解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第14章 §2.14.4 ★★★ Riemann テンソルの縮約(Ricci テンソル)は、自由落下する粒子の雲の体積の2階微分を表す。物質の無い所では 0 になり、Einstein 方程式の左辺の材料になる
Ricci テンソル・スカラー曲率・Einstein テンソル
定義 2.14.6(Ricci テンソルとスカラー曲率)
Rμν=Rρμρν,R=gμνRμν,Gμν=Rμν−21gμνR.(2.14.19)
Rμν を Ricci テンソル、R をスカラー曲率、Gμν を Einstein テンソルと呼ぶ。
式 (2.14.7) の組の入れ替えの対称性から、Rμν=Rνμ である。1番目と3番目の添字の縮約は、正本の流儀で決めたもので、別の組を縮約すると符号が変わるか 0 になる(Rρρμν=0)。
第2 Bianchi 恒等式 (2.14.12) を縮約する。ρ と μ を縮約し(∇g=0 なので縮約と共変微分は入れ替えてよい)、さらに gσν を掛けて縮約すると
∇λR−2∇μRμλ=0
を得る(途中で gσνRασνλ=−Rαλ を使う)。これを書き直したものが
∇μGμν=0(縮約した Bianchi 恒等式)(2.14.20)
である。左辺は計量だけから作った量で、どんな計量でも恒等的に 0 になる。第2部第15章で、Einstein 方程式の左辺に Gμν が選ばれる理由として使う。
自由落下する雲の体積
自由落下する観測者のまわりに、最初は静止して小さな雲をなす粒子を置く。局所慣性系で ξi の3つの独立な向きの偏差を並べた行列を Ξ とすると、雲の体積は detΞ に比例する。式 (2.14.16) より Ξ¨=−EΞ で、最初の瞬間に Ξ˙=0 なら
VV¨=−TrE=−i∑Eii(2.14.21)
である(det(1+ϵA)=1+ϵTrA+O(ϵ2) を使う)。E の対角和を Riemann テンソルで書くと、uμ=(c,0,0,0) の局所慣性系で
i∑Eii=c2i∑Ri0i0=c2Rρ0ρ0=Rμνuμuν
となる(R0000=0 なので ρ=0 の項を足してよい)。よって
VV¨=−Rμνuμuν.(2.14.22)
雲の体積の縮み方は Ricci テンソルだけで決まる。E の対角和を除いた部分(形を変える部分)は Weyl テンソルの成分に当たり、体積を変えない。
弱い場では、式 (2.14.14) の対角和から R00=∇2Φ/c2 で、Poisson 方程式 ∇2Φ=4πGρ を使うと
Rμνuμuν=c2R00=4πGρ,VV¨=−4πGρ(2.14.23)
となる。物質(ρ>0)がある所では雲は縮み、物質の無い所では ∇2Φ=0 で体積は変わらず、形だけが変わる。図 2.14.2 の点質量の外では、引き伸ばし +2 と押し縮め −1、−1 の和が 0 になる。Schwarzschild 計量で Rμν=0 を sympy で確かめることもできる(scripts/verify_ch2-14.py)。式 (2.14.18) の対角和も 0 である。
「物質の無い所で Rμν=0」は Einstein 方程式の真空の場合で、Riemann テンソル全体は 0 にならないので潮汐力は残る。3次元では Riemann テンソルが Ricci テンソルで決まる(式 (2.14.11))ので、もし時空が3次元なら、物質の無い所には潮汐力が無く、離れた物体に重力を伝えることもできない。4次元では Weyl テンソルの 10 成分が残るので、真空を伝わる重力(潮汐力や第2部第18章の重力波)が存在しうる。
例題 2.14.4 一様な星の内部の自由落下 ★★
オリジナル地球を質量密度が一様な半径 R⊕=6.371×106m の球とし、GM⊕=3.986004×1014m3s−2 とする。
- (1) 内部の Newton のポテンシャルは Φ=32πGρr2+定数 である。内部の潮汐テンソル Eij を求め、内部の自由落下する雲が形を保ったまま縮むことを示せ。
- (2) 平均密度 ρ と 4πGρ の値、V¨/V が変わる時間の尺度 1/4πGρ を求めよ。
- (3) 地球の中心を貫くまっすぐなトンネルを掘り、中心から ξ の所で物体を放す。中心で自由落下する観測者から見た物体の運動を偏差の式で求め、往復の周期を求めよ。地表すれすれの円軌道の周期と比べよ。
解答
(1) ∂i∂j(32πGρ∑kxk2)=34πGρδij なので Eij=34πGρδij で、どの向きの偏差も同じ率 ξ¨=−34πGρξ で縮む。形は変わらない。対角和は 4πGρ で、式 (2.14.23) と一致する。
(2) ρ=3GM⊕/(4πGR⊕3)=5.51×103kgm−3 で、4πGρ=3GM⊕/R⊕3=4.62×10−6s−2、1/4πGρ=465s である。
(3) 中心で静止したまま自由落下する観測者(地球の中心そのもの)から見て、物体は ξ¨=−34πGρξ に従う単振動をする。内部の潮汐テンソルは位置によらないので、この式は ξ が小さくなくても成り立つ。角振動数は ω=4πGρ/3=GM⊕/R⊕3 で、周期は
T=2πGM⊕R⊕3=5.06×103s=84.3分.
地表すれすれの円軌道の周期も 2πR⊕3/GM⊕ で、同じ値になる。トンネルの中の往復運動は、円軌道の運動をトンネルの向きに射影したものになっている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ∣Φ∣/c2→0, v/c→0(重力が弱く、速さが光速に比べて小さい) | 証明 証明済み(決まった計量の Riemann テンソルの成分を Φ/c2 で展開したもの。Φ が3回連続微分可能なら、落とした項は ΓΓ∼(∇Φ)2/c4 と Φ∂∂Φ/c4 の大きさ。計量そのものを Einstein 方程式から近似で出す部分は第2部第15章) | 行き先 近似の数理 第2章
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