解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第1章 §3.1.2 ★★★ Hamilton 方程式の流れは、H が時刻を含んでいても相空間の体積を変えない(Liouville の定理)
体積の変化率は速度場の発散
相空間の点をまとめて z=(q1,…,qf,p1,…,pf) と書き、Hamilton 方程式を z˙=v(z,t) の形にする。速度場は
v(z,t)=(∂p1∂H,…,∂pf∂H, −∂q1∂H,…,−∂qf∂H)(3.1.6)
である。時刻 0 の点 z を時刻 t の点 φt(z) へ送る流れを考え、その Jacobi 行列を Mab(t)=∂(φt(z))a/∂zb と書く。点の近くの小さな平行体は M で写され、体積は detM 倍になる。M の時間変化を求めるには、Hamilton 方程式 z˙=v(z,t) を初期値 z で微分すればよい。
dtdM=A(t)M,Aab(t)=∂zb∂vaz=φt(z),M(0)=1.(3.1.7)
これは変分方程式で、第1部第12章でも使った(第1部第12章)。
行列式の時間微分には、線形代数の公式 dtddetM=detM⋅Tr(M−1dtdM) を使う。この公式は、M(t+Δt)=(1+AΔt)M(t)+O(Δt2) とdet(1+AΔt)=1+TrAΔt+O(Δt2) から出る。式 (3.1.7) を入れると
dtddetM=(TrA)detM,TrA=a∑∂za∂va=∇⋅v(3.1.8)
となる。体積の変化率は、軌道の上で測った速度場の発散そのものである。
Hamilton の速度場は発散が 0
速度場 (3.1.6) の発散を計算すると、
∇⋅v=i=1∑f(∂qi∂q˙i+∂pi∂p˙i)=i=1∑f(∂qi∂pi∂2H−∂pi∂qi∂2H)=0(3.1.9)
である(第1部第8章)。この計算では時刻 t を止めたまま q と p で微分しているので、H が時刻を陽に含んでいても結果は変わらない。したがって次の定理を得る。
定理 3.1.1(Liouville の定理 ★★★)
H(q,p,t) が2回連続微分可能で、Hamilton 方程式の解が時刻 t まで存在するとき、流れの Jacobi 行列は detM(t)=1 を満たす。したがって相空間の領域 D を流れで運んだ像 φt(D) の 2f 次元の体積は、D の体積に等しい。
証明
式 (3.1.8) と (3.1.9) から dtddetM=0、初期値は detM(0)=det1=1 なので、すべての t で detM=1。体積は変数変換の公式 ∫φt(D)d2fz′=∫D∣detM∣d2fz で求まるので、D の体積に等しい。
第1部第12章の系 1.12.5 ではシンプレクティック条件から detM=1 を出した。ここでは速度場の発散から出した。第1部第12章では A=JS(J は反対称なシンプレクティック形式の行列、S は H の Hesse 行列)と書けることからMTJM=J を示し、その行列式をとった。この章の道筋に直すと、Tr(JS)=Tr((JS)T)=Tr(STJT)=−Tr(SJ)=−Tr(JS) から TrA=0 である。自由度が2以上では、シンプレクティックであることは体積を保つことより強い条件である(第1部第12章)。統計力学で必要なのは、この章の定理 3.1.1 の弱い方で足りる。
体積が保たれない流れ
Hamilton 系でない流れでは体積は保たれない。摩擦のある振動子 q˙=p, p˙=−q−γp(m=ω=1)では ∇⋅v=−γ で、体積は e−γt 倍に縮み、点の集まりは原点へ集まる。また、同じ Hamilton 系でも、変数を (q,p) でなく (q,q˙) に取ると、質量が位置によって変わる系では体積が保たれない(第1部第8章 の例題)。体積を保つのは「Hamilton 方程式」と「正準変数 (q,p)」の組である。
形は変わり、体積は変わらない
体積が変わらないことは、形が変わらないことを意味しない。図 3.1.1 は、逆さに立てた振り子の頂点の近くの運動H=21p2−21q2(質量と角振動数を 1 にとった単位)で、正方形がどう運ばれるかを示している。正方形は対角線 p=q の方向に et 倍に伸び、p=−q の方向に e−t 倍に縮んで、細長い菱形になる。2つの倍率の積が 1 なので、面積は変わらない。一般の Hamilton 系でも、ある方向に引き伸ばされた分だけ別の方向に押し縮められる。3.1.5節で分布が細い筋に分かれるのは、この引き伸ばしのためである。

図 3.1.1 H=21p2−21q2 の流れで正方形 [−0.3,0.3]2(灰)が運ばれる先。t=0.75(青)、t=1.5(赤)。どの時刻でも面積は 0.36。点線は p=±q で、p=q の方向に et 倍に伸び、p=−q の方向に e−t 倍に縮む。
例題 3.1.2 逆さ振り子の近くで正方形を運ぶ ★★
オリジナルH=21p2−21q2 を考える。
- (1) 出発点 (q0,p0) からの解 q(t), p(t) を求め、流れの Jacobi 行列 M(t) とその行列式を求めよ。
- (2) M(2) の固有値と固有ベクトルを求めよ。
- (3) 正方形 [−0.1,0.1]2 の4頂点の t=2 での行き先を求め、像の面積が 0.04 であることを確かめよ。2本の対角線の長さはどう変わるか。
解答
(1) Hamilton 方程式は q˙=p, p˙=q なので q¨=q。初期値を入れると
q(t)=q0cosht+p0sinht,p(t)=q0sinht+p0cosht,M(t)=(coshtsinhtsinhtcosht).
detM=cosh2t−sinh2t=1。式 (3.1.8) で言えば、A=(0110) の対角和が 0 だからである。
(2) M(t) は (1,1) に cosht+sinht=et を、(1,−1) に cosht−sinht=e−t を掛ける。t=2 では固有値 e2=7.39 と e−2=0.135 で、積は 1 である。
(3) (0.1,0.1)=0.1(1,1) は 0.1e2(1,1)=(0.739,0.739) へ、(−0.1,−0.1) は (−0.739,−0.739) へ、(0.1,−0.1)=0.1(1,−1) は 0.1e−2(1,−1)=(0.0135,−0.0135) へ、(−0.1,0.1) は (−0.0135,0.0135) へ移る。像は対角線が直交する菱形で、対角線の長さは (1,1) 方向が 22×0.1=0.283 から 0.283e2=2.09 に、(1,−1) 方向が 0.283 から 0.283e−2=0.0383 になる。菱形の面積は対角線の積の半分で 21×2.09×0.0383=0.04。初めの正方形の面積 0.22=0.04 と等しい。長い方の対角線は 7.39 倍、短い方は 0.135 倍になり、正方形は 55 倍細長くなったが、面積は変わらない。
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