解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第6章 §1.6.6 ★★ 力の図を描いて張力・垂直抗力を未知数に置く Newton の解き方は、第1種の方程式そのもの。統計力学の最大エントロピーの乗数も同じ道具
力の図と第1種の方程式
解析力学を使わない力学の授業では、振り子を次のように解く。おもりにかかる力を図に描き、重力 mg と張力(大きさ Ft、支点向き)を未知数として Newton の運動方程式を立て、円運動の動径方向と接線方向に分ける。
動径方向: mlθ˙2=Ft−mgcosθ,接線方向: mlθ¨=−mgsinθ.(1.6.19)
運動は接線方向の式で決まり、張力は動径方向の式で決まる。この章の言葉では、接線方向の式が拘束に沿う向きの式(一般化座標 θ の Euler–Lagrange 方程式)で、動径方向の式が拘束に垂直な向きの式、すなわち乗数を決める式である。実際、動径方向の式から出る Ft=mlθ˙2+mgcosθ は、v=lθ˙ として式 (1.6.12) と同じである。「張力」「垂直抗力」「束縛力」と呼んで力の図に描き込んでいた矢印が、乗数 λ と拘束の勾配の積 λ∇Φ にあたる。授業の解き方では「張力は糸の向き」「垂直抗力は面に垂直」を図から読み取っていたが、この章ではそれを ∇Φ の向きとして、また d'Alembert の原理(仮想変位に仕事をしない)として導いた。
両者の違いは、拘束が込み入ったときに現れる。力の図を描く方法では、拘束力の向きをその都度見抜く必要があり、刃の拘束のように「横には進めない」という速度の拘束では向きを見抜きにくい。第1種の方程式では、拘束の式から ∇Φ や aaj を機械的に計算すれば向きが決まる。
最大エントロピーと乗数
統計力学の授業では、カノニカル分布を「エネルギーの平均値を決めたうえでエントロピーを最大にする分布」として導くことがある。状態 i の確率を pi、エネルギーを Ei とし、S/kB=−∑ipilnpi を2つの拘束 ∑ipi=1 と ∑ipiEi=U のもとで最大にする。乗数を α, β として
∂pi∂[−l∑pllnpl−α(l∑pl−1)−β(l∑plEl−U)]=−lnpi−1−α−βEi=0
から pi∝e−βEi が出る。これは式 (1.6.6) の有限次元の未定乗数そのもので、エネルギーの拘束の乗数がカノニカル分布の β になる。さらに式 (1.6.7) の感度の読み方から、最大エントロピー S∗(U) について dUd(S∗/kB)=β が成り立つ。これは熱力学の ∂S/∂U=1/T と同じ式で、乗数 β=1/(kBT) が温度の逆数であることがここから分かる。カノニカル分布の導出そのものは 第3部第3章で扱う。
| 授業での呼び方 | この章の言葉 |
| 振り子・斜面 | 張力・垂直抗力(力の図の矢印) | 拘束力 λ∇Φ |
| 張力の求め方 | 動径方向の運動方程式 | 拘束を2回微分して乗数を決める |
| 面から離れる条件 | 垂直抗力 =0 | 乗数の符号が変わる |
| エネルギー保存 | 「抗力は仕事をしない」 | ∂Φ/∂t=0 なら P=0 |
| カノニカル分布 | エントロピー最大の条件 | 拘束 ∑piEi=U の乗数が β |
| ∂S/∂U=1/T | 温度の定義 | 乗数は感度:df∗/dc=λ |
例題 1.6.6 2準位系の最大エントロピーと乗数 ★★
オリジナルエネルギーが 0 と ε の2つの状態を持つ系で、平均エネルギーを U=ε/4 と決めて S/kB=−p0lnp0−p1lnp1 を最大にする。
- (1) 乗数 β を使って p1 を表し、βε を求めよ。
- (2) 最大エントロピー S∗/kB の値を求めよ。
- (3) u=U/ε の関数として S∗/kB を書き、dUd(S∗/kB)=β を u=1/4 で確かめよ。
解答
(1) 本文の計算から pi∝e−βEi なので p1=1+e−βεe−βε。拘束 p1ε=U=ε/4 から p1=41、よって e−βε=31、βε=ln3=1.10。
(2) p0=43, p1=41 を入れて S∗/kB=−43ln43−41ln41=ln4−43ln3=0.562。
(3) 拘束から p1=u, p0=1−u なので S∗/kB=−ulnu−(1−u)ln(1−u)。u で微分すると lnu1−u で、u=41 では ln3。dUd=ε1dud なので dUd(S∗/kB)=εln3=β となり、(1) の乗数と一致する。乗数 β は、平均エネルギーを少し増やしたときにエントロピーがどれだけ増えるかを表している。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com