに分け、外側を VV、内側を Vˉ\bar V とする。全体の状態 ρ^\hat\rho を VV に制限した(Vˉ\bar V について部分トレースを取った)ものをρ^V=Tr⁡Vˉρ^\hat\rho_V=\operatorname{Tr}_{\bar V}\hat\rho と書く。外のエントロピーは S(ρ^V)S(\hat\rho_V) であるが、ここに困難がある。真空のような純粋状態でさえ、VV と Vˉ\bar V は境界の近くで強くもつれているので、S(ρ^V)S(\hat\rho_V) は境界の面積に比例して発散する(第5部第1章の面積則の連続版。7.1.5 節で数値で確かめる)。発散するのは境界のすぐ近くの短い波長のもつれで、箱の中身とは関係がない。

そこで、真空 ∣0⟩| 0 \rangle を同じ領域に制限した σ^V=Tr⁡Vˉ∣0⟩⟨0∣\hat\sigma_V=\operatorname{Tr}_{\bar V}| 0 \rangle \langle 0 | を基準に取り、差を見る。比べる2つの状態は

ρ^V (今の状態を V に制限したもの)とσ^V (真空を V に制限したもの)(7.1.4)\hat\rho_V\ (\text{今の状態を }V\text{ に制限したもの})\qquad\text{と}\qquad\hat\sigma_V\ (\text{真空を }V\text{ に制限したもの})\tag{7.1.4}

である。σ^V\hat\sigma_V は全体の純粋状態の一部なので、それ自身は混合状態である。正定値なので、ある自己共役演算子 K^V\hat K_V を使って

σ^V=e−K^VTr⁡e−K^V(7.1.5)\hat\sigma_V=\frac{\mathrm{e}^{-\hat K_V}}{\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\hat K_V}}\tag{7.1.5}

と書ける。K^V\hat K_V を領域 VV のモジュラー Hamiltonian と呼ぶ(定数の分の任意性は差を取るので消える)。式 (7.1.5) は、σ^V\hat\sigma_V が「Hamiltonian K^V\hat K_V、温度 1」の Gibbs 状態であることを言っている。K^V\hat K_V は一般にはどの物理量とも結びつかない複雑な演算子だが、平坦な時空の Rindler の楔(x>0x>0 の半空間)についてはJ. J. Bisognano と E. H. Wichmann(1976)が具体的な形を求めた3J. J. Bisognano, E. H. Wichmann (1976), J. Math. Phys. 17, 303.下の脚注へ:

K^V=2πℏc∫x>0x T^00(x) d3x+定数.(7.1.6)\hat K_V=\frac{2\pi}{\hbar c}\int_{x>0}x\,\hat T_{00}(\bm{x})\,\mathrm{d}^3x+\text{定数}.\tag{7.1.6}

T^00\hat T_{00} はエネルギー密度の演算子である。式 (7.1.6) は、場所 xx ごとに逆温度 β(x)=2πx/(ℏc)\beta(x)=2\pi x/(\hbar c) を掛けたエネルギーの和になっている。kBT(x)=ℏc/(2πx)k_{\mathrm B}T(x)=\hbar c/(2\pi x) は、加速度 a=c2/xa=c^2/x で止まっている観測者の Unruh 温度 ℏa/(2πc)\hbar a/(2\pi c) そのものである(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章で、Minkowski 真空が Rindler の楔の熱状態に見えることを Bogoliubov 変換で示した)。境界(地平面)に近づくほど温度が高く、境界で発散する。S(σ^V)S(\hat\sigma_V) が発散する理由もここにある。

外のエントロピーと外のエネルギーを、真空からの差で定義し直す:

ΔS≔S(ρ^V)−S(σ^V),ΔK≔Tr⁡(ρ^VK^V)−Tr⁡(σ^VK^V).(7.1.7)\Delta S\coloneqq S(\hat\rho_V)-S(\hat\sigma_V),\qquad \Delta K\coloneqq\operatorname{Tr}(\hat\rho_V\hat K_V)-\operatorname{Tr}(\hat\sigma_V\hat K_V).\tag{7.1.7}

どちらも境界の近くの発散が打ち消し合い、有限になる(場の状態が境界の近くで真空と同じ形をしている限り)。ΔS\Delta S は「箱を置いたことで増えた外のエントロピー」の正確な定義で、Bekenstein の S箱S_{\text{箱}} の量子版にあたる。ΔK\Delta K は、境界からの距離で重みを付けたエネルギーである。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの R/rs→0R/r_{\mathrm s}\to0、E/(Mc2)→0E/(Mc^2)\to0(箱がブラックホールに比べて小さく軽い。地平面の近くを Rindler 時空とみなし、箱の重力を無視する) | 証明 要確認(Rindler への置き換えの誤差は (ϱ/rs)2(\varrho/r_{\mathrm s})^2 で第2部第17章が評価した。箱の重力と綱の張力の扱いは原論文で前提を確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章

1 J. D. Bekenstein (1973), Phys. Rev. D 7, 2333; J. D. Bekenstein (1974), Phys. Rev. D 9, 3292。比例係数 1/41/4 は Hawking 放射の温度(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)で後から決まった。

2 J. D. Bekenstein (1981), Phys. Rev. D 23, 287.

3 J. J. Bisognano, E. H. Wichmann (1976), J. Math. Phys. 17, 303.

木下の勉強ステータス

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