相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第5章 §7.5.2 ★★★ 相対エントロピーが部分トレースで増えないことから強劣加法性・弱単調性を経て I(B;R)+I(B;C)≤2S(B) が出る。1つの系の「もつれの総量」には上限がある
強劣加法性と弱単調性
第3部第3章(第3部第3章)では、相対エントロピーの単調性 D(N(ρ^)∥N(σ^))≤D(ρ^∥σ^) を部分トレース N=TrC に当てて、I(A;B)=D(ρ^AB∥ρ^A⊗ρ^B)≤D(ρ^ABC∥ρ^A⊗ρ^BC)=I(A;BC) を出した。これをエントロピーで書いたものが強劣加法性
S(ABC)+S(B)≤S(AB)+S(BC)(7.5.6)
で、Lieb と Ruskai が最初に証明した1E. H. Lieb and M. B. Ruskai (1973), J. Math. Phys. 14, 1938.。強劣加法性を純粋化と組み合わせると、3つの系の任意の状態について弱単調性
S(B∣R)+S(B∣C)≥0(7.5.7)
が出る(同じ章の系。ρ^RBC を4つ目の系で純粋化し、純粋状態では2つに分けた両側のエントロピーが等しいことを使う)。
一夫一婦制の不等式
弱単調性を相互情報量で書き直すと、この章の道具が出る。
定理 7.5.1(もつれの一夫一婦制(エントロピーの形) ★★★)
3つの系 R、B、C の任意の状態について
I(B;R)+I(B;C)≤2S(B)≤2lndB(7.5.8)
が成り立つ。dB は B の Hilbert 空間の次元である。特に I(B;C)=2S(B) なら I(B;R)=0 で、ρ^BR=ρ^B⊗ρ^R である。
証明
I(B;X)=S(B)−S(B∣X) を X=R と X=C について足すと I(B;R)+I(B;C)=2S(B)−[S(B∣R)+S(B∣C)] で、角括弧は弱単調性 (7.5.7) から 0 以上である。S(B)≤lndB は第3部第2章の S の上限。I(B;C)=2S(B) なら I(B;R)≤0 で、相互情報量は D≥0 だから I(B;R)=0。Klein の不等式の等号条件から ρ^BR=ρ^B⊗ρ^R である。
ρ^BC が純粋なら、もっと強く ρ^RBC=ρ^R⊗ρ^BC が言える(第3部第10章の「純粋な対は外と相関しない」、第3部第10章)。定理 7.5.1 は、B が相手と結べる相関の総量が 2S(B) を超えず、それを R と C に分け合うことしかできない、と言っている。古典の確率変数でも I(Y;X)+I(Y;Z)≤2H(Y) は成り立つが、古典では1つの相手との相互情報量は H(Y) までしか届かないので、2つの相手の両方と最大の相関(それぞれ H(Y))を持つことができる。量子では1つの相手との相互情報量が 2S(B) まで届き、その上限まで使うと、もう一方には何も残らない。2S(B) の後半の S(B) は、条件付きエントロピーが負になる分、つまりもつれの分である。

図 7.5.2 B が量子ビット1個(S(B)≤ln2)のときに定理 7.5.1 が許す領域(灰色)。境界の実線は I(B;R)+I(B;C)=2ln2。青の点は例題 7.5.2 の状態、赤の × は3つの仮定が同時に要求する点 (2,2) で、許される領域の外にある
例題 7.5.2 Bell 対と GHZ 状態の分け合い方 ★★★
オリジナル3つの量子ビット R、B、C について、次の2つの状態の I(B;R)、I(B;C)、S(B∣R)、S(B∣C) を求め、図 7.5.2 の上に置け。
- (1) ∣0⟩R⊗∣Φ+⟩BC(∣Φ+⟩=(∣00⟩+∣11⟩)/2)。
- (2) GHZ 状態 (∣000⟩+∣111⟩)RBC/2。
- (3) (2) の B は R とも C とも相関しているのに、なぜ不等式に反しないのかを、条件付きエントロピーの符号で説明せよ。
解答
(1) R は積の因子なので I(B;R)=0、S(B∣R)=S(B)=ln2。BC は純粋で S(B)=ln2 なので I(B;C)=2ln2、S(B∣C)=−ln2。和は 2ln2=2S(B) で、不等式の等号の点 (0,2) にある。
(2) どの1量子ビットも 1/2 で S=ln2。2量子ビットの状態は 21(∣00⟩⟨00∣+∣11⟩⟨11∣) で S=ln2。したがって I(B;R)=I(B;C)=ln2+ln2−ln2=ln2、S(B∣R)=S(B∣C)=ln2−ln2=0。点 (1,1) で、これも等号の線の上にある。
(3) GHZ 状態の2量子ビットの部分は古典的な相関(同じ値が出る)だけを持ち、条件付きエントロピーは 0 で負にならない。古典的な相関は何人とでも共有できるが、各相手との相互情報量は S(B)=ln2 までにとどまる。相互情報量が S(B) を超えるには条件付きエントロピーが負(もつれ)でなければならず、その負の分を2人で同時に持つことはできない。
1 E. H. Lieb and M. B. Ruskai (1973), J. Math. Phys. 14, 1938.
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