解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第1章 §3.1.6 ★★ 流体の連続の方程式・統計力学の「相空間の升目」・量子力学の von Neumann 方程式と、Liouville 方程式を並べる
流体の連続の方程式
流体力学や電磁気学の授業では、密度 n(r,t) と流速 u(r,t) について連続の方程式 ∂n/∂t+∇⋅(nu)=0 を習う。流れが非圧縮(∇⋅u=0)なら、これは物質微分 Dn/Dt=∂n/∂t+u⋅∇n=0 になり、流体の小部分の密度は流れに沿って変わらない。この章の式 (3.1.10) と (3.1.11) は、この2つの式を 2f 次元の相空間に移したもので、対応は次のとおりである。
流体(3次元の空間)n(r,t), u(r,t)∇⋅u=0 (仮定)Dn/Dt=0⟷⟷⟷相空間(2f 次元)ρ(q,p,t), v=(∂H/∂p, −∂H/∂q)∇⋅v=0 (Hamilton 方程式から自動的に)∂ρ/∂t+{ρ,H}=0
流体では非圧縮性は近似か仮定だが、相空間では Hamilton 方程式の形から厳密に成り立つ。相空間の点の集まりは、厳密に非圧縮な流体として振る舞う。
統計力学の教科書の書き方
統計力学の授業の多くは、「孤立系ではエネルギーが E の微視的状態はすべて等しい確率で現れる」(等重率の原理)を仮定として置き、状態の数を
W(E)=∫E≤H≤E+ΔEh3NN!d3Nqd3Np
で数えるところから始める(記法の正本の測度 dΓ)。ここで「等しい確率」が相空間の体積 d3Nqd3Np についての一様分布を指していることには理由がある。この章で見たとおり、正準変数で測った体積は時間発展で変わらないので、体積で重みを付けた一様分布は力学と矛盾しない(3.1.4節)。速度で測った d3Nqd3Nq˙ や、正準でない変数で測った体積に一様な重みを置くと、時間がたつと一様でなくなる。等重率は Liouville の定理だけからは導けないが、Liouville の定理によって「どの変数で一様と言うべきか」が決まる。1/(h3NN!) の因子の意味は次の章(第3部第2章)で扱う。
磁場の中の荷電粒子では、正準運動量は p=mv+qA(r) である(第2部第2章)。変数を (r,mv) から (r,p) へ取り替えるときの Jacobi 行列式は、p が mv を r だけの関数 qA(r) ずらしたものなので 1 である。したがって磁場中でも d3rd3(mv) で測った体積が保たれ、速度で書いた教科書の Maxwell 分布をそのまま使うことができる。
量子力学の von Neumann 方程式
量子力学では、確率の重みを持った状態の集まりを密度行列 ρ^ で表し、その時間発展は von Neumann 方程式
∂t∂ρ^=iℏ1[H^,ρ^](3.1.21)
に従う。Poisson 括弧を交換子に置き換える規則 {⋅,⋅}→[⋅,⋅]/(iℏ)(第1部第11章)を Liouville 方程式 ∂ρ/∂t={H,ρ} に当てると、ちょうどこの式になる。解は ρ^(t)=U^(t)ρ^0U^(t)†(U^=e−iH^t/ℏ)で、式 (3.1.12) の「初期の密度を流れで運ぶ」の量子版である。ユニタリ変換は ρ^ の固有値を変えないので、固有値だけで決まる Trρ^2 や von Neumann エントロピー S(ρ^)=−Tr(ρ^lnρ^) は時間によらない。これが式 (3.1.19) の量子版である。量子統計への移り方は 第5部第1章 で扱う。
光学のエタンデュ
幾何光学では、光線の束の「断面積×開き角」(エタンデュ)がレンズ系を通っても増えないことを習う。これは光線の位置と方向余弦(に屈折率を掛けたもの)を相空間の変数とみなしたときの Liouville の定理で、第2部第10章 で光線の Hamilton 形式から導く。
例題 3.1.6 磁場中のスピンの密度行列 ★★
オリジナルℏ=1 の単位で、スピン 21 を H^=2ωσz の磁場中に置く。密度行列を ρ^=21(1+r⋅σ)(r は Bloch ベクトル、∣r∣≤1)と書く。
- (1) von Neumann 方程式 (3.1.21) から r˙ を求めよ。
- (2) r(0)=(0.6,0,0) のとき、ωt=π/2 の r を求めよ。
- (3) Trρ^2 と S(ρ^) を求め、時間によらないことを確かめよ。
解答
(1) [σz,σx]=2iσy, [σz,σy]=−2iσx, [σz,σz]=0 を使うと
∂t∂ρ^=i1⋅2ω⋅21(rx⋅2iσy−ry⋅2iσx)=2ω(rxσy−ryσx).
左辺は 21r˙⋅σ なので r˙x=−ωry, r˙y=ωrx, r˙z=0。Bloch ベクトルは z 軸のまわりを角速度 ω で反時計回りに回る。古典のスピンの歳差運動と同じ式で、相空間の流れが回転だった調和振動子と同じ構造である。
(2) r(t)=0.6(cosωt,sinωt,0) なので、ωt=π/2 で r=(0,0.6,0)。
(3) σ の積の対角和から Trρ^2=21(1+∣r∣2)=21(1+0.36)=0.68。固有値は 21(1±∣r∣)=0.8, 0.2 で、S(ρ^)=−0.8ln0.8−0.2ln0.2=0.500。回転は ∣r∣ を変えないので、どちらも時間によらない。密度行列の向きは変わっても固有値は変わらず、Gibbs のエントロピーが一定だったのと同じことが起きている。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com