解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第2章 §3.2.6 ★★ 授業の「微視的状態を等確率で数える」は、相空間を h3NN! のます目に区切って数えることにあたる。何を一様に数えるかは Liouville の定理が決める
量子の状態を数える形
学部の統計力学の授業では、多くの場合、量子力学のエネルギー固有状態を数えるところから始める。その形では、孤立系で、エネルギーが E と E+δE の間にある量子状態(H^ の固有状態)の数を W(E) とし、そのすべてが等しい確率で実現すると仮定する。エントロピーを S=kBlnW(E)、温度を 1/T=∂S/∂E で定める。
この章の形との対応は、次の3点にまとめられる。第1に、授業の「量子状態の数」は、この章の W(E)=∫殻dΓ にあたる。dΓ の分母 h3NN! が、相空間の体積を量子状態の数に換算する係数である(3.2.3節)。第2に、授業では「等確率」を仮定として置くが、古典の形では「相空間の体積 dΓ で一様」と読み、それが Liouville の定理で時間発展と両立する唯一の選び方であることを確かめられる(3.2.2節)。量子力学では、固有状態の上で一様な密度行列 ρ^∝∑E<En≤E+δE∣n⟩⟨n∣ が H^ と可換なので、Liouville 方程式の量子版 ∂t∂ρ^=[H^,ρ^]/(iℏ) で時間に依らない。第3に、授業で δE の大きさに触れずに済ませるのは、3.2.5節で見たとおり δE が結果に関係しないからである。
量子の数え方と古典の数え方を、独立な N 個の調和振動子(Einstein の固体の模型)で並べる。量子力学では、全部で M 個のエネルギー量子 ℏω を N 個の振動子に分ける方法の数
Wq=M!(N−1)!(M+N−1)!(3.2.23)
が、エネルギー E=(M+2N)ℏω の状態の数である。古典では、振動子は格子点ごとに置かれていて互いに区別できるので N! で割らず、Φ(E)=(E/ℏω)N/N!(総合問題の (1) で導く。ここの N! は単体の体積から出る数で、粒子の入れ替えとは関係がない)。殻の厚みを準位の間隔 ΔE=ℏω に取ると Wcl=gℏω=(E/ℏω)N−1/(N−1)! である。N=2 では Wq=M+1、Wcl=M+1 で厳密に一致する。N=3 では Wq=2(M+2)(M+1)、Wcl=2(M+3/2)2 で差は 81 だけである。N=100, M=106 では lnWq と lnWcl はどちらも 1008.606 で、小数第3位まで一致する。量子の数え上げと相空間の体積は、量子の数 M が振動子の数 N より十分多い(高温の)ときに一致する。
何を一様に数えるか
授業の形では「状態」が初めから数えられる物として与えられるので、「何で測って一様か」という問いは表に出ない。古典の形ではこの問いが残り、答えは正準変数 (q,p) の体積である。位置と速度 (q,q˙) で一様に数えると、質量が場所によって変わる系では違う答えになる。次の例題で確かめる。
例題 3.2.8 位置で質量が変わる粒子 ★★★
オリジナル区間 0≤q≤a を、両端の壁で跳ね返りながら自由に動く粒子を考える。Lagrangian は L=21m(q)q˙2、m(q)=m0(1+q/a)2 とする(位置で慣性が変わる。曲がった管の中のビーズや、回転する座標の自由度に現れる形)。エネルギーを E とする。
- (1) 正準運動量 p と Hamiltonian を書き、殻の上で (q,p) について一様な分布での q の確率密度 P(q) を求めよ。区間の右半分 q>a/2 にいる確率を求めよ。
- (2) 殻の上で (q,q˙) について一様な分布(速度で測って一様)では、右半分にいる確率はいくつか。
- (3) 実際の運動で、右半分にいる時間の割合を求め、(1) と (2) のどちらと一致するかを述べよ。
解答
(1) p=∂L/∂q˙=m(q)q˙、H=p2/(2m(q))。殻の上の重みは ∫δ(E−H)dp=∑±1/∣∂H/∂p∣=2m(q)/∣p∣=2m(q)/(2E) で、m(q)∝1+q/a に比例する。∫0a(1+q/a)dq=23a で割って P(q)=3a2(1+q/a)。右半分の確率は
3a2∫a/2a(1+aq)dq=3a2(2a+83a)=127≈0.583.
(2) 速度で測ると、E=21m(q)q˙2 の殻の上の重みは ∫δ(E−21mq˙2)dq˙=2/(m∣q˙∣)=2/2Em(q)∝1/(1+q/a) である。∫0a1+q/adq=aln2、∫a/2a1+q/adq=aln34 なので、右半分の確率は ln(4/3)/ln2≈0.415 になる。
(3) 速さは ∣q˙∣=2E/m(q)∝1/(1+q/a) で、dq を通るのにかかる時間 dq/∣q˙∣ は 1+q/a に比例する。時間の割合は (1) と同じ 7/12 である。質量の大きい右側では粒子がゆっくり動くので長く滞在し、その重みを正しく数えるのは正準運動量 p で測った体積の方である。速度で一様に数えると、重い所を軽く、軽い所を重く数えてしまう。(q,q˙) の体積は Hamilton の流れで保たれない(dqdp=m(q)dqdq˙ で、係数 m(q) が軌道に沿って変わる)ので、Liouville の定理の保証が無い。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com