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比べる2つの状態:外の放射と熱状態

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第2章 Hawking 放射はエンタングルメントでできている
目次
  1. 熱場二重状態
  2. 2つの比べ方
  3. 1つのモードの場合:2モードのスクイーズド真空
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第2章 §7.2.1 ★★★ 熱場二重状態の片側は Gibbs 状態そのもので、外だけを比べた相対エントロピーは 0、内外を合わせた相対エントロピーは熱エントロピーの2倍になる

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)では、崩壊してできたブラックホールのまわりの量子場を計算し、遠方の観測者が温度 TH=ℏc3/(8πGMkB)T_{\mathrm H}=\hbar c^3/(8\pi GM k_{\mathrm B}) の熱放射を受け取ることを導いた。そこでの計算は、場の状態そのものは純粋状態のままで、遠方の観測者が地平面の外のモードしか見ないことから熱分布が出る、という形をしていた。この章では、その「外しか見ない」という一点を、この巻の言葉で読み直す。

比べる2つの状態は、地平面の外の放射の状態 ρ^R\hat\rho_{\mathrm R} と、温度 THT_{\mathrm H} の Gibbs 状態 ρ^β\hat\rho_\beta である。両者の相対エントロピーは厳密に 00 になる。一方、地平面の内と外を合わせた純粋状態と、内と外の状態の積を比べると、相対エントロピーは外の熱エントロピーの2倍になる。この2つの数の食い違いが、Hawking 放射の正体を述べている。放射の1つ1つのモードは、地平面の内側にある相手のモードと2モードのスクイーズド状態をなしており、外の熱的な乱雑さはすべて、その相手とのエンタングルメントの量である。

当てる性質は、純粋化の性質(どんな混合状態も、より大きな系の純粋状態の片側として書け、その書き方は相手の側のユニタリを除いて1通り)と、部分トレースで相対エントロピーが増えないこと(第3部第3章の量子データ処理不等式)の2つである。出てくるものは3つある。1つ目は、地平面の近くの真空がモードの対の熱場二重状態になっていることで、外の観測者が熱を見る理由がここで分かる。2つ目は、Hawking の計算どおりに放射を足し合わせると、放射のエントロピーが単調に増え続けることで、蒸発し終えたときには最初のブラックホールのBekenstein–Hawking エントロピーの 4/34/3 倍に達する。3つ目は、その帰結として「純粋状態が混合状態へ移る」という情報喪失のパラドックスで、これを量子チャネルの言葉で正確に述べ、3つの立場(情報が消える・残骸に残る・放射に出る)が、それぞれどの仮定を捨てる立場なのかを整理する。

この章の対数は自然対数で、情報量の単位は nat とする。単位は SI で、ℏ\hbar、cc、kBk_{\mathrm B} を式に残す。熱力学のエントロピー(kBk_{\mathrm B} 込み)はSBHS_{\mathrm{BH}} のように添字をつけ、von Neumann エントロピーは S(ρ^)S(\hat\rho) と引数をつけて無次元で書く(記法の正本 §10)。モードの角周波数は ω\omega、無次元の振動数を x=ℏω/(kBT)x=\hbar\omega/( k_{\mathrm B} T) と書く。

熱場二重状態

Hamiltonian H^\hat H を持つ系 R と、それと同じ形の系 L を考える。H^\hat H の固有状態を ∣n⟩| n \rangle、固有値を EnE_n とし、逆温度 β=1/(kBT)\beta=1/( k_{\mathrm B} T) の Gibbs 状態を ρ^β=e−βH^/Z\hat\rho_\beta=\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z と書く(Z=∑ne−βEnZ=\sum_n\mathrm{e}^{-\beta E_n})。L と R を合わせた系の状態

∣TFDβ⟩=1Z∑ne−βEn/2∣n⟩L∣n⟩R(7.2.1)| \mathrm{TFD}_\beta \rangle =\frac{1}{\sqrt Z}\sum_n\mathrm{e}^{-\beta E_n/2}| n \rangle _{\mathrm L}| n \rangle _{\mathrm R}\tag{7.2.1}

を熱場二重状態(thermofield double state)と呼ぶ。名前は、熱平衡の期待値を純粋状態の期待値として書き直す場の理論の方法(thermo field dynamics)に由来し、ブラックホールにこの見方を当てたのは Israel(1976、Physics Letters A 57、107)である。∣n⟩| n \rangle の位相は L と R で揃えて実数に選んでおく。

R だけを見るときの状態は、L について部分トレースを取った密度行列である。Tr⁡L(∣n⟩⟨m∣L)=δnm\operatorname{Tr}_{\mathrm L}(| n \rangle \langle m |_{\mathrm L})=\delta_{nm} なので

ρ^R=Tr⁡L∣TFDβ⟩⟨TFDβ∣=1Z∑ne−βEn∣n⟩⟨n∣R=ρ^β(7.2.2)\hat\rho_{\mathrm R}=\operatorname{Tr}_{\mathrm L}| \mathrm{TFD}_\beta \rangle \langle \mathrm{TFD}_\beta |=\frac1Z\sum_n\mathrm{e}^{-\beta E_n}| n \rangle \langle n |_{\mathrm R}=\hat\rho_\beta\tag{7.2.2}

となる。全体は純粋状態なのに、片側だけを見ると、温度 TT の熱平衡の状態そのものに見える。L についても同じである。

2つの比べ方

この巻の背骨の量で、この状態を2通りに比べる。1つ目は、R だけを取り出して、Gibbs 状態と比べる比べ方で、式 (7.2.2) から

D(ρ^R ∥ ρ^β)=0(7.2.3)D(\hat\rho_{\mathrm R}\,\|\,\hat\rho_\beta)=0\tag{7.2.3}

である。R の上でどんな測定をしても、熱場二重状態の片側と「本当に熱浴に浸かっていた系」は区別できない。

2つ目は、L と R を合わせた純粋状態を、L と R の状態の積 ρ^L⊗ρ^R=ρ^β⊗ρ^β\hat\rho_{\mathrm L}\otimes\hat\rho_{\mathrm R}=\hat\rho_\beta\otimes\hat\rho_\beta と比べる比べ方である。第3部第2章(第3部第2章)で示したとおり、この相対エントロピーは量子相互情報量で、全体が純粋なら部分系のエントロピーの2倍になる。

I(L;R)=D(∣TFDβ⟩⟨TFDβ∣ ∥ ρ^β⊗ρ^β)=2S(ρ^β),kBS(ρ^β)=S熱(7.2.4)I(\mathrm L;\mathrm R)=D\bigl(| \mathrm{TFD}_\beta \rangle \langle \mathrm{TFD}_\beta |\,\big\|\,\hat\rho_\beta\otimes\hat\rho_\beta\bigr)=2S(\hat\rho_\beta),\qquad k_{\mathrm B} S(\hat\rho_\beta)=S_{\text{熱}}\tag{7.2.4}

右の等式の S熱S_{\text{熱}} は、学部の統計力学で S=−∂F/∂TS=-\partial F/\partial T として計算する熱力学のエントロピーである(記法の正本 §6 の S熱=kBS(ρ^eq)S_{\text{熱}}= k_{\mathrm B} S(\hat\rho_{\mathrm{eq}}))。R だけを比べると 00、L と R を合わせて比べると 2S熱/kB2S_{\text{熱}}/ k_{\mathrm B}。熱場二重状態の熱的な乱雑さは、R の中に閉じた性質ではなく、R と L の間の相関の量に等しい。

1つのモードの場合:2モードのスクイーズド真空

いちばん簡単な例として、H^=ℏω a^†a^\hat H=\hbar\omega\,\hat a^\dagger\hat a(零点エネルギーを除いた調和振動子)を取る。En=nℏωE_n=n\hbar\omega、x=βℏωx=\beta\hbar\omega とおくと

∣TFDβ⟩=1−e−x∑n=0∞e−nx/2∣n⟩L∣n⟩R=1cosh⁡r∑n=0∞tanh⁡nr ∣n,n⟩,tanh⁡r=e−x/2(7.2.5)| \mathrm{TFD}_\beta \rangle =\sqrt{1-\mathrm{e}^{-x}}\sum_{n=0}^\infty\mathrm{e}^{-nx/2}| n \rangle _{\mathrm L}| n \rangle _{\mathrm R} =\frac{1}{\cosh r}\sum_{n=0}^\infty\tanh^nr\,| n,n \rangle ,\qquad \tanh r=\mathrm{e}^{-x/2}\tag{7.2.5}

で、これは光学と量子エレクトロニクス 第31章(光学と量子エレクトロニクス 第31章)の2モードのスクイーズド真空 S^2(r)∣0,0⟩\hat S_2(r)| 0,0 \rangle そのものである。光の巻では、ポンプ光子1個がシグナルとアイドラーに光子を1個ずつ作るパラメトリック過程でこの状態を作った。L と R の光子数はいつも等しく、片側の平均光子数は

nˉ=sinh⁡2r=1ex−1(7.2.6)\bar n=\sinh^2r=\frac{1}{\mathrm{e}^{x}-1}\tag{7.2.6}

で Planck 分布になる。片側の von Neumann エントロピー(2つのモードの間のエンタングルメント・エントロピー)は、幾何分布 pn=(1−e−x)e−nxp_n=(1-\mathrm{e}^{-x})\mathrm{e}^{-nx} の Shannon エントロピーで

s(x)≔S(ρ^R)=(nˉ+1)ln⁡(nˉ+1)−nˉln⁡nˉ=nˉ x−ln⁡(1−e−x)(7.2.7)s(x)\coloneqq S(\hat\rho_{\mathrm R})=(\bar n+1)\ln(\bar n+1)-\bar n\ln\bar n=\bar n\,x-\ln\bigl(1-\mathrm{e}^{-x}\bigr)\tag{7.2.7}

である。2つ目の形は ln⁡pn=ln⁡(1−e−x)−nx\ln p_n=\ln(1-\mathrm{e}^{-x})-nx を平均したもので、第1項 nˉx=β⟨H^⟩\bar n x=\beta\langle \hat H \rangle、第2項 −ln⁡(1−e−x)=ln⁡Z-\ln(1-\mathrm{e}^{-x})=\ln Z と読むと、統計力学の S/kB=β(U−F)S/ k_{\mathrm B}=\beta(U-F) と同じ形をしている。nˉ\bar n の関数として見れば、第3部第7章の式 (3.7.14) の g(nˉ)g(\bar n) と同じ関数である。x→∞x\to\infty(低温)で s→0s\to0、x→0x\to0(高温)で s≈1+ln⁡(1/x)s\approx1+\ln(1/x) と対数で増える(図 7.2.1)。

図

図 7.2.1 1組のモードの対のエンタングルメント・エントロピー s(x)s(x)(赤)と、その第1項 nˉx\bar nx(青)。差は −ln⁡(1−e−x)=ln⁡Z>0-\ln(1-\mathrm{e}^{-x})=\ln Z>0 で、振動数の高いモード(xx が大きい)ほど対のもつれは小さい

例題 7.2.1 ℏω=kBT\hbar\omega= k_{\mathrm B} T のモードの対 ★★

オリジナルx=ℏω/(kBT)=1x=\hbar\omega/( k_{\mathrm B} T)=1 の2モードのスクイーズド真空 (7.2.5) について、次を求めよ。

  1. (1) スクイーズの強さ rr と片側の平均光子数 nˉ\bar n。
  2. (2) エンタングルメント・エントロピー s(1)s(1) と相互情報量 I(L;R)I(\mathrm L;\mathrm R)。
  3. (3) 光子数の基底を 6060 個で打ち切って数値で ρ^R\hat\rho_{\mathrm R} を作り、D(ρ^R ∥ ρ^β)D(\hat\rho_{\mathrm R}\,\|\,\hat\rho_\beta) が 00 になることを確かめる手順を述べよ。
解答

(1) tanh⁡r=e−1/2=0.6065\tanh r=\mathrm{e}^{-1/2}=0.6065 から r=artanh⁡(0.6065)=0.7034r=\operatorname{artanh}(0.6065)=0.7034。nˉ=1/(e−1)=0.5820\bar n=1/(\mathrm{e}-1)=0.5820 で、sinh⁡2(0.7034)=0.5820\sinh^2(0.7034)=0.5820 と一致する。

(2) 式 (7.2.7) の第2の形で

s(1)=0.5820×1−ln⁡(1−e−1)=0.5820+0.4587=1.0407 nat.s(1)=0.5820\times1-\ln(1-\mathrm{e}^{-1})=0.5820+0.4587=1.0407\ \text{nat}.

全体は純粋状態なので I(L;R)=2s(1)=2.081I(\mathrm L;\mathrm R)=2s(1)=2.081 nat である。ビットに直すと s(1)/ln⁡2=1.501s(1)/\ln2=1.501 ビットで、1組のモードの対が Bell 対1.5個ぶんのもつれを持つ。

(3) 振幅 cn=1−e−1 e−n/2c_n=\sqrt{1-\mathrm{e}^{-1}}\,\mathrm{e}^{-n/2}(n=0,…,59n=0,\dots,59)を 60×6060\times60 次元の積空間の対角の位置 (n,n)(n,n) に置き、規格化する。ρ^LR=∣ψ⟩⟨ψ∣\hat\rho_{\mathrm{LR}}=| \psi \rangle \langle \psi | を作り、L の添字で縮約すると ρ^R=∑n∣cn∣2∣n⟩⟨n∣\hat\rho_{\mathrm R}=\sum_n\lvert c_n\rvert ^2| n \rangle \langle n | になる。これを ρ^β=diag⁡(e−n)/∑e−n\hat\rho_\beta=\operatorname{diag}(\mathrm{e}^{-n})/\sum\mathrm{e}^{-n} と成分ごとに比べると、差は 10−1210^{-12} 以下で、D(ρ^R ∥ ρ^β)D(\hat\rho_{\mathrm R}\,\|\,\hat\rho_\beta) も数値誤差の範囲で 00 になる(打ち切りで捨てた重みは e−60\mathrm{e}^{-60} 程度)。S(ρ^R)S(\hat\rho_{\mathrm R}) は 1.04071.0407 に一致する。

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