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出てくるもの (3):SBHS_{\mathrm{BH}} は何を数えているか

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第1章 ブラックホールの熱力学を情報で読む
目次
  1. もつれのエントロピーは面積に比例する
  2. 係数と重力定数のくりこみ
  3. 第三法則と縮退
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第1章 §7.1.5 ★★ 地平面をまたぐ場のもつれは面積に比例するが係数は短い距離の切断で決まり、その切断依存が重力定数のくりこみと組になって SgenS_{\mathrm{gen}} を有限にする

もつれのエントロピーは面積に比例する

7.1.1 節で、真空を領域 VV に制限した S(σ^V)S(\hat\sigma_V) が境界の面積に比例して発散すると述べた。これを具体的に確かめる。L. Bombelli らは、ブラックホールの内側の場の自由度について部分トレースを取った外の状態のエントロピーを考え1L. Bombelli, R. K. Koul, J. Lee, R. D. Sorkin (1986), Phys. Rev. D 34, 373.下の脚注へ、M. Srednicki は平坦な時空の質量のないスカラー場について、半径 RR の球の内側を部分トレースしたエントロピーが球の体積でなく面積に比例することを数値で示した2M. Srednicki (1993), Phys. Rev. Lett. 71, 666.下の脚注へ。

計算の方法を述べる。スカラー場を球面調和関数で (l,m)(l,m) に分け、動径方向を間隔 aa の NN 個の点に離散化すると、各 (l,m)(l,m) は NN 個の結合した調和振動子になる:

H^lm=12a∑j=1N[π^j2+(j+12)2(ϕ^jj−ϕ^j+1j+1)2+l(l+1)j2ϕ^j2](ϕ^N+1=0).(7.1.21)\hat H_{lm}=\frac{1}{2a}\sum_{j=1}^{N}\Bigl[\hat\pi_{j}^2+\Bigl(j+\frac12\Bigr)^2\Bigl(\frac{\hat\phi_{j}}{j}-\frac{\hat\phi_{j+1}}{j+1}\Bigr)^2+\frac{l(l+1)}{j^2}\hat\phi_{j}^2\Bigr] \qquad(\hat\phi_{N+1}=0).\tag{7.1.21}

ϕ^j\hat\phi_j は半径 jaja の球面上の場の (l,m)(l,m) 成分を無次元にしたもので、π^j\hat\pi_j はその共役運動量である。H^lm=12a(π^Tπ^+ϕ^TKlϕ^)\hat H_{lm}=\frac{1}{2a}(\hat{\bm{\pi}}^{\mathsf T}\hat{\bm{\pi}}+\hat{\bm{\phi}}^{\mathsf T}\mathsf K_l\hat{\bm{\phi}}) と書くと、基底状態は Gauss 型で、その相関は ⟨ϕ^iϕ^j⟩=12(Kl−1/2)ij\langle \hat\phi_i\hat\phi_j \rangle =\frac12(\mathsf K_l^{-1/2})_{ij}、⟨π^iπ^j⟩=12(Kl1/2)ij\langle \hat\pi_i\hat\pi_j \rangle =\frac12(\mathsf K_l^{1/2})_{ij} で決まる。内側の nn 点に制限した状態も Gauss 型で、その2つの相関行列の積 XnPn\mathsf X_n\mathsf P_n の固有値を νk2\nu_k^2 とすると、エントロピーは

Sl(n)=∑k[(νk+12)ln⁡(νk+12)−(νk−12)ln⁡(νk−12)](7.1.22)S_l(n)=\sum_{k}\Bigl[\Bigl(\nu_k+\tfrac12\Bigr)\ln\Bigl(\nu_k+\tfrac12\Bigr)-\Bigl(\nu_k-\tfrac12\Bigr)\ln\Bigl(\nu_k-\tfrac12\Bigr)\Bigr]\tag{7.1.22}

で与えられる(第5部第1章の相関行列の方法のボソン版。νk≥12\nu_k\ge\frac12 で、νk=12\nu_k=\frac12 のモードはもつれていない)。全体のエントロピーは S(n)=∑l(2l+1)Sl(n)S(n)=\sum_l(2l+1)S_l(n) で、球の半径は R=(n+12)aR=(n+\frac12)a である。N=60N=60、ll を 4000 未満で打ち切って計算すると、n=10n=10 から 3030 まで

S≈0.295 R2a2(7.1.23)S\approx0.295\,\frac{R^2}{a^2}\tag{7.1.23}

の直線に、相対的なずれ 5×10−45\times10^{-4} 以下で乗る(図 7.1.4)。R3R^3 に比例する項は見えない。エントロピーは面積 4πR24\pi R^2 に比例し、係数は格子の間隔 aa(短い距離の切断)に依存して a→0a\to0 で発散する。

図

図 7.1.4 質量のないスカラー場の真空で、半径 RR の球の内側に制限したエントロピー(点、N=60N=60・l<4000l<4000、式 (7.1.21)・(7.1.22) の数値計算)と、それに合わせた直線(赤)。横軸は面積に比例する (R/a)2(R/a)^2。体積 R3R^3 に比例する曲がりは見えない

係数と重力定数のくりこみ

式 (7.1.23) を SBH/kB=A/(4ℓP2)=πR2/ℓP2S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=A/(4\ell_{\mathrm P}^2)=\pi R^2/\ell_{\mathrm P}^2 と見比べると、どちらも面積に比例する。1種類のスカラー場で係数まで合わせるには、0.295/a2=π/ℓP20.295/a^2=\pi/\ell_{\mathrm P}^2、すなわち a=0.307 ℓPa=0.307\,\ell_{\mathrm P} でなければならない。切断を Planck 長の程度に取れば数の桁は合うが、係数は場の種類と切断の取り方で変わり、もつれのエントロピーだけで SBHS_{\mathrm{BH}} を説明したことにはならない。

この切断依存には、もう1つの読み方がある。L. Susskind と J. Uglum は、地平面の外の場のエントロピーの発散が、場の量子補正による重力定数 1/G1/G の発散と同じ形をしていることを指摘した3L. Susskind, J. Uglum (1994), Phys. Rev. D 50, 2700.下の脚注へ。裸の重力定数 G0G_0 による A/(4G0ℏ)A/(4G_0\hbar) と、切断 aa で発散する外のもつれ S外∝A/a2S_{\text{外}}\propto A/a^2 を足した一般化エントロピー SgenS_{\mathrm{gen}} は、くりこまれた重力定数 GG で書いた A/(4Gℏ)A/(4G\hbar) と有限の外のエントロピーの和に書き直せる。切断の取り方は2つの項の配分を変えるだけで、和 SgenS_{\mathrm{gen}} は切断によらない。7.1.4 節で一般化第二法則が SBHS_{\mathrm{BH}} 単独でも S外S_{\text{外}} 単独でもなく和について成り立ったことと、この見方はかみ合っている。

もつれと別の答えもある。A. Strominger と C. Vafa は、超弦理論の5次元の極限ブラックホールのある族について、同じ電荷を持つ束縛状態の数を数え、その対数が A/(4Gℏ)A/(4G\hbar) に一致することを示した4A. Strominger, C. Vafa (1996), Phys. Lett. B 379, 99.下の脚注へ。こちらは SBHS_{\mathrm{BH}} を「ブラックホールの微視的な状態の数の対数」として数えたもので、Boltzmann の S=kBln⁡W(E)S=k_{\mathrm B}\ln W(E) と同じ読み方である。2つの答えがどうつながるかは、第7部第6章のホログラフィーで、エンタングルメント・エントロピーが面積で書ける Ryu–Takayanagi 公式(定理 7.6.3)として再び現れる。

第三法則と縮退

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第19章では、表面重力 κ\kappa を有限回の操作で 0 にできないという形の第三法則を述べた。一方、熱力学の第三法則には「T→0T\to0 でエントロピーが 0 に近づく」という Nernst の形もある。極限 Kerr ブラックホール(a=rg=GM/c2a=r_g=GM/c^2)ではκ=0\kappa=0 なので TH=0T_{\mathrm H}=0 だが、面積は A=8πrg2A=8\pi r_g^2 で有限であり、SBH=2πGkBM2/(ℏc)S_{\mathrm{BH}}=2\pi Gk_{\mathrm B}M^2/(\hbar c) は同じ質量の Schwarzschild の半分残る。Nernst の形は破れている。

情報の側から見ると、これは矛盾ではない。最大エントロピー原理(第2部第1章)で温度 0 の極限を取ると、分布は基底状態の部分空間の一様分布になり、エントロピーは基底状態の縮退度の対数になる。Nernst の形は「基底状態が縮退していない」という物質の性質で、情報の原理から出る法則ではない。極限ブラックホールは eSBH/kB\mathrm{e}^{S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}} 重に縮退した基底状態を持つ系とみなせ、Strominger–Vafa が数えたのはまさに極限ブラックホールの縮退度だった。

例題 7.1.6 もつれの係数と極限ブラックホールのエントロピー ★★

オリジナル

  1. 式 (7.1.23) の係数 0.2950.295 を使い、1種類のスカラー場のもつれのエントロピーが SBH/kBS_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B} と一致する切断 a/ℓPa/\ell_{\mathrm P} を求めよ。場の種類が NfN_{\mathrm f} 個あり、それぞれ同じ係数を持つなら、一致する aa はどう変わるか。
  2. 質量 10M⊙10M_\odot の極限 Kerr ブラックホールの SBH/kBS_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B} を求め、同じ質量の Schwarzschild の値と比べよ。
    1. の極限ブラックホールの基底状態の縮退度 WW を、log⁡10W\log_{10}W で見積もれ。
解答
  1. 0.295(R/a)2=πR2/ℓP20.295(R/a)^2=\pi R^2/\ell_{\mathrm P}^2 から a/ℓP=0.295/π=0.307a/\ell_{\mathrm P}=\sqrt{0.295/\pi}=0.307。NfN_{\mathrm f} 種類なら左辺が NfN_{\mathrm f} 倍になるので a=0.307Nf ℓPa=0.307\sqrt{N_{\mathrm f}}\,\ell_{\mathrm P}。種類が多いほど粗い切断で合う。どちらにしても係数は切断の選び方に依存するので、この一致は桁の目安にとどまる。

  2. rg=GM/c2=1.477×104 mr_g=GM/c^2=1.477\times10^{4}\,\mathrm m(M=10M⊙M=10M_\odot)、A=8πrg2A=8\pi r_g^2 で SBH/kB=8πrg2/(4ℓP2)=2πrg2/ℓP2=5.24×1078S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=8\pi r_g^2/(4\ell_{\mathrm P}^2)=2\pi r_g^2/\ell_{\mathrm P}^2=5.24\times10^{78}。Schwarzschild では A=16πrg2A=16\pi r_g^2 なのでちょうど2倍の 1.05×10791.05\times10^{79}。

  3. W=eSBH/kBW=\mathrm{e}^{S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}} なので log⁡10W=5.24×1078/ln⁡10=2.28×1078\log_{10}W=5.24\times10^{78}/\ln10=2.28\times10^{78}。温度 0 でもこれだけの数の状態のどれにあるかが外から分からない、という意味でエントロピーが残る。

1 L. Bombelli, R. K. Koul, J. Lee, R. D. Sorkin (1986), Phys. Rev. D 34, 373.

2 M. Srednicki (1993), Phys. Rev. Lett. 71, 666.

3 L. Susskind, J. Uglum (1994), Phys. Rev. D 50, 2700.

4 A. Strominger, C. Vafa (1996), Phys. Lett. B 379, 99.

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