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比べる2つの状態:放射の状態と最大に混ざった状態

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第3章 Page 曲線
目次
  1. おもちゃの模型
  2. 相手の状態と、放射に含まれる情報
  3. Hawking の計算を模型に移す
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第3章 §7.3.1 ★★★ 純粋状態の全体が持つ情報 ln⁡d\ln d は、放射だけの情報・ブラックホールだけの情報・両者の相互情報量の3つに過不足なく分かれ、Page 曲線はその配分の時間変化である

純粋状態から重力崩壊でできたブラックホールが、Hawking 放射を出して最後に蒸発しきったとする。量子力学の時間発展がユニタリなら、ブラックホールと放射を合わせた全体はいつまでも純粋状態のままで、蒸発しきった後に残る放射も純粋状態でなければならない。一方、Hawking の計算(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)では、放射は温度 THT_{\mathrm H} の熱的な放射で、出るたびに放射のエントロピーが増えていく。最後に熱的な放射だけが残るなら、純粋状態が混合状態へ変わったことになる。前の章(第7部第2章)で述べた情報喪失のパラドックスである。

この章の問いは、全体がユニタリに時間発展するなら、放射のエントロピーは時間とともにどう変わらなければならないか、である。答えは D. N. Page(1993)が出した。放射のエントロピーは初めは Hawking の計算どおりに増えるが、ブラックホールのエントロピーと等しくなる時刻(Page 時間)で折り返し、蒸発しきるときに 00 へ戻る。この山形の曲線を Page 曲線と呼ぶ。Page 曲線は、ブラックホールの中で何が起きているかを知らなくても、「全体が純粋」と「状態が典型的」という2つの仮定だけから出る。仮定の2つ目は第2部第3章の典型性そのものである。

この巻の言葉で言い直すと、この章で比べる2つの状態は、放射の状態 ρ^R\hat\rho_R と、放射の Hilbert 空間で最大に混ざった状態 1/dR\mathbf 1/d_R である。その間の相対エントロピー D(ρ^R ∥ 1/dR)=ln⁡dR−S(ρ^R)D(\hat\rho_R\,\|\,\mathbf 1/d_R)=\ln d_R-S(\hat\rho_R) は、放射だけを見て読み取れる情報の量で、Page はこれを放射に含まれる情報と呼んだ。当てる性質は2つある。1つ目は D≥0D\ge0 と、純粋状態の2つの部分のエントロピーが等しいこと(第3部第2章の Schmidt 分解)で、ここから S(ρ^R)S(\hat\rho_R) の上限 min⁡(ln⁡dR,ln⁡dB)\min(\ln d_R,\ln d_B) が出る。2つ目は第2部第3章で示した2次の上界 D≤ln⁡(1+χ2)D\le\ln(1+\chi^2) で、Haar 平均を取ると、乱数の状態がこの上限にほぼ達することが出る。

出てくるものは3つある。1つ目は qubit の乱数状態で描いた Page 曲線と、Page 時間の前は放射に情報がほとんど出てこないこと。2つ目は、それを蒸発するブラックホールに当てはめた Page 時間(太陽質量で 1.19×10671.19\times10^{67} 年)と、Hawking の計算がどの時刻からどう矛盾するか。3つ目は、Page 時間の後に出てくる放射が、ブラックホールの中でなく前に出た放射ともつれていること。これは次の2つの章(Hayden–Preskill とファイアウォール)の出発点になる。最後に、学部の熱力学で習う黒体放射のエントロピーと、統計力学の「エントロピーは足し算できる」という形を、この章の形と並べる。

この章の対数は自然対数で、情報量の単位は nat とする(1 ビット =ln⁡2=\ln2 nat)。von Neumann エントロピー S(ρ^)S(\hat\rho) は無次元で、ブラックホールのエントロピー SBH=kBc3A/(4Gℏ)S_{\mathrm{BH}}=k_{\mathrm B}c^3A/(4G\hbar) と放射を熱力学で数えたエントロピー SradS_{\mathrm{rad}} は kBk_{\mathrm B} 込みで書き、比べるときは kBk_{\mathrm B} で割る。恒等演算子は 1\mathbf 1、Haar 平均は Eψ\mathbb E_\psi と書く(第2部第3章と同じ)。二値エントロピーは hb(p)=−pln⁡p−(1−p)ln⁡(1−p)h_{\mathrm b}(p)=-p\ln p-(1-p)\ln(1-p) である。

おもちゃの模型

ブラックホールの中身を知らないので、模型は有限次元の量子系で作る。全体を NN 個の qubit とし、初めはすべてがブラックホール BB に属しているとする。ブラックホールは1刻みごとに qubit を1個ずつ外へ放ち、kk 刻みの後には kk 個が放射 RR、残りの N−kN-k 個が BB に属している。次元は

dR=2k,dB=2N−k,d=dRdB=2N(7.3.1)d_R=2^k,\qquad d_B=2^{N-k},\qquad d=d_Rd_B=2^N\tag{7.3.1}

である。全体の状態は、初めの純粋状態にユニタリな時間発展を当てたものなので、どの刻みでも純粋状態 ∣ψ⟩∈HR⊗HB| \psi \rangle \in\mathcal{H}_R\otimes\mathcal{H}_B である。放射の状態は部分トレース ρ^R=Tr⁡B∣ψ⟩⟨ψ∣\hat\rho_R=\operatorname{Tr}_B| \psi \rangle \langle \psi | で、ブラックホールの状態は ρ^B=Tr⁡R∣ψ⟩⟨ψ∣\hat\rho_B=\operatorname{Tr}_R| \psi \rangle \langle \psi | である。

本物のブラックホールに当てはめるときは、BB の次元を eSBH/kB\mathrm{e}^{S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}} と読む。これは「Bekenstein–Hawking エントロピーはブラックホールの微視的な状態の数の対数である」という仮定で、7.3.4 節で使うときにもう一度断る。何を数えているのかは第7部第1章の 7.1.5 節で扱った問いで、この章では仮定として置く。

相手の状態と、放射に含まれる情報

放射の状態 ρ^R\hat\rho_R と比べる相手には、放射の Hilbert 空間で最大に混ざった状態 1/dR\mathbf 1/d_R を選ぶ。熱的な放射を qubit の模型に移すと、温度無限大の熱平衡状態がこれに当たる。2つの状態の相対エントロピーは

D(ρ^R ∥ 1/dR)=Tr⁡ρ^R(ln⁡ρ^R+ln⁡dR)=ln⁡dR−S(ρ^R)(7.3.2)D(\hat\rho_R\,\|\,\mathbf 1/d_R)=\operatorname{Tr}\hat\rho_R(\ln\hat\rho_R+\ln d_R)=\ln d_R-S(\hat\rho_R)\tag{7.3.2}

である。D. N. Page(1993)はこの量 ln⁡dR−S(ρ^R)\ln d_R-S(\hat\rho_R) を、放射に含まれる情報と呼んだ1D. N. Page (1993), Physical Review Letters 71, 1291–1294 とD. N. Page (1993), Physical Review Letters 71, 3743–3746。下の脚注へ。第1部第8章の Stein の補題の言葉では、これは放射をたくさん集めて「温度無限大の熱的な放射」と見分けるときの誤りの指数である。D=0D=0 なら、放射だけをどう測っても熱的な放射と区別できず、放射からは何も読み取れない。

ブラックホールの側も同じように D(ρ^B ∥ 1/dB)=ln⁡dB−S(ρ^B)D(\hat\rho_B\,\|\,\mathbf 1/d_B)=\ln d_B-S(\hat\rho_B) を作り、さらに放射とブラックホールの相関の量として相互情報量I(R;B)=D(ρ^RB ∥ ρ^R⊗ρ^B)I(R;B)=D(\hat\rho_{RB}\,\|\,\hat\rho_R\otimes\hat\rho_B) を考える。この3つの間には次の恒等式が成り立つ。

命題 7.3.1(情報の配分 ★★★)

HR⊗HB\mathcal{H}_R\otimes\mathcal{H}_B の任意の状態 ρ^RB\hat\rho_{RB}(純粋でなくてよい)について

D(ρ^RB ∥ 1/d)=D(ρ^R ∥ 1/dR)+D(ρ^B ∥ 1/dB)+I(R;B).(7.3.3)D(\hat\rho_{RB}\,\|\,\mathbf 1/d)=D(\hat\rho_R\,\|\,\mathbf 1/d_R)+D(\hat\rho_B\,\|\,\mathbf 1/d_B)+I(R;B).\tag{7.3.3}

全体が純粋状態なら左辺は ln⁡d\ln d で、S(ρ^R)=S(ρ^B)S(\hat\rho_R)=S(\hat\rho_B)、I(R;B)=2S(ρ^R)I(R;B)=2S(\hat\rho_R) である。

証明

左辺は式 (7.3.2) と同じ計算で ln⁡d−S(ρ^RB)\ln d-S(\hat\rho_{RB}) である。右辺は (ln⁡dR−S(ρ^R))+(ln⁡dB−S(ρ^B))+(S(ρ^R)+S(ρ^B)−S(ρ^RB))(\ln d_R-S(\hat\rho_R))+(\ln d_B-S(\hat\rho_B))+(S(\hat\rho_R)+S(\hat\rho_B)-S(\hat\rho_{RB})) で、S(ρ^R)S(\hat\rho_R) と S(ρ^B)S(\hat\rho_B) が打ち消し合い、ln⁡dR+ln⁡dB=ln⁡d\ln d_R+\ln d_B=\ln d から左辺に等しい。純粋状態では S(ρ^RB)=0S(\hat\rho_{RB})=0 で、Schmidt 分解(第3部第2章)から ρ^R\hat\rho_R と ρ^B\hat\rho_B の0でない固有値が一致するので S(ρ^R)=S(ρ^B)S(\hat\rho_R)=S(\hat\rho_B) である。

全体が純粋なら、左辺の ln⁡d=Nln⁡2\ln d=N\ln2 は時間によらない。ユニタリな時間発展は全体の情報を増やしも減らしもせず、この一定の量が3つの項にどう配分されるかだけが時間とともに変わる。Page 曲線は、このうち I(R;B)/2=S(ρ^R)I(R;B)/2=S(\hat\rho_R) の時間変化である。式 (7.3.3) から、情報を読み取る方法は3通りしかないことも分かる。放射だけを測るか、ブラックホールだけを測るか、両方を合わせて測るか、である。ブラックホールの中は外から測れないので、外にいる観測者が読み取れるのは第1項だけである。

Hawking の計算を模型に移す

Hawking の計算では、地平面をまたぐ真空の中で外へ出るモードと内側に残る相手のモードが対になっていて、外のモードだけを見ると熱的に見える(第7部第2章)。これを qubit の模型に移すと、刻みごとに出る qubit はブラックホールの中に残る相手の qubit と Bell 状態をなし、放射の各 qubit は単独では完全に混ざっている。kk 刻みの後には S(ρ^R)=kln⁡2S(\hat\rho_R)=k\ln2 で、放射に含まれる情報 (7.3.2) はいつまでも 00 である。この「Hawking の状態」では、相手の qubit を BB の中にしまう場所が要る。BB には N−kN-k 個の qubit しか無いので、k>N−kk>N-k になった時点で相手をしまう場所が足りなくなる。これが模型の上での矛盾の形で、7.3.3 節で式にする。

例題 7.3.1 4 qubit での情報の配分 ★★

オリジナル放射 R=R1R2R=R_1R_2 とブラックホール B=B1B2B=B_1B_2 がそれぞれ 2 qubit の、全体 4 qubit の純粋状態を考える(ln⁡d=4ln⁡2\ln d=4\ln2)。次の3つの状態について、式 (7.3.3) の右辺の3つの項を求め、和が 4ln⁡24\ln2 になることを確かめよ。

  1. (1) 積状態 ∣0⟩R1∣0⟩R2∣0⟩B1∣0⟩B2| 0 \rangle _{R_1}| 0 \rangle _{R_2}| 0 \rangle _{B_1}| 0 \rangle _{B_2}。
  2. (2) R1B1R_1B_1 と R2B2R_2B_2 がそれぞれ Bell 状態 ∣Φ+⟩=(∣00⟩+∣11⟩)/2| \Phi^+ \rangle =(| 00 \rangle +| 11 \rangle )/\sqrt2 をなす状態。
  3. (3) R1B1R_1B_1 だけが Bell 状態で、R2R_2 と B2B_2 は ∣0⟩| 0 \rangle の状態。

どれが Hawking の状態の2刻み目に当たるか。

解答

(1) ρ^R=∣00⟩⟨00∣\hat\rho_R=| 00 \rangle \langle 00 | は純粋なので S(ρ^R)=0S(\hat\rho_R)=0、D(ρ^R ∥ 1/4)=ln⁡4=2ln⁡2D(\hat\rho_R\,\|\,\mathbf 1/4)=\ln4=2\ln2。BB も同じで 2ln⁡22\ln2。I(R;B)=0I(R;B)=0。和は 4ln⁡24\ln2 である。情報はすべて RR と BB のそれぞれに局在していて、放射だけを測れば放射の状態が完全に分かる。

(2) ρ^R=121⊗121=1/4\hat\rho_R=\frac12\mathbf 1\otimes\frac12\mathbf 1=\mathbf 1/4 なので S(ρ^R)=2ln⁡2S(\hat\rho_R)=2\ln2、D(ρ^R ∥ 1/4)=0D(\hat\rho_R\,\|\,\mathbf 1/4)=0。BB も同じで 00。I(R;B)=2S(ρ^R)=4ln⁡2I(R;B)=2S(\hat\rho_R)=4\ln2。情報はすべて相関に入っていて、放射だけを測っても温度無限大の熱的な放射と区別できない。

(3) ρ^R=121⊗∣0⟩⟨0∣\hat\rho_R=\frac12\mathbf 1\otimes| 0 \rangle \langle 0 | で S(ρ^R)=ln⁡2S(\hat\rho_R)=\ln2、D(ρ^R ∥ 1/4)=ln⁡2D(\hat\rho_R\,\|\,\mathbf 1/4)=\ln2。BB も ln⁡2\ln2。I(R;B)=2ln⁡2I(R;B)=2\ln2。和は ln⁡2+ln⁡2+2ln⁡2=4ln⁡2\ln2+\ln2+2\ln2=4\ln2。

Hawking の状態の2刻み目は、出た2つの qubit がそれぞれ中の相手と Bell 状態をなしている (2) に当たる。4 qubit の模型では、2刻み目でちょうど BB の qubit がすべて相手として使われ、3刻み目に出る qubit の相手をしまう場所が無くなる。

1 D. N. Page (1993), Physical Review Letters 71, 1291–1294 とD. N. Page (1993), Physical Review Letters 71, 3743–3746。

木下の勉強ステータス

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