解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第6章 §1.6.4 ★★ 定常な拘束の力は仕事をしない。時刻を含む拘束は仕事をし、その仕事率は −λ∂Φ/∂t。速度の拘束にも乗数はそのまま使える
仮想変位と実際の変位
時刻を止めたまま、拘束を保って座標を少しずらす変位を仮想変位と呼ぶ。仮想変位 δx は ∑j(∂Φa/∂xj)δxj=0 を満たすので、拘束力 ∑aλa∇Φa と直交し、
j∑(a∑λa∂xj∂Φa)δxj=0(1.6.13)
が成り立つ。拘束力は仮想変位に対して仕事をしない。これを拘束力の性質として要請するのが d'Alembert の原理で、乗数の項の形 λ∇Φ はこの性質を言い換えたものになっている。
実際の運動の変位 x˙dt は仮想変位とは限らない。Φa(x(t),t)=0 を時刻で微分すると∑j(∂Φa/∂xj)x˙j+∂Φa/∂t=0 なので、拘束力が単位時間にする仕事(仕事率)は
P=j∑(a∑λa∂xj∂Φa)x˙j=−a∑λa∂t∂Φa(1.6.14)
である。スクレロノミックな拘束では ∂Φa/∂t=0 なので P=0 で、拘束力は実際の運動に対しても仕事をしない。このとき式 (1.6.9) の両辺に x˙j を掛けて足すと dtd(T+V)=P=0 となり、力学的エネルギーが保存する。例題 1.6.3 でエネルギー保存を使えたのはこのためである。レオノミックな拘束では、拘束を動かす外部の何か(糸を巻き取る手・棒を回すモーター)が系に仕事をし、エネルギーは保存しない。
速度の拘束
非ホロノミック拘束 (1.6.3) では、各時刻に許される速度の向きが ∑jaajx˙j+aat=0 で決まり、仮想変位はこれの時刻を止めた版 ∑jaajδxj=0 を満たす。d'Alembert の原理(拘束力は仮想変位に対して仕事をしない)を課すと、拘束力は ∑aλaaaj の形に限られ、運動方程式は
dtd∂x˙j∂L−∂xj∂L=a∑λa(t)aaj(x,t)(1.6.15)
になる。ホロノミックな場合は aaj=∂Φa/∂xj とおいたもので、式 (1.6.8) と一致する。
スケートの刃で確かめる。刃の質量を m、接点のまわりの慣性モーメントを I とし、L=21m(x˙2+y˙2)+21Iφ˙2、拘束 (1.6.4) から (ax,ay,aφ)=(sinφ,−cosφ,0) なので
mx¨=λsinφ,my¨=−λcosφ,Iφ¨=0.
3本目から φ˙=Ω は一定である。刃の向きの速さ v=x˙cosφ+y˙sinφ を時間で微分すると、拘束力の項は λ(sinφcosφ−cosφsinφ)=0 で消え、残りは Ω(−x˙sinφ+y˙cosφ) で拘束 (1.6.4) により 0 になる。よって v も一定で、刃は速さ v・角速度 Ω で半径 v/Ω の円を描く。乗数は λ=−mvΩ で、拘束力の大きさ mvΩ=mv2/(v/Ω) はちょうど円運動の向心力になっている。刃の拘束はスクレロノミックなので、エネルギー 21mv2+21IΩ2 も保存する。
非ホロノミック拘束を作用に入れてはいけない
ホロノミック拘束では、式 (1.6.8) は「L+λΦ の作用を停留させる」ことと同じだった。非ホロノミック拘束で同じことをして L+∑aλa(∑jaajx˙j+aat) の作用を停留させると、λax˙j の項から λ˙a を含む余分な項が出て、式 (1.6.15) とは別の方程式になる。拘束力が仮想変位に仕事をしないという接触の力の性質を反映しているのは式 (1.6.15) の方である。転がる車輪や刃の運動を求めるときは、作用の停留から出発せず、d'Alembert の原理から出発する。
例題 1.6.4 動く斜面の上を滑る質点:拘束がする仕事 ★★
オリジナル傾き α の斜面を、水平に一定の速さ u で x の正の向きへ動かす。斜面の上の質量 m の質点は摩擦なく滑る。鉛直上向きを y とし、L=21m(x˙2+y˙2)−mgy、拘束は Φ=y−(x−ut)tanα=0 とする。
- (1) L+λΦ の Euler–Lagrange 方程式と Φ¨=0 から、乗数 λ と質点の加速度を求めよ。斜面が質点を押す力(垂直抗力)の大きさを求めよ。
- (2) 式 (1.6.14) の仕事率 P を求め、E=21m(x˙2+y˙2)+mgy について dtdE=P を確かめよ。u=0 ではどうなるか。
- (3) m=0.5kg, α=30∘, u=2ms−1, g=9.81ms−2 とする。時刻 0 に質点が斜面に対して静止していた(速度 (u,0))とき、λ・垂直抗力・P の値と、t=1s までの E の変化を求めよ。
解答
(1) ∂Φ/∂x=−tanα, ∂Φ/∂y=1 なので、第1種の方程式は
mx¨=−λtanα,my¨=−mg+λ.
拘束を2回微分すると u が一定なので y¨=x¨tanα。2式を入れて (−g+λ/m)=−(λ/m)tan2α、すなわちλ(1+tan2α)=mg から λ=mgcos2α である。加速度は x¨=−gsinαcosα, y¨=−gsin2α で、斜面に沿って下向きに大きさ gsinα になる。拘束力は λ∇Φ=λ(−tanα,1) で、大きさは λ/cosα=mgcosα。斜面が一定の速さで動いても、静止した斜面と同じ値になる(斜面とともに動く座標系は慣性系だからである)。λ>0 が続くので、質点は斜面から離れない。
(2) ∂Φ/∂t=utanα なので P=−λutanα=−mgusinαcosα で、時間によらない一定値になる。一方、(1) の加速度を使うと dtdE=m(x˙x¨+y˙y¨)+mgy˙=−mgsinαcosαx˙+mgcos2αy˙ で、拘束の微分 y˙=(x˙−u)tanα を入れると x˙ の項が打ち消し合い −mgusinαcosα=P が残る。P<0 は、質点から遠ざかる向きに動く斜面が、質点を押しながら後退して負の仕事をすることを表す。u=0 では ∂Φ/∂t=0 で P=0 となり、力学的エネルギーの保存に戻る。
(3) λ=mgcos2α=0.5×9.81×0.75=3.68N、垂直抗力は mgcosα=4.25N、P=−mgusinαcosα=−4.25W。P は一定なので、t=1s までの E の変化は Pt=−4.25J である。直接の計算でも、x˙=u−gsinαcosαt, y˙=−gsin2αt, y=−21gsin2αt2 からE(t)=21mu2−mgusinαcosαt となり、E(0)=1.00J、E(1s)=−3.25J で一致する。拘束が時刻を含むので、拘束力は実際の変位に対して仕事をし、エネルギーは保存しない。
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