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出てくるもの (3):細かく見たエントロピーは変わらず、粗く見ると増える

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第1章 相空間と Liouville の定理
目次
  1. Gibbs のエントロピーは一定
  2. 分布は細い筋になる
  3. 位置の分布は一様に近づく
  4. 粗く見たエントロピー
  5. 体積が保たれると、いつか戻ってくる
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第1章 §3.1.5 ★★ −∫ρln⁡ρ-\int\rho\ln\rho は Liouville の流れで厳密に一定。分布は細い筋に引き伸ばされ、粗く見たエントロピーだけが増える

Gibbs のエントロピーは一定

相空間の密度 ρ\rho に対して、Gibbs のエントロピーを

SG[ρ]=−kB∫ρ ln⁡(hfρ) d2fz(3.1.18)S_{\mathrm G}[\rho]=- k_{\mathrm B}\int\rho\,\ln\bigl(h^f\rho\bigr)\,\mathrm{d}^{2f}z\tag{3.1.18}

で定義する。hfρh^f\rho は「升目1つあたりの確率」で、対数の中を無次元にするために hfh^f を掛けた。離散の分布の −kB∑ipiln⁡pi- k_{\mathrm B}\sum_ip_i\ln p_i(記法の正本の Gibbs のエントロピー)を連続の相空間に移したものである。このエントロピーは、どんな HH のもとでも時間によらない。実際、任意の関数 GG について

∫G(ρ(z,t)) d2fz=∫G(ρ0(φ−t(z))) d2fz=∫G(ρ0(z′)) d2fz′(3.1.19)\int G\bigl(\rho(z,t)\bigr)\,\mathrm{d}^{2f}z=\int G\bigl(\rho_0(\varphi_{-t}(z))\bigr)\,\mathrm{d}^{2f}z=\int G\bigl(\rho_0(z')\bigr)\,\mathrm{d}^{2f}z'\tag{3.1.19}

で、2つ目の等号では z′=φ−t(z)z'=\varphi_{-t}(z) と変数を変え、Liouville の定理 d2fz=d2fz′\mathrm{d}^{2f}z=\mathrm{d}^{2f}z' を使った。G(ρ)=−kBρln⁡(hfρ)G(\rho)=- k_{\mathrm B}\rho\ln(h^f\rho) と置けば SGS_{\mathrm G} は一定である。3.1.3節で見たとおり、密度の値の分布が変わらないので、密度の値だけで決まる量はすべて変わらない。

一方、孤立した気体を仕切りの片側に入れて仕切りを外すと、気体は広がってもとに戻らず、熱力学のエントロピーは増える。この2つはどう両立するのか。答えの手がかりは、例題 3.1.3 で見た「相空間の密度は薄まらないが、射影すると薄まって見える」ことにある。

分布は細い筋になる

もっとも簡単な例として、円周の上を自由に回る回転子の集まりを考える。角度を qq(2π2\pi で同じ点に戻る)、角運動量を pp とし、慣性モーメントを 11 にとって H=p2/2H=p^2/2 とする。流れは φt(q,p)=(q+pt mod 2π, p)\varphi_t(q,p)=(q+pt\bmod2\pi,\ p) で、ずりなので面積を保つ。時刻 00 に、0≤q≤10\le q\le1, 1≤p≤1.51\le p\le1.5 の長方形に一様な密度 ρ0=1/0.5=2\rho_0=1/0.5=2 を置く。角運動量の大きい回転子ほど速く回るので、長方形は傾いた平行四辺形になり、円周を何度も巻き付く(図 3.1.2)。t=16t=16 では、平行四辺形が4本の細い筋に分かれて qq 方向の全体に広がっている。筋の1本の幅は時間に反比例して細くなり、筋の数は時間に比例して増える。面積は 0.50.5 のままで、密度も筋の中では 22 のままである。

図

図 3.1.2 回転子 H=p2/2H=p^2/2 の集まり。0≤q≤10\le q\le1, 1≤p≤1.51\le p\le1.5 の長方形(左)が、t=4t=4(中)・t=16t=16(右)に運ばれた先。qq は 2π2\pi で同じ点に戻るので、はみ出した部分は反対の端から入り直す。面積はどの時刻でも 0.50.5。

位置の分布は一様に近づく

この筋を pp について積分し、角度の分布 n(q,t)=∫ρ dpn(q,t)=\int\rho\,\mathrm{d} p だけを見る。nn の Fourier 係数 ck(t)=∫02πn(q,t)e−ikq dqc_k(t)=\int_0^{2\pi}n(q,t)\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kq}\,\mathrm{d} q(k=1,2,…k=1,2,\dots)は、回転子1つ1つの e−ikq\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kq} の平均なので、

ck(t)=∫ρ0(q0,p) e−ik(q0+pt) dq0 dp=e−ik−1−ik⋅e−ikp2t−e−ikp1t−ik Δp t,p1=1, p2=1.5, Δp=0.5(3.1.20)c_k(t)=\int\rho_0(q_0,p)\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i} k(q_0+pt)}\,\mathrm{d} q_0\,\mathrm{d} p=\frac{\mathrm{e}^{-\mathrm{i} k}-1}{-\mathrm{i} k}\cdot\frac{\mathrm{e}^{-\mathrm{i} k p_2t}-\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kp_1t}}{-\mathrm{i} k\,\Delta p\,t},\qquad p_1=1,\ p_2=1.5,\ \Delta p=0.5\tag{3.1.20}

となる。第2の因子の絶対値は 2/(k Δp t)2/(k\,\Delta p\,t) 以下なので、t→∞t\to\infty で ck(t)→0c_k(t)\to0 となる。k≥1k\ge1 の Fourier 係数がすべて 00 に近づくことは、n(q,t)n(q,t) が一様分布 1/(2π)1/(2\pi) に近づくことを意味する。初期の密度が長方形でなくても、pp について滑らかに広がっていれば同じ結論になる(Riemann–Lebesgue の補題)。

相空間の密度 ρ\rho そのものは一様に近づかない(筋の中では 22、外では 00 のまま)。一様に近づくのは、qq の小さな区間に入る確率のような、粗い量だけである。このように、細かく見た分布は変わらないまま、粗い量だけが平衡の値に近づくことを混合と呼ぶ。混合は運動の性質で、Liouville の定理とは独立した性質である。調和振動子のようにすべての点が同じ周期で回る系では、分布はただ回るだけで筋にならず、混合しない(章末の総合問題)。

粗く見たエントロピー

qq と pp の相関を忘れ、ρ\rho を周辺分布の積 ρˉ(q,p,t)=n(q,t) g(p)\bar\rho(q,p,t)=n(q,t)\,g(p) に置き換える操作を考える(g(p)g(p) は pp の分布で、回転子では時間によらない)。この ρˉ\bar\rho の Gibbs のエントロピー SG[ρˉ]S_{\mathrm G}[\bar\rho] を粗視化したエントロピーと呼ぶ。対数が和に分かれるので SG[ρˉ]S_{\mathrm G}[\bar\rho] は qq の部分と pp の部分の和になり、pp の部分は一定なので、増えるのは qq の部分 −kB∫nln⁡n dq- k_{\mathrm B}\int n\ln n\,\mathrm{d} q だけである。時刻 00 では ρ0\rho_0 がもともと積の形なので SG[ρˉ]=SG[ρ]S_{\mathrm G}[\bar\rho]=S_{\mathrm G}[\rho] で、そこからの増え ΔS\Delta S を図 3.1.3 に示す。t=2t=2 で ΔS/kB=0.50\Delta S/ k_{\mathrm B}=0.50、t=4t=4 で 0.940.94、t=16t=16 で 1.801.80 と増え、上限 ln⁡(2π/1)=1.84\ln(2\pi/1)=1.84(nn が幅 11 の一様分布から 2π2\pi の一様分布になったときの増え)に近づく。Δp t\Delta p\,t がちょうど 2π2\pi の倍数のとき(t=4π≈12.6t=4\pi\approx12.6 など)は nn が厳密に一様になって上限に届き、その後わずかに下がってまた戻るので、増え方は単調ではない。細かく見たエントロピー SG[ρ]S_{\mathrm G}[\rho] は、図の点線のとおり 00 のままである。

図

図 3.1.3 図 3.1.2 の回転子の集まりで、時刻 00 からのエントロピーの増え。実線は qq と pp の相関を忘れた ρˉ=n(q,t)g(p)\bar\rho=n(q,t)g(p) のエントロピー(nn を厳密に計算した値)、点線は上限 ln⁡2π\ln2\pi と、細かく見た Gibbs のエントロピー(増えは 00)。

増えた分 SG[ρˉ]−SG[ρ]≥0S_{\mathrm G}[\bar\rho]-S_{\mathrm G}[\rho]\ge0 は、qq と pp のあいだの相関の量(情報理論の相互情報量に kBk_{\mathrm B} を掛けたもの)に等しい。流れのもとで、初期に「どの qq にいたか」という情報は消えずに、qq と pp の細かい相関の中へ移る。相関を見ない観測者にとって、その情報は失われたように見える。どの粗視化を選べば熱力学のエントロピーになるのか、それが単調に増えるのはどういう条件のときかは、情報の側から 相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部第4章 で、衝突を足した1粒子分布の方程式として 第3部第8章(Boltzmann 方程式と H 定理)で扱う。

体積が保たれると、いつか戻ってくる

体積の保存からは、もう1つ意外な結論が出る。

命題 3.1.2(Poincaré の再帰定理(弱い形) ★)

HH が時刻を含まず、エネルギーが EE 以下の領域 ΩE={H≤E}\Omega_E=\{H\le E\} の体積が有限であるとする。ΩE\Omega_E の中の体積が正の任意の領域 UU と任意の時間 τ>0\tau>0 に対して、UU から出発してある時刻 kτk\tau(k≥1k\ge1 の整数)に再び UU に入る点がある。

証明

U, φτ(U), φ2τ(U),…U,\ \varphi_\tau(U),\ \varphi_{2\tau}(U),\dots はどれも ΩE\Omega_E の中にあり(HH が保存するため)、Liouville の定理からどれも UU と同じ体積を持つ。これらが互いにまったく重ならないとすると、KK 個の和の体積は K⋅vol(U)K\cdot\mathrm{vol}(U) で、KK を大きくすると ΩE\Omega_E の体積を超えて矛盾する。したがってある j<lj<l で φjτ(U)∩φlτ(U)≠∅\varphi_{j\tau}(U)\cap\varphi_{l\tau}(U)\neq\emptyset。両辺に φ−jτ\varphi_{-j\tau} を当てると U∩φ(l−j)τ(U)≠∅U\cap\varphi_{(l-j)\tau}(U)\neq\emptyset となり、k=l−jk=l-j とすればよい。

より強い形として、UU のほとんどすべての点が UU に無限回戻ってくることも示されている。仕切りを外した気体も、十分待てばもとの片側に集まった状態の近くへ戻る。ただし戻るまでの時間は、粒子数が 102310^{23} 程度の系では宇宙の年齢と比べものにならないほど長い。再帰定理は1つの系の軌道についての主張で、上の回転子の集まりのように周期の異なる多数の系がそろって戻ることまでは保証しない。

例題 3.1.5 回転子の集まりの位置の分布が一様に近づく速さ ★★

オリジナル図 3.1.2 の回転子の集まり(0≤q0≤10\le q_0\le1, 1≤p≤1.51\le p\le1.5 に一様)を考える。

  1. (1) 長方形の像の面積が時間によらず 0.50.5 であることを、流れの Jacobi 行列から確かめよ。
  2. (2) 式 (3.1.20) を導き、∣c1(20)∣\lvert c_1(20)\rvert の値を求めよ。
  3. (3) 長方形が円周を少なくとも1周分覆うのは、時刻がいくら以上のときか。そのとき n(q,t)>0n(q,t)>0 がすべての qq で成り立つか。
解答

(1) φt(q,p)=(q+pt, p)\varphi_t(q,p)=(q+pt,\ p) の Jacobi 行列は (1t01)\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix} で、行列式は 11。 mod 2π\bmod2\pi は平行移動を貼り合わせるだけで面積を変えないので、面積は 1×0.5=0.51\times0.5=0.5 のままである。

(2) ρ0=2\rho_0=2 を q0∈[0,1]q_0\in[0,1], p∈[1,1.5]p\in[1,1.5] で積分する。q0q_0 と pp の積分が分かれて

ck(t)=2∫01e−ikq0 dq0∫11.5e−ikpt dp=2⋅e−ik−1−ik⋅e−1.5ikt−e−ikt−ikt=e−ik−1−ik⋅e−ikp2t−e−ikp1t−ik Δp tc_k(t)=2\int_0^1\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kq_0}\,\mathrm{d} q_0\int_1^{1.5}\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kpt}\,\mathrm{d} p=2\cdot\frac{\mathrm{e}^{-\mathrm{i} k}-1}{-\mathrm{i} k}\cdot\frac{\mathrm{e}^{-1.5\mathrm{i} kt}-\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kt}}{-\mathrm{i} kt} =\frac{\mathrm{e}^{-\mathrm{i} k}-1}{-\mathrm{i} k}\cdot\frac{\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kp_2t}-\mathrm{e}^{-\mathrm{i} kp_1t}}{-\mathrm{i} k\,\Delta p\,t}

(2=1/Δp2=1/\Delta p を使った)。絶対値は ∣e−ix−1∣=2∣sin⁡(x/2)∣\lvert \mathrm{e}^{-\mathrm{i} x}-1\rvert =2\lvert \sin(x/2)\rvert から∣ck(t)∣=2∣sin⁡(k/2)∣k⋅2∣sin⁡(kΔp t/2)∣kΔp t\lvert c_k(t)\rvert =\dfrac{2\lvert \sin(k/2)\rvert }{k}\cdot\dfrac{2\lvert \sin(k\Delta p\,t/2)\rvert }{k\Delta p\,t}。k=1k=1, t=20t=20 では 2sin⁡0.5=0.9592\sin0.5=0.959、2∣sin⁡5∣/10=0.1922\lvert \sin5\rvert /10=0.192 で、∣c1(20)∣=0.184\lvert c_1(20)\rvert =0.184。時刻 00 の値 0.9590.959 の約5分の1で、1/t1/t に比例して減っていく。

(3) 時刻 tt の像の qq の範囲は [t, 1+1.5t][t,\ 1+1.5t] で、その長さ 1+0.5t1+0.5t が 2π2\pi 以上になればよいので、t≥2(2π−1)=10.6t\ge2(2\pi-1)=10.6。このとき、どの qq に対しても像の中にそれを通る点があるので n(q,t)>0n(q,t)>0 である。ただし nn が一様になるのは別の話で、像が円周をちょうど整数周覆うときなどに限られる。

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