解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第6章 §1.6.5 ★★★ 拘束が積分 C[q]=c 1本なら乗数は定数1つ。∫q˙2 を ∫q2=1 のもとで停留させると固有値問題になり、乗数が固有値になる
等周問題
ここまでの拘束は各時刻に1本ずつだった。これと別の種類の拘束に、汎関数の値を1つ決める
C[q]=∫t1t2K(q,q˙,t)dt=c(1.6.16)
がある。周の長さを決めて囲む面積を最大にする問題が昔からの例で、このため汎関数 F[q] を積分の拘束のもとで停留させる問題を等周問題と呼ぶ。拘束は全体で1本なので、乗数も時刻によらない定数1つになる。
定理 1.6.2(積分の拘束のもとでの停留)
q が拘束 (1.6.16) のもとで(端を固定して)F[q] を停留させ、かつ q が C 自身の停留点でない(δC/δq(t) が恒等的に 0 ではない)とする。このとき定数 λ があって
δq(t)δF=λδq(t)δC(1.6.17)
が成り立つ。これは F−λC の汎関数微分を 0 とおいたものである。
証明
許される向き η1,η2 を2つ取り、2つの実数でずらした q+ϵ1η1+ϵ2η2 を考えると、F と C は (ϵ1,ϵ2) の普通の2変数関数になる。η2 を ∫(δC/δq)η2dt=0 となるように選んでおくと、陰関数定理により、拘束 C=c を満たす (ϵ1,ϵ2(ϵ1)) の曲線が原点の近くに引ける。この曲線の上で F が ϵ1=0 で停留するので、2変数の未定乗数 (1.6.5) から、ある数 λ について∫(δF/δq−λδC/δq)ηidt=0(i=1,2)が成り立つ。i=2 の式から λ=∫(δF/δq)η2dt/∫(δC/δq)η2dt と決まり、λ は η2 だけで決まって η1 によらない。η1 は任意なので、基本補題から式 (1.6.17) が出る。
時刻ごとの拘束(定理 1.6.1)では乗数が時刻ごとに違ってよかったのに、ここでは定数になる。拘束の本数(時刻ごとに1本か、全体で1本か)と乗数の個数が一致している。
乗数が固有値になる
[0,1] 上で q(0)=q(1)=0 を満たす経路のうち、∫01q2dt=1 を満たすもので F[q]=∫01q˙2dt を最小にする問題を考える。第1部第3章の汎関数微分 δF/δq(t)=−2q¨, δC/δq(t)=2q を式 (1.6.17) に入れると
−q¨=λq,q(0)=q(1)=0(1.6.18)
を得る。これは固有値問題で、解は qn=2sinnπt、乗数は λ=n2π2(n=1,2,…)に限られる。停留値は、部分積分と式 (1.6.18) から F[qn]=∫(−qnq¨n)dt=λ∫qn2dt=λ で、乗数そのものになる。最小値は n=1 の π2 である。これは第1部第3章の Wirtinger の不等式 ∫η˙2≥π2∫η2 の定数 π2 が、ちょうどこの最小値であることを示している。拘束を ∫q2=c に変えると最小値は π2c になり、c で微分して π2=λ となる。式 (1.6.7) の「乗数は感度」は、積分の拘束でもそのまま成り立つ。数値でも、[0,1] を 2000 等分して差分にした行列の最小固有値は 9.86960 で、π2=9.86960 と5桁一致する。
量子力学の基底状態はこの形の問題である。エネルギーの期待値 ∫(2mℏ2∣ψ′∣2+V∣ψ∣2)dx を規格化 ∫∣ψ∣2dx=1 のもとで停留させると、式 (1.6.17) は時間によらない Schrödinger 方程式になり、乗数がエネルギー固有値になる。経路を有限個の関数の線型結合に限ってこの停留問題を解くのが Rayleigh–Ritz の方法で、得られる固有値が真の値の上界になることは 近似の数理 第4章で示されている。

図 1.6.3 両端 (±a,0) を決め、長さ ℓ の曲線で x 軸との間に囲む面積を最大にする曲線は円弧になる(例題 1.6.5。a=1)。長さを増やすと円弧の半角 α が増え、ℓ=πa で半円になる。乗数 λ は円弧の半径 R に等しく(破線は α=1 の半径)、面積の長さについての変化率 dA/dℓ に等しい
例題 1.6.5 決まった長さの紐で囲む面積を最大にする ★★★
オリジナルx 軸上の2点 (−a,0), (a,0) を、長さ ℓ(2a<ℓ<πa)の曲線 y(x)≥0 で結ぶ。曲線と x 軸の間の面積 A[y]=∫−aaydx を、長さ ℓ[y]=∫−aa1+y′2dx を決めて最大にする。
- (1) A−λℓ の Euler–Lagrange 方程式を書き、曲線の曲率が一定 1/λ であることを示せ。
- (2) 解の円弧の半角を α(a=Rsinα)として、ℓ と A を R,α で表せ。a=1, α=π/3 での R,ℓ,A の値を求めよ。
- (3) 端を止めたまま ℓ を変えたとき、dℓdA=R=λ であることを確かめよ。
解答
(1) δA/δy(x)=1、δℓ/δy(x)=−dxd1+y′2y′(被積分関数が y′ だけを含むので、Euler–Lagrange の式の第1項だけが残る)。よって
1+λdxd1+y′2y′=0,すなわち(1+y′2)3/2y′′=−λ1.
左辺は曲線の(符号つきの)曲率なので、曲率が一定 −1/λ の曲線、すなわち半径 ∣λ∣ の円弧である。上に膨らむ(y′′<0)解では λ=R>0 になる。実際、y=y0+R2−x2 では y′/1+y′2=−x/R で、その微分 −1/R に λ=R を掛けて 1 を足すと 0 になる。
(2) 円弧が中心で張る角は 2α なので ℓ=2Rα。面積は扇形から三角形を引いて A=R2α−R2sinαcosα=R2(α−sinαcosα)。a=1, α=π/3 では R=1/sin(π/3)=1.155、ℓ=2.418、A=34(3π−43)=0.819。
(3) a を止めて α を動かすと、R=a/sinα も動く。
dαdℓ=2asin2αsinα−αcosα,dαdA=2a2sin3αsinα−αcosα
(第2式は A=a2(α−sinαcosα)/sin2α を微分して整理した)。比を取ると dℓdA=sinαa=R で、(1) の乗数 λ に等しい。紐を少し長くすると、増えた長さ Δℓ に半径 R を掛けた分だけ面積が増える。半径の大きい(平らに近い)円弧ほど、長さを足したときの面積の増え方が大きい。
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