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比べる2つの状態:遅いモード・相手・早い放射

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第5章 ファイアウォール
目次
  1. 3つの系
  2. 仮定1:地平面では何も起きない
  3. 仮定2:外は場の量子論
  4. 仮定3:放射は純粋
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第5章 §7.5.1 ★★★ 3つの仮定を、遅いモード BB と2つの相手との相互情報量の値として書く。地平面の真空は I(B;C)=2S(B)I(B;C)=2S(B) を要求し、Page 時間の後の純粋性は I(B;R)=2S(B)I(B;R)=2S(B) を要求する

前の2つの章で、ブラックホールの放射について2つのことを見た。第7部第2章(第7部第2章)では、地平面をまたぐ場の真空がモードの対の熱場二重状態(第7部第2章の式 (7.2.12))になっていて、外へ出るモードは地平面の内側の相手とつよくもつれていることを見た。第7部第3章(第7部第3章)では、ブラックホールの形成と蒸発の全体がユニタリなら、放射のエントロピーは Page 時間で折り返して減りはじめるはずで(第7部第3章の式 (7.3.11))、そのとき新しく出るモードは前に出た放射ともつれていなければならないこと(同じ章の式 (7.3.14))を見た。1つのモードが2つの相手と同時に最大にもつれることはできない。2012 年に Almheiri・Marolf・Polchinski・Sully(AMPS)はこの点に着目し、3つのもっともらしい仮定が両立しないことを示した1A. Almheiri, D. Marolf, J. Polchinski and J. Sully (2013), J. High Energy Phys. 02, 062.下の脚注へ。3つの中で捨てるのが最も穏当なのは「地平面では何も起きない」で、その場合、落ちていく観測者は地平面で高いエネルギーの粒子の壁に焼かれる。この壁をファイアウォールと呼ぶ。

この章では、AMPS の議論をこの巻の言葉で組み立て直す。比べる状態は、早い放射 RR・遅く出る1個のモード BB・その内側の相手 CC の3つの系の状態と、2つずつを切り離した周辺の積の状態である。その相対エントロピーが相互情報量 I(B;R)I(B;R) と I(B;C)I(B;C) で、3つの仮定はそれぞれ、この2つの量の値を指定する。当てる性質は、相対エントロピーが部分トレースで増えないこと(第3部第3章の単調性)で、ここから強劣加法性と弱単調性を経て、

I(B;R)+I(B;C)≤2S(B)I(B;R)+I(B;C)\le2S(B)

という一夫一婦制の不等式が出る。出てくるものは3つある。1つ目は AMPS の矛盾そのもので、「小さな補正では救えない」ことも同じ不等式から量で言える。2つ目は、地平面の真空を壊したときに落ちる観測者が数える粒子の数で、これがファイアウォールの中身になる。3つ目は、矛盾から逃げる道を「どの仮定を捨てるか」で分類したもので、相補性と ER = EPR はどちらも「RR と CC は別々の系である」という、不等式を使うときに暗に置いた前提を疑う立場として読める。

この章の約束を書いておく。対数は自然対数で、情報量の単位は nat である。量子ビットの数と比べる所だけ ln⁡2\ln2 で割ってビットで示す。SI 単位を使い、演算子には帽子を付ける。von Neumann エントロピーは記法の正本に従って S(B)=S(ρ^B)S(B)=S(\hat\rho_B) のように系の名前で書き、ブラックホールのエントロピーは必ず SBHS_{\mathrm{BH}} と添字を付ける。文献によって3つの系の呼び方はまちまちだが、この章では早い放射(radiation)を RR、遅いモードを BB、内側の相手を CC と書く。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章では Rindler の右の楔・左の楔を R\mathrm R・L\mathrm L と書いたが、そこでの右の楔のモードがこの章の BB、左の楔のモードが CC にあたる。系の名前の RR は斜体、楔の名前の R\mathrm R は立体で区別する。

3つの系

十分に大きな Schwarzschild ブラックホールが、純粋状態の物質の重力崩壊でできて、Hawking 放射を出しながらゆっくり蒸発しているとする。ある時刻に着目し、それまでに遠方へ出ていった放射全体を RR とする。いま地平面のすぐ外にあって、これから外へ伝わっていく波束を1つ選び、そのモードを BB とする。Hawking 放射の計算(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)では、BB は地平面の内側の同じ振動数のモードと対になっていた。この内側のモードを CC とする。3つの系の位置関係を図 7.5.1 に描いた。

第7部第3章の EE(前の放射)・LL(次の1個)・BB(ブラックホール)が、この章の RR・BB・CC にあたる。第3章の式 (7.3.14) は全体が純粋な場合の等式で、この章の定理 7.5.1 は混合でも成り立つ不等式である。

図

図 7.5.1 3つの系の位置関係の模式図。横軸は動径 rr、縦軸は遠方の観測者の時刻で、点線が地平面。灰色の線はそれまでに出ていった放射 RR、青の線は地平面のすぐ外から外へ伝わる遅いモード BB、赤の線は地平面の内側にある BB の相手 CC。BB と CC は地平面をまたいで対になっている(短い破線)。光円錐の傾きと地平面付近での波長の伸びは描いていない

3つの系が別々の量子系で、全体の Hilbert 空間が HR⊗HB⊗HC⊗H残り\mathcal{H}_R\otimes\mathcal{H}_B\otimes\mathcal{H}_C\otimes\mathcal{H}_{\text{残り}} と分かれるとする(「残り」はブラックホールのほかの自由度)。この分け方そのものが1つの仮定であることは7.5.5節で問題になる。3つの系の状態 ρ^RBC\hat\rho_{RBC} から、2つずつの組の相互情報量

I(B;R)=D(ρ^BR ∥ ρ^B⊗ρ^R),I(B;C)=D(ρ^BC ∥ ρ^B⊗ρ^C)(7.5.1)I(B;R)=D(\hat\rho_{BR}\,\|\,\hat\rho_B\otimes\hat\rho_R),\qquad I(B;C)=D(\hat\rho_{BC}\,\|\,\hat\rho_B\otimes\hat\rho_C)\tag{7.5.1}

を作る。これがこの章で比べる2組の状態である。どちらも「実際の結合状態」と「2つを切り離した積の状態」の相対エントロピーで、BB がそれぞれの相手とどれだけ相関しているかを測る。相互情報量は I(B;X)=S(B)+S(X)−S(BX)=S(B)−S(B ∣ X)I(B;X)=S(B)+S(X)-S(BX)=S(B)-S(B\,|\,X) とも書け(第3部第2章、第3部第2章)、条件付きエントロピー S(B ∣ X)S(B\,|\,X) が負であることは BB と XX がもつれている目印だった。

仮定1:地平面では何も起きない

一般相対論の等価原理によれば、自由落下する観測者は地平面を通るときに何も特別なことを経験しない。太陽質量のブラックホールでも地平面での潮汐は小さく(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第17章)、地平面の近くの時空は平らな時空の一部と区別できない。場の量子論では、これは「地平面の近くの場の状態は、落ちる観測者にとっての真空(Minkowski 真空)に近い」という要求になる。

地平面の近くの時空は加速度 κ\kappa(表面重力)の Rindler 時空で近似でき、Minkowski 真空を右の楔と左の楔のモードに分けると、同じ振動数のモードの組ごとに熱場二重状態

∣ΨBC⟩=1−q2∑n=0∞qn∣n⟩B∣n⟩C,q=e−πν(7.5.2)| \Psi_{BC} \rangle =\sqrt{1-q^2}\sum_{n=0}^\infty q^n| n \rangle _B| n \rangle _C,\qquad q=\mathrm{e}^{-\pi\nu}\tag{7.5.2}

になる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章。ν\nu は Rindler の振動数を κ\kappa で無次元にしたもので、2πν=ℏΩ/(kBT)2\pi\nu=\hbar\Omega/( k_{\mathrm B} T))。第7部第2章の式 (7.2.12) の対と同じで、q=tanh⁡rωq=\tanh r_\omega である。したがって「何も起きない」は、BB と CC の組が純粋状態 (7.5.2) にあることを要求する。純粋状態では S(BC)=0S(BC)=0、S(B)=S(C)S(B)=S(C) なので

I(B;C)=S(B)+S(C)−S(BC)=2S(B),S(B ∣ C)=−S(B)(7.5.3)I(B;C)=S(B)+S(C)-S(BC)=2S(B),\qquad S(B\,|\,C)=-S(B)\tag{7.5.3}

である。BB だけを見ると平均の占有数 nˉ=q2/(1−q2)=1/(e2πν−1)\bar n=q^2/(1-q^2)=1/(\mathrm{e}^{2\pi\nu}-1) の熱状態で、そのエントロピーは

S(B)=(nˉ+1)ln⁡(nˉ+1)−nˉln⁡nˉ(7.5.4)S(B)=(\bar n+1)\ln(\bar n+1)-\bar n\ln\bar n\tag{7.5.4}

になる。第3部第7章の g(nˉ)g(\bar n)(式 (3.7.14))・第7部第2章の s(x)s(x)(式 (7.2.7))と同じ関数である。BB が外から見て熱的に見えることと、BB と CC がもつれていることは、同じ1つの事実の2つの面である(第7部第2章)。

仮定2:外は場の量子論

地平面から十分に離れた外側(Planck 長より十分大きな距離)では、低いエネルギーの有効場の理論がそのまま使えるとする。この仮定から、BB は外の場の1つのモードとして外へ伝わり、やがて放射の一部になる。BB と CC の状態についての仮定1の言い方(熱場二重状態)も、この有効場の理論の言葉で書いてある。仮定2はまた、放射が運ぶ情報が地平面の近くから出てくることも含む。情報が地平面から巨視的に離れた所で放射に乗り移るような新しい力学は考えない。

仮定3:放射は純粋

ブラックホールの形成と蒸発の全体がユニタリで、最後に残る放射全体は純粋状態だとする。外から見たブラックホールは状態の数がおよそ eSBH/kB\mathrm{e}^{S_{\mathrm{BH}}/ k_{\mathrm B}} の1つの量子系としてふるまい、その時間発展は放射と残りの自由度を十分に混ぜるとする。すると放射 RR のエントロピーは、Page の定理(第2部第3章の典型性、第7部第3章)に従って、Page 時間まではおよそ放射の自由度の分だけ増え、その後はブラックホールに残った自由度の分まで減る。Page 時間の後に BB が RR に加わると、RR のエントロピーは BB の分だけ減る:

S(RB)≈S(R)−S(B)⟺S(B ∣ R)≈−S(B)⟺I(B;R)≈2S(B).(7.5.5)S(RB)\approx S(R)-S(B)\quad\Longleftrightarrow\quad S(B\,|\,R)\approx-S(B)\quad\Longleftrightarrow\quad I(B;R)\approx2S(B).\tag{7.5.5}

つまり Page 時間の後の遅いモードは、早い放射と最大にもつれていなければならない。

3つの仮定を相互情報量で書く

  • 仮定1(地平面では何も起きない):BB と CC は熱場二重状態で I(B;C)=2S(B)I(B;C)=2S(B)。
  • 仮定2(外は場の量子論):BB は外の有効場の理論のモードで、ρ^B\hat\rho_B は熱状態。BB と CC は RR と別の系として扱える。
  • 仮定3(放射は純粋):Page 時間の後は I(B;R)≈2S(B)I(B;R)\approx2S(B)。

例題 7.5.1 1組のモードのもつれの大きさ ★★

オリジナル熱場二重状態 (7.5.2) の1組のモードを考える。

  1. (1) ν=0.2\nu=0.2 のとき、BB の平均の占有数 nˉ\bar n、エントロピー S(B)S(B)、相互情報量 I(B;C)I(B;C) を求めよ。
  2. (2) ν=1\nu=1 のときの S(B)S(B) を求め、ν\nu が大きい(ℏΩ≫kBT\hbar\Omega\gg k_{\mathrm B} T)ときの S(B)S(B) の振る舞いを ν\nu で表せ。
  3. (3) (1) の I(B;C)I(B;C) を、量子ビットの Bell 対の I=2ln⁡2I=2\ln2 と比べよ。
解答

(1) nˉ=1/(e0.4π−1)=0.3978\bar n=1/(\mathrm{e}^{0.4\pi}-1)=0.3978。式 (7.5.4) から

S(B)=1.3978ln⁡1.3978−0.3978ln⁡0.3978=0.4681+0.3667=0.8349 nat.S(B)=1.3978\ln1.3978-0.3978\ln0.3978=0.4681+0.3667=0.8349\ \mathrm{nat}.

BB と CC は純粋状態なので I(B;C)=2S(B)=1.670I(B;C)=2S(B)=1.670 nat である。

(2) ν=1\nu=1 では nˉ=1/(e2π−1)=1.871×10−3\bar n=1/(\mathrm{e}^{2\pi}-1)=1.871\times10^{-3} で、S(B)=0.01362S(B)=0.01362 nat。nˉ≈e−2πν\bar n\approx\mathrm{e}^{-2\pi\nu} が小さいときは(nˉ+1)ln⁡(nˉ+1)≈nˉ(\bar n+1)\ln(\bar n+1)\approx\bar n、−nˉln⁡nˉ=2πν nˉ-\bar n\ln\bar n=2\pi\nu\,\bar n なので S(B)≈(1+2πν)e−2πνS(B)\approx(1+2\pi\nu)\mathrm{e}^{-2\pi\nu} となる(ν=1\nu=1 で 0.013600.01360)。振動数の高いモードは占有がまれで、もつれも指数関数的に小さい。

(3) 1.670/(2ln⁡2)=1.201.670/(2\ln2)=1.20 で、ν=0.2\nu=0.2 の1組のモードは Bell 対1.2組分の相互情報量を持つ。Hawking 放射の典型的なモードは ℏΩ∼kBTH\hbar\Omega\sim k_{\mathrm B} T_{\mathrm H}(ν∼0.2\nu\sim0.2)なので、1個の量子あたり Bell 対1組程度のもつれが地平面をまたいでいることになる。以下ではこの事情を簡単にするため、BB を量子ビット1個で表し S(B)=ln⁡2S(B)=\ln2 とする模型も使う。

1 A. Almheiri, D. Marolf, J. Polchinski and J. Sully (2013), J. High Energy Phys. 02, 062.

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