解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第11章 §1.11.4 ★★ 無限小の変換を積み重ねた有限の変換は、A+ϵ{A,G}+2!ϵ2{{A,G},G}+⋯ の級数(Lie 級数)で書ける
流れと Lie 級数
無限小変換 (1.11.1) を、ϵ を小さく刻んで何回も繰り返すと、有限の大きさの変換になる。これは連立微分方程式
dsdqi=∂pi∂G,dsdpi=−∂qi∂G(1.11.14)
をパラメータ s について 0 から ϵ まで解くことと同じである。G=H, s=t ならこれは Hamilton 方程式そのものになる。初期点 x=(q,p) から出た解の s=ϵ での点を ΦϵG(x) と書き、G の流れと呼ぶ。図 1.11.1 の線は、この流れの軌道である。
関数 A の値が流れに沿ってどう変わるかを、ϵ の級数で表す。
命題 1.11.5(Lie 級数 ★★)
A と G が解析的(収束する冪級数で表せる)なら、∣ϵ∣ が十分小さい範囲で
A(ΦϵG(x))=n=0∑∞n!ϵn(DGnA)(x)=A+ϵ{A,G}+2!ϵ2{{A,G},G}+3!ϵ3{{{A,G},G},G}+⋯(1.11.15)
が成り立つ。右辺は x で評価し、DGA={A,G} である。
この命題は、第1部第9章の式 (1.9.9)(配置空間の向き K の Lie 級数)を、相空間の流れの微分演算子 DG に当てたものである。
証明
a(s):=A(ΦsG(x)) とおく。式 (1.11.14) と連鎖律から、a′(s) は {A,G} を点 ΦsG(x) で評価したものになる。{A,G} も相空間の関数なので、同じ議論をくり返すと a(n)(s)=(DGnA)(ΦsG(x)) を得る。解析的な右辺を持つ常微分方程式の解は s について解析的なので、a(s) は s=0 のまわりで Taylor 級数に展開でき、s=0 での係数が a(n)(0)=(DGnA)(x) である。
形式的には、式 (1.11.15) は A(ΦϵG)=eϵDGA と書くことができる。無限小変換 δA=ϵDGA を指数関数にしたものが有限の変換になる。この形は 1.11.6節で、量子力学のユニタリ演算子 e−iϵG^/ℏ と並べる。
回転と調和振動子
回転の生成子 Lz で x を動かす。DLzx={x,Lz}=−y, DLzy={y,Lz}=x なので、DLz を当てるたびにx→−y→−x→y→x と4回で元に戻る。式 (1.11.15) の偶数番目の項と奇数番目の項を分けて足すと
x(ΦθLz)=x(1−2!θ2+4!θ4−⋯)−y(θ−3!θ3+⋯)=xcosθ−ysinθ
となる。同じく y(ΦθLz)=xsinθ+ycosθ で、反時計回りの角度 θ の回転が出る。無限小の回転の生成子を級数にすると、有限の角度の回転の行列が出る。
調和振動子 H=2mp2+21mω2q2 の時間発展も同じ形になる。DHq={q,H}=p/m, DHp={p,H}=−mω2q からDH2q=−ω2q なので、偶数番目と奇数番目を分けて足すと
q(t)=qcosωt+mωpsinωt(1.11.16)
を得る(右辺の q,p は時刻 0 の値)。運動方程式を解かずに、括弧を重ねるだけで解が出た。
級数を有限の項で打ち切ると、短い時間では解をよく近似するが、時間が長くなると外れる。図 1.11.2 は q=1, p=0 のときの打ち切りを比べたもので、打ち切る次数を上げるほど cosωt に重なる範囲が延びる(ωt=π/2 での誤差は、2次まで・4次まで・8次までで 0.23, 0.020, 2.5×10−5)。冪級数としては、この例は任意の t で収束する。

図 1.11.2 調和振動子の時間発展の Lie 級数 (1.11.15)(q=1, p=0)を (ωt)n の項までで打ち切ったもの(実線)と、厳密解 cosωt(点線)。打ち切る次数を上げるほど、厳密解に重なる時間の範囲が延びる
級数が終わる場合と収束しない場合
DG を何回か当てると 0 になる関数では、Lie 級数は有限項で終わり、有限の変換が多項式で正確に書ける(下の例題)。一方、A や G が解析的でなければ命題 1.11.5 は成り立つとは限らない。解析的でも、級数の収束半径が有限になることはある(流れが有限の時間で無限遠へ飛ぶ H=p2/2−q4 などでは、解そのものが有限の時刻までしか存在しない)。その場合でも、十分小さい ϵ では式 (1.11.15) がそのまま成り立つ。
例題 1.11.4 落下運動の Lie 級数は有限項で終わる ★★
オリジナルH=2mp2+mgq について次に答えよ。
- (1) DHq, DH2q, DH3q を求めよ。
- (2) Lie 級数 (1.11.15) で q(t) と p(t) を求めよ(右辺の q,p は時刻 0 の値)。
- (3) 生成子 G=p による有限の変換で H がどう変わるかを、Lie 級数で求めよ。
解答
(1) DHq={q,H}=p/m。DH2q={p/m,H}=m1{p,H}=m1(−mg)=−g。定数の括弧は 0 なので DH3q=0。
(2) 級数は3項で終わり、q(t)=q+mpt−21gt2。同様に DHp=−mg, DH2p=0 から p(t)=p−mgt。等加速度運動の公式が、括弧を2回重ねただけで正確に出る。
(3) DpH={H,p}=∂q∂H=mg、Dp2H={mg,p}=0 なので H(Φϵp)=H+ϵmg。p は q を ϵ だけ上へずらす並進なので、位置エネルギーが mgϵ 増える。{H,p}=0 なので、定理 1.11.3 から p は保存しない(重力のポテンシャル mgq は並進で値を変える)。
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