解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第3章 §1.3.4 ★★★ 第1変分を ∫(⋯)δqdt の形に書いたときの (⋯) が汎関数微分。偏微分の添字 i を連続の t にしたもの
定義
多変数の方向微分 (1.3.1) は、向き h との内積 ∑i(∂f/∂xi)hi の形をしていた。添字 i についての和を t についての積分に置き換えると、次の定義になる。
定義 1.3.3(汎関数微分)
汎関数 F の第1変分が、すべての許される向き η について
δF=∫t1t2δq(t)δFδq(t)dt(δq=ϵη)(1.3.11)
の形に書けるとき、η によらない t の関数 δF/δq(t) を F の q における汎関数微分と呼ぶ。
1.3.2節の離散化で言えば、δF=∑k(∂SN/∂qk)δqk=∑k(Δt1∂SN/∂qk)δqkΔt の括弧の中が δF/δq(tk) にあたり、和に Δt を掛けたものが積分になる。式 (1.3.6) で偏微分を Δt で割ったのはこのためである。δF/δq(t) は時刻 t ごとに値を持つ関数で、「時刻 t の近くで経路を単位の面積だけ押し上げたときの F の変化率」と読める。
η について線型な δF を ∫gηdt の形に書く方法が1通りしかないこと(g が一意に決まること)は、1.3.5節の基本補題から従う。したがって汎関数微分は、存在すれば1つに決まる。
基本的な例
(a) 掛けて積分する汎関数
F[q]=∫g(t)q(t)dt(g は与えられた関数)なら δF=∫gδqdt なので、δF/δq(t)=g(t)。多変数の f=∑igixi で ∂f/∂xi=gi となるのと同じである。
(b) 被積分関数が q だけの関数
F[q]=∫V(q(t))dt なら、積分の中で普通に微分して δF=∫V′(q)δqdt。よって
δq(t)δ∫V(q(t′))dt′=V′(q(t)).(1.3.12)
F1[q]=∫q2dt なら δF1/δq(t)=2q(t) である。
(c) 1点の値
F2[q]=q(t0) なら δF2=ϵη(t0)。これを ∫(⋯)ϵη(t)dt の形に書ける普通の関数は無い。Dirac のデルタ関数 δ(t−t0)(∫δ(t−t0)η(t)dt=η(t0) で定義される超関数)を許すとδF2/δq(t)=δ(t−t0) と書ける。t0 を t′ と書き直すと
δq(t)δq(t′)=δ(t−t′)(1.3.13)
となる。多変数の ∂xj/∂xi=δij(Kronecker のデルタ)の連続版で、場の理論の章(第2部第5章)でこの形をよく使う。分子の δ は変分、右辺の δ(t−t′) はデルタ関数で、同じ字だが引数の有無で区別する。
(d) 導関数を含む汎関数
F[q]=∫t1t221q˙2dt なら、規則 (1.3.10) を使って δF=∫q˙δq˙dt=∫q˙dtdδqdt。このままでは δq でなく dtdδq が掛かっているので、定義 (1.3.11) の形になっていない。部分積分で導関数を q˙ の側へ移すと
δF=[q˙δq]t1t2−∫t1t2q¨δqdt=−∫t1t2q¨δqdt,δq(t)δ∫21q˙2dt′=−q¨(t).(1.3.14)
許される向きが端で 0 になる条件 (1.3.7) により、端の項は消える。端を固定しない問題では端の項が残り、それが境界条件を決める(第1部第4章)。この結果は1.3.2節の極限 (1.3.6) と、例題 1.3.2 の −q¨ に一致する。例題 1.3.3 の F=∫q˙2dt(係数が2倍)では δF/δq=−2q¨ で、q=t なら 0、q=t2 なら −4 である。後者で ∫01(−4)sinπtdt=−8/π となり、例題の1次の係数と合う。q=t では汎関数微分が恒等的に 0 なので、どの向きの第1変分も 0 になる。
被積分関数が q と q˙ の両方を含む一般の L(q,q˙,t) でも、(b) と (d) を組み合わせれば汎関数微分は求まる。その結果の式と、それを 0 とおいた方程式(Euler–Lagrange 方程式)は次の章で導く。
積と合成の規則
汎関数微分は、普通の微分と同じ線型性・積の規則・合成の規則(連鎖律)を満たす。どれも、ϵ についての普通の微分の規則を第1変分 (1.3.9) に当てはめると出る。たとえば2つの汎関数の積 F[q]G[q] なら
δq(t)δ(FG)=δq(t)δFG[q]+F[q]δq(t)δG,
数の関数 Φ との合成 Φ(F[q]) なら δΦ(F)/δq(t)=Φ′(F[q])δF/δq(t) となる。右辺の G[q]・F[q]・Φ′(F[q]) は t によらない数で、t への依存はすべて汎関数微分の側にある。
例題 1.3.4 曲線の長さの汎関数微分は曲率 ★★★
オリジナル平面上の曲線 y(x)(x1≤x≤x2、両端の値を固定)の長さ ℓ[y]=∫x1x21+y′2dx を考える。
- (1) 汎関数微分 δℓ/δy(x) を求め、−(1+y′2)3/2y′′ になることを示せ。
- (2) 半径 R の円の上半分 y=R2−x2(∣x∣<R)で、δℓ/δy(x) を求めよ。結果を図形の言葉で説明せよ。
- (3) 2点を結ぶ曲線のうち ℓ を停留させるものは線分に限ることを示せ(停留と汎関数微分の関係は次の節で示すので、ここでは「汎関数微分が恒等的に 0」を停留の条件として使ってよい)。
解答
(1) δ1+y′2=1+y′2y′δy′ で、δy′=dxdδy である。部分積分すると端の項が消えて
δℓ=∫x1x21+y′2y′dxdδydx=−∫x1x2dxd(1+y′2y′)δydx.
商の微分で dxd1+y′2y′=(1+y′2)3/2y′′(1+y′2)−y′⋅y′y′′=(1+y′2)3/2y′′ なので
δy(x)δℓ=−(1+y′2)3/2y′′.
右辺の y′′/(1+y′2)3/2 は曲線 y(x) の(符号つきの)曲率 κ である。長さの汎関数微分は −κ になる。
(2) y′=−x/R2−x2, 1+y′2=R2/(R2−x2), y′′=−R2/(R2−x2)3/2 なので
δy(x)δℓ=(R2−x2)3/2R2⋅R3(R2−x2)3/2=R1.
x によらず正の定数になる。上に凸な円弧をどこで上へ(外側へ)押しても長さは増え、増え方は単位の面積あたり 1/R で、曲がりの強い(R の小さい)円ほど大きい。
(3) 停留の条件は y′′/(1+y′2)3/2=0、すなわち y′′=0 である。解は y=ax+b で、両端の値から a,b が1つに決まる。よって停留する曲線は2点を結ぶ線分に限る。線分が実際に最短であることは、次の節の2次の変分で確かめられる(線分のまわりの2次の変分は 21∫δy′2/(1+y′2)3/2dx≥0 である)。
(数値の確かめ:y=x2(0≤x≤1)と η=sinπx で dϵdℓ[y+ϵη]0 を数値微分すると −0.52767 で、∫01(−2/(1+4x2)3/2)sinπxdx と小数点以下8桁まで一致する。)
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com