解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第11章 §1.11.2 ★★★ 3つの性質と基本の括弧があれば、偏微分に戻らずに括弧を計算することができる
3つの性質
定義 (1.11.2) から直接、次の性質が出る。
命題 1.11.2(Poisson 括弧の代数 ★★★)
相空間上の滑らかな関数 A,B,C と実数 a,b について次が成り立つ。
{A,B}=−{B,A}(反対称性。特に {A,A}=0),{aA+bB,C}=a{A,C}+b{B,C}(線形性),{AB,C}=A{B,C}+{A,C}B(Leibniz 則),{A,{B,C}}+{B,{C,A}}+{C,{A,B}}=0(Jacobi 恒等式).(1.11.5)(1.11.6)(1.11.7)(1.11.8)
反対称性から、線形性と Leibniz 則は右の引数についても成り立つ。
証明
反対称性は、定義 (1.11.2) の2つの項が A と B を入れ替えると互いに入れ替わり、符号が逆になることから出る。線形性は偏微分が線形であることから出る。Leibniz 則は、積の偏微分 ∂(AB)/∂qi=A∂B/∂qi+B∂A/∂qi(pi でも同じ)を定義に入れて項を並べ替えれば出る。
Jacobi 恒等式は次のように示す。左辺の各項は、たとえば {A,{B,C}} を展開すると、1階の偏微分2つと2階の偏微分1つの積の和になる(外側の括弧が A と {B,C} を1回ずつ微分し、{B,C} の中にすでに1階の偏微分が入っている)。したがって左辺は「どの項にも、A, B, C のどれか1つの2階の偏微分がちょうど1つ入る」形の和である。そこで A の2階の偏微分を含む項だけを集める。それは {B,{C,A}} と {C,{A,B}} から出る。DXA:={A,X} と書くと、反対称性から
{B,{C,A}}+{C,{A,B}}={{A,C},B}−{{A,B},C}=DBDCA−DCDBA
である。DB と DC はどちらも A の1階の偏微分の1次結合 ∑k(βk∂/∂qk+γk∂/∂pk) の形をした微分作用素で、係数 βk,γk は A によらない。1階の微分作用素2つの交換子 DBDC−DCDB では、2階の偏微分が打ち消し合う(偏微分の順序が交換するため)。よって左辺に A の2階の偏微分は残らない。B, C についても左辺は巡回的に同じ形なので、同じ理由でどの関数の2階の偏微分も残らない。すべての項が2階の偏微分を1つ含む形だったので、左辺は 0 である。
ここで導入した DX は、X を生成子として関数を動かす作用素で、式 (1.11.3) は δA=ϵDGA と書くことができる。1.11.4節と1.11.5節では、この作用素を何回も続けて当てる。
それぞれの性質の意味
3つの性質は、生成子で関数を動かす操作として読むと意味がはっきりする。反対称性 {A,G}=−{G,A} は、「G で動かしたときの A の変化率」と「A で動かしたときの G の変化率」が符号を除いて等しいことを言っている。1.11.3節では、この性質が「対称性と保存量が同じ条件で表される」ことにつながる。
Leibniz 則は、変換が関数の積に対して積の微分と同じ規則で当たることを言っている。δ(AB)=(δA)B+A(δB) は、点を動かしたときの積の変化を1次まで書いたもので、式 (1.11.3) を使えば Leibniz 則と同じ式になる。これがあるので、多項式の括弧は基本の括弧 (1.11.4) に分解して計算することができる。
Jacobi 恒等式は、1.11.5節で示すように、「2つの変換を続けて行ったときの順番の食い違いが、生成子どうしの括弧で生成される」ことを保証する。この性質がなければ、変換を合成した結果を生成子の言葉で書くことはできない。
角運動量の括弧
3次元の1粒子の角運動量 L=r×p の成分は Lx=ypz−zpy, Ly=zpx−xpz, Lz=xpy−ypx である。Leibniz 則と基本の括弧 (1.11.4) を使って {Lx,Ly} を計算する。Lx と Ly の積の項を4つの括弧に分けると、{ypz,zpx}, {ypz,−xpz}, {−zpy,zpx}, {−zpy,−xpz} の和になる。2つ目は y,pz と x,pz の間に基本の括弧が 0 でない組がないので 0、3つ目も同じ理由で 0 である。1つ目は Leibniz 則で y{pz,z}px=−ypx、4つ目は {z,pz}pyx=xpy になる。よって
{Lx,Ly}=Lz,{Ly,Lz}=Lx,{Lz,Lx}=Ly(1.11.9)
を得る(残りの2つは添字を x→y→z→x と巡回させれば同じ計算になる)。回転の生成子どうしの括弧が再び回転の生成子になっていることに注意する。1.11.5節で、これが「x 軸のまわりと y 軸のまわりの回転は順番を入れ替えると z 軸のまわりの回転の分だけ食い違う」ことを表すと分かる。
例題 1.11.2 角運動量と回転で変わらない量 ★★
オリジナル3次元の1粒子で、r2=x2+y2+z2, p2=px2+py2+pz2, r⋅p=xpx+ypy+zpz とする。
- (1) {z,Lx}, {pz,Lx} を求め、Lx が生成する変換を述べよ。
- (2) Leibniz 則を使って {r2,Lz}, {p2,Lz}, {r⋅p,Lz} を求めよ。
- (3) {Lx,Ly}=Lz を、偏微分の定義 (1.11.2) から直接計算して確かめよ。
解答
(1) {z,Lx}=∂pz∂Lx=y、{y,Lx}=∂py∂Lx=−z なので δy=−ϵz, δz=ϵy で、x 軸のまわりの反時計回りの回転である。運動量も {pz,Lx}=−∂z∂Lx=py、{py,Lx}=−∂y∂Lx=−pz で同じ回転を受ける。
(2) Leibniz 則から {r2,Lz}=2x{x,Lz}+2y{y,Lz}+2z{z,Lz}=2x(−y)+2y(x)+0=0。同様に {p2,Lz}=2px(−py)+2py(px)=0、{r⋅p,Lz}={x,Lz}px+x{px,Lz}+{y,Lz}py+y{py,Lz}=−ypx−xpy+xpy+ypx=0。どれも z 軸のまわりの回転で値を変えない量(スカラー)なので、生成子との括弧が 0 になる。
(3) Lx が含むのは y,z,py,pz、Ly が含むのは x,z,px,pz なので、定義の和で両方が含む変数の組は (z,pz) だけである。
{Lx,Ly}=∂z∂Lx∂pz∂Ly−∂pz∂Lx∂z∂Ly=(−py)(−x)−(y)(px)=xpy−ypx=Lz.
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