解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第1章 §3.1.3 ★★★ 確率密度は軌道に沿って一定に運ばれる。それを偏微分方程式で書くと ∂ρ/∂t={H,ρ}
確率の保存から連続の方程式へ
相空間の固定した領域 D に入っている確率 ∫Dρd2fz は、境界 ∂D を通って点が出入りした分だけ変わる。点は速度 v で動くので、境界の面素 dσ(外向きの単位法線 n)を単位時間に出ていく確率は ρv⋅ndσ である。したがって
dtd∫Dρd2fz=−∮∂Dρv⋅ndσ=−∫D∇⋅(ρv)d2fz
(2つ目の等号は 2f 次元の Gauss の定理)。これが任意の D で成り立つので、被積分関数どうしが等しく、
∂t∂ρ+∇⋅(ρv)=0(3.1.10)
を得る。流体力学の連続の方程式と同じ形である。ここまでは Hamilton 方程式を使っていない。
発散 0 を入れる
∇⋅(ρv)=v⋅∇ρ+ρ∇⋅v と分け、Hamilton の速度場では ∇⋅v=0(式 (3.1.9))であることを使うと、
∂t∂ρ+v⋅∇ρ=∂t∂ρ+i∑(∂pi∂H∂qi∂ρ−∂qi∂H∂pi∂ρ)=0.
括弧の中は Poisson 括弧 {ρ,H} である。したがって次の2つの同値な形を得る。
dtdρ軌道に沿って=∂t∂ρ+{ρ,H}=0,すなわち∂t∂ρ={H,ρ}.(3.1.11)
右の形を Liouville 方程式と呼ぶ(第1部第11章 で結果だけ述べたもの)。左の形は、軌道に乗って動く観測者から見ると密度が変わらないことを言っている。符号に注意する。物理量 A(q,p) の時間発展は dtdA={A,H} だが、密度の偏微分は ∂ρ/∂t={H,ρ}=−{ρ,H} で、向きが逆になる。物理量は「点と一緒に動く量」、密度は「固定した場所で見た量」だからである。
解:初期の密度を流れで運ぶ
軌道に沿って ρ が一定なので、時刻 t に点 z にある密度は、その点が時刻 0 にいた場所 φ−t(z) の初期の密度に等しい。
ρ(z,t)=ρ0(φ−t(z))(H が時刻を含まないとき)(3.1.12)
(H が時刻を含むときは、φ−t を「時刻 t から 0 へ逆に解く写像」に読み替える)。Liouville の定理の役割はここにある。もし流れが体積を detM 倍に変えるなら、運ばれた密度は ρ0/detM になり、軌道に沿って一定ではなくなる。detM=1 だから、密度の値がそのまま運ばれる。密度の値の分布(「密度が 0.3 以上の領域の体積はいくらか」など)は時間がたっても変わらず、変わるのは密度が相空間のどこに置かれているかだけである。
平均の時間変化
平均 (3.1.4) の時間微分は、Liouville 方程式と部分積分(ρ は遠くで 0 とする)から
dtd⟨A⟩=∫A{H,ρ}d2fz=∫ρ{A,H}d2fz=⟨{A,H}⟩(3.1.13)
となる。2つ目の等号は、∫A∂qiH∂piρ=−∫ρ∂pi(A∂qiH) のように各項を部分積分すると、H の2階微分の項が打ち消し合って残るのが ρ{A,H} だけになることから出る。左辺は「密度を動かして平均をとる」見方、右辺は「物理量を動かして初期の密度で平均をとる」見方で、両者は一致する。量子力学の Schrödinger 描像と Heisenberg 描像の関係の古典版である。
例題 3.1.3 自由粒子の気体が広がる ★★
オリジナル1次元の自由粒子 H=p2/(2m) のアンサンブルを、時刻 0 に
ρ0(q,p)=a1θ(2a−∣q∣)2πσ1e−p2/(2σ2)
(θ は階段関数。位置は幅 a に一様、運動量は標準偏差 σ の正規分布)で用意する。容器の壁は取り去ってある。
- (1) Liouville 方程式の解 ρ(q,p,t) を求め、実際に式 (3.1.11) を満たすことを確かめよ。
- (2) 位置の分布 n(q,t)=∫ρdp を誤差関数 erf で表し、m=a=σ=1 のとき n(0,2) を求めよ。
- (3) t が大きいとき n(0,t) はどう減るか。ρ の最大値は時間とともに変わるか。
解答
(1) 自由粒子の流れは φt(q,p)=(q+pt/m, p) なので φ−t(q,p)=(q−pt/m, p)、式 (3.1.12) から ρ(q,p,t)=ρ0(q−pt/m, p)。∂tρ=−(p/m)∂1ρ0、{H,ρ}=∂qH∂pρ−∂pH∂qρ=−(p/m)∂1ρ0 で、両辺は等しい。
(2) ρ(q,p,t) は ∣q−pt/m∣≤a/2、すなわち p が m(q−a/2)/t と m(q+a/2)/t の間にあるときだけ 0 でない。正規分布をこの範囲で積分して
n(q,t)=2a1[erf(2σt/mq+a/2)−erf(2σt/mq−a/2)].
q=0, m=a=σ=1, t=2 では n(0,2)=erf(0.5/(22))=erf(0.177)=0.197。時刻 0 の値 1/a=1 から約5分の1に下がった。
(3) t が大きく σt/m≫a のとき、erf(x)≈2x/π を使うと n(0,t)≈m/(2πσt) で、1/t に比例して減る(t=2 でもこの近似は 0.199 で、(2) の値に近い)。一方、ρ(q,p,t)=ρ0(q−pt/m,p) の最大値は ρ0 の最大値 1/(a2πσ) のままである。相空間の密度は薄まらず、台が (q,p) 平面で傾いた帯(q−pt/m が幅 a)に変わっていくだけである。位置の分布が薄まって見えるのは、傾いた帯を p について積分して q 軸に射影したからである。
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