解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第3章 §1.3.3 ★★★ δ を「経路の族を実数1つで微分すること」と定義すると、δ と d の違いと入れ替えの規則がはっきりする
許される変分の向き
端の値を決めた変分問題では、比べる経路はすべて同じ端を通る。経路 q をずらす向きには、
η(t1)=η(t2)=0(1.3.7)
を満たす滑らかな関数 η(t) を使い、これを許される向きと呼ぶ。q+ϵη は、どんな実数 ϵ についても q と同じ端を通る。端を固定しない問題では η の端の値を自由にし、そのとき現れる端の項を扱う必要がある。それは 第1部第4章 の主題である。
第1変分
定義 1.3.2(経路の族と第1変分)
経路 q と許される向き η から、実数 ϵ をパラメータとする経路の族
qϵ(t)=q(t)+ϵη(t)(1.3.8)
を作る。汎関数 F に入れた F[qϵ] は ϵ の普通の関数で、その ϵ=0 での微分に ϵ を掛けたもの
δF:=ϵdϵdF[q+ϵη]ϵ=0(1.3.9)
を F の第1変分(1次の変分)と呼ぶ。同じ書き方で、経路そのもののずれを δq(t):=ϵη(t) と書き、変分と呼ぶ。
式 (1.3.9) は、多変数の方向微分 (1.3.1) の x を関数 q に、向き h を関数 η に置き換えたものである。ϵ を掛けておくと、F[q+ϵη]−F[q] の ϵ の1次の部分がちょうど δF になり、
F[q+ϵη]=F[q]+δF+O(ϵ2)
が成り立つ。δF は ϵ に比例し、η について線型である(η を2倍すると δF も2倍になる)。
δq は「小さな差」ではない
δq を「経路のわずかな差」と読むと、どこまでを1次とみなすかが曖昧になる。この本では δq=ϵη を「ϵ の1次の部分」として定義し、2次以上の部分は最初から δF に入れない。有限の差 F[q+ϵη]−F[q] には ΔF を使い、δ と書き分ける。δF の値は ϵ をどう選ぶかで変わるが、δF=0 かどうかは ϵ によらない。停留の判定では、常にこの「0 かどうか」だけを見る。
δ と d はどこが違うか
経路の族 (1.3.8) は、2つの実数 t と ϵ の関数 qϵ(t)=Q(t,ϵ) とみなせる。微分 d と変分 δ は、この2変数関数の別々の向きの微分である(図 1.3.2)。
- 微分 dq=q˙dt は、ϵ を止めて t を動かしたときの変化で、1本の経路に沿った変化を表す。
- 変分 δq=ϵ∂Q/∂ϵ∣ϵ=0=ϵη(t) は、t を止めて ϵ を動かしたときの変化で、同じ時刻での別の経路への移り変わりを表す。
δ は時刻 t を動かさない。この本の第1部では、経路の時刻をずらす変分(δt=0)は使わない。

図 1.3.2 変分 δq と微分 dq。δq(t)(赤)は時刻 t を止めて別の経路(青)へ移るときのずれで、端の時刻では 0 になる。dq は1本の経路(黒)に沿って時刻を dt だけ進めたときの変化である
この見方から、変分の計算で使う2つの規則がすぐに出る。
δq˙=dtdδq,δ∫t1t2Gdt=∫t1t2δGdt.(1.3.10)
1つ目は、Q(t,ϵ) の混合偏微分 ∂2Q/∂ϵ∂t=∂2Q/∂t∂ϵ が等しいことを言い換えたものである(Q=q+ϵη では両辺とも η˙ になる)。2つ目は、積分の範囲 [t1,t2] が ϵ によらないので、ϵ についての微分を積分の中へ入れてよいことによる。どちらも「δ は t を止めた ϵ 微分」という定義から出ているので、時刻をずらす変分を扱う場面では成り立たないことがある。
∫q3dt の第1変分
F[q]=∫t1t2q3dt なら、dϵd(q+ϵη)3ϵ=0=3q2η を積分の中で計算してδF=ϵ∫3q2ηdt=∫3q2δqdt となる。被積分関数が q だけの関数なら、第1変分は普通の微分を積分の中で行うだけで出る。
例題 1.3.3 直線は停留し、放物線は停留しない ★★★
オリジナル[0,1] 上の汎関数 F[q]=∫01q˙(t)2dt と、許される向き η(t)=sinπt を考える。
- (1) q(t)=t について、F[q+ϵη] を ϵ の式として正確に求め、第1変分 δF を求めよ。
- (2) q(t)=t2 について同じことをせよ。
- (3) (1)(2) の結果の2次の項を比べ、何が言えるか述べよ。
解答
(1) q˙+ϵη˙=1+ϵπcosπt なので
F[q+ϵη]=∫01(1+2ϵπcosπt+ϵ2π2cos2πt)dt=1+0+2π2ϵ2.
∫01cosπtdt=0, ∫01cos2πtdt=21 を使った。1次の項が無いので δF=0 である。
(2) q˙+ϵη˙=2t+ϵπcosπt。部分積分で ∫01tcosπtdt=[πtsinπt]01−π1∫01sinπtdt=−π22 なので
F[q+ϵη]=34+4ϵπ(−π22)+2π2ϵ2=34−π8ϵ+2π2ϵ2.
よって δF=−π8ϵ=0。ϵ を小さな正の数にとれば F は 34 より小さくなるので、q=t2 は F の停留点でも最小点でもない。
(3) 2次の項はどちらも 2π2ϵ2=ϵ2∫01η˙2dt で、q によらない。F が q˙ の2次式なのでF[q+ϵη]=F[q]+2ϵ∫q˙η˙dt+ϵ2∫η˙2dt と正確に3項に分かれ、2次の項に q が入らない。停留点かどうかは1次の項だけで決まり、この向きでは q=t が停留、q=t2 が停留でない。q=t がこの向きだけでなくすべての向きで停留することは、次の節の汎関数微分を使うと1行で言える。
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