解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第5章 §3.5.6 ★★ 熱力学の「準静的な断熱変化はエントロピー一定」「Poisson の式 TVγ−1= 一定」「断熱消磁」は、どれも Φ が保たれることの別の姿
熱力学の断熱変化と Poisson の式
熱力学の授業では、熱の出入りが無く(δQ=0)準静的に進む変化を可逆断熱変化と呼び、Clausius のエントロピー dS=δQrev/T から dS=0 とする。理想気体では、第一法則 dU=δQ−PdV に δQ=0、dU=CVdT、P=NkBT/V を入れて
CVTdT=−NkBVdV⟹TVNkB/CV=TVγ−1=一定,γ=CVCP=1+CVNkB
を導く(Mayer の関係 CP−CV=NkB を使った)。単原子気体では CV=23NkB、γ=35 で、式 (3.5.15) の TV2/3= 一定と同じである。
この章の形と並べると、対応は次のとおりである。熱力学の dS=δQrev/T は式 (3.5.11) の TdS=dE−⟨∂H/∂λ⟩Edλ にあたり、「準静的」は「パラメータをエネルギー面を巡る時間に比べてゆっくり動かす」、「熱の出入りが無い」は「系を Hamilton 方程式だけで動かす」にあたる。熱力学では dS=0 を定義と第二法則から出すが、この章では相空間の体積の断熱不変性という力学の定理から出した。指数 γ−1=NkB/CV は、Φ の中で E が何乗で出てくるか(エネルギーを担う2次の項の数の半分)の逆数である。
言葉の注意が1つある。熱力学の「断熱」は熱の出入りが無いことだけを指し、速さを問わない。自由膨張は熱力学の意味では断熱だが、準静的でないのでエントロピーが増える(式 (3.5.19))。力学の「断熱」はゆっくり変えることを指し、エントロピーが変わらないのはこちらである。2つが一致するのは、熱の出入りが無く、しかも準静的な変化のときである。
Boltzmann の S=kBlnW
統計力学の授業では、エントロピーを S=kBlnW(W は与えられたエネルギーの微視状態の数)と定義し、1/T=∂S/∂E と P=T∂S/∂V を定義として与えることが多い。この章では同じ式を、Φ が断熱不変量であることから「なぜ lnΦ をエントロピーと呼んでよいか」まで含めて出した。熱力学のエントロピーに要求される性質は、可逆断熱変化で変わらないことと、エネルギーと体積の関数として基本関係式 dE=TdS−PdV を満たすことである。lnΦ はこの2つを満たし、lnW は N が大きいときにだけ(lnN の程度の違いを無視して)満たす。
断熱消磁
固体物理や統計力学の授業では、常磁性体のエントロピーが B/T だけの関数であることから「断熱的に磁場を下げると T∝B」と教わる。この章の3.5.5節では、同じ結論を断熱定理(量子数が保たれる)から出した。授業では「エントロピーが一定」を前提に置くが、ここではその前提が、ゆっくりした変化で各準位の占有確率が変わらないことの言い換えになっている。
例題 3.5.6 2原子分子の気体の γ ★★
オリジナル2原子分子の気体では、重心の並進の運動量3成分に加えて、回転の運動量2成分が運動エネルギーに2次で入る(振動は考えない)。
- (1) Φ(E,V) の E と V への依存のしかたを求め、E と T の関係、ゆっくりした変化での T と V の関係を求めよ。
- (2) (1) から γ を読み取り、熱力学の γ=1+NkB/CV と比べよ。
- (3) 300K からゆっくり体積を半分にしたときの温度を求めよ。
解答
(1) 1分子あたり運動エネルギーに2次で入る運動量が5成分あるので、全体で 5N 次元の球の体積となり、Φ∝VNE5N/2。1/T=kB∂lnΦ/∂E=2E5NkB から E=25NkBT。ゆっくりした変化では VE5/2 が一定で、E∝T から TV2/5= 一定。
(2) TVγ−1= 一定と比べて γ=57。CV=25NkB から 1+NkB/CV=1+52=57 で一致する。
(3) T=300×22/5=396K。単原子気体の 476K(例題 3.5.3)より低いのは、仕事が回転の自由度にも分けられるからである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com